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ミクシィが仕掛ける、新感覚メッセンジャーアプリ「muuk」

送った写真が3秒で消える

 ミクシィは、写真に自撮り写真を添えて送り合うスマートフォン向けメッセンジャーアプリ「muuk(ムーク)」をリリースした。対応OSは、iOS 7.0以上、Android 4.0以上。価格は無料。10代~20代前半の女性をメインターゲットとしている。なお、同社が提供しているmixi IDとは連携せず、独自IDでの登録となる。

 muukは、スマートフォンのメインカメラとフロントカメラで撮影した写真を送ってコミュニケーションするメッセンジャーアプリ。写真に加え、短いテキストを同時に送ることができる。フロントカメラでは自撮り写真のように、撮影者の表情を伝えることを想定していて、直接会話を楽しむようなやりとりができる。

 送った写真とメッセージは、既読になると3秒後には消え、データが残らないのがmuukの最大の特徴。そのため、気軽に写真を共有しやすい。メッセージは既読であっても、12時間以内に開かれないと自然に消えてしまう。さらに、30日間やりとりがない相手のアカウントも消える。同時送信(グループ)は9名までとなる。

 投稿や繋がっているアカウントを蓄積していくタイプのSNSや、これまでのメッセンジャーアプリとは異なり、過去のやりとりは残らないため、日頃から対話している親しい相手とのコミュニケーションに向いているとしている。

 同社によると、muuk(ムーク)の名前の由来は、純真無垢の“無垢”に、グローバル展開を想定し英語のように発音しやすく音引きを加えた。また、殻を破るように、自分自身の皮を“剥く”という意味も含まれる。これは、同アプリのアイコンのデザインにも取り入れられている。スマートフォンというデバイスにおける通話=“会話”の価値を再定義し、その場の空気感をリアルに伝えられることや、親しい関係同士でさらけ出せるサービスを目指しているという。

意味のある写真を投稿するSNSの戦いからは降りた

株式会社ミクシィ 取締役 最高事業責任者 川崎裕一氏

 メールやブログ、SNSはテキストをベースとして、写真や動画が添付してあるのに対し、「写真前提のサービスを作りたかった」と話す、muukをプロデュースした株式会社ミクシィ 取締役 最高事業責任者の川崎裕一氏が、このプロダクトにおける思想について語ってくれた。「Facebookで共有しているものは、日常の中のほんの数パーセント。そこでは投稿できない無意味無価値な写真にこそ真実がある」という。

 自撮り写真を添える仕様は、対面での会話に一歩近づけるということが狙いだ。川崎氏は「今までは“写真は残すもの”だったけれど(muukでは)それもやめたい」という。「意味のある写真は、FacebookなりLINEなりInstagramでやればいいと思う。そういった良いサービスはすでにいっぱいありすぎる。だからその戦いからは降りたのです」(川崎氏)。

おっさんには分からない、若者のコミュニケーション

 同アプリの企画にあたり、ターゲットとしている女子高校生、女子大学生の複数のグループにインタビューを行ったという。その結果によると、Facebookは日常と離れているという意見が多いことが明らかになった。Twitterでは、親しい人のみの相互フォロー、鍵をかけて利用している人が約8割、LINEトークのグループは20~30、そのうち日常でアクティブにやりとりするのは2~3グループ。「自分もそうだが、Facebookでつながりを増やして、情報を一斉に発信するのが便利という考えはおっさん理論で、彼ら彼女らは全部をつなげて欲しくないと考える」(川崎氏)

 実際に、いくつかのグループに同アプリを使ってもらったそうだ。起きぬけのすっぴん顔で“おはよう”などの挨拶や“変顔”などを送り合ったり、“これから彼氏とデートうぃる”に対し“いってらっしゃい”というテキストに中指をたてた写真を添えて返信したり、「ぼくらおっさんたちの想像を超える」(川崎氏)若者特有の使われ方をしていることも分かったという。「Facebookでの広い人間関係においては最大公約数の投稿しかできない。中指を立てた写真なんて、普通は投稿できないじゃないですか。それが彼女たちの仲間内だからこそできるコミュニケーションであり、楽しみ方のようです」

 川崎氏は「Facebookの投稿を見て“ああ、なるほど”はあるけれど“まじウケる!”ってないじゃないですか」と語る。無意味無価値なものも、その瞬間だからこそ、価値がある、という思想だ。

同じSNSを使い続けるには「リセットボタン」が必要

株式会社ミクシィ 大崎敦士氏

 2008年の入社以降mixiの開発・運営に携わり、昨年からmuukを担当してきた大崎氏は、同社のmixiを客観的に「SNSって、波があって、乗り換えていかないと、使う人にとって辛いんですよ」と話す。「環境が変わって新しい人間関係ができたときに、昔の日記を見られたくない、とか。人間関係が固定化されているプラットフォームにおいて、何年も同じSNSを使い続けることに対する課題を、ずっと抱えてきた」(大崎氏)という。昔の投稿や、コミュニケーションの履歴を見られたくないからといって使われなくなることも多い。mixiでは長く使い続けることによって起きる弊害があり、ユーザーが離れていった実情がある。

 川崎氏から大崎氏へmuukの企画を伝えた際「僕は最初、川崎さんに“3年後生きている保証はないですよ?”と言いました」(大崎氏)。「根本的な課題として、SNSは経年劣化していき、人間関係を蓄積し続けると死んでしまう。そうするとSNSを使い続けるためにユーザーは“違うSNSに乗り換える”または“人間関係をリセットする”究極はこの2つしかないんです」(川崎氏)。その上で作ったのが、写真や友達が消えていくという設計。「古い人間関係だからといって友達をリムーブするわけにもいかないし、なかなかリセットできない。であれば、誰も押せないそのリセットボタンを(アプリの仕様として)僕らが押しますよ、ということです」(川崎氏)。

 こうした考えを基に、同じプラットフォーム上で人間関係の変化に沿って、相手がどんどん変わっていくという形に仕上がった。

使ってもらえなかったら糞アプリ

 一定期間、やりとりがなくなったら相手のアカウントまで消えていくというのは、とても思い切った仕様だが、それによるアクティビティの低下やユーザー離れは気にならないのだろうか。川崎氏は「そりゃありますよ(笑)。一度ダウンロードされたとしても使われなかったら、僕らが価値を提供できなかったということ。その人にとってはただの糞アプリ」と割り切る。

 App Storeで公表されているランキングは、ダウンロード件数のみではなく、ダウンロード後の利用頻度が、要素として追加されている。「それがあるべき形だと思います。使われてなんぼですし、よいサービスかどうかは、事業者側の論理で定義するものではありませんから」(川崎氏)。

 muukの設計は“シンプル・ミニマム・スピード”をテーマにしている。とはいえ、写真が3秒で消えるのは短すぎないだろうか。大崎氏は「気軽にやりとりできるようにするため、最適だと考えている。仕様を変えると目的がぶれてしまうので。これで使って!という思いです。ユーザーからはいろいろ言われるだろうけど、今はそういった要望を跳ね返す覚悟でいます(笑)」としている。

 2人の言葉は自信の表れのようにも感じられる。マネタイズについて川崎氏は、「無料サービスだが、札束を燃やしているつもりはない。まずはこの価値を伝えたい。仮に100人しか使っていないとして、マネタイズ云々なんて笑っちゃうって話じゃないですか。ビジネスモデルはそのあと」としている。同社では、1年間で100万ユーザーを目指している。

川崎 絵美