ニュース

ドコモのベンチャー支援、第2期の成果を発表

グランプリは1週間の献立を簡単に作れる「me:new」に

 NTTドコモは、ベンチャー企業を支援する取り組み「ドコモ・イノベーションビレッジ」の第2期の成果を発表するイベント「Demo Day」を開催した。参加6チームからのプレゼンテーションでグランプリなどを決定したほか、第3期の募集も案内された。

「ドコモ・イノベーションビレッジ」第2期参加チームの代表

 「ドコモ・イノベーションビレッジ」は、ベンチャー企業の支援を行う取り組みで、第2期ではパートナー企業としてNTTグループが参加しているのも特徴。新たに募集が開始された第3期では、ソニーモバイルコミュニケーションズがパートナー企業として参加することも明らかになっている。

 第2期プログラムに選出された6チームは、2013年11月から4カ月半にわかって活動し、26日に開催された「Demo Day」で各チーム6分間の持ち時間でプレゼンテーションを実施。審査委員による審査でグランプリが決定した。

 グランプリに輝いたのは、1週間の献立を自動的に提案するという、ミーニューが開発する料理サイト「me:new」(ミーニュー)。好みや栄養を考慮した献立を自動的に提案するほか、必要な材料は、買い物の際に便利なよう、売り場別にリストアップされ、チェックボックスで確認もできる。単品の料理を作るレシピサイトはすでに他社から提供されているが、それらを組み合わせた“献立”に悩む時間が大きな負担になっているとし、こうした課題を徹底的に解決する姿勢が評価された。今後は食材の宅配事業などとも連携していく予定。「me:new」は、イベント参加者からの投票で決めるオーディエンス賞も受賞している。

 このほか、第3期のパートナー企業として参加が決まっているソニーモバイルが選定したソニーセレクト賞には、forEst(フォレスト)が開発した「ATLS」(アトラス)が、イノベーションビレッジでの活動中に大きな成果があったとして評価されたベスト・ストレッチ賞にもforEstの「ATLS」が選出された。「ATLS」は、高校生が学習に使う参考書を電子化したもので、「おせっかいな問題集」を謳う。レイアウトや学習方法自体は紙媒体から変えない一方で、学習履歴から類似問題のピックアップ、苦手な問題を類推して提示するなどの機能を備える。出版社との提携を開始しており、高校での試験提供を開始するなど、裏付けのある取り組みが評価されている。

 第2期プログラムではこのほか、学校行事における公式写真の販売や抽出を写真館から受託し、ユーザーに最適化された卒業アルバムや人生アルバムを提供するという、えがおのが開発した「えがおの本」、野球のピッチングやバッティングなど、スポーツについて、動画を撮影して元プロ選手などからアドバイスを得られ、教えたい・教わりたいという需要をマッチングさせるという、だんきちが開発した「スポとも」、サービス業の現場でスタッフ同士のコミュニケーションをカード交換の形で可視化し、マネジメントも改善するという、wizpraが開発した「Pozica」、ウェアラブル端末など、気になるガジェットを登録しておき、アイテムごとにユーザー同士で最新の情報を共有できる、WonderBeeが開発したサービス「WonderBee」の4チームが参加した。

「えがおの本」
「スポとも」
「Pozica」
「WonderBee」

ドコモ加藤社長「遠慮無く、使い倒してください」

 グランプリの表彰には、NTTドコモ 代表取締役社長の加藤薫氏がプレゼンターとして登壇。表彰を終えた後の第2期の総評では、「みなさん、プレゼンがとてもうまく、ピリッと筋が通っていた。グランプリを選ぶのは大変で、結果としてほとんど差が無いのが事実。今困っていること、これがあったらいいと思っていること、それを解決することに取り組んでいるのが良かった」と語ったほか、「ドコモは(ベンチャーを)直接サポートしていく。遠慮無く、(ドコモを)使い倒してください」と、積極的にベンチャー企業の支援を行っていく方針を改めて示した。

グランプリを表彰するNTTドコモの加藤社長
第3期の募集について
「me:new」
「ATLS」
「えがおの本」
「スポとも」
「Pozica」
「WonderBee」

元メジャーリーガーの田口壮氏、“元NTT”の書道家・武田双雲氏が登場、世界に打って出た秘訣を本音で語り尽くす

元メジャーリーガーの田口壮氏、書道家の武田双雲氏が登場

 「Demo Day」の第2部ではトークセッションが用意された。一般的なビジネス領域の先達ではなく、今回は趣向を変えてスポーツ界から元メジャーリーガーの田口壮氏、文化界から書道家の武田双雲氏が招かれて登壇。モデレーターはNTTドコモ 常務執行役員 スマートライフビジネス本部長の阿佐美弘恭氏で、「Challenge & Go Global」をテーマに、歯に衣着せぬトークが繰り広げられた。

 田口氏は、メジャーリーグを目指したきっかけが、2000年にオリンピックに出場し、世界のさまざまな野球のスタイルに触れたことにあるとする。その中でもメジャーリーグの選手は技術がずば抜けていたといい、FA権を獲得したタイミングで、契約のこじれなどもあり、メジャーリーグに挑戦することになったという。田口氏は、「(環境が)変わるなら、大きく変わろうと。そのほうが得るものも大きいだろうと考えた」と振り返った。

 武田氏は、母が書道家という家庭で育ち、昔から“文字おたく”だったというが、書道家になろうとは考えていなかったという。「『東京』が付いている大学がいいと思い、東京理科大学に進学した。背が大きく、声も大きいので大企業がいいと言われてNTTを推薦してもらった。祖父は起業家で家族はボロボロになったので、せめて大企業に就職してくれというのが家族の願いだった」と大胆に振り返る武田氏だが、NTTは3年で辞めてしまう。

 「胸ぐらを掴まれて『辞めてしまえ』と言われた」などと赤裸々にNTT時代を振り返る武田氏だが、初めて会議室にお茶を出した時に「この会議に何の意味があるんですか?」とその場で質問するなど、会社には馴染めなかった様子。営業の現場で「アイデアを1日100個とか出しても相手にされなかった」とのことだが、字が上手いことが評判になり、武田氏に代筆を依頼する人で行列ができるようになったという。名刺用に名前を書いて渡した時に初めて字を褒められ「エクスタシーを感じた」という同氏は、「これで飯が食えるでのは?」という言葉をかけられた日、夜までその言葉が頭の中に残り続け、その夜に辞表を書いたという。

 この時点でも書道家になろうと考えていなかったという武田氏。名刺を手書きして販売するWebサイトを立ち上げ、NTTで働く妻と一緒に事業を進めていったが、「親から借りた貯金が200万円とかだったのに、どうしても気に入った月25万の家賃の家を湘南に借りていた」と、経済的には退路が絶たれて(?)おり、プロ野球選手でも素振りをするように、文字を練習する時間もなんとか活かそうと“ストリート”に出る。

 しかし誰にも見向きされず、2日目になってようやく酔っぱらいのおじさんから「松田聖子が好き」と言われて「松田聖子」と字を書いて渡す。おひねりももらえなかったが、しかし帰宅するために駅に向かうと、先ほど書いた「松田聖子」の紙が捨てられ、行き交う人々に踏まれて足あとだらけになって落ちており、さらに衝撃を受ける。

 武田氏はここまでの話を振り返り、「自分にエゴが消えるほど、売上が上がる」と語る。

 松田聖子の件で衝撃を受けた武田氏は、自分の字がすごいというエゴを捨てて、通りかかる人の話を聞くようになったという。すると、「ヤンキーやヤクザが悩みを相談してくることもあった。ホッとしたと言われて『愛』と書いて渡したら感動されて1万円をもらったこともあった」と、やはり衝撃的なエピソードに事欠かないが、ストリートの活動も、オファーが増えて、できなくなってしまったという。「ロシアの企業からインターネット経由でオファーがきて、日本庭園のイベントで字を書いてほしいと言われた。非常によろこばれて、用意した紙も無くなって、体に書いてと言われたがロシア人は毛深くて――」とユニークなエピソードが次々に飛び出し会場は爆笑に包まれたが、「ありがたいことに、NTTをやめてから13年、ずっとオファーベース」と語り、田口氏がスカウトでプロに入ったという話と合わせて、誰かが救い上げてくれたという考えを示す。

「日本文化をしたたかに活用したほうがいいい。想像以上にリスペクトされている」

 こうしたエピソードを受け、田口氏は、メジャーリーグで書いたサインは楷書の漢字で書いたものが非常に喜ばれたという話を披露。武田氏は「日本文化をしたたかに活用したほうがいい。ホテルでも飛行機でも、着物というだけで(クレジットカードの)ブラックカード扱い。想像以上にリスペクトされている。インドネシアで日本の産業を敵対視しているような意見も聞いたが、それは、日本商品が根付き、滅茶苦茶リスペクトされているから。日本人らしさで勝負したほうがいい」と、海外に挑戦する際の秘訣を語る。

 「あいつらにできないことは何かを考えた」と、マイナーリーグでベンチの“25番目”(最下位の補欠)だったという、メジャー挑戦の初期を振り返る田口氏は、ランナーを進めるための“右に打つ”手法や、バントを多用するスタイルを徹底。「監督からは、打率をあげようとは思わないのか、何をやっているのかと言われた。僕の打率じゃない、チームが勝てばいいと答えた」という田口氏。田口氏の考えは徐々に浸透し、上層部に報告がいくようになったという。

 すでに200人以上の有名人や芸能人と対談してきたという武田氏は、田口氏のチームに貢献する姿勢の話を受けて、「お笑い芸人が出る番組に出ると、生え抜きの芸人なのに、全員の“貢献欲求”がすごいと感じる。番組が最高になるために何ができるか、常に考えている。僕がほかの書家と違うのは、企業のロゴを書くなら、最高に貢献できるのはどういうロゴかを考えること。だからロゴを書くのはコンサルタントなんですよ」と語る。

「“イノベーション”という感覚がヤバイ」

 その武田氏からは、「“イノベーション”という感覚がヤバイ」という、歯に衣着せぬ発言も。これは、変革とは、自分により、自分自身に対してのみ起こせる変化だという考えによるものだ。「社員に向かってイノベーションと言っても、誰も嬉しくない。親が子供に勉強しろというようなもので、喜ぶ子供はいない。なんか、いつか改革が来る? そんな日はこない。その日の朝の起き方から変えないと無理」と、イノベーションという言葉が持つ曖昧な期待を一刀両断する。

 武田氏は、独立して得られた考えとして、次のように語る。

 「相手は変えられないが、自分は変えられる。妻(の考え)も家族も変えられないが、自分は変えられる。既存のものを変えても、元に戻っていく。自分自身を改革することはできるが、しかしある日突然起こるわけではない。毎朝だらだら起きていたのが、NTT辞めた後、海に散歩に行きたくてちゃんと起きるようになった。自分を変えられたことが希望だった。自分は、どれだけでも変えられる。二次曲線が大好きで、毎日やることでも、絶対、同じにはしない。0.01%でも違うようにする。妻への聞き方、息子へのしゃべり方――(こうした積み重ねが、二次曲線のように)とつぜん爆発することがある。1年後か10年後かは分からない。だからシャンプーの仕方も変えている。指の動き、脇の締め方――最高のシャンプーがいつかくる」

 そして、この日のトークで田口氏、武田氏が結論として導いたのは「嫁は大事」。唐突なようだが、「俺のおかげだと思いがち」(武田氏)、「野球も裏方があり、グランドの整備からファンまでたくさんいる。そうした中で一番支えてくれるのが嫁。妻でもあり、女性でもあり、戦友でもあった」(田口氏)と、互いに深い意味を感じている様子だ。

 今後の課題を聞かれた二人は、「自然な形で、人々の習慣を変えるようなことがやりたい」(武田氏)。「可能かどうか分からないが、メジャーの監督になりたい。野球を辞める前から考えていたが、思い続けてみようと」(田口氏)と考えを披露した。

 ベンチャーへのアドバイスを求められると、武田氏は、「ビジョンがちっさ過ぎる。人類をどうにかしないと、というライフスタイルから逆算していって、未来から今を見て、考えてほしい。生意気にデカくなってほしい。地球をどうしたいか考えて、さり気なく今を見ていくということをやって欲しい」と思考法を解説。田口氏は「では、私は小さいところから。いろんなところにヒントが落ちている。アンテナを張り巡らしてほしい。アメリカでは最初は言葉も分からず、ずっと観察してこういう風になった。日常の小さなこと、誰かに言われた一言、気にかけるようにしたらいいと思う」と、それぞれの経験や想いが詰まったアドバイスを送り、トークイベントは終了した。

太田 亮三