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KDDI ∞ LABO第5期終了、最優秀賞は「スマオク」に

第6期は公表前のサービスに限定してスタート

 KDDIは、ベンチャー支援の取り組み「KDDI ∞ LABO」の第5期に参加した5チームから最優秀チームを選定し、発表した。最優秀賞はスマートフォンを使ってオークションストアを開設できる女性向けのブランド古着オークションアプリ「スマオク」に決まった。また、第6期は2014年3月から開始される予定で、参加チームの募集も始まった。

「KDDI ∞ LABO」第5期に参加した5チームの代表

 1月24日には、第5期にチームが関係者や報道陣にプレゼンテーションを行うイベント「KDDI ∞ LABO 5th DemoDay」が開催された。プレゼン後の人気投票で決めるオーディエンス賞が用意されたほか、3カ月間のプログラムを経てKDDIが評価した、最優秀チームが発表された。

 KDDI ∞ LABOの第5期は、2013年9月から開始され、5チームが3カ月間で起業やアプリ開発、サービスの拡張を図ってきた。「KDDI ∞ LABO」の取り組みの中でどう伸ばしていくかはそれぞれ異なるが、24日のプレゼンテーションでは背景や目標、現在の実績などがアピールされ、今後にかける意気込みが語られた。

第5期参加5チームが成果をプレゼン

 プレゼンの一番手は、学習塾のような集まって勉強する場をオンライン上で提供するサービス「アオイゼミ」。一般的な学習塾とくらべて安価に済む点や、志望校への合格率が学習塾と遜色がないとアピール。教室のような単位を作れるSNSを今後提供することや、2014年の4月からは高校生を対象にした講座を開設することも発表された。

「アオイゼミ」

 2番目に登壇した「ズカンドットコム」は、「ニッチなコレクションをまとめていくシステム。テーマを絞り、マニアックにできる」とし、ネットの進化で細分化されていく趣味や興味に対応できるものと紹介。当初から多言語展開を前提に開発され、英語への対応のほか、将来的には10言語への対応が目標と意気込みが語られた。KDDI ∞ LABOの中で取り組んだ期間には、17の図鑑を新たに提供。その内容は外出先でも見たいとして、スマートフォンアプリ(iOS版)が24日に公開されたことを発表。加えて、魚の写真を撮るだけで名前を教えてくれ、その精度は専門家に匹敵するというアプリを、春をめどに提供すると発表された。

「ズカンドットコム」

 3番目はオークションアプリを提供する「スマオク」。彼女のクローゼットが着なくなったブランドの服や鞄で埋め尽くされている様子から着想したというサービスで、簡単に開設できる点や、20歳以上の年齢制限、ブランド品限定、24時間の時短オークション、手数料を払うと真贋鑑定や住所などを伏せた送付ができるといった、さまざまな特徴がアピールされた。KDDI ∞ LABOに参加した時には企画書しかなかったという同サービスだが、1万2000店以上がオープン、ユーザー数も急成長しているとのことで、auスマートパスにも掲載される予定になっている。ステージには「スマオク」で販売されているブランド品を身につけた女性がファッションショーのように登場、「恋に仕事に忙しい女子を応援する」とアピールされた。

「スマオク」

 4番目の「PEDALRest」(ペダレスト)は、小さな遊休地を利用して自転車の駐輪場を設置し、場所情報をアプリ上で提供することで自転車通勤などの駐輪場問題を解決するというサービス。「まっすぐと寄り道が共存しているのが自転車。それをインターネットで拡張する」と紹介され、さまざまな場所に駐輪場があり、その情報を手に入れられることで、駐輪場不足の問題を解決できるとした。

 現在は都内の一部の区(3区)に情報を限定する形でアプリが提供されており、今後は月極での利用に加えて、時間貸しへの対応や、全国にサービスを拡大していく方針が示された。

「PEDALRest」

 プレゼンで最後に登壇したのは「Dr.Wallet」。家計簿をつけるアプリだが、レシートをカメラで撮影するだけで済むというサービスで、送信されたレシートの情報は150名のスタッフが人力でデータを入力するのが特徴。OCRなどと比べて高いデータ化精度が特徴で、食費や交通費などの分類もでき、グラフ化も含めて無料で利用できると紹介された。

 さらに、企業がキャンペーン展開を行う商品を購入し家計簿として登録すると、ギフト券やキャッシュバックが受けられるという展開も発表され、カンロ、コクヨ、森永製菓といった企業とのコラボレーションも明らかにされた。こうした企業への営業はKDDI ∞ LABOでの成果とのこと。今後は購買行動に深く関わっていくような展開も計画しているという。

「Dr.Wallet」

 プレゼン後、会場に集まった関係者によるスマートフォンアプリでの人気投票で「オーディエンス賞」を受賞したのは、世界規模で写真情報をあらゆる分野についてまとめるという「ズカンドットコム」。また前述のように、KDDIが選定した最優秀賞が「スマオク」に決まったことが発表され、表彰された。

第6期は外部公表前のサービスに限定し募集

 第5期に参加したチームのプレゼンや最優秀賞が発表された後は、KDDI 新規ビジネス推進本部 「KDDI ∞ LABO」ラボ長の江幡智広氏が登壇し、募集を開始する第6期について説明を行った。

 江幡氏は、これまでを振り返り、合計24チームと関わってきたことで「色々と感ずることもあった。私達自身、成長することもあった」とする一方、第6期については「原点にかえる。ワクワクするサービスを世の中に出す、その一番最初にファンが付くところに関わっていきたい。キーワードは“0→1”(ゼロイチ)。1に踏み出すきっかけとして、私達に関わっていただく」と述べ、募集要項を一部変更し、まだ世に出ていない外部公表前のサービスに限定することを明らかにした。江幡氏からは、支援プログラムはこれまで通りで変更はないことや、技術支援や外部企業との連携にも協力していく方針が改めて示された。

 また、イベント後に記者向けに開催された質疑応答の時間には、KDDI代表取締役執行役員専務 新規事業統括本部長の高橋誠氏が、質問に答える形で、ウェアラブル端末などを含めたハードウェアや、法人向けのサービスについても「今後ポートフォリオに組み込んでいきたい」との考えを明らかにしている。

卒業生が語る「KDDI ∞ LABO」の魅力

 江幡氏が第6期の説明を終えると、ステージには「KDDI ∞ LABO」の“卒業生”として、第1期の参加チームで「ソーシャルランチ」を手がけた元シンクランチ副社長の上村康太氏と、第4期参加チームでリディラバ 代表理事の安倍敏樹氏がステージに登場。「KDDI ∞ LABO」時代を振り返り、その特徴や、卒業した後の動向を紹介した。

 上村氏は、「参加してまず『“KDDIさん”と呼ばないで』と言われたのが印象的。並走していくというメッセージだと受け取った。すごく助かったのはテストラボで、さまざまな種類のあるAndroid端末を試せた。KDDIの社員を対象にテストフライトもでき、3カ月の間に起業からサービスのリリースまでできた」と振り返る。卒業後については、ベンチャーの出口として上場か売却かという選択があるとした上で、売却の選択肢を選んだことを紹介。売却したことをKDDIに受け入れられるか分からなかったという上村氏だが、KDDIからは「起業家の選択を尊重すると言われた」という。上村氏は「挑戦を続ける人がいる限り、インターネットの世界は前に進んでいく」と、起業をめざす聴衆にエールを送った。

 第4期の学生枠で参加し、社会問題を扱うサービスを手がけるリディラバの安倍氏は、「ちゃんとお金を回していかないといけない」ということから、「KDDI ∞ LABO」参加中に社会問題の現地へのツアーを実施。「今も支援をいただいている」と、現在もauスマートパスのタイムライン表示にツアーの実施が紹介されることなどを紹介した。安倍氏は「僕自身が感じたKDDI ∞ LABOのいいところは、メンターの方が素晴らしい。それに尽きる。KDDIに無限にあるリソースをどう使うか親身になって考えてくれ、先の目線も見せてくれた」と感想を語ったほか、「オフィスの存在が大きい。オフィスが綺麗なので、大企業にも舐められない」と立地や環境の利点も語った。安倍氏はまた、参加している中で感じたこととして、「KDDI ∞ LABO以外のKDDIの人は、頭が固い」「KDDI全体の中でのポジションが弱い」などの苦言も紹介した。

経産省のベンチャー担当者や起業家・投資家の“先輩”がトークセッション

左から、KDDI高橋氏、経産省石井氏、WiLの伊佐山氏、ルクサの氏、Origamiの康井氏

 24日に開催された「KDDI ∞ LABO 5th DemoDay」の第2部では、立場の異なるさまざまなキーパーソンが登壇。起業する初期段階を「0→1」、事業を本格的に拡大するさらなる投資対象の段階を「5→100」として、この2つのフェーズの課題などが議論された。

 ステージには、司会のKDDI代表取締役執行役員専務 新規事業統括本部長の高橋誠氏に加えて、ゲストとして経済産業省 経済産業政策局新規産業室 新規事業調整官の石井芳明氏、WiL CEOの伊佐山 元氏、ルクサ 代表取締役会長の南 壮一郎氏、Origami 代表取締役 CEOの康井義貴氏の4名が登壇した。

 KDDIの高橋氏は冒頭で「KDDI ∞ LABO」の取り組みについて解説した。「大抵の場合は取締役会で“うちにとってのシナジーは?”となるが、我々は“逆シナジー”で、我々のアセット(資産)を最大限に使ってもらって、大きくなってもらってはどうか、というもの」と背景にある考え方を説明する。「ほかの大企業と一緒にアセットを形成して、それを(ベンチャーに)提供する。そんな取り組みを江幡に命題として出している。第7期には提供したいと考えている」と今後の方向性にも触れた。高橋氏は、イベント後に記者向けに開催された質疑応答の時間にも「1社で投資するより、2社で投資したほうが成功する確率は上がる」と語り、大企業同士が組んでベンチャー支援を本格化させていく意向を示している。

 経産省の石井氏からは、経産省におけるベンチャー支援の取り組みについて、雇用とイノベーションの点で重要視していることが示され、例えば起業後5年以内には多くの雇用を生むが、10年を超えた企業は雇用を生むペースが鈍る傾向にあるとし、「若い企業は非常に重要」と位置づける。一方で、いわゆるベンチャー企業の割合が欧米で10%なのに対し、日本は5%と少ない点や、「起業から10数年で世界市場をおさえられる起業が出てきてない」と、成長段階でも問題を抱えていると指摘。「政府の公式文書の中にも久しぶりにベンチャーという言葉で出てきた。新陳代謝とベンチャーについて注力しており、開業率を倍増させる」と、関連した法案が施行され具体的な取り組みが始まっている様子を紹介した。

 WiLの伊佐山氏は、シリコンバレーにすでに13年間住んでいるとのことで、GoogleやFacebookの創業や成長を目の前で見てきたという。「日本のプレゼンスが落ちている。ソニーや日産、トヨタなどは、気が付いたら評価されなくなっているのでは、という危機感がある。しかし日本のみなさんは、どうやって始めたらいいのか分からない。WiLはそうした状況を助ける組織として立ち上げた」と語る伊佐山氏は、「大企業はベンチャーとつながるべき。大企業の技術をベンチャーとしてプロデュースもできる。日本の大企業とベンチャーが組むことで、Googleのような企業が日本から生まれてもおかしくない」と述べ、大企業が積極的にベンチャーに関わっていくことが重要であるとした。

 ルクサの南氏は、「起業しようとは思っておらず、転職活動をする中で、自分でやったほうがいいということになった」と自身の経歴を振り返り、「5年前にはこんな環境はなかった。とにかくやっちゃえばいいんでは。1~10もやれば、4~5はうまくいく。部活みたいなもの。起業は大変厳しいが、今の自分の生き方が好きです」と、まずは始めることの重要性を説いた。

 Origamiの康井氏は、海外での投資活動から日本でのベンチャーに活動の場を移したことについて、「日本からグローバルなベンチャーが出てこないとは聞いていたが、合理的に考えると魅力的な面もある。一定規模の市場があり、競争環境がゆるやかで、海外からは何をやっているか見えない。きちんとチームさえ集めれば、面白い」と語る。同氏はモバイルでEコマースの在り方が変わるとして、伊勢丹や吉田カバンなどをはじめ500社以上にコマースプラットフォームを提供している。

起業活動がなぜ活性化しないのか

 日本での起業活動がなぜ活性化しないのか、というテーマが掲げられると、経産省の石井氏は、「身近に起業家を知っている例が少なく、起業に関する知識が少なく、経済的に起業のチャンスも少ない」と3つの問題点を挙げ、起業家として成功したヒーローの存在や、教育面でも課題があるとした。

 WiLの伊佐山氏は、「リスクマネーの供給の差」を挙げる。「日本ではベンチャー投資額が年間1000億円とかだが、アメリカでは3兆円。エンジェルを入れると5兆円とかになる。さらに自分の貯金でやる人が9兆円ともいわれ、年間で15兆円とかの規模になる」と、ベンチャー市場に投資される規模が文字通り桁違いになっている様子を紹介。「1兆円になる会社は、100億円とかを投資されている。お金がない限り大きな会社を作ることはできない」と、シリコンバレーの華々しい成功例の裏には多くの投資が行われているとする。「日本では起業活動をしても見返りがない。大企業に真剣に取り組んでもらい、ベンチャーを積極的に買収したりする、そういうメンタリティに変える必要がる」と指摘する。

 支援側の立場であるWiLの伊佐山氏は、教育の問題点も挙げ、「失敗するともうだめだという風潮や、起業というと胡散臭いとか、ネガティブなイメージ。シリコンバレーだと起業はクールで、ヒーローになるため」と日米の差を指摘。一方で、「日本はこれから変えられる。変える課題が見えている。ポテンシャルは高い」とも。「国内市場だけを見ると、なぜイノベーションが必要なのか、ということになる。シリコンバレーでは最初から世界を視野に入れている。日本でやってから、ということになると難しい」と、目指す市場の大きさも重要であるとした。

 起業した側であるルクサの南氏は、「楽天イーグルスを創業したが、私は本当に使えないやつだった。三木谷さんらが目の前で次々に決めていく。とにかくついていっただけ」と振り返る。「今スポーツニュースを見ると、野球はメジャー(で活躍する日本人)、サッカーならチャンピオンズリーグ。身近に成功例が出てきて、かっこいい人が出てきて、エコシステムとしてみんなでそういうものを賞賛できる世界になれば」と語り、ヒーローの存在が意識の変革や新たな挑戦者を生むとした。

 同じくビジネスサイドであるOrigamiの康井氏は、ベンチャーが育つには「長期的な視点と、継続的な仕組みがあるかどうかにかかっている。シリコンバレーのベンチャーに対しては、100億円、1000億円規模のビジネスに成長するまで資金提供を行っていく仕組みができあがっている」と、環境の差を指摘。「日本では短期的な視点でメンタリングやサポートを行い、ベンチャーはボトムラインを見る経営を強いられる。アメリカでは、ビジネスを立ち上げた直後で売上も無いときに、コストを10億円とかに上げる。しかし、コストを上げると、売上のトップラインは上がっていく。その上がった実績をもって、さらに資金提供を得る。そういう仕組みを社会が許容できている」と、投資を得る側と行う側の双方で日本とは意識が異なる様子を紹介した。

 経産省の石井氏は、「時間がかかる」とも指摘。アメリカではベンチャーキャピタルに関連した取り組みが1958年から始まっており、その成果が現在の状況であるとした。

 トークセッションで「5→100」とした本格的な成長段階での課題については、ルクサの南氏は「100をどこに設定するかによるが、100になれなかった人を助けることも、100に行く人を生み出すことになる」と、再挑戦できる環境の重要性を説いた。

起業家へのメッセージ

 Origamiの康井氏は「一番大事なのはパッション。飛び込んでみれば面白くなる。アイデアは、あるだけでは価値は無い。いかに実行するか。市場も環境も変化し、描いたものは変更を迫られる。そんな中で変わらないのはファウンダー(創立者)の想いと、チームの哲学」と語り、強い想いが大切であるとした。

 WiLの伊佐山氏は、「5年前にはインキュベーターなんて言葉はなかったし、私がシリコンバレーに住み始めたころはTechCrunchも無かった。今は場所も金も出してくれる。これはものすごく革新的なこと。思い立ったらやればいい。思い切って飛び出せば、意外とできる」と挑戦を促した。ルクサの南氏は、「僕達は4カ月でプロ野球チームを作ったが、本当にシンプルなこと。自分を信じたし、仲間も信じた。ぜひ一緒に新しい時代を作っていきたい」と未来の起業家を前にエールを送った。

 経産省の石井氏は、「10年以上ベンチャー政策をやってきたが、最近は起業家が変わってきた。今は目を輝かせて、こんな価値を提供したいという人が増えてきた。ベンチャーをブームで終わらせないために、強い想いを持ってほしい」と語る。石井氏は大企業がベンチャーを支援することの重要性も強調し、「なぜKDDIはできるのかと高橋専務に聞いたら、『私が会社に入った時は10数人のベンチャーだったんですよ』という答えだった。大企業の中でもベンチャーが理解されるようになっており、自動車業界、電機業界、素材業界も、みんな真似してほしい」と訴えた。

太田 亮三