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モバイルインターネットに関して討論する「GMIC TOKYO」開催

夏野氏をはじめ、LINEやGMO、DeNAのトップらが登壇

渋谷ヒカリエで開催された「GMIC TOKYO 2014」
イベントテーマは「進化し続ける68億人市場・世界のモバイルコンテンツビジネス」

 モバイルインターネットをテーマとしたイベント「GMIC(Global Mobile Internet Conference) TOKYO 2014」が、渋谷ヒカリエで11日に開催された。業界で活躍する日本・中国企業の経営者を招き、最先端のビジネス情報を披露するこのイベントで、元NTTドコモで現ドワンゴ取締役などを務める夏野氏のほか、LINE CEOの出澤氏、ディー・エヌ・エー社長の守安氏ら、そうそうたる面々が講演やディスカッションを行った。ここではその様子の一端をご紹介したい。

 なお、GMICは2009年から中国・北京などで毎年開催され、2014年は5月に北京で行われたのを皮切りに、今回の東京を経て、9月25〜26日にはインド・バンガロア、12月1〜3日にはシリコンバレーと、世界4地域で実施、あるいは実施の予定となっている。北京でのイベントの様子はこちらの記事をご覧いただきたい。

毎年数百万人のエンジニア候補が生まれる中国の強さ

Cheetah Mobile CEO 傅盛氏

 基調講演の一番手は、Cheetah MobileのCEO 傅氏。同社は中国キングソフト(金山軟件)からのスピンオフ企業として2011年に設立され、セキュリティ関連のソフトウェアビジネスを展開、5月にはNASDAQへの上場を果たした。ツール系のスマートフォンアプリを多数開発し、現在はシステムツールの「Clean Master」、バッテリー管理アプリ「バッテリードクター」、ウイルス対策アプリ「CM Security」などをリリースしている。

 同氏は、モバイルインターネットビジネスにおける中国の強みを訴えた。その要因として、中国国内ではIT関連のエンジニアとなる大学生が毎年数百万人という規模で卒業しており、豊富で優秀な人材を獲得しやすいことを挙げた。実際に、2013年まで同社の社員数は500人だったが、わずか1年後の現在は1500人にまで膨れ上がっている。「Clean Master」には200人のエンジニアを投入しているとのことで、「米国ではこういった大規模な人員増量は難しいだろう」と同氏は胸を張る。

 数百人規模の人材を一気に投入できるところに同社のアドバンテージがあるとするが、一方で最近では中国の人件費の高騰も叫ばれるようになってきた。しかし同氏によれば、それでも米国の5分の1から6分の1程度のコストにすぎないとしており、多くの人員をアプリ開発に集中させることが可能で、技術面においてもシリコンバレーに劣るところはないと断言した。

 また、中国の企業は無料ソフトでいかにユーザーを獲得し、その中からいかに利益を出すかという点に注力してきたと話す。同社も、PC向けのセキュリティソフト(日本語版は「KINGSOFT Internet Security」)を当初は有料販売していたものを無料に切り替えたことにより、ユーザー数が7億5000万人に、売上が3倍に増える結果につながったとのこと。

 「Clean Master」も、1年前のアクティブユーザー数は100万人だったが、現在は1億6000万ユーザーに成長している。ストアのランキングで48位だったのが、1年で4位へと急上昇し、ゲーム以外のアプリにおいてトップのダウンロード数を誇る。その他のアプリも好調で、ダウンロード数トップ50の中に同社製のアプリが5つランクインしているほど。

月間ダウンロード数を急激に伸ばしている「Clean Master」。各国のツール系アプリのランキングで軒並みトップに

 設立から3年、モバイルにフォーカスしてからも2年たっていないという歴史の浅い会社でありながら、NASDAQ上場にまでこぎ着けることができたのは、「世界におけるモバイル時代のチャンスをうまく捕らえることができたから」と語る同氏。今後は中国企業が海外進出する際の、あるいは国外企業が中国に進出する際の橋渡しになりたいと述べ、講演を締めくくった。

LINEは生活においてもNo.1のプラットフォームを目指す

LINE株式会社 代表取締役CEO 出澤剛氏

 LINEの代表取締役CEO出澤氏は「LINEのグローバル成長について」と題して講演を行った。2011年の震災で電話などによる1対1のコミュニケーション手段が断たれたのを教訓に、「クローズドなコミュニケーション」の必要性を実感し、1カ月半でローンチに至ったというLINE誕生の経緯を振り返った。LINEのユーザー数は今や5億に迫ろうかというところ。その急成長の理由を語った。

 メールやメッセンジャーを経て、現在は「マルチコミュニケーションの時代になっている」と話す同氏。年代を問わず幅広いユーザーが、1対1の会話だけでなく、友達や家族など、自ら作成したグループごとに複数人とコミュニケーションできるようになっていること、感情を伝えやすいスタンプ機能があること、といった点を成長の理由として挙げた。

 同社の強みは「変化に対応できること」とも話す。一般の会社で行われるような継続的な“プランニング”はせず、ユーザーのアクションや反応を見ながらすべきことを見つけていく。サービスローンチ後には大量のログを解析し、SNSで評判を調査するといった活動も行い、長い計画をもたない代わりに短期の改善を繰り返す、という手法でサービスの拡充を図っている。「行き当たりばったりに見えるかもしれないが、動きの早い今の時代ではうまいやり方ではないか」と話した。

 今後、LINEはO2O分野に積極的に踏み込んでいく。2〜3年後にはさらなるモノのインターネット化が進み、「リアルとインターネットのボーダーがあいまいになってくる」。そのため、スマートフォンでNo.1のサービスは、生活におけるNo.1のプラットフォームにもなり得ると考えているようだ。

インターネットの成熟度は、1日でいえばまだランチの前

「企業のグローバル経営とイノベーション」と題されたパネルディスカッション

 GMOインターネットの熊谷氏、ディー・エヌ・エーの守安氏、KLabの真田氏らによるパネルディスカッションも行われ、「企業のグローバル経営とイノベーション」というテーマで討論。モデレーターは日本経済新聞社の関口氏が務めた。

 モバイル化がビジネスにどう影響を与えているのか、関口氏に問われると、熊谷氏はGMOがフォーカスしているビジネスを「20年前から、インターネット上の情報が増えると売上が増える仕組みにしている」とし、PCやモバイルの変化に関係なく、安定した収益を見込める業態であることを強調した。同社が提供するドメインサービスはいまだに毎日8000件の新規登録があり、ホスティングサービスも毎日500件申し込みがあるという。

GMOインターネット株式会社 代表取締役会長兼社長 熊谷正寿氏
株式会社ディー・エヌ・エー 代表取締役兼CEO 守安功氏
KLab株式会社 代表取締役社長 真田哲弥氏
モデレーターの日本経済新聞社 関口和一氏

 モバイルインターネットのビジネスで“日本の強み”があるかどうかについては、「あんまりあるとは感じていない」と真田氏。日本国内がリッチな通信環境にあることなどから、モバイル回線の低速な国外向けにアプリをローカライズすると動作しない場合もあるとし、むしろ日本の環境が良すぎるせいで競争面では不利になっているのではないか、という懸念を示した。

 話題は優秀な人材の雇用方法にも及んだ。関口氏から、ディー・エヌ・エーでは高学歴の人材が多く採用されているようだ、という指摘もあったが、守安氏は、価値観が合う優秀と思える学生を採用していったらそうなった、と応じた。10年前に東京大学で会社説明会を開いたところ、3人しか集まらなかったという裏話も披露し、給与や福利厚生の充実というよりは、10年かけて会社の評判を積み上げてきた努力の結果だとした。

 真田氏は、KLabの海外におけるユニークな人材採用の方法を紹介した。たとえばフィリピンでは数学とIQのテストを行い、一定以上のスコアに達した人を対象に研修を実施し、エンジニアを育てている。すでにこの方法を2年にわたって実践しており、「ものすごい優秀なエンジニアが育つということがわかった」という。

 今後のインターネットの発展について熊谷氏は、「(市場の成熟度合いが)1日24時間のうちどこかと考えると、まだランチの前くらい。おいしいディナーはまだまだ先。ディナーになったらペットや家畜も、全てがネットにつながる時代になるのではないか」と、インターネットの明るい将来に期待を寄せた。

 守安氏も「スマートフォンは普及期に入ったところ」と見ており、モバイル周辺サービスの成長が右肩上がりを続けるのは間違いないと話す。「インターネットと関わりのなかった領域でもネットの力を借りることで大きくなる」とし、さらに真田氏も「他の産業と結びつくことによって新しいマネタイズの仕組みが発生する」だろうと同調する。モバイルゲーム市場においては、国外では「これからが本格的な収穫期」であり、今後3年間の取り組み方が大事だとした。

日本は“第2の市場”程度に考えるべき

モデレーターを務めた夏野剛氏

 夏野氏がモデレーターとなり、Japan Link CEOでソフトバンクの特別顧問でもある松本氏と、ベンチャーキャピタルのジャフコ 渋澤氏の3人が登壇したディスカッションでは、投資家の視点からベンチャー企業のあり方を討論。刺激的な言葉が飛び交った。

 モバイル業界においてチップもプラットフォームも米国企業に押さえられている現状について、松本氏は、「アメリカが早くて正しいことをやった、日本は遅くて間違っていた、ということ。残念ながらインフラ、端末のチップについては日本は終わった。日本企業はアプリケーションやサービスに行ったほうがいい」と言い切った。

Japan Link CEO兼ソフトバンク特別顧問 松本徹三氏
株式会社ジャフコ 常務取締役 渋澤祥行氏

 4000社近くに投資し、そのうち950社以上が上場したという実績をもつジャフコの渋澤氏だが、夏野氏から「アーリーステージにおける日本のベンチャーへの投資例が(一般的に)あまりないようだが」と問われると、「(歴史的に)日本では投資家が儲かってこなかったから」と率直な意見を述べた。「だからといって腰が引けるのではなく、その中でも成功事例を積み上げていくしかない」としたが、やはり「投資家を儲けさせないと海外からお金は流入しないだろう」というのが実情のようだ。

 「グローバルを目指すベンチャーに何が求められているのか」という質問に対しては、松本氏は「まず日本でやりましょう、それから海外に出ましょう、という発想は180度変えなくちゃならない」とバッサリ。日本を“第2の市場”程度に考えるべきだとした。

 一方の渋澤氏は、ベンチャーなどに出資を検討する際に着目しているポイントを挙げた。「市場」と「会社のコア」、そして「経営チーム」の3つを見ているとし、特に「経営チーム」について、どういうメンバーであるかを重視しているという。志の高さ、収益への執着、具体的なアクションプランがあるかどうかが非常に重要だとした。

 松本氏からは「経営者を日本人に、ということにこだわらない方がいい」というアドバイスもあった。グローバル企業ではインド人が経営しているところが多いとし、英語ができて英国流を身につけていること、ハングリー精神があること、マインドセットが完全にグローバルであること、といった点が経営者として向いているのではないかと分析。ソフトバンクの後継者がどうなるのか、という話題にまで飛躍する一幕もあった。

(日沼諭史)