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ユーザー体験を軸にスペックアップ、クアルコム「Snapdragon 800」

 クアルコムは6月28日、「Internatinal CES 2013」で発表した最新チップセット「Snapdragon 800(MSM8974)」を紹介するメディア関係者向けのイベント「Snapdragon 800 Workshop 2013 Beijing」を北京で開催した。日本や中国だけでなく、韓国、香港、東南アジアといったアジア各国・地域のメディアらが集まり、大幅に性能が向上したSnapdragon 800の実力を、ベンチマークアプリやゲーム、動画撮影などを通じて体験した。

クアルコムが最新チップセットSnapdragon 800のメディア向けイベントを開催

 Snapdragon 800はLGエレクトロニクスのOptimus Gシリーズ次期モデル、6月25日に発表されたソニー「Xperia Z Ultra」、6月26日に韓国内で発売開始した「Galaxy S4 LTE-Advanced」の3機種で採用予定、あるいは実際に採用されており、2013年後半にはさらに多くの採用端末が登場するとしている。

 IT専門の調査会社IDCによれば、2013年の中国市場におけるスマートフォンの出荷台数は3億台に達すると見込まれている。クアルコムとしてはこの一大市場に向けて自社チップセットの優位性をアピールし、シェアを広げたい考えだ。

イベント会場

 同市場で最も大きなニーズがあるのは安価なエントリーモデルだが、クアルコムはハイエンドのSnapdragon 800だけでなく、Snapdragon 200/400/600といった性能とコストを抑えたエントリー向けチップセットも発表しており、市場ニーズを十分に満たせると見ている。今回のイベントが北京で開催されたのも、中国市場を重視していく同社の姿勢の表われと言えるだろう。

 イベントの前半はクアルコムのマーケティング担当者やエンジニアによる解説、後半はSnapdragon 800を搭載したスマートフォンとタブレットによるデモンストレーションが行われ、イベント参加者が実機に触れて試せる時間も設けられた。

実使用を想定した包括的なベンチマークの必要性をアピール

クアルコム シニアディレクター ミシェル・レイデンリー氏

 最初にクアルコムのシニアディレクター ミシェル・レイデンリー氏が登壇し、モバイル端末におけるSnapdragon 800の概要について解説した。

 まず同氏は、Snapdragon 800のチップセットにおいて、基本的な処理を行うCPUの割合が全体のわずか15%以下しか占めておらず、その他の大部分はセンサーやモデム、GPU、各種処理用のDSP、ディスプレイコントローラ等が占有しているという事実を示した。これら数多くのファンクションが、電話やメッセージング、インターネット、ソーシャルネットワーク、写真・ビデオ撮影など、さまざまなユーザー体験の提供に重要なものとなっていると語った。

 そういったユーザー体験の提供に重きを置くモバイル端末では、パソコン向けとは全く異なるアプローチでチップセット開発を進めなければならない。パソコンでは消費電力を気にすることなく、発熱についても比較的大がかりなヒートシンクやファンなどで対策でき、常に高いパフォーマンスを発揮していればよかった。一方、モバイル端末では低消費電力で効率の良い処理を行い、熱を出さないことがユーザーにとって非常に重要であり、たとえば使っていない場合に可能な限りパフォーマンスを低く、消費電力も最低限にする、といった考え方が必要になるとした。

ユーザーはスマートフォンをあらゆる用途で活用する
チップセット内のCPUが占める割合は15%に満たないという
モバイル端末はPCとは全く異なるアプローチで開発することが必要
モバイル端末ではハードウェアとソフトウェアが密接に結びつき、Snapdragonはそれらの橋渡しの役目を担う
BDTI プレジデント ジェフ・ビア―氏

 次に、技術コンサルティングなどを行っているBDTI(Berkeley Design Technology, Inc.)の創設者ジェフ・ビア―氏の講演の様子をビデオで紹介。「The Future of Benchmarking」と題し、今後のモバイル端末におけるベンチマークテストのあり方について解説する様子を放映した。

 ビア―氏によれば、低消費電力のまま処理能力を高めるには、強力なCPUコアのみを多数備えた「ホモジーニアス型」ではなく、SnapdragonのようにCPUと専門処理を行うDSPなどをバランス良く混在させた「ヘテロジーニアス型」が有効な手法であるとした。後者の場合、チップセットの構造やプログラミングが複雑になる可能性はあるが、単位電力あたりの実行効率やチップ面積あたりのパフォーマンスは有利になるという。

 ヘテロジーニアス型では、チップセット内の各機能に対するベンチマークが難しくなってくるが、そもそも単一の機能を対象にしたベンチマークではなく、今後はユーザー体験を推しはかるためのベンチマークを行うべきだと指摘。たとえばWebページの表示速度やゲームのレスポンス、音楽再生時の電池持ちなど、ユーザーが実際に体験する事象全体を捉えてテストすることが大切だとした。

 開発者は、ユーザーが良いと思うものが何であるかを理解し、ユーザーに何が起こっているのかを判断したうえで、包括的なテストを行えるベンチマークを用いるべきだとし、ユーザー体験を向上させるのに適した物作りと、ユーザーにとって価値のある機能を加えていくことで、優れたスマートフォンを生み出すことにつながると結論づけた。

低消費電力で高い処理能力を得るために、CPUコアを増やしたり、クロックスピードを上げるのは適切ではない
ヘテロジーニアス型のチップセット構成がパフォーマンス向上に適している
ユーザー体験を推し量るためのベンチマークテストが有益なものに
現在のベンチマークテストは性能が大きいほど良いとされるが、99.999%のユーザーには無用なもの
スマートフォンのユーザー体験をベンチマークするのはさまざまな要素が絡み合い、困難だが、不可欠である
より優れたスマートフォンを生み出すには……
Snapdragon 800は最新のモバイル体験の核となる

 これを受けて再び壇上に立ったレイデンリー氏は、Snapdragon 800が高速なWebブラウジング性能、低消費電力、ゲームにおける優れたパフォーマンス、高解像度ビデオやHDオーディオの再生といったリッチなマルチメディア性能を有していることを改めて紹介し、ビア―氏の言及内容に沿った製品であることを強調した。

 また、Snapdragonが備える多数の機能・性能を最大限に利用するのに不可欠なSDK等のツール類を豊富に揃えていることも紹介した。Snapdragon 800を搭載するシステムボード「DragonBoard」や、スマートフォンとタブレットのリファレンス機の入手方法も含め、同社の開発者向けWebサイトで詳細を確認できる。

開発者向け端末やSDK等のツール類を豊富に提供

4K動画撮影にも対応する強力なマルチメディア性能

クアルコム・チャイナ ユーフェイ・ワン氏

 次に、Snapdragon 800が備えるマルチメディア性能について、クアルコム・チャイナのユーフェイ・ワン氏が解説した。同氏は「昨年まではスマートフォンに高い計算能力が求められており、引き続き我々はそこにも注力していくが、今年になってマルチメディアのユーザー体験(で何を得られるか)が消費者の端末選択に大きく影響するようになってきている」と述べ、2015年にはインターネットの全トラフィックの58%がビデオストリーミングになるという調査結果を引き合いに出し、ユーザーの動画再生や動画投稿が今後ますます増えるだろうとの見通しを語った。

 ただし、再生数や投稿数が増えることだけがトラフィック量を押し上げる要因になるのではなく、動画の解像度やフレームレートの変化も原因の1つと見ている。たとえば、1990年には176×144ドット/15fpsという小さな動画サイズしか扱えなかったが、その後2000年にはフルHD/30fpsの動画が登場し、今年2013年は4K/60fpsに、2015年には8K/120fpsの動画が出現すると考えられている。解像度やフレームレートが上がることで必然的に動画データの容量も大きくなり、インターネットのトラフィックに影響を与えるというわけだ。

2015年にはインターネットの全トラフィックの58%がビデオストリーミングになる

 したがって、トラフィックを無駄に占有しないようにするには、データサイズを少なくするための動画圧縮技術の進化が必須となる。1996年にMPEG-2コーデックが標準化された後、1999年標準化のMPEG-4コーデックではデータサイズをそこから25%削減し、2003年にはH.264コーデックでさらに25%削減、そして今年2013年に標準化されたHEVC(H.265)コーデックではまた40%削減することから、結果的にMPEG-2から3倍の効率化を果たした。Snapdragon 800もHEVC(H.265)をサポートしており、トラフィックの削減に貢献していくとしたが、それでも4K/30fpsの動画では100Mbpsを超えるビットレートになることから、画質向上によるトラフィックの上昇に圧縮技術が追いついていないのが実情だ。

 このように画質が果てしなく向上していく一方で、小さな画面のモバイル端末ではその恩恵を受けにくいという面もある。同氏はこの問題に対する1つの回答として、Miracastによる大画面への動画伝送を挙げ、Snapdragon 800がこのMiracastに対応していることもアピールした。

動画クオリティの進化がトラフィックに大きく影響。そのペースは早く、次の10年でデータサイズは64倍になるという
動画圧縮技術も進んでいるが、17年で3倍しか効率化できていない
SnapdragonはMiracastをサポート。大画面に映すことが高精細な映像を有効に活用する方法だとする

 さらにオーディオ面では、高音質のDTSに加え、5.1あるいは7.1のマルチチャンネルオーディオ、ヘッドホン使用時に有効な7.1チャンネルのバーチャルサラウンドなどをサポート。また、5.1チャンネルのオーディオ録音も可能とした。

 グラフィック処理を行うGPUは、1世代前のSnapdragon S4 Proが搭載していた「Adreno 320」と比較して2倍近い性能をもつ「Adreno 330」を採用している。同氏いわく「ソーシャルネットワークが一般的になり、カメラ機能を利用するユーザーが日増しに多くなっている」ことから、画像処理用のISP(Image Signal Processor)も強化。世界初となる「Dual ISP」としてそれぞれ独立して動作するISPを2個搭載し、最大で秒間6億4000万画素の画像取り込みが行えるだけでなく、ビデオ撮影と静止画の同時撮影や、画像の中に別の画像を差し込むピクチャー・イン・ピクチャーの高速処理にも対応しているという。

 最後に同氏は、「Snapdragon 800によって、ユーザーは端末のスペックだけでなく、リアルなユーザー体験(を得られるかどうか)に着目してスマートフォンを選べるようになると期待している」と述べ、Snapdragon 800のマルチメディア性能に自信を見せた。

DTS、5.1もしくは7.1チャンネルのDolby Digitalなどに対応
Snapdragon 800のGPUは前世代の2倍近い性能を誇る
ソーシャルネットワークが流行している現在はカメラ性能も重要。Snapdragon 800は2個のISPを搭載する

世界の多様なLTEネットワークに対応する「Gobi」と「RF360」

クアルコム・チャイナのレオ・シェン氏

 クアルコムは、Snapdragonと組み合わせて利用することができるLTE対応のモデムチップ「Gobi」を開発している。この「Gobi」の詳細について、同じくクアルコム・チャイナのレオ・シェン氏が解説した。

 最初に同氏は、すでに稼働している175の商用LTEネットワークが世界70カ国に存在し、さらに424ものLTEネットワークが126カ国で準備を進められていること、ユーザーが入手可能なLTE対応端末が800を超えていることを示し、高速通信を実現するLTEが確実に世界の主流になり始めているという現在の状況を紹介した。

 しかしながら、LTEネットワークの設置には時間がかかるとも言い、今後も従来の2G/3Gネットワークが混在する中でLTEを運用していくことになる。LTE自体にもTDDとFDDという通信規格の違いがあるだけでなく、その他にもLTE相当の通信規格が複数存在し、それぞれに無数の周波数帯域が割り当てられ、世界各国で帯域の利用の仕方も異なっていることから、モデムがサポートすべき通信規格と周波数などの組み合わせパターンは膨大なものとなる。Gobiは、そういった複雑なパターンを網羅し、シームレスな無線接続を可能にしている。

すでに全世界で多数のLTEネットワークが稼働、または稼働準備の段階にある
LTEや2G/3Gの規格、利用周波数帯の組み合わせは無数

 LTEが普及し、クアルコムがそれをリードあるいは追随していく中で、LTEにおける音声通話のサポートが同社の今後のチャレンジになるという。LTEはデータ通信に特化していることから、現在のスマートフォンではLTEをデータ通信にのみ使用し、2G/3Gネットワークで音声通話を行う形になっている。これを、VoIPによってLTEで音声通話を行う「VoLTE(Voice Over LTE)」に置き換え、複数の同時音声通話やリッチなデータ通信サービスを実現し、2G/3Gからの脱却を目指すことになる。

 このVoLTEによる音声通話においても、世界中にある17種類もの方式と、40種類の周波数帯すべてをサポートしなければならないが、第3世代となる新しいGobiモデムチップ「MDM9x25」では、これらをすべてサポートするのに加え、理論上最大1Gbpsの通信速度を実現するLTE Advancedに対応。下り最大150MbpsとなるLTE Category 4や、複数の周波数帯域を束ねて通信の高速化を図るキャリアアグリゲーションの利用も可能にした。

データ通信のみだったLTEは、今後音声通話を可能にするVoLTEへと進む
VoLTEを全世界で実現するには、これもやはり多数の規格、周波数帯に対応しなければならない
クアルコムの世界におけるLTEの音声通話対応は、他社を大きく引き離している
2013年、クアルコムのLTEモデムチップは第3世代へ

 また、スマートフォン向けのモデムチップとして求められるのは、低レイテンシの高速通信はもちろんのこと、LTEをはじめとする高速な4Gネットワークへの接続をできる限り長く維持できること、低速な3Gネットワークからすばやく4Gネットワークに切り替えられること、低消費電力や熱をもたないことなどであるとし、他社製品と比較して、それらにおいてGobiが圧倒的に優位であることも訴えた。

 同社が2月に発表し、2013年後半に搭載製品が登場すると見込まれるフロントエンドソリューション「RF360」にも言及し、チューナーやパワーアンプ、アンテナスイッチなどをワンパッケージに収めた同製品をSnapdragon 800やGobiと組み合わせて利用することで、端末メーカーが世界各国の多様なLTEネットワークに容易に対応でき、端末の小型化、パフォーマンスや省電力性能などを引き上げることになるとアピール。通信機能周辺のテクノロジーも、ユーザー体験の向上につながることを印象づけた。

モデムのパフォーマンス向上は、より良いユーザー体験やキャリアのベネフィットにつながる
クアルコムは、高度な機能と性能をもつ「Gobi」モデムで市場をリードする
Snapdragon 800とGobiをフロントエンドソリューション「RF360」と組み合わせ、全世界のLTE対応を容易に
他社製チップとの温度上昇を比較。右のクアルコムのチップではほとんど熱くなっていないことがわかる

Snapdragon 800搭載の新しい「DragonBoard」を披露

クアルコム・テクノロジーズ レオン・ファラサティ氏

 最後のセッションでは、クアルコム・テクノロジーズのレオン・ファラサティ氏が、開発者向けのシステムボード「DragonBoard」の最新版を披露した。mini-ITX規格の基板上にSnapdragon 800やメモリなどの主要部品を集積したモジュールと、液晶ディスプレイの他、さまざまな入出力ポート類を搭載したもので、Android OSをロードして、一般的なAndroid端末と同様にプログラム開発し、Snapdragon 800のあらゆる機能を利用できる。

 デジタルサイネージや産業用ロボット、キオスク端末といった組み込み用途に使えるだけでなく、ソフトウェアベンダーやハードウェアベンダーにおける製品開発用、研究・教育分野での活用にも最適だとしている。すでに同社の開発者向けWebサイトから購入受け付けが開始しており、価格は499ドル。なお、Snapdragon 800搭載のスマートフォンおよびタブレットのリファレンス機は、それぞれ799ドルと1099ドルとなっている。

DragonBoardは、パワフル、多機能、多用途で簡単に使えるシステムボード
ターゲットユーザーはソフトウェアやハードウェアの開発者、組み込み製品開発者、研究者など
開発キットには必要なツールが含まれており、すぐに開発をスタートできる
一般的なPC顔負けのハードウェアが詰め込まれている
CES 2013などではこのDragonBoardを組み込んで使用したデモも行っていた
イベント参加者が自由に試せるよう貸し出されたSpandragon 800搭載のタブレット
4K動画撮影のデモに用いられたリファレンス機
たった10秒で139MBと、4K動画はファイルサイズも巨大になる
中国舞踊の華麗な動きを4K解像度で撮影した
TransgerJetを使って動画を端末間でやりとりする。将来的にはこういった近接無線通信の技術もチップセットに組み込まれるだろうという
7.1チャンネルバーチャルサラウンドを体験
CPUコアごとの負荷を表示しつつ3Dグラフィックを表示
左上の数字はOSの処理に使われているコアの負荷を表す数値で、意図的に100%の負荷をかけた状態。左下はこのグラフィックを表示するのに使われているコアの負荷。3DグラフィックではGPUが多くの処理をまかなうため、CPU自体はわずか300MHzしか稼働していない
ピクチャー・イン・ピクチャーのデモ。背景画像に別の画像を自然に合成する処理も高速に行える
こちらは3Dゲームのデモ。一切の引っかかりなく、スムーズにグラフィックが描画されていた
Snapdragon 800搭載のDragonBoard。チップセットモジュールと液晶ディスプレイは取り外し、他のものに交換することも可能
貸与されたSnapdragon 800搭載タブレットでベンチマーク「Vellamo」を実行した。Snapdragon S4 Proの参考値は「HTML 5:1764」「METAL:604」で、およそ倍の数値を記録していることになる
「GLBenchmark」の結果は、オンスクリーン時「5977frames、53fps」、オフスクリーン時「7179frames、69fps」。Snapdragon S4 Proの参考値はオンスクリーン時「4351frames、39fps」、オフスクリーン時「3415frames、30fps」で、これも圧倒的に勝っている
「AnTuTu」ベンチマークでは「34309」を記録。Galaxy S4を軽々と超え、ランキングでもあっさりトップに

(日沼諭史)