KDDI田中社長、速度と品質で“auの本気”をアピール


 KDDIは、2012年の冬に発売する新商品の発表会を開催した。Androidスマートフォン9機種とAndroidタブレット1機種が発表されたほか、さらに2013年春に発売するモデルの1つとして「INFOBAR A02」も予告した。発表会のプレゼンテーションでは、後半に端末を駆け足で紹介する一方、前半ではネットワークへの取り組み、コンテンツへの取り組みが重点的に語られた。

 KDDIは9月21日に「iPhone 5」を発売し、同時に同社のLTE通信サービス「4G LTE」を開始している。今回発表された10機種のAndroid端末はすべて「4G LTE」に対応しており、Android端末におけるLTEサービスが今後本格化することになる。


KDDI 代表取締役社長の田中孝司氏

 

スマートパスポート構想が完成、iPhone 5はソフトバンクに「勝った」

 発表会に登壇したKDDI 代表取締役社長の田中孝司氏はまず足元の状況から説明する。2012年1月に発表した「スマートパスポート構想」から、au スマートバリュー、au スマートパス、au IDが好調に推移している様子を紹介。動画配信の「ビデオパス」や音楽サービスの「うたパス」などコンテンツの拡充にも触れた上で、「スマートパスポート構想は本当に短期間に、たくさんの支持を得てここまできた」と一気に拡大している様子を紹介した。

 また、「iPhone 5」の販売については「iPhone 4Sは手探りだったが、iPhone 5は本当に社員全員の思いが結集し、非常にいい結果。足元の数字を見ると、誰とは言わないが、初戦は勝ったな、という数字」と明言は避けつつも、ソフトバンクよりも好調であることを示唆して自信を見せ、MNPについても12カ月連続でナンバー1になったことを示して好調ぶりをアピールした。


 

ネットワークへの“本気”を示し、高品質を訴求

 「今日のテーマは4G LTE」と田中社長が言うように、LTE対応のAndroid端末10機種が登場することで、auのLTEサービスが本格化する。田中氏は「LTEは確かに世界ですでに始まっているが、auにとっては単に始めるという、単純なものではない」と意気込みを語り、ネットワークについて「個人的には本気というよりガツンといこうという思いで、社員を鼓舞してきた」と語りながら、「3つの“本気”」として「エリアの広がり」「電波のつながり」「auのこだわり」の3つを示した。

 エリアについては、実人口カバー率は2012年10月末時点で84%、2013年3月までに96%に拡大する見込み。LTEの周波数帯に関しては、iPhone 5が2GHz帯を利用し、Android端末では800MHz帯と1.5GHz帯を利用する。800MHz帯は全国で展開され、10MHz幅で下り最大75Mbpsの速度を実現する。

 加えて、2013年以降は1.5GHz帯と2GHz帯で通信速度を112.5Mbps(15MHz幅)にまで高速化させる。1.5GHz帯については混雑する都市部などで展開される。同社ではLTEの対応エリアをリストで公開しているが、今後は2GHz帯の(iPhone 5のみが対応する)エリアを含めて、見せ方の拡充が検討されている。

 NTTドコモのLTE「Xi」から遅れたことについては、周波数再編が影響していたことを理由として挙げ、7月の再編終了から急遽調整して立ち上げた経緯を認める一方、基地局などは周到に準備を重ねてきたことを明らかにした。

 今回発表された10機種の端末のうち、8機種は11月2日に一斉に発売されるが、発売時点でLTEの実人口カバー率が84%とし、「どのキャリアよりも広がりがある」と自信をみせ、速度についても「auは全エリアで75Mbpsを実現したい。来年には112.5Mbpsも開始する。エリアで他社を抜き、しかも垂直立ち上げ。全国で800MHz帯で展開し、プラチナ……とは言いたくないが、英語ではゴールデンバンドと言っている、いちばんつながる電波で提供する」と、エリアや速度面の強みを強調した。


 

 また、ややテクニカルな話題と断りながら、auのこだわりとして、「ピコセルの導入」「Optimizes Handover」「CSフォールバック」といった技術も紹介した。ピコセルは、通常の基地局と基地局の境目やビルの影響を受ける場所など、電波が弱くなりがちな場所に小型の基地局を設置して、つながりやすさや通信速度の安定を図るもの。田中氏は「世界で初めてピコセルの基地局を導入し、2レイヤーでエリアを構築している」と紹介。「データ通信が切れなきゃいいとか、そういう品質基準はこれまでのもの。基地局数が何局と言っても意味が無い。我々は品質を大事にしたい」と語り、通信の品質にこだわっている様子を強調した。

 「Optimizes Handover」はLTE(4G)から3Gに瞬時に切り替わるという技術で、4Gの圏外に出ようとしているユーザーを検知すると、予め移動先の3G基地局に接続要求を実施、従来は5秒程度中断した通信が、瞬時に切り替わるようになるという。基本的には基地局同士が連携する仕組みだが、端末側でも対応が必要。今回発表のauのAndroid端末が対応したことで、auは“本邦初”を謳う。田中氏によれば、「ドコモはネットワーク側で対応しているが、端末はこれから。もう1社(ソフトバンク)はどちらも対応していない」とのこと。

【訂正 2012/10/25 14:14】
 KDDIは、ドコモの端末において、すでに上記のハンドオーバーの技術に対応していたことが判明したとして、「端末側は対応していない」などとした当初の調査結果が誤っていたことを明らかにした。


 加えて、LTEネットワーク側で端末に対し電波の“つかみ”をアシストする仕組みを導入し、電池消費を抑える仕組みがauのLTE端末全機種に導入されていること、全機種でテザリングに対応することをauのこだわりとして紹介。さらに家庭用のWi-Fiルーター「HOME SPOT CUBE」が5GHz帯やHT40(広帯域モード)に対応し、端末側もHT40に対応したことで、家庭でのWi-Fiは150Mbpsで通信できることも紹介。モバイルでは75Mbps、自宅では150Mbpsと高速な環境が揃うことをアピールした。


「ピコセルの導入」
「Optimizes Handover」
「CSフォールバック」と消費電力の削減全機種がテザリングに対応

 

 サービスの料金面ではキャンペーンを中心に紹介された。auのスマートバリューの成功に触れ「ケーブルテレビ世帯の85%がスマートバリューを利用できるようになっている」と急速にケーブルテレビ各社が参画している様子を紹介。さらにお得なキャンペーンとして、LTEの基本使用料が月額980円から490円になる施策や、MNPではこれが0円になるキャンペーンなどが紹介された。


固定通信とセットの「au スマートバリュー」を利用すると大幅な割引キャンペーンの一例

 

フラッグシップは「HTC J butterfly」、INFOBARの予告も

LTEに対応する冬モデル10機種

 田中氏は、駆け足ながら10機種を紹介する中で、フラッグシップモデルとして最後にHTC製の「HTC J butterfly」を見せたほか、「au + 1 collection」のラインナップとして、紙をちぎってのりで貼りオリジンルケースが作れるフランス生まれのデコレーションツール「decopatch」なども紹介した。また、機種の紹介の最後には、今回発表のモデルが冬モデルとしてラインナップされており、春モデルがあることを示唆。その中から、イメージ映像とともにクアッドコアCPUでAndroid 4.1を搭載する「INFOBAR A02」が発売予定であることを明らかにした。

 田中氏からはこのほか、コンテンツ面でも電子書籍サービスの「ブックパス」を新たに提供することを紹介。アプリのスマートパス同様に定額で読み放題となるサービスで、既存のサービスと合わせて一通りのサービスが定額制としてそろったとした。

 田中氏は、紹介してきたネットワーク、端末、コンテンツといった取り組みを合わせて、「全部を合わせてauの世界観として提供する。どのようになるのか、楽しみにしていただければ」と述べ、プレゼンテーションを終えた。


ハイスペックなスマートフォン6機種アクセサリーも拡充
「INFOBAR A02」を2013年春に投入することも明らかにした

 

WiMAXスマホは見送りに

囲み取材に応じる田中社長

 質疑応答の時間では、WiMAX対応モデルがラインナップされていない点について聞かれた。田中氏は、LTEのネットワークや端末を大々的に発表するのが今回の構成としながらも、直接のコメントは控えた。また、UQコミュニケーションズはユーザーが増えたことで「周波数が足らなくなっている」とし、そうした動向の影響も窺わせた。

 Windows Phone端末に投入については「ノーコメント」とするも、「現実的な話として、秋冬の段階ではポートフォリオに入れるのは困難になっている」とし、少なくとも年内の投入は難しいとの見方を示した。

 同じiPhone 5を販売し、イー・アクセスや米スプリント・ネクステルの買収が話題のソフトバンクの動向について問われると、田中氏は、「拡大していくことは企業にとって大事なことだが、自分たちがどうするかということではなく、お客さんがどう考えているかを大切にしたい。お客さんが本当に望んでいるものは何か。そこにリソースを投入しなきゃいけない。お客さんの気持ちから離れると、どこに行くか分からない」と持論を披露。「勝てなくてもいい、性格は地味なので」と締めくくって会場の笑いを誘った。

 田中氏はまた囲み取材にて、米スプリントについては証券会社などからの出資案において、1年ほど前からリストに入っていたことを明らかにした上で、「我々もバカではないのでさまざまな分析をしたが、直接的な効果はあまり無いのではないか。これからネットワークやデバイスだけの時代ではなく、何を価値として提供していくかが重要。米国市場は今後寡占に向かっていくと思われ、厳しいのではないか」との見方を示した。設備投資のスケールメリットについても、すでに相当数を導入している事業者同士であり、「数が多ければ安くなるというものでもない」とした。

 

伊勢谷友介、剛力彩芽、井川遥がトークセッション

 発表会では、テレビCMに出演している伊勢谷友介、剛力彩芽、井川遥がステージに登場、田中社長を交えてトークセッションが開催された。

 LTEをアピールする新しいCMでは、風が吹いているシーンが特徴的とのこと。剛力彩芽は「風にあたっている井川さんが綺麗で、ちょっとカッコイイ。おもしろいCMになっているのでは」とコメントすると、伊勢谷友介は「すでにLTEを使わせていただいているが、速さが群を抜いている。ネット環境へのアクセスがより当たり前になりなって、身近になった感じがする」と速度や使い勝手の感想を語った。田中社長は「速さだけでなく、広いエリアや、アプリケーションの体感もぜひ」とアピール。

 ここでLTEの通信速度が高速ということで、“スピード自慢”は何? と聞かれると、ダンスを習っていたという剛力彩芽は「超高速振り(振り付け)憶え」、伊勢谷友介は「超高速で立ち直るのが早い」とそれぞれ披露。井川遥は「超高速犬かき」と答えて周囲が驚かせたが、言葉通り水泳の犬かきとのことで、「平泳ぎの人と同じぐらいの速度です」と意外なエピソードも飛び出していた。

 LTEのスマートフォンをどう使って行きたいか、との問いには、井川遥は「これまで送るのが重かった動画も送るのが早い。子供が二人になったので、子供をムービーで撮って家族に送りたい」とした。伊勢谷友介は「映像を見る機会が多いので、ビデオパスを使いたい。待ち時間がエンターテイメントになるのはありがたい」とすると、剛力彩芽は「気になったことはすぐに調べる癖があり、地方に行ったときは地元の情報も調べる。LTEで高速になれば、すぐに解決できるようになり、もっと活用させてもらいたい」と語った。田中社長は剛力彩芽に対し、「いきなりエリアもバッチリですから」と太鼓判を押す一幕も。

 最後には、そんなLTEの高速な通信のキャッチコピーは何がいいか、と剛力彩芽に振られ、「auの4G LTEは、速い、広い、超速い」と即席で披露。「速い」が2回入っているが、「それぐらい速いので推していきたい。速いだけではおさまらない」と説明。田中社長からは「それ採用です」とOKも飛び出した。


トークセッションの様子新CMの撮影風景

プレゼンテーション

 




(太田 亮三)

2012/10/17 18:31