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KDDI、「NFC」普及促進へ新たな取り組み

KDDI、「NFC」普及促進へ新たな取り組み

 KDDIは、今後普及が期待されている非接触型の近距離無線通信規格「NFC」について、国内外の企業15社と連携し、NFC関連サービスを提供していくと発表した。

 4日には都内で会見が行われ、同社商品統括本部 サービス企画本部 本部長の小林 昌宏氏から、その取り組みが語られた。またJAL(日本航空)や、韓国の事業者であるSKプラネットからもNFC関連の取り組みが紹介された。会場には、KDDIとの連携を表明した関係各者のサービス、ソリューションも展示された。

低い認知度が課題

 「NFC」(Near Field Communication)は、「かざすだけで支払う」「かざすだけで他の機器と繋がる」「かざすだけでクーポンを得られる」といった使い方を実現できる、非接触型の近距離無線通信規格。これまで日本では、ソニーが開発した「FeliCa」という技術が主流となり、海外では「Type A/B」と呼ばれる技術が主流だったが、国際標準規格である「NFC」ではType A/BおよびFeliCaの無線通信部分と上位互換があり、今後、スマートフォンだけではなく、街中のポスター、プリンタやスピーカーなどでNFCの技術が採用される、と期待されている。

カードモード

 NFCには、乗車券などのカードと同等の使い方ができる「カードエミュレーションモード」、他のICカードのデータを読み取れる「リーダーライターモード」、NFC対応のスピーカーにかざすとスマートフォンの音楽をスピーカーで出力するなど機器同士を繋げる「Peer to Peerモード」と、3つのモードが用意されている。

リーダーライダーモード
Peer to Peerモード

 KDDIでは、こうした3つのモードを備えるスマートフォンとして、約1年前に「GALAXY S II」を発売。最近では、FeliCaにも対応した機種がKDDIだけではなく、各社から提供されはじめている。海外でもNFCを利用したサービスの開発が進められており、たとえば2月下旬にスペイン・バルセロナで開催された展示会「Mobile World Congress 2013」では会場の入口にNFC対応のゲートが用意され、かざして入場できるようになるなど、世界的にNFC対応サービスの活用が進む見込みだ。

海外でも取り組みが進む
Android、BlackBerry、Windows Phone 8でもサポート
世界市場での携帯電話へのNFC搭載率
こちらは国内での搭載率の見通し
KDDIの取り組み
最近ではFeliCa対応のNFCスマートフォンが続々登場

 今回のKDDIの発表は、15社と連携してさまざまNFCサービスを提供する、というもの。ただ、KDDI側が出資など踏み込んだアクションを行うわけではなく、また会見場で展示された各事業者のサービスもauユーザーに特化したものではない。一見すると、NFC関連サービスをただ紹介し、関係各社の一覧が紹介されただけのように見えるかもしれない。

KDDIの小林氏

 では、なぜKDDIはこうした発表を行ったのか。小林氏はプレゼンテーションの冒頭、NFCの認知度の低さを紹介する。

 「KDDIが調査したところ、NFCを『知らない』と回答したのは88%。au端末の約70%にFeliCaは搭載され、auユーザーの約14%がFeliCaのサービスを利用している」

NFCの認知度はまだまだ低い
FeliCaサービスの利用率は約14%

 世界的な普及が期待され、今後、対応機種も国内外で続々と登場する見込みながら、肝心のサービスの利用はまだ発展途上。15社との連携を発表することで、利用率の向上を図り、事業者のさらなる参画を促す――そうした考えが背景にあると小林氏は語る。たとえば、ドコモでは、「おサイフケータイ」というブランドに加えて、NFC周辺機器との連携やクーポンなどのサービスについては「かざしてリンク」というブランドを立ち上げているが、今回の発表会でもKDDIではまだ「かざしてリンク」を用いていない。これも「まだその段階ではない」(小林氏)からだという。

JAL、SKプラネットの取り組み

JALの清水氏

 サービスの一例として、JALのWEB販売部 アシスタントマネージャー、清水俊弥氏が紹介したのは、昨秋よりKDDIとともにスタートした、NFC対応の搭乗サービスだ。これは、FeliCaの技術を採用している従来型のおサイフケータイでも実現していたサービスで、そのNFC対応版となる。

 またJALでは、チケット購入~空港到着~現地着といった、ユーザーの一連の行動を「トラベルループ」と呼び、購入や搭乗時間の案内、現地のローカル情報などをスマートフォンアプリで提供する。たとえば昨夏には沖縄の那覇空港にジャンボジェットの先頭部分を使ったNFC対応ポスターを設置し、クーポンアプリの配信などを行った。

JALでは「トラベルループ」でユーザーの利便性を高めるアプリを提供
昨夏に那覇空港で展示したスマートポスター

 清水氏が示したデータによれば、日本国内のスマートフォン普及率(2012年11月時点)は約4割だが、JALのモバイルサービス経由では、スマートフォンから国内航空券を購入している割合は、2013年1月度で約7割に達している。またJALのWebサービス全体で見ても、売上の13%がモバイルチャネルになった。この背景にはJALをはじめ、航空便を多く利用するユーザーはITリテラシーの高い層が多く、そうしたユーザーは既にスマートフォンへ移行しているため、と清水氏は分析する。海外でも「RFID」(電波で読み取るIDタグ)を使った搭乗サービスが提供され、航空会社の業界団体であるIATA(国際航空運送協会)でもNFCを利用したサービスが今後5年間で世界に広がるとの予測も示され、航空業界ではNFCがスタンダードになっていくとアピールした。

JALのモバイルチャネルではスマートフォンからの購入の割合が高まっている
Webサービスの売上の13%がモバイルチャネル
海外企業の取り組み
SKプラネットのキム氏

 一方、韓国トップの通信事業者、SKテレコム傘下のSKプラネットのコマース事業部 マネージャーであるキム インスク氏は韓国内での取り組みを紹介。SKでは、2007年からSIMカードを利用したモバイルサービスが開始され、その後、同じくSIMカードを用いた決済サービスなどが展開されている。2012年の麗水(ヨス)国際博覧会でも決済、音声情報、展示などでNFCを活用している。こうしたSKの取り組みに加えて、韓国政府主導で関係各社が参画する団体「Korea Grand NFC Alliance」も設立されている。

 さらにSKプラネットでは、NFC対応サービスを開発しやすくするため、APIなどを整備したプラットフォーム「Smart Touch Platform」の提供を開始。電子マネーサービスの「Cashbee」などで利用され、高速道路の通行料金を自動的に支払う「hi-pass」も準備中という。今年5月~8には、SKプラネットとKDDIなど5社が協力して、東京・新大久保の100店舗(予定)が参加する実証実験が行われる予定。まずはNFC対応タグが付いたスマートポスターが用意され、スマートフォンをかざすとコリアンタウンである新大久保周辺の情報やクーポンが取得できる。年内にはさらにNFCによる決済機能も提供される予定だ。

SKプラネットのこれまでの取り組み
明洞などでトライアルサービスを実施
昨年の万博でも
韓国政府主導で業界団体を設立
サービスを開発しやすくするプラットフォームを提供
Smart Touch Platformを利用したサービス
新大久保でトライアル
新大久保での取り組みの概要

 グローバルな規格であるNFCは、仕様の細部が定まっておらず、国や事業者ごとに細かな部分での仕様が異なる可能性がある。一方、日本国内では、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクモバイルの3社が協議会を設立して2012年12月までに、そうした細部の詰めを行った。この仕様はおおむね海外の仕様と同等で、日本独自規格と言うほどではないが、新大久保での実験は、日本で細部が共通化された仕様を用いている。

3月21日より大手町で郵便ポストを利用した実験

 今後、NFCのサービスでは、マスターカードの「paypass」、VISAの「payWave」が日本国内でも2013年度中に展開される予定で、これは昨年10月、オリコカード(オリエントコーポレーション)と三井住友カードから発表されている。

会場では、懐かしい形状のポストでデモ。ちなみにこのポストは実物から型をとって製作された複製品

 近日中の取り組みとして、日本郵便、ユーシーテクノロジ、東京都建設局が3月21日より、東京・大手町で情報配信の実証実験をスタートする。これは郵便ポストにNFCタグを貼り付けて、NFC対応スマートフォンをかざすと、周辺情報を取得できるというもの。日本郵便やJR東日本、三菱地所による商業施設、JPタワー(旧東京中央郵便局敷地に建設)が同日にオープンすることにあわせて実施されるもので、日本郵便では、NFCタグを用いることで、これまでハガキを投函するだけだったポストの役割に、情報発信機能を付加したい考え。実証実験を通じて有効性などが検証される見込み。

ポストにNFCタグを設置
大手町では、スタンプラリーの要素も
サンシャイン水族館でのサービスを再現したデモ。FeliCa対応のサービスと比べ、NFC対応スマホは初期設定なしで利用できることがメリットの1つ、と担当者は説明

 4月7日まで、池袋・サンシャイン水族館ではNFCを用いたサービスが利用できる。これは、水族館内にNFCタグを設置して、専用アプリ「Ikesu(イケス)」をインストールしたNFC対応スマートフォンをかざすと、魚の情報を取得して、「Ikesu」内のバーチャルな水槽で魚が泳ぐ、という流れ。NFCタグは、特に情報が書き込まれていないFeliCaのカードとのことで、FeliCa1つ1つに割り当てられたIDで魚を特定しており、館内に設置されたNFCタグは、それぞれ異なる魚をゲットできるようになっている。一方、ユーザーの手持ちのFeliCa対応カードはどのカードを読み取っても1種類の魚のみ「Ikesu」に登場する形で、サンシャイン水族館に行けば、より多くの魚の泳ぐ姿を見られるようになっている。

パナソニック製の電子レンジ。スマホアプリで検索したレシピをレンジへ転送
NFC対応の体組成計。計測したデータはスマホアプリで蓄積。CLUB Panasonic会員であれば機種変更後もデータを引き継げる
東北インフォメーション・システムズ株式会社ではNFC対応スマホに向けて、SIMカード内に電子証明書を配信するプラットフォームを構築
SIMカード内に保存できれば、他の場所より格段にセキュアになるとのこと

関口 聖