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ソフトバンクが「ダブルLTE」発表、都市部からサービス開始

ソフトバンクが「ダブルLTE」発表、都市部からサービス開始

 ソフトバンクモバイルは、iPhone 5やiPad mini、iPadで既存のLTE網(SoftBank 4G LTE)に加えて、イー・モバイルのLTE網が利用できる「ダブルLTE」の提供を開始した。

 「ダブルLTE」は、SoftBank 4G LTEに加えて、イー・モバイルのLTE網が利用できる通信サービス。ソフトバンクの中心モデルに位置づけられるiPhone 5やiPad mini、iPad向けに提供される。3月21日よりサービスが開始され、まずは池袋周辺から運用を開始、徐々にサービスエリアが拡大される。

 ネットワークの混雑に応じて、SoftBank 4G LTEとイー・モバイルのLTE網の接続が自動的に切り替わる。仮にイー・モバイル網に繋がった場合でも接続状態は、ソフトバンクと表示される。ユーザー側でソフトウェア更新などの必要はなく、バッテリーへの影響もないという。

 Android端末については、今後1.7GHz対のLTEに対応するモデルが登場すれば対応する計画だが、あくまで中心に据えられているのはiOS対応端末。Android端末はこれまで同様、AXGP対応端末を供給していく方針だ。

 ソフトバンクでは、ネットワークが混雑している東名阪エリアなど、都市部を中心に対応エリアを拡大し、2014年3月末までに3万8000局までエリア拡大する計画。また、2013年夏頃には、イー・モバイル側でもソフトバンク網が一部利用できるようになる予定だ。

ダブルLTEで渋滞解消

 3月21日、ソフトバンクモバイルは「モバイルネットワークに関する説明会」を開催した。説明会には、ソフトバンクグループ代表の孫正義氏(ソフトバンクモバイル代表取締役社長 兼 CEO)が登壇し、「ダブルLTE」について語った。

ソフトバンクの孫社長

 孫氏は、「イー・アクセスとの連携はいよいよ今日から。一気にではないが、慎重に計画的に(エリアを)増やしていく。まずは混んでいるところから提供する」と話した。また、SoftBank 4G LTEとイー・モバイルのLTE網が使える点について、高速道路に例えて、「1車線増えた。一気に渋滞が解消される。道路は一端混み始めると動かなくなる。渋滞を解決する」と語った。

 サービスの提供開始によって、ソフトバンクはSoftBank 4G LTEの2GHz帯、イー・モバイルの1.7GHzが利用できるようになる。さらに2014年には、900MHz帯でもLTEサービスが開始される予定だ。

 なお、NTTドコモは、2GHz帯からLTEサービスを開始し、800MHz帯と1.5GHz帯でもサービス展開している。auは、iPhone 5を2GHz帯に、LTE対応のAndroid端末を新800MHz帯と1.5GHz帯で利用している。

孫氏、「パケ詰まり」を定義

 孫氏は発表会の中で、「パケ詰まり」について言及した。

 Twitterなどのネットサービスの利用者を中心に、繋がらない、もしくは繋がりにくい状態を「パケ詰まり」などと呼ぶ傾向にある。利用者らの言葉の使い方をチェックしてみると、その使われ方はさまざまで、要因は特定できないがネット接続できない状態に不満をぶつける際に使われる傾向が読み取れる。

 今回の発表会で孫氏は、この「パケ詰まり」という言葉について、「アンテナバーは立っているが電波が流れない状態。電波が来ていないのではなく、パケットが通らない状態」と定義付けした。

孫氏がNo.1をアピール

 ソフトバンクでは、利用者が解約する理由の多くが通信の繋がりにくさにあるとして、2010年に「電波改善宣言」を打ち出す。2012年7月には、同社が悲願とする900MHz帯を獲得し、「プラチナバンド」のサービス名称で繋がりやすさをアピールしている。

 「プラチナバンド」の開設計画では、2013年3月末までに1万6000局の基地局を敷設するとしていた。しかし、当初の計画を前倒しして、3月末には2万局に達する見込みという。孫氏は大幅な前倒しであることをアピールしていた。

 また孫氏は、大雪や台風の中でも基地局の敷設に取り組んだ現場スタッフをたたえて、「現場には頭が下がる思いだ」と話した。しかし、基地局数を大幅に増やしたことを主張する一方で、「基地局の数を誇ってみても繋がらなくては意味が無い」と語り、重要なのは電波が繋がる「接続率」であるとする。

 孫氏は、スマートフォンの音声通話が繋がる確率について、若干の波はあるもののついに首位を獲得したことを強調。「毎日No.1ではないが、少なくとも1位2位を争うところまできている」と話した。

 ソフトバンクが示したイプソスの調査データは3月12日付けのもので、音声接続できた比率は、ソフトバンクが98.4%、NTTドコモが98.2%、auが98%だった。逆に言えば、3社ともに接続できなかった確率は2%以内と小さい。

 音声通話の接続率について、No.1になったことをアピールした孫氏。ただ、スマートフォン時代の繋がりやすさで重要なのはパケット通信であるとする。「スマホ時代は全体の80%は実はデータ通信に使っている。パケットが通らないと意味が無い」と話し、ソフトバンクモバイルでのデータ通信量がこの5年間で60倍に、さらに都市部では100倍に膨らんでいるとした。

 それだけ重要なパケット接続率で、ソフトバンクは他社を上回るところまできたという。ソフトバンクグループのAgoopとヤフーによる接続率調査では、パケット通信の接続率が3月19日、ソフトバンクが96.6%、ドコモが96.2%、auが95.8%となった。首位から3位までの差が1%未満という僅差であり、いずれも高い接続率を示している。

 No.1はソフトバンク、孫氏は力強く同社の通信品質が向上していることを強調する。「瞬間風速的に他社を上回ったとしても実は意味がない。たった一人が使う理論値110Mbpsに意味はないし、光ファイバー並のネットワークというのも嘘ばっかり。嘘というのはあれかもしれないが、あまり意味がない」と話し、瞬間的な通信速度よりも安定的に繋がることが重要とした。

 なお、ソフトバンクモバイルはこれまで、他社と同様にベストエフォート、つまり理論上の通信速度をうたっている。孫氏は「我々自身も反省しなければならない」と語ることで、理論値で語る通信速度について否定する形をとった。

小セル化

 今回孫氏が定義した「パケ詰まり」。それに効果があるのは「小セル化」だという。
1つの基地局でより広範なエリアをカバーし、多くのユーザーを抱えるマクロセル。それよりも狭いエリアをカバーし、より少ないユーザーを抱える小規模な基地局を複数設置する方がトラフィックの分散が可能というわけだ。

 深刻なトラフィックの増大は、日本に限らず世界的に通信事業者の課題となっている。ソフトバンクはウィルコムの買収によって用地を得て、細かく基地局が配備できる状況を整えている。孫氏は、2012年8月のデータを元に、ソフトバンクの基地局19万に対して、ドコモもauもそれぞれ10万基地局足らずであると説明した。

 また、2012年3月時点のデータをベースに、契約数あたりの基地局数を割り算した。1つの基地局でドコモは600人、auは300人、ソフトバンクは150人のユーザーを抱えているという。孫氏は、「基地局数あたりのユーザー数は(ドコモの)1/4で済む」と語った。

 前述したソフトバンクの説明を借りると、マクロセルと小セル化のソフトバンク網では、そもそもの基地局ごとの収容数は異なる。また、各社ともに大都市圏を中心により小さい基地局を設置することで通信の穴を埋めている。単純に割り算していいものか判断が分かれるところだ。

宅内ルーター無償提供と地下鉄のエリア化

 このほか孫氏は、宅内用のWi-Fiルーターを事実上無償で提供していることをアピールした。その数、340万台。このうちアクティブな端末は200数十万台とした。

 宅内にWi-Fiルーターを導入しているユーザーは、データを固定通信側にオフロードしやすいため、1カ月あたりのデータトラフィックは非導入ユーザーの半分程度になるという。また、宅内ルーターはFONとの契約により、ソフトバンクユーザーは自動的に接続できるとした。

 さらに、東京メトロ全線で携帯通信が可能になった点に触れて、「猪瀬知事が副知事の時に、地下鉄のトンネルの中で不便、協力願えませんか? とTwitterで呼びかけた。その場でアポをとって翌々日に会いに行き、一気にそこからやりましょうとなった。担当部署には3~8年かかると言われたが、直接乗り込み机を叩いて交渉し、役人あがりでない猪瀬さんもそれはおかしいとなった」と話した。

 孫氏の説明だけでは、同氏の活躍により地下鉄通信網が整備されたようにも聞こえるが、これに対して、東京メトロ側の担当者は異なる見解を示している。

 ちょうど同日に開催された地下鉄の取材において、メトロ担当者は、メトロと通信事業者側の移動通信基盤整備協会(JMCIA)ですでに合意していたと話している。これにソフトバンク傘下のイー・モバイルの担当者は、孫氏の働きかけで現場の動きが加速したことことを付け加えている。

フルIPネットワークで安定したシステム運用

 携帯電話のネットワークは、我々ユーザーが感覚的に理解しやすい通信網だけでなく、バックエンド側のネットワークも重要だ。孫氏は、5年間で100倍(都市部)に膨らんだトラフィックをさばくために、バックボーンのネットワークが重要性を説明した。

 ソフトバンクが世界で初めて「完全なるフルIPベースのバックボーンを作り上げた」とアピールし、さらに、東京と大阪間を結ぶバックボーンは10TBと大容量化していることを強調。冗長構成のこのバックボーンは、たとえば災害などで東京がネットワークが使えなくなった場合に、大阪側の設備で通信システムの機能が維持できる仕組みを採用している。

 こうした強固なバックボーンを備えることで、ソフトバンクモバイルは660日間の長きにわたって重大事故の報告なしに通信サービスを提供できているという。孫氏は、「他社は事故を繰り返している。意地の悪い人はソフトバンクが事故なしはおかしいと言うかもれしないが、報告しなければ義務違反になる」と語った。

 また、ソフトバンクのネットワークが悪いというイメージについて、「それは長年解決できていなかった我々が悪い。歯を食いしばってやった結果こうして報告できるまでになった」と成果をアピールした。

iPhone 5同士で接続率を比較

 なお、孫氏は接続率について改めて説明しなおし、端末によってアンテナ位置が異なるなどの理由で、同一機種でチェックした方がよりフェアであるとの見解を示した。

 ソフトバンクとauから登場している「iPhone 5」について接続率を示し、音声もパケットも、iPhone 5の接続率はソフトバンクが勝っているとの結果を示した。

 このほか、スマートフォン時代により重要だとするパケット通信の接続率については、3社の状況を地域別でみるとほとんどソフトバンクが勝っており、東北エリアのみドコモに首位を譲っている状況という。

 都市部や市街地ではいずれもソフトバンクが首位で、山間部のみドコモが強いという。時間別、ランドマーク別でもほぼソフトバンクが首位と説明していた。

 孫氏は、今回の発表会で、2011年3月11日の東日本大震災についても言及。「大地震と大津波には本当に胸を痛めた。通信事業者の社長として、我々の電波が届かなかった故に死者を増やしてしまったかもしれないと思うと夜も眠れない。断腸の思いで何が何でも他社を上回るネットワークを作るんだ」と強い決意の上でサービス向上にと努めたことをアピールした。

 さらに続けて「他社を非難する表現があったかもしれないが、No.1になることが物差し。どこにいてもいつでも我々の通信がつながるよう、一時的に買った負けたという営業的な次元ではなく使命を果たす」と語り、通信がライフラインであると述べた。

 発表会では、一時的な勝ち負けを中心にプレゼンテーションを行ったように取れる場面も見られたが、さまざまな面で1位になることがわかりやすい改善の指標になるのもまた事実だろう。孫氏は、最後に「反省すべき点だらけだ。どんぶり勘定するのでなく、より科学的に人々の幸せのために使命を果たしていきたい」と語っていた。

質疑応答

 発表会後の質疑応答で、日本国内の携帯各社のネットワークについて、世界レベルで非常に高いものであると話し、「外国で繋いでみて欲しい。10倍ぐらい違う。他社も相当よく、レベルが高い同士の中での秒タッチの差を比較している」と話した。

 大きな差がないという国内携帯電話事業者のネットワーク、それではサービスの差別化要因は何か? 孫氏は、「一番の差別化は小セル化ではないか」と語り、小セル化は一朝一夕にはできず、少なくとも1~2年で増やせるものではないとした。しかも、都市部で基地局建設用地を見つけるのはほぼ不可能で、そうであるにもかかわらず都市部のトラフィック増大が深刻な状態にあることを語った。

 さらに、電波の割当について、700MHz帯がドコモとauに渡り、ソフトバンクには割り当てられなかったと話した。しかしこれは誤りで、900MHz帯を獲得したソフトバンクは700MHz帯の割当に申請していない。なお、ソフトバンクグループのイー・モバイルは700MHz帯の割当を受けている。

 また、パケット通信の接続率調査において、ヤフーの防災アプリで接続調査を行ったことに触れ、解析技術については提供予定にないものの、電波が届かないエリアの情報については、他キャリアから要望があれば提供を検討するという。

 このほか、米Sprintとの買収を巡る手続きについて順調であると話していた。

津田 啓夢