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シャープ、IGZOの技術を解説

シャープ、IGZOの技術を解説

 シャープは、記者向けに「IGZO」の技術や技術面からの今後の展望を解説する説明会を開催した。

 IGZO(イグゾー)液晶は、現在シャープがモバイル機器向けを中心に展開している新しいタイプの液晶ディズプレイ。IGZO液晶の搭載が明らかになっているモデルも既に登場しており、NTTドコモの「AQUOS PHONE ZETA SH-02E」、ソフトバンクモバイルの「AQUOS PHONE Xx 203SH」(2013年3月上旬発売)、KDDIの「AQUOS PAD SHT21」がIGZO液晶搭載となっている。また、業務用モニターとしてシャープが2013年2月に発売する32インチの4K2KディスプレイにもIGZO液晶が搭載される。

 IGZO液晶は、トランジスタに従来のシリコン半導体(アモルファスシリコンなど)とは異なる酸化物半導体(IGZO)を使用する液晶。IGZOのトランジスタは電流が流れやすく、小型化が可能なため、液晶パネルを高精細にできるほか、小型のトランジスタはバックライトを透過しやすく、明るい画面にできる。

 加えて、自動車のアイドリングストップのように、画面の更新がない時間は一時的に電流と止めることが可能。一般的な液晶ディスプレイは60Hzで駆動しており、周波数の変更は難しかったとするが、IGZO液晶ではシステム側を作り込むことで1Hz~60Hzの間で駆動が可能。画面の更新が無い時間は1Hzという、従来では考えられなかったという低い数字を実現している。これにより省エネルギーを実現し、スマートフォンなど最終製品のバッテリー駆動時間の延長にも貢献している。

 また、タッチパネルにも効果がある。画面の更新を一時停止できることにより、電流ノイズを大幅に削減できることから、タッチ検出感度が向上する。IGZO液晶の休止駆動とタッチ検出を組み合わせることで、従来比で5倍という感度の向上を実現している。タブレット型となる「AQUOS PAD SHT21」ではスタイラスペンが付属し、静電容量方式のタッチパネルでは難しかった繊細なペン入力も可能になっている。

シャープ ディスプレイデバイス開発本部 技術開発センター 技術企画室 室長の今井明氏
シャープディスプレイデバイス第2生産本部 第2プロセス開発室 室長の松尾拓哉氏

 シャープ ディスプレイデバイス開発本部 技術開発センター 技術企画室 室長の今井明氏は、IGZO液晶の省エネ性能が好評であるとし、「通常のスマートフォンの使い方で、2日間使える」とアピール。IGZO液晶のトランジスタ性能の高さや、タッチパネルの感度向上など概要を解説。「生産性という意味では、従来のものとほぼ同じ形で製造できる」と語り、従来の設備を利用できる点も同社として大きなポイントとした。

 シャープディスプレイデバイス第2生産本部 第2プロセス開発室 室長の松尾拓哉氏からは、トランジスタの構造やメリットなど、より技術的な解説が行われたほか、「蛇口を閉めたとき、IGZOはきちっと止まるが、ほかは閉めていても漏れている状態」などと、IGZOトランジスタのオフ性能の高さも分かりやすく解説された。

 今後の展開を聞かれると、ディスプレイサイズはスマートフォン向けなどの小型のものが当面は主力になっていくと説明された。今井氏によれば、IGZO液晶パネルのサイズに制約はないものの、高精細や、低消費電力の性能がより求められる領域がモバイルであるとし、大きくなるとメリットは出にくくなるとする。

 また今井氏は「来年のスマートフォンのハイエンドはいくつかフルHDが出てくると読んでいる。さらに消費電力は増えることになるので、これを下げる切り札としてIGZOを提供していきたい」と語り、フルHD液晶のスマートフォンにもIGZOを展開していく方針を明確にした。

 世界中でスマートフォンを販売するような大規模なメーカーは、仕様を統一した上で、液晶パネルを複数のメーカーから調達することも珍しくない。シャープは、こうしたグローバルモデルに液晶パネルを供給するいちメーカーという面もあるが、外形やインターフェイス、最大消費電力など仕様は統一されるのが一般的でも、低消費電力の性能について「低すぎるのでダメ」ということは、これまで無いという。入手した端末の液晶パネルのメーカーが偶然シャープだったので(基本的にメーカーの判別はできないが)、電池の持ちがいい、ということは、現在までにも「あったと思う」(今井氏)としている。

 現在、2012年6月に新IGZOが発表されたように、IGZO液晶には大きくわけてアモルファス構造のIGZOと、新しく開発されたCAAC構造のIGZOの2種類が存在する。CAACのIGZOは今後主流になると見込まれているが、現在は混在している状況。CAACのIGZOは当初から2012年内に量産すると発表されており、実際に「AQUOS PHONE ZETA SH-02E」に搭載されている。

 なお、台湾のメーカー「AUO」がIGZO液晶を開発し、量産すると報じられている件については、AUOがシャープや半導体エネルギー研究所とは関わりがないメーカーとした上で、量産時期については少なくとも1~2年のアドバンテージがあるとし、ノウハウでは大きく上回るとの見方。また、基礎技術、生産技術の多くの部分でシャープと半導体エネルギー研究所が特許を取得・申請しているとし、AUOの開発・量産は「多くが特許に関わるのではないか。注視していきたい」(松尾氏)としている。

太田 亮三