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孫氏、SIMロック解除義務化は容認、純増数は「形骸化」

米T-mobile買収には「公式なコメントなし」~2014年度第1四半期決算

 ソフトバンクは8日、2014年度第1四半期の決算説明会を開催した。代表取締役社長の孫正義氏は、業績を紹介するプレゼンテーションを淡々と進めて30分弱で説明を終了。その後の質疑応答では、SIMロック解除やクーリング・オフは基本的に賛成としたほか、純増数については「形骸化している」とコメントし、過去の決算会見や発表会でのプレゼンテーションとは異なる内容となった。

 また米国事業に関して、現地第4位の通信事業者であるT-mobille USAの買収を断念した、との一部報道を受けた質問には「公式なコメントはなし」とした。

SIMロック解除、クーリング・オフについて

 総務省の有識者会合において、SIMロック解除の義務化、クーリング・オフ制度の導入という方向が示されたことについて、孫氏は、どちらも基本的に賛成と語る。

孫氏
 「クーリングオフについては、消費者保護の観点からすると、ある程度、当然の行為として行っていくべきだと思う。ただ極端な形では、事実上、営業に障害がでる。細やかに詳細を詰めていくべき。基本的には望ましい」

孫氏
 「SIMロック解除も、かねてより、機能的にも提供すべき内容としてもあってしかるべきだと思う。ただ極端な形というのも理にかなわない形になることが出てきかねないため、よく詰めながらやっていくべき」

 ちなみにSIMロック解除については、これまで「需要がない」として否定的で、今回も同様に需要自体に疑問を呈しながら、制度自体に反対するものではない、と語る。

孫氏
 「今も以前もSIMロックが解除された、高い端末をあえて欲しい人がそんなにたくさんいるとは思えない、という考えは変わっていない。現にアップルからSIMロックが解除されたiPhoneが販売されているが、ほとんど売れていない。わざわざ6万~8万も出して(SIMロックフリーの)iPhoneを買いたいというユーザーは日本にはほとんどいないという実績が出ている。なぜならば我々は事実上、2年契約とともに無料でiPhoneを提供している。iPhoneに限らずAndroidでもおそらく同じ。ただしSIMロック解除という制度自体については別に反対するものではありません」

純増数、第1四半期も1位のはずが……

 これまでモバイル通信事業の指標の1つとして、そして、ソフトバンクモバイルの勢いを示すものとして活用されてきたのが携帯電話契約数の「純増」だ。

 決算短信ではその数字に触れているものの、孫氏は記者やアナリストを前にしたプレゼンテーションで紹介しない。質疑で「つい数カ月前まで純増ナンバーワンと言っていたが、方針を変えたのか」と問われた孫氏は「純増数は形骸化していた」と語る。

孫氏
 「どちらにしろ、純増にカウントされるものの中に、世の中の実態とあまり合わないなあと感じていたものはあるわけです。たとえばM2Mも1つの純増と数えられ、MVNOでほとんど利益が出ない形で卸しても1つの純増。我々もたとえばみまもりケータイやフォトビジョン(デジタルフォトフレーム)を1つに数えていた。各社ともに純増数が形骸化していると感じていたのは事実。各社そういう思いがあったので、結果、公表する意味がない、ということに落ち着いたのだろうと思います。で、まぁ、一方で、我々としては形式よりも着実にネットワークを改善して、着実にお客さまに満足してもらえるサービスを、競争を激しくやっていくということです」

 ちなみに各社の第1四半期の決算説明会で、純増数について踏み込んで説明したのはドコモのみで、その数は約46万件。KDDI(au)はプレゼンテーションで触れなかったものの、決算短信で第1四半期と過去の実績を紹介しており、それを差し引きすると第1四半期は49万4000件の純増だった。一方、ソフトバンクの決算短信によれば、第1四半期の純増数は55万7000件、ワイモバイルは9000件の純減(うちPHSは3万件の純減、携帯電話が2万1000件の純増)。

 この第1四半期もまた、ソフトバンクモバイルが純増シェアのトップで、同社の勢いを示す数値になり得たものの、プレゼンテーションで紹介されることがなかった。孫氏自身が語ったようにデジタルフォトフレームなどが含まれる数値の意義に疑問がある、ということであれば、過去のアピールにもまた疑問符が付く格好となった。

T-mobile買収にはコメントなしも……

 米国事業については、スプリントがネットワークを整備したことで、接続率が向上してきたと紹介。利益も増加し、反転攻勢に入るとした。また、スプリントの新たなCEOとして、Brightstar社の創業者でもあるマルセロ・クラウレ氏が8月11日付けで就任する。これからはネットワークを改善したことでより多くのユーザー獲得を目指す体制に入り、そのためにクラウレ氏のCEO就任は最適な人選と紹介する。そしてコスト削減を進めることも紹介された。

クラウレ氏がスプリントCEOに

 一方、スプリントよりも大きなシェアを持つベライゾンワイヤレス(Verizon Wireless)やAT&Tが2強となっている状況は、米国のモバイル市場にとって競争が促進されない、と孫氏は訴えてきた。今回の決算直前には、スプリントに次いで米国第4位のシェアを持つT-Mobile USAの買収を断念した、と一部で報じられているが、質疑応答で問われた孫氏は「特定の会社について、今まで一度も正式なコメントをしていない」と述べるに留まる。ただし、米国市場が2強による寡占状態にある、との認識を再び示して「2強よりも三つどもえのほうが健全で激しい競争になる、というのは最初も今も変わっていない」と語った。

ワイモバイルは別働隊、「うまくいった事例はソフトバンクにも」

 国内の携帯電話事業では、ソフトバンクモバイルとワイモバイルが存在する中、孫氏は、ヤフーによるワイモバイル買収話を「爆速できて爆速で去って行った」と語って会場の笑いを誘いつつ、たとえばヤフーとのコラボを実施する際、ワイモバイルで先行テストを行い、うまく行けばソフトバンクモバイルにも導入する可能性があるとする。またMVNOのサービスにも対抗できるとした。

孫氏
 「ことの経緯からもヤフーもしっかり応援しなきゃいけないという気持ちでいるようですから、先進的にテストしてみたい、いろんな機能、たとえばヤフーのサイトを使えば使うほどパケットがボーナスとして使えるようになるとか、ワイモバイルだからこそ連携を深めてやっていける。うまくいけばソフトバンク本体にも拡張できる。一方、格安スマホとの競争の位置付けとしてもワイモバイルの役割がある。それなりの存在意義がある」

オペレーションデータ、新料金は「8割が選ぶ」

 ソフトバンクグループ全体の連結での業績を見ると、第1四半期の売上高は約1兆9922億万円で、前年同期の126.1%増となった。営業利益は3376億円で前年同期比で15.6%減となる。売上高には、米スプリントやワイモバイル、ゲーム会社のスーパーセル、販売会社のブライトスターを子会社化したことが影響して大きく増加した。営業利益の減少は、前年、スマホゲームを手がけるガンホーを子会社化したことによる一時益があったためで、それを除くと、前年よりも35%増加している。

連結業績の概要
ソフトバンクのバイスチェアマンに元グーグルのニケシュ・アローラ(Nikesh Arora)氏が就任する

 ソフトバンクモバイルに関する実績を見ると、ARPU(ユーザー1人あたりの売上高)は4280円(前年同期から180円減)。3GからLTEへの移行が進み、通信料がアップすることから、データARPUが2960円(同90円増)となったものの、音声通話ARPUが減少したこと、ARPUの低い端末が増加したことなどが影響したという。

 端末販売数は、253万3000台で、前年同期よりも49万台、減少した。新規契約数は前年同期と同等だったが、ユーザーの携帯電話利用期間が長期化していること、そして、前年同期には機種変更向けの販促策を実施していたことから、機種変更数が減少したのだという。

 解約率は1.11%で、前年同期より0.12ポイント増加した。

 このほか、新料金の「スマ放題」の契約状況は、新規契約のうち、8割のユーザーが選んでいることも紹介された。

NTTの卸サービス「平等・公正ならば積極的に販売」

 NTT東西が提供する方針を示している、光ファイバーを卸で提供する「光コラボレーションモデル」について問われた孫氏は、「高い関心を持っている。もともと独占的な立場にあった会社が不当な力を発揮するのは良くない。公正な取引がなされるよう、注意していただきたい。平等な、公正な形であれば販売のご協力を積極的にしていきたいと感じております」と回答する。

 この光コラボレーションモデルについては、競合他社であるKDDIは、7月30日の決算会見において「あんなことしていいのかな?」と田中孝司社長がコメント(※関連記事)するなど、強く批判しているが、孫氏は提供形態によっては、前向きに取り組む姿勢を見せ、KDDIとは対照的となった。

関口 聖