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地下街やビル内でも歩行者ナビ、渋谷で実験

 「改札を出た後、どちらに向かって歩けばいいのか」――初めて訪れるような場所、それも地下街や屋内において、スマートフォンで道案内をできるよう、国交省や鉄道事業者、通信事業者が手を組んで実証実験を行う。期間は、3月25日〜5月31日。舞台となるのは渋谷で、一般ユーザーも参加できる。

 2020年の東京オリンピックで、多くの人が国内外から訪れることが想定される中、スマートな道案内をいかに実現すべきか、という観点が掲げられる今回の実験は、渋谷マークシティおよび渋谷駅の地下エリア(地下3〜1F)にBluetoothのタグ(発信器、63カ所)や、ARマーカー(45カ所)を設置し、そこから発信される電波、あるいはARマーカーを読み取って得たデータを元に現在地を割り出して、目的地までの道のりを案内する。Bluetoothでの案内機能が利用できる機種(動作確認機種)は、iPhoneのみ(iPhone 5/5s、iOS 7以降)。技術的にはAndroidでもBluetoothでの利用は可能だが、現時点でのAndroidアプリはARマーカーのみサポートする。

Androidアプリ動作確認機種
NTTドコモ Xperia A、Xperia Z1、Xperia Z1f、GALAXY J、GALAXY NEXUS(Android 4.2に更新したもの)、GALAXY S4
au Xperia UL、Xperia Z1
ソフトバンク AQUOS PHONE Xx(206SH)

 多くの施設が建ち並び、再開発で続々と新たな施設が続々生み出される渋谷で、スムーズに道案内するため、実験を通じて技術面や制度面での課題が洗い出される。実験を行うのは、東京大学先端科学技術研究センターや国土交通省、鉄道会社、携帯各社などが参画する渋谷駅周辺地域ICT活用検討協議会だ。

アプリを使ってみた

 25日、さっそく報道関係者向けにデモンストレーションが実施された。

 今回は実験ということで、目的地はあらかじめ決められた7カ所が用意され、そのうち1つに向かって進んだ。選択できる目的地は、ハチ公前広場・スクランブル交差点、ヒカリエ改札口、井の頭線渋谷駅改札口、109(1F)、ヒカリエ、しぶちか、渋谷駅南口地上広場の7カ所。今回はハチ公前広場までの道を進んだ。

ヒカリエ前の改札からスタート。地図上でも吹き抜けのすぐ横にいると表示

 Bluetooth発信器は、手のひらに納まる四角い箱で、ボタン電池で数カ月動作する。今回は、地下街に掲げられる方向案内板の中に仕込まれたり、一部の壁に貼り付けられている。道案内ということで、地下街の中でも一本道になって、道なりで移動できる場所にはBluetooth発信器は設置されていない。また落下の可能性を考慮して天井には設置できないようなケースがあったり、工事中の場所ではスマートフォンのジャイロセンサーが狂いやすいなど、実際にフィールド実験を実施したからこそ見えてきた課題もあるという。

Bluetooth発信器(ビーコン)
ARで道を案内
どんどん進む
地図上でも位置は更新される

 アプリではグーグルの地図の上に、道案内を示すデータを表示。地下街の地図もグーグルの地図情報をそのまま用いる。さらに「AR」と記されたボタンをタップすると、カメラで捉えた風景に進むべき道を示す矢印が描かれる。このARモードは、歩き出すとオフになり、いわゆる「歩きスマホ」はできないよう配慮されている。

無事、ハチ公前に到着

 今回のデモンストレーションを実際に体験したところ、Bluetoothで現在地をチェックしながら移動する場合は、ユーザーはある程度受け身で利用でき、比較的スムーズに利用できた。道が別れる場所に近づくとバイブで通知され、画面をずっと見ておく必要はない。一方、場所によっては、右へ左へ道が分かれ、さらに階段もある、という複雑に道が交わる場所では、どのルートに行くべきかわかりづらいところがあった。こういった場所では画面下部に文字情報で「出口9番に向かう」などと表示されるが、そのフォント、表示サイズが小さく、気付きにくいように感じられた。

 AndroidでのARマーカーは、たとえば複数のチェックポイントを訪れるゲームに向いた印象で、道案内で利用する場合は、道が分かれる場所でまずARマーカーを探す必要があり、煩雑に感じられることは否めない。こうした使い勝手も、今後、ブラッシュアップされる見通しだ。

 Bluetooth発信器は、Bluetooth Low Energyを使ってユニークなIDを発信するだけとなっており、そのIDをもとに現在地を照合する仕組み。iPhoneでは同様の仕組みとして、iBeaconが用意されているが、今回はiBeaconは活用せず、独自の仕組みとした。

こちらはARマーカー
ARマーカーを読み取るモードに
ARマーカーにかざすと自動的に読み込む。成功すると虹色に光る
柱に貼られたり……
人の流れと少し離れた壁に貼られたりしている
読み取って現在地を確認

事業者の壁を乗り越えろ

 デモンストレーションの前日である3月24日、主催者団体の会長を務める森川博之博士(東京大学先端科学技術研究センター教授)、筆頭委員である東京メトロ副社長の安富 正文氏、そして国交省東京国道事務所長の西尾 崇氏から説明が行われた。

 今回の取り組みで、大きなトピックとなるのは、協議会の東急、JR東日本、東京メトロ、京王電鉄といった複数の鉄道会社、そして東京都や渋谷区が参画し、さらには渋谷マークシティやしぶちか(渋谷地下街、渋谷知佳商店街振興組合)などが協力する体制になっていること、なのだという。

「ここにビーコンがあります」
よく見ると壁に貼られている。人の手の届きにくい高さに

 「地下街にビーコン(Bluetooth発信器)を設置して現在地がわかるようにする」と言葉にするとシンプルだが、実際に設置しようとすると、スムーズには進まない。鉄道や店舗など、それぞれの立場で渋谷に関わる各社では、地下街の敷地も「ここまでは東京メトロ」「ここからは他社」というように区切りがはっきりしている。さらに道路は国交省などが管理し、公共空間は渋谷区が担当する。ビーコンやARマーカーを設置したい場所を見つけても、鉄道事業者にとっては「この場所に置いては通行の邪魔になるかもしれない」「鉄道の安全な走行の妨げになるかもしれない」といった観点から、そのまま認められることはない。一口に渋谷と言っても、場所によって関わる企業・組織が異なる。渋谷という街1つでも、関わる事業者が多数存在し、それぞれと交渉しなければビーコンを広めることはできない。

統一的な仕組み、実現できるか

 また、AR(拡張現実)やO2O(Online to Offline、ネットからリアルへの誘導)といった取り組みは、東急やJR東日本でもそれぞれ取り組んでおり、東京メトロでも地下設備のマップなどは持っているが、それらを網羅し、統括して提供する仕組みはこれまでなかった。今回の取り組みによって、会社の垣根、組織の垣根を超えてビーコンやARマーカーを設置できる、という取り組みがようやく現実の物になった。

東京メトロ安富氏
 「地下鉄は新たな路線ができるたびどんどん深くなっていくが、GPSは地表のみカバーする。地下を含めた立体的な3Dの地図をどう実現していくのか。そういう実験が行われるのであれば参加したいと考えた。技術的な面ではBluetooth発信器を何m間隔で設置したほうがいいのか、といった点などを検証したい」

東京大学先端科学技術研究センターの森川教授
 「今回はインフラとサービスを切り分けて考えたい。Google Mapsのようなサービスをいずれは屋内でも実現できるだろうが、そうしたサービスを現実にするには、どういうインフラが必要なのか。インフラが整えば、サービスは民間で作ってもらえる」

 技術的な要件、そして制度面での課題を見つけ出し、徐々に解決しつつ、「地下をカバーする位置情報インフラ」の確立を目指す、というのが今回の実験の役割だ。

 渋谷を舞台にした今回の実験はおよそ1000万円の費用をかけて実現したもの。Bluetoothを用いて案内するなど先端技術を積極的に採り入れ、さらには関わるプレーヤーが多岐に渡り、実験そのものが行われたことは意義深い。一方で、現時点ではまだインフラの整備に向けて、技術面・制度面での課題を洗い出す段階ということで、一般ユーザーにとって便利なサービスが登場するのはまだまだ先の話になりそう。今回の実験は、5月まで実施され、使い勝手などの面で意見を受けつつ、今後に生かされる。

(関口 聖)