ニュース

KDDI、首都直下型地震を想定した模擬訓練を実施

KDDI、首都直下型地震を想定した模擬訓練を実施

 KDDIは8日、東京都の有明にある東京臨海広域防災公園にて、首都直下型地震の影響によるインフラ復旧を想定した模擬訓練を実施した。一般の見学も可能な公開訓練として催されたもので、合間に補足説明を随時入れながら、災害発生直後の初動対応として、ヘリコプターを用いた先発隊の派遣、各地域における基地局の設置、本部との相互連絡など、実際の対応をシミュレートした。

訓練会場となった東京臨海広域防災公園

訓練のポイントは「安全、迅速、確認」

 訓練に先立って、同社技術統括本部 運用本部 副本部長である難波一孝氏が挨拶。訓練中は同氏が復旧活動の本部となる運用対策室にて陣頭指揮をとるとのことで、「我々の日々の訓練の成果を見てほしい」と語った。また、同 運用品質管理部長の米塚博志氏は、今回の訓練内容を解説するとともに、「安全、迅速、確認がポイント」と話し、実際の災害時と同様の緊張感をもって進めることを強調した。

KDDI株式会社 技術統括本部 運用本部 副本部長 難波 一孝氏
KDDI株式会社 技術統括本部 運用本部 運用品質管理部長 米塚 博志氏

 訓練の想定は、東京23区内で震度7の首都直下型大地震が発生したことにより、広範囲で携帯電話基地局が被害を受け、携帯電話が利用できなくなったという状況。政府および東京都から、今回の会場であり防災拠点でもある東京臨海広域防災公園と、練馬区役所、品川区役所の3カ所における通信確保を要請されたものと仮定し、緊急時に利用する移動可能な携帯電話基地局を投入する。今回の訓練は、これらの機材の設置における対応力の確認と、課題の洗い出しなどが目的だ。

 訓練で使用される機材は、最大で直径1kmほどのエリアで通信を可能にする小型の車載型基地局2台と、同1.5kmをカバーする大型の車載型基地局1台、可搬型の基地局1台の計4台。ちなみに現在KDDIは、全国に小型の車載型基地局13台、大型7台、可搬型27台を配備しており、この他に移動電源車が55台と、1kVA程度のポータブル発電機も多数保有しているとのこと。

初動対応に加え、障害の長期化を想定した訓練も

 訓練は、難波氏が先発隊に対する出動要請の号令をかけてスタートした。出動要請から数分後、遠くの空からヘリコプターが現れ、会場内に設けられたヘリポートに着陸。3名の先発隊員が降り立ち、駆け足で東京臨海広域防災公園と仮定した所定の配置について状況確認を行い、その報告を受けた運用対策室の難波氏は、すぐに練馬区役所と品川区役所への車両基地局の配備を指示する。

 会場の端で待機していた車両がいっせいに動き出し、直径1kmほどのエリアをカバーする小型の車載型基地局は先発隊のいる東京臨海広域防災公園と品川区役所へ、同1.5kmほどをカバーする大型の車載型基地局は練馬区役所へとそれぞれ移動。到着後に各地区の4名1チームが点呼をとった後、運用対策室へ到着したことを連絡。基地局設置の指示を受け、すぐに車両の固定とアンテナ設置のための作業に取りかかる。

 一つ一つの作業を慎重に、声をかけ合いながら、ダブルチェックしつつ確実に進め、衛星通信のためのパラボラアンテナと、最大で11~12mの高さに達する携帯電話通信用のアンテナの展開を完了すると、再び運用対策室に電波発射を要請。その後電波発射が開始されたことを告げられると、手持ちの携帯電話でデータ通信と音声通信の開通を確認し、一連の復旧手順が完了となる。

 さらに、通常の基地局の復旧に長期間かかるという想定も加わり、東京臨海広域防災公園においては、いったん展開した車載型基地局を撤収し、可搬型基地局へ移行するという判断が下された。これは、車載型基地局はあくまでも一時的に利用する緊急用の基地局であるためだ。対応が長期化する場合は可搬型基地局に置き換え、多数のユーザーの通信を安定的に維持する。こうすることによって、既存の車載型基地局を別の地域に素早く派遣し、災害復旧の範囲を広げることが可能になる。

 東京臨海広域防災公園の車載型基地局は、すぐさま“立ち下げ”作業に入るために、新たな配備先である仮の台場区民センターへと移動した。それと並行して、新たに可搬型基地局を運搬するトラックが仮の東京臨海広域防災公園の近くに移動し、速やかに可搬型基地局の“立ち上げ”を開始。4カ所すべての基地局の設置と通信の開通を確認できた段階で、訓練は終了となった。

 最後の閉会式では難波氏が「大きな声をかけ合い、安全を確認しながら、きびきび動くことが大事だと感じた」と感想を述べるとともに、「災害が起きた場合に、お客様の元に早く駆けつけ、お客様の通信を確保するという我々の最大の使命のために、日頃から練習を重ね、技術を磨き、向上させていただきたい」と、今回の訓練に参加したスタッフを激励した。

レース中継などに利用される映像伝送用車両などが展示

 訓練会場の脇では、臨時や緊急時に利用される車両と通信機材のデモ展示も行われていた。その中の1つ、「車載型衛星地球局 ビックシェル号」は、KDDIが1台だけ所有している映像伝送用の車両で、近くに光回線などが引けない場所でも、衛星通信で世界中の放送局などに映像を直接伝送できる。東日本台震災時の被災地の映像を届ける際に利用し、最近ではサーキットのレース中継でも活用したという。その他、全国で2台しかないレピータ(中継局)タイプの車載型基地局や、移動電源車も展示していた。

「車載型衛星地球局 ビックシェル号」
「車載型地球局 レピータ号」
移動電源車

 また、災害時などに活用されうるいくつかのソリューションも展示されていた。「VistaFinder Mx」は、最大12台のAndroidスマートフォンから送信された映像を1台のパソコンでリアルタイム受信し、任意の映像を出力可能なシステム。WiMAX/3G/LTEなどで通信可能なAndroid 2.3対応端末があれば、あらゆる場所からライブ中継が可能で、比較的手軽にマルチチャンネルの映像配信システムを構築できる点がウリとなっている。

「VistaFinder Mx」

 さらに、京セラのホーム向けタッチパネル端末「IP告知システム」も展示。インターネット回線に接続して利用するもので、IP電話機能のほか、行政からのお知らせ表示、緊急地震速報、フォトフレームなどの機能を備えている。幅広いユーザー層に向けた端末のため、大きなボタンが表示されたわかりやすい画面インターフェースで、内蔵バッテリーにより停電時でも一定時間利用できることなどをアピールしていた。

京セラの「IP告知システム」
各キャリアの端末を充電できるコーナーも設けられていた

日沼諭史