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IGZOを核に首位奪回、シャープ長谷川氏が見せた反転攻勢の決意

シャープの長谷川氏

 シャープは、2013年の夏モデルの説明会を開催した。同社の常務執行役員 通信システム事業統括兼通信システム事業本部長の長谷川祥典氏が今後の展開について言及した。また説明会後、長谷川氏にあらためて話をうかがうチャンスを得た。後半にはインタビューの模様をお届けする。

 長谷川氏はまず、2012年度の携帯電話事業について振り返り、メーカー別のシェアについて「残念ながら3位(2012年度通期)。2012年度上期は部品供給の影響もあり、2011年度と同じく3位だったが、下期については2位」と語り、下期にシェアを回復させた背景に同社のIGZOディスプレイがあるとした。

 長谷川氏は「冬モデルからIGZO搭載モデルをラインナップし、大きな評価を受け、シェアを押し上げた。IGZO搭載モデルは当初出荷数の30%を見込んだが、実績は40%とそれを上回った。中でもドコモのAQUOS PHONE ZETA SH-02Eは高い評価を得た。ドコモの発表でも発売から5カ月で60万台を販売したことが紹介された。また、家電量販店の販売ランキングでも海外メーカーを抑えて8週間連続で1位を記録した」と語った。

 なお、シャープは23日、IGZOディスプレイがディスプレイ業界の学会であるSIDの「Display Industry Awards」において、「SH-02E」が「Display of the Year Award」の金賞を受賞したと発表している。

 長谷川氏は、中長期的な目標を国内シェア全体で首位に返り咲くこととした。同氏は「事業拡大のためにはシェア回復が必要。スマートフォンは、2~3年で急速に市場を拡大したが、これからはハードウェアの競争だけでは勝てない。感情や感覚に訴え、使いたくなり、友達に見せたくなり、周りに自慢したくなるようなものが必要」とした。

 シャープはまず、国内向け製品を充実させる方針だ。長谷川氏は2013年上期のポイントとして、フルHDのIGZOディスプレイ、au向けの製品で実現させた3日間の電池持ち、フルセグ受信などを挙げた。ディスプレイの高精細化やスマートフォンの電池の持ち、フルセグなどへのニーズは高いという。

 そして、これらニーズを拾い上げる技術の核になるのは、IGZOだ。2013年上期のシャープ製スマートフォンでは、フルHDのIGZOディスプレイで460ppiの高解像度を実現した。シャープでは、画面の大きいタブレットについては今後もIGZOディスプレイの高精細化を進めていくという。

 このほか、上期のモデルには省電力制御エンジンや高感度タッチ技術などが搭載されている。

 IGZOディスプレイを軸にシェア挽回を狙うシャープ。長谷川氏は「シャープはIGZOで事業拡大と反転攻勢をかけていく。来年度、スマートフォンやタブレットが100%IGZO搭載となる。SHと言えば電池持ちNo.1、そんなブランドを構築したい」と話した。

長谷川氏インタビュー

 スマートフォンを含めた国内の携帯電話市場は厳しい状況にあり、端末メーカー各社は事業規模を縮小したり、効率化を図ろうとしている。こうした中で今夏、NTTドコモ、au、ソフトバンクの3大キャリアに端末を供給するのは、唯一シャープのみとなった。

――ドコモの発表会では、サムスンとソニーがツートップとして紹介されることになった。率直にやりにくいのではないでしょうか? 営業施策としてお金を出すところを優遇したともとれるが、よりメーカーの力がためされている状況ではないでしょうか。

 まず、携帯電話事業者の施策について、我々はコメントする立場にはありません。我々は携帯電話事業者の要望、ユーザーの要望に合わせて端末を作っていくしかないのです。どういった施策であろうとも、いずれにせよユーザーの選択だと思っています。

――長谷川さんはシャープの携帯部門である通信システム事業本部長から、液晶デバイス部門に異動し、4月に古巣である携帯部門に戻ってきました。今後の訴求ポイントをどうお考えですか。

 電池の持ち、つまり長時間化はもっと追求していきたいですね。現状でも他社と比較してそれなりにできているとは思っています。また、「Feel UX」(シャープの独自ユーザーインターフェイス)もかなり使いやすくできていると思います。基本機能を含め、きっちり整備して、選んでもらえるものを作っていきたいと思います。

 AQUOSという名前もありますし、テレビなどAV関連との連携は積極的に取り組みたいです。ユーザーが簡単に使えるようにしていきたいと思っています。個人的にもBDレコーダーとの連携はもっと欲しいところですし。

――4月に携帯部門の組織体制が大きく変わりました。人の異動もそうですが、これまでの広島(シャープの携帯事業の拠点)では、3キャリアと海外向けに4つの事業部がありましたが、それをドコモ向けとそれ以外の2つの事業部へとまとめました。こうした狙いはどういったところにあるのでしょうか。

 まず、事業の統合は、昔に比べて事業規模が小さくなっているため効率化が必要だったのです。もちろん今後、事業拡大して事業部を増やしていきたいと思っています。

 人事については、営業部門を強化しなければならない、ということです。事業部門をまとめていた経験ある大畠(前通信システム事業本部長、現情報通信営業本部長)を営業に据え、私が4年間液晶やデバイス関連をやってきたことを活かし、スマートフォン事業を立て直します。

――フィーチャーフォン時代にシャープが手がけてきたことの多くが、スマートフォンの時代になってアップルやサムスン電子などが製品にうまく取り込んでいるようです。内心悔しい気持ちもあるのでは?

 それはあります。我々が昔やっていたこをうまい形でまとめあげて商品化している印象はありますね。携帯部門に戻って感じるのは、我々がこれまで掲げていた半歩先を行く戦略がスマートフォン時代になって難しくなったということです。プラットフォーム中心となることで、端末の同質化が進んだのです。そのため、半歩行かなくても1/4歩でも先に進めと言うようにしています。

――では、シャープの考える次の要素は何でしょう。

 まだこれからですが、シャープはかつてカメラが一番いいと言われました。カメラはもう一度何かできないかと言っているところです。基本性能である写真がキレイにとれるということ、そこで一番を目指したいです。

 カメラのセンサーこそ外部調達していますが、明るいレンズやピント合わせ、小型化する技術など、シャープの部品事業はモジュール化することが強みです。コラボレーションしながらやっていければと思っています。

――2014年度にIGZOディスプレイを100%採用するとされました。IGZOの力は画面が大きい方が効果が高いのではないでしょうか。また、パソコン向けにはIGZOの供給が始まりましたね。

 スマートフォンやタブレットについては100%IGZOにするつもりです。効果という意味では、大きさよりも精細度が高い方が効果が出ます。たとえば、4インチのHDサイズは得意な領域だと思います。4インチを作るかどうかは別ですが。

 デバイスを自社内に抱え込んでビジネスをしていくのは実際にはもう無理です。半歩先という話が出ましたが、1/4歩先、靴先だけでもいいからリードしながらデバイスを使っていかなければ、なかなかうまくいかないのかなと思います。

――最近までAndroidをキャッチアップしていくことに各メーカーが苦労されているようでした。しかし、ようやくそれも落ち着いてきて、次にどんな手でくるのか楽しみなところです。

 たしかにそうですね。そろそろ自分たちのやりたいことができそうな環境になってきました。是非ご期待下さい。

――本日はありがとうございました。

津田 啓夢

湯野 康隆