日本TIが語る、モバイル向けチップ「OMAP」の強みとは


 日本テキサス・インスツルメンツは、スマートフォンやタブレットなどで利用されるチップセット「OMAP」に関する記者説明会を開催した。現行の「OMAP 4」の特徴などが、同社モバイルソリューションビジネス スマートフォングループの田渕宏亨氏から語られた。

NEXUS QにもOMAP

各種プロセッサの集合体

 田渕氏は、現在のスマートフォン開発に必要とされる要素を5つ挙げる。それは「ハイパフォーマンス」「ローパワー(低消費電力)」「フレキシビリティ」「モバイルセキュリティ」「ソフトウェアサポート」だ。たとえば「ハイパフォーマンス」とは、高精細動画の再生など、よりパワフルな処理能力のことで、「フレキシビリティ」とは、端末メーカーが独自要素を盛り込みやすくするための取り組みとなる。

田渕氏が指摘する5つの要素さまざまなプロセッサの集合体

 それらの“必要な要素”を満たしているのが「OMAP」――というのがTIのアピールするところ。今回の説明では、OMAPは特にハイパフォーマンス、ローパワー、フレキシビリティを満たす製品とされており、デバイスとしての価格はこれまでの製品と同等にしながら、性能向上がはかられている。

 さまざまなプロセッサの集合体、いわゆるSoC(システムオンチップ)となる「OMAP」のCPUは、ARMのCortex A9コア2つだ。だが、このCPUで全てを処理するわけではない。映像再生用、あるいは音楽再生用のプロセッサが用意されている。たとえば音楽再生時には、音楽再生用プロセッサのみ動作し、「OMAP」上にある他のデバイスの消費電流はカットされる。映像再生も専用プロセッサが処理することで低消費電力を実現し、DSP(デジタル信号処理プロセッサ)によって新たな動画コーデックが登場してもソフトウェアの改修で対応できる。セキュリティでは、OSやアプリケーションが動作する場所(メモリなど)と隔離した場所である“トラストゾーン”を用意し、暗号化したり暗号を解いたりする場合はトラストゾーンを用いる。暗号鍵は、OMAPのチップ1つ1つに書き込まれており、仮に従業員が転職して外部に暗号鍵を漏洩する、といった事態になったとしても対応できる。

 またカメラ専用プロセッサは、顔認識や赤目補正などを処理する。映像出力(ディスプレイとの接続)という面では、最大3つの出力が可能で、そのうち1つはHDMIでの出力をサポートしており、HDMI対応のデュアルディスプレイ電子書籍ビューワー、といったデバイスの開発にも「OMAP 4」1つで対応できるのだという。このほか、ARM製のメインCPUに加えて、低消費電力のサブCPUも用意され、より負荷の低い処理はサブCPUが担う設計にもなっている。

OMAP4460の特徴OMAP4470の概要

 現行の「OMAP 4」は、OMAP4430、OMAP4460、OMAP4470という3モデルが用意されている。CPUの最大クロック数は1GH、1.5GHz、1.8GHzとなり、GPUの処理能力も徐々に向上してきた。さらに来年前半には「OMAP 5」シリーズの製品として「OMAP5430」が登場する予定。こちらは28nmプロセス(OMAP 4は45nm)でより低消費電力化が図られ、2GHz駆動のデュアルコア(ARMのA15コア)などを搭載する。なお、「OMAP 5」シリーズについては、9月中にも、あらためてTI側が説明会を開催する予定とのこと。

OMAP 5は来年に登場するロードマップ

 まだ少し先の製品となる「OMAP 5」だが、今秋には「OMAP 4」シリーズの最新製品として「OMAP4470」が登場する。CPUのクロック数が最大1.8GHz駆動となるほか、GPUの処理能力として、トライアングルレート(立体を描く能力)は40%向上。各デバイスにおけるデータの通り道であるメモリバスも向上(466MHz)。このメモリバスは、データの通り道とあって、チップセットによっては、処理能力を落とすボトルネックになることもあるというが、TI側では「OMAP4470」では、ボトルネックにならないスペックとしている。

 スマートフォンやタブレットでは、サムスンのGALAXY NEXUS、シャープのSH-06D/SH-06D NERVや104SH、ファーウェイのAscend P1/P1S、パナソニックのELUGA VやELUGA Live、NECのLifeTouch Lなどで「OMAP4460」が採用されている。またモトローラのDroid RAZR、Droid 4、LGのOptimus 3D、サムスンのGALAXY S II、富士通のARROWS Z ISW11Fなどで「OMAP4430」が搭載されている。

OMAP 4シリーズの搭載製品GALAXY NEXUSなどに搭載
日本TIの田渕氏

 モバイル向けチップセットは、デュアルコア、クアッドコアと、CPUコアをより多く搭載し、処理能力の高さをアピールする製品もあれば、消費電力とのバランスを重視する製品もある。今回、説明を行った田渕氏は「最近はクアッドコアの製品もあるが、高い電圧で動作は可能だが、実際は発熱などで実用に耐えない。そのため、できるだけCPUパワーを使わない設計をする。コア1つだけで処理を行い、残りの3つのコアの電力をカットできればいいが、実際は無駄にパワーを消費していることになる」と語る。具体的な名称は避けたが、NVIDIAの「Tegra 3」【※】が念頭にあると見られ、高い処理能力、それに発熱、そして消費電力といったあたりのバランスをいかにとるかが重要との考えが示された。ちなみに消費電力については、TI製品同士で、どれほど性能が向上したか示すデータはあるものの非開示とのこと。他社と比較するには、利用シーンを定義するなど、標準的な視点が必要ながら、現実には難しい、との見解も示された。

【※編集部注】
 NVIDIAでは、クアッドコアの「Tegra 3」では、1つのコアで動作しているとき、残り3つのコアの電力をカットする技術(パワーゲーティング)を搭載している、と説明している。




(関口 聖)

2012/8/21 18:15