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「安心・安全を届ける」、ドコモのネットワーク品質を守る体制

ドコモ品川ビル

 24時間365日、全国津々浦々で利用できる携帯電話、社会インフラとなって久しい、このサービスの品質はどう維持されているのか――NTTドコモは24日、同社のネットワーク品質に関する記者説明会を開催した。執行役員 サービス運営部長の丸山洋次氏が語ったその内容に迫る。

26万の装置が繋がる

 ドコモのネットワークは、基地局やその制御装置というアクセス系装置(約18万)、パケット交換機や音声交換機、LTE用のパケット交換機といったノード系装置(約2000)、アクセス系とノード系を繋ぐルーターなどリンク系装置(約7万8000)と、あわせて26万もの装置が用いられている。全体の7割がビルの上、郊外の鉄塔など基地局に代表されるアクセス系装置だ。またメール、サービスを担当するiモードセンター、spモードセンターがある。

音声通話の繋がる仕組み
パケット通信の繋がる仕組み
26万もの装置
東西にネットワークオペレーションセンター

 これらの機器のうち、アクセス系・ノード系・リンク系がきちんと動作しているか、東日本は東京・品川(約200名)、西日本は大阪・南港にあるネットワークオペレーションセンター(約100名)で常に監視している。東京に置いてある装置が多いこと、技術的にスキルの高いスタッフを集約していることから、東日本のネットワークオペレーションセンターのほうが人員が多い。

 監視中、何らかのトラブル・異常があれば、遠隔操作で復旧を目指す。トラブルのほとんど、99%以上はこうした形で対応している。ただ、ハードウェアの故障なども発生するため、現地へスタッフを派遣することもある。こうした状況には、全国各地のスタッフが担当。オペレーションセンターと現地でやり取りしつつ、回復を目指す、というのが故障・修理時の対応の流れだ。

 たとえば年末などに開催されるコミケのように、多くの人が集まるイベントでは、接続が集中し過ぎないよう、ネットワークオペレーションセンターで規制をかけて、ネットワークを守る。

リモートで、あるいは現地に人を派遣して復旧

東西のネットワークセンターがともに稼働、その名も「ORTEGA」

 東西にあるネットワークセンターは、それぞれの担当エリアを監視しているだけではない。もし東京のネットワークセンターが機能しなくなれば、大阪が、逆に大阪に何かあれば東京が日本全体のドコモのネットワークを見守る体制に切り替わる。先述したように、大阪のほうが人数は少ないものの、万が一の事態になると、まずは大阪の人員だけで処理しつつ、西日本各地からネットワーク担当スタッフが集結、さらに東京からも人員が駆けつけて、体制を整えるという。

ORTEGA(オルテガ)と名付けられたシステム

 このシステムは、「ORTEGA(オルテガ、OpeRation Twin Equipment Guardian Agent system)」と呼ばれる。このシステム名について、丸山氏は「ヱヴァンゲリヲンとかガンダムみたいな格好良い名前を付けようとした」と笑顔で紹介。どうやら「ドラゴンクエストIII」に登場する主人公の父ではなく、「機動戦士ガンダム」に登場する“黒い三連星”の一人にあやかった名前のようだ。

 2012年10月より用いられているこのシステムは、両現用、つまりどちらも稼働している状態であり、一方がダウンしても数秒で切り替えが完了する。単に予備系を用意するだけでは、うまく稼働しなかったり起動までに時間がかかってしまったりする可能性はあるが、東西両方がそれぞれを代行できるよう“生きている”ことが、万が一の事態になっても、大きな影響を防ぐ。

異なる周波数の基地局を活用、分散処理で故障に対応

 ドコモでは800MHz帯、1.5GHz帯、1.7GHz帯、2GHz帯と、複数の周波数帯を使ってサービスエリアを構築する。複数の周波数帯があるという点は、「いつでも繋がる」というエリア品質を維持するテクニックの1つに活かされている。

異なる周波数の基地局でエリアをカバー

 それは、エリアを構築する際に、たとえば2GHz帯の基地局で限られたエリアをカバーしつつ、800MHz帯の基地局から発射された電波はそれよりも広いエリアをカバーする、というやり方。もしエリアが小さい2GHz帯の基地局の1つがダウンした場合、エリアの広さ自体は800MHz帯の基地局側でカバーすることから、ユーザーには大きな影響は出ない。

 複数の基地局をコントロールする役割を果たす装置、無線制御装置も、「この無線制御装置は2GHz帯用」「こちらは800MHz帯用」と周波数ごとに分けて運用。基地局の上流にある無線制御装置が故障しても、周波数帯のうち1つだけがダウンする、という形になる。どちらも収容力、つまり通信したい端末をさばく能力は落ちるものの、サービス自体は利用できるようにしている。

 また無線制御装置が繋がるノード系装置(パケット交換機、音声交換機)は複数の装置で1つのグループにしている。これをドコモでは「Pool化」と呼んでいる。かつては「1つの交換機が故障すると、そこに収容されている50万人、60万人ものユーザーのサービスが全て止まった」(丸山氏)とのことだが、技術の進化によって、複数の装置で構成されたグループに、無線制御装置が繋がる形となり、もし1台のノード系装置が故障したとしても、同じグループ内のノード系装置が処理を続行するため、サービスは継続して提供できる。故障した装置は、回復させる手続きを後回しにして、まずは切り離して孤立化させるのだという。

装置をグループ化して分散処理

 このほか日本各地の設備を繋ぐ通信経路も増強した。たとえば北日本の場合、太平洋沿岸のルートと、日本海沿岸のルートと2つ用意していた。しかし2011年3月の東日本大震災では太平洋側の設備は壊滅。日本海側は無事だったため、たとえば北海道で携帯電話を使い続けることはできたが、さらに万全を期すため、太平洋ルート、日本海ルートに加えて、中央ルートを新たに整備。仮想的(論理的)に分けているのではなく、物理的に全く違う道のりを辿るネットワークになっており、災害などでどこかが故障しても、残りの経路でサービスを継続して提供できる。

複数の伝送路で冗長性を確保

「装置は必ず壊れる」

ドコモの丸山氏

 ここまで紹介したように、東西にあるネットワークオペレーションセンター、異なる周波数帯、分散化などで、ドコモは、故障・災害に強いネットワークを維持する体制を整えている。

 こうした取り組みの背景にある考えは何か。今回の説明会で、丸山氏は、「装置は必ず壊れる。壊れない装置はない」と語る。つまりは万が一の事態は、“あり得ない”のではなく、想定しておくべきことであり、そこへの備えをすることでサービス全断を避けている。こうした信頼性を維持するための考え方として、フェイルセーフ(故障しても安全に稼働する)、フールプルーフ(間違って操作しても問題が起きない)、冗長性(予備の装置を用意する)などの概念がよく語られるが、ドコモの取り組みはまさにそうした考えに基づくものと言える。

災害への取り組み

 今回の説明会では、東日本大震災以降の取り組みも新たに紹介。基地局を24時間稼働できるようガソリンエンジンを配備したり、復旧エリアマップを提供してユーザーにわかりやすく案内する、といったもので、幾度もドコモでは説明会で紹介してきた内容。つまりは新たな内容ではない――と思われるかもしれないが、丸山氏は「(通信事業者としても)あの時は本当につらい思いをした」と語り、安心・安全を標榜するドコモにあって反省すべき点が多かったと吐露。

災害への取り組み

 丸山氏は「あまりに被災したエリアが広かった。そして電気が止まった。電気が止まるとどうしようもなく、電力をいかに確保するかというのはものすごく反省した。そして伝送路がズタズタに切れた」と語り、具体的な課題としては「広大な被災エリア」「電力断」「伝送路の破壊」「避難所の孤立化」という4つを挙げる。

大ゾーン基地局
電力確保の対策
衛星通信の活用
マイクロエントランス装置の小型化

 天災がたびたび襲う日本列島では、地震に限っても、首都圏直下型地震や東南海地震の可能性が指摘されている。先に挙げられた4つの課題は、そうした、いつ発生するか分からない地震でも当てはまるもの。そこでドコモでは、「県庁所在地などで広く薄くサービスする大ゾーン基地局」「エンジンでの無停電化、バッテリーでの24時間稼働化」「衛星通信の活用」「伝送路を無線で実現するマイクロエントランスの活用と、その装置の小型化」といった対策を実施、既に配備を完了している。たとえば大ゾーン基地局は、一般ユーザー向けではなく、消防・救急・自衛隊・自治体関係者など災害対策の担当者を対象にしたもので、1000人~2000人程度の利用に留まる。しかし、そうした担当者が通信規制のかからない優先電話を使って、スピーディな復旧・救援活動に活かせる。バッテリーの24時間化も、「統計的には24時間あれば、かなりのところが復旧した」(丸山氏)という経験に基づく対策。そしてマイクロエントランスとその装置の小型化は、車ではたどり着けなくなった場所に人がリュックで装置を担いで持っていき、携帯電話を利用できるようにするための取り組みだ。

 ちなみに近年は、夏の落雷、ゲリラ豪雨、冬の雪害で基地局に障害が発生することが多い。北関東では特に落雷の被害が増える傾向にあるという。そうした天災以外、つまりテロ/サイバーテロへの対策については、施設が襲撃されるというテロ/ゲリラへの対策はないものの、サイバーテロについてはインターネットに繋がる装置で対策を実施しているとのこと。

エリアメールでの緊急地震速報も対策の1つ
自治体の約89%で採用。特に東海エリアでは99%が採用
災害時には伝言板だけではなくボイスメール(災害用音声お届けサービス)も利用可能にした
復旧エリアマップは日頃のエリア管理がしっかりしているからこそスピーディに掲出できる

各地の基地局を管理

 今回の説明会では、ネットワークオペレーションセンターの室内も報道陣に公開された。室内の大画面では、通信量が増えたり処理力が落ちたりしている基地局、あるいは工事などで止まっている基地局、復旧した基地局が一覧で示される。たとえば赤が故障、黒が回復、青が通信量が増えるなど要警戒の状態であることを示す。

 室内に大きなアラーム音などは鳴り響いていないものの、多くの担当者は画面を見つめ、手元の端末では異常があった設備の詳細をチェックするなど、対策に取り組む。責任者によれば、2011年3月11日には、画面いっぱい赤色に染まった。つまり数多くの基地局が一気に故障したことが示された。そこに示される情報量にも限りがあるため、大阪の施設でも処理を引き受けて、まずは「どこの基地局がどうなっているのか」という状況把握から対策していったのだという。

関口 聖