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ヤフーがイー・アクセスを傘下に、新社名は「ワイモバイル」

 ヤフーは、イー・アクセスを6月2日付けで買収し、携帯電話事業に参入すると発表した。新社名は「ワイモバイル株式会社」。27日、都内で緊急会見を開催し、代表取締役社長の宮坂学氏が登壇し、新会社の理念が紹介された。

ヤフーの宮坂社長

 宮坂氏は「我々はテレコムの会社になりたいわけではない。全ての人にインターネットを届けたい。インターネットカンパニーとしてサービスを提供したい。6月にサービスを提供する」と語った。詳細な料金プラン、新機種は別途発表されるとのことだが、iPhoneは扱わず、Androidを主力にして、シンプルなサービス体系を構築する方針。通信エリアはこれまで通り、ソフトバンクと相互に融通しあう。

 意欲は示されたものの、サービス内容の詳細などは6月直前を目処に、別途発表されることになったため、今回は一般ユーザーへの具体的な訴求力には欠ける内容となった。また売り主であるソフトバンク側からは登壇者がなく、会見は、あくまでヤフーの理念が紹介される形となった。

買収額は3240億円

 今回の取引では、ソフトバンクが保有しているイー・アクセスの株式がそのままヤフーへ渡る。ソフトバンクは、ヤフーの株式を42.5%保有しており、ソフトバンクとヤフーはそれぞれ上場会社ながら、グループ間での取引になる。

 金額は3240億円で、第三者機関の評価を経て算出された。譲渡されるイー・アクセス株式は全体の99.68%で、議決権比率は33.29%になる。ちなみに残りの0.32%(議決権比率は66.71%)は、2013年1月、ソフトバンクからリース会社など11社へ譲渡されており、現在もその保有企業に変わりはない。

 6月1日にイー・アクセスとウィルコムが合併する予定で、その合併を前提とした上で、合併翌日の6月2日、存続会社であるイー・アクセスの株式をヤフーが取得する。設立される新社名は「ワイモバイル(Y!mobile)」で、会長にはエリック・ガン氏(現イー・アクセス社長)、社長には宮坂氏が就任する。副社長にウィルコム執行役員の寺尾洋幸氏と、イー・アクセスでかつて副社長を務めていた阿部基成氏と、2人が就任する。

買収のきっかけ

 買収のきっかけは「ヤフーの成長の伸びのほとんどがスマホと言えるようになった今、普及を加速させたほうがいいと考え、イー・モバイルとウィルコムの合併会社を売ってくれないかと持ちかけた」と宮坂氏は語り、ヤフーからの提案だったとする。

 およそ3カ月で今回の発表に至ったとのことだが、検討の途上では、キャリアから回線を借り受けてMVNOとして展開することも考えたが、目指すべき事業規模が1000万人単位であり、そこに到達するにはMVNOでは力不足だと判断。端末やサービスプラン、販売チャネルなど、ヤフー自身に多くの決定権がある環境が必要と考え「フルセットの携帯電話事業に参入しよう」(宮坂氏)ということになった。

 取引が決まった後、孫氏から宮坂氏には「思い切ってやりなさい」とアドバイスがあったという。

 新会社では、イー・モバイルとウィルコムのユーザーをあわせた約1000万契約を、今後倍増させ、2000万契約を目指す。ただし実現の時期は明らかにされていない。

「インターネットカンパニー」を目指す、シンプルさを打ち出す

 その新会社で目指す基本理念として宮坂氏は、インターネットで人々が発信力を得たことなどに触れつつ、タブレットのようなデバイスはまだ行き渡っておらず「インターネットの楽しさ・便利さをみんなの手元に届けたい」と説明。「音声中心ではなく全ての人に向けて、日本で初めてインターネットにフォーカスしたキャリアになる。第4のキャリアやテレコムカンパニーではなく、インターネットカンパニーを目指す」と力強く語った。

 そしてインターネットカンパニーとして、ネットサービスが主力となり、サービスをゼロベースで見直し、サービス体系・料金体系を極力シンプルにするとした。

 一方、同じくインターネットカンパニーを標榜するソフトバンクとの違いについては、「Yahoo!というサービスが一番大きい」と説明。通信事業者としては小規模でも、Webサービスをはじめ、複数の事業を展開していることがユニークな点になるとの見方を示す。

主力はAndroid

 Y!mobileではiPhoneを扱わず、主力はAndroidになるという。検索などの分野では、Androidをリードするグーグルはヤフーの競合と言えるが、宮坂氏は「バッティングして(ヤフーのやりたいことが)何もできないとは思っていない」と述べた。

3つのシナジー

 ヤフーでは「通信事業によるシナジー」「Yahoo! JAPANのサービスの利用によるシナジー」「市場拡大によるシナジー」と、3つの効果を見込む。1つ目はIoT(Internet of Things、モノのインターネット)という言葉が用いられるなど、さまざまな機器に通信機能が備わる時代の到来が期待される中で、「1人1台ではなく、ウェアラブルや自動車など1人で6台以上のネット端末を持つ時代が来る」と宮坂氏は説明し、その時代に向けてサービスやプランを提供できることの強みを挙げる。モバイル通信事業は、ヤフーが取り組むに値する規模があるとする宮坂氏は、家計での通信費支出が向上しているというグラフを示し、価格面での取り組みを示唆する。

 2つ目は、既存のヤフーのサービスに対して利用を促進する取り組みのこと。特にイー・アクセスやウィルコムが展開してきた実店舗がY!mobileのショップになることで、Yahoo! JAPANのリーチ力が高まると説明。囲み取材でも「Yahoo! BBのときもそうだったが利用者の10%、20%はオンラインだけで獲得できるが、世の中全体に広げるには、リアルの販路、営業活動が必要。汗をかいて靴底減らしてやらないと。これから一般の人にとってインターネットがもっと使いやすくするため、リアルの拠点でシナジーが出せるのではと期待している」と語り、その営業力に期待感を示す。

 3つ目はスマートデバイス市場の拡大を牽引するという意味合いで、ヤフー自身が現在、スマートフォン向けサイトの広告拡大で収益が向上しているとして、キャリアになることでさらなる市場拡大を図ると説明。宮坂氏は、ADSLサービス「Yahoo! BB」の時にもこうしたシナジーが発揮されたと、今回期待するシナジーの根拠に挙げる。

 こうしたシナジー効果については、「かなり固めに読み込んだ算定にしている」とのこと。

ユーザーからの要望募る、「LCC路線」は未定に

 具体的なサービスは発表されなかったが、ヤフーではWebサイトでユーザーからの意見募集を開始した。また、既にグループインタビューなどを行って、ユーザーがスマートフォンに対して「高い」「難しい」「怖い」といった声が挙がったとのこと。

 現状の値付けにはそれなりの理由があってのこと、と理解を示しつつ、宮坂氏は「ちゃんとサービスを作りたい」と述べる一方、ソフトバンクがかねてよりイー・モバイルとウィルコムを「LCC(ローコストキャリア)」と位置付けて、ソフトバンクモバイルとの差別化を図ろうとしていた点については、「今はやるともやらないとも言えない」と述べるに留まった。

 他キャリアとの競争でも「同じことをやっていると必ず負ける。キャッシュバックも同じことをやると圧殺される」としてヤフーらしさで独自性を追求する考えだ。

ヤフーのサービス、これまで同様に

 Yahoo! JAPANの各種サービスと、Y!mobileは別の事業として扱われる。Webサービスはこれまで同様、各キャリアのユーザーに提供される。

 また既存のイー・モバイル、ウィルコムのサービス、料金もこれまで通り。

ソフトバンクとは別会社と主張

 インターネットカンパニーを掲げ、テレコムカンパニーではない、とした宮坂氏だが、設備投資については「きちんとやっていきたい」と述べ、「けちることはない」と説明。ソフトバンクとは相互にネットワークを利用しあう形になるとした。

 一方で、囲み取材では「それぞれ上場会社であり、ソフトバンクとは、グループというより別会社」と語った宮坂氏。会見後、あらためてソフトバンクに質問したところ、今後、次世代の通信用として割り当てられる周波数帯でもこれまでのスタンス通り、ソフトバンクとイー・モバイルはそれぞれの主張になるという。

関口 聖