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ファーストからオンリーへ、グーグルが示すモバイルのこれから

 「モバイルファーストはモバイルオンリーになっていく」「アジアは世界の明日だ」――グーグルが4日、台湾で開催したプレスイベント「The Mobile First World」で語られた言葉だ。

 アジア各国から集結したプレスを前に、東京から遠隔でエリック・シュミット会長が出演したほか、アジア太平洋地域を統括するバイスプレジデントのクリス・ヤーガ氏から、アジア地域から見える、これからのモバイルインターネットのトレンドが紹介された。

世界は今「モバイルファースト」に

 モバイルファーストとは、パソコンのような機器よりもモバイル機器向けのコンテンツのほうを優先する動きを示す言葉。3年前、同様のイベントでこれからはモバイルファーストの時代、と述べたが当時は過激な意見と見られた、とシュミット氏は述懐し、今やその見立て通りになったと語る。

シュミット氏

 そうした動向は、世界の中でもアジアが牽引しており、特に日本と韓国、台湾といった地域では通信環境の改善がいち早く実施。そして「日本と韓国、なかでもNTTドコモのiモードがモバイルコンテンツの決算という環境も優れていた」としたものの、iモードは環境が日本国内に限定され、国外では広まらなかったことが残念だった、と振り返る。

 支払いシステムなども含めてグローバルに活用できるオープンなプラットフォームが必要とするシュミット氏は「たとえばLINEは5年後も存在しているのか。タイやシンガポールなども存在しているが、競合のサービスのいくつかは、新しいプラットフォームを使っており、競争が激しくなっていく。そうした時に、ローカル(一地域)だけを焦点にしていてはいけない」と述べて、モバイル向けサービスを提供する各社は、グローバルを意識していく必要性を訴える。

セルフィスティック、ファブレットが象徴するもの

 アジアが牽引した“モバイルファースト”がいよいよ世界に広まりつつあるなか、当のアジアで何が起きているのか。東京に駐在し、アジア太平洋地域を統括、さらにGoogle Playの責任者でもあるクリス・ヤーガ氏。「東京や台北、ソウルで開発されたゲームがサンフランシスコでプレイされている」とアジア発のイノベーションから“世界の明日”が見える、と語る。

ヤーガ氏

 世界の明日、つまりこれからのトレンドの兆候を見出せる、という主張の根拠としてヤーガ氏が挙げたのは「セルフィスティック(自撮り棒)」「ファブレット」だ。

セルフィスティックを肩に乗せる女性

 日本をはじめ、アジアでは2000年代から自分撮りが人気だったが、欧米では最近になって浸透し、「セルフィ(Selfie)」という呼び方まで生まれた。そうした傾向はグーグルの検索数でも裏付けられている。さらには自分撮りしやすいアイテム「セルフィスティック」まで登場しているが、ヤーガ氏は「セルフィスティックが示しているのは、端末を単なる電話としては、もはや見なしていないということだ」と分析。これは、活用の幅が広いスマートフォンに期待される役割が変化していることの象徴と言える。

検索ワードで見るセルフィスティックの動向

 スマートフォンとタブレットの間に位置する端末のジャンル名として使われている「ファブレット」もアジアでまず人気になったと紹介したヤーガ氏は、「(韓国がファブレットが最初に人気を得た地域として)韓国人のテイストが変わっているだけ、とかつては見なせたかもしれないが、現在のグローバル市場の動向を見ると、他国が追いついてきた。アジア各国では、大画面のほうがその文字を入力しやすい。電話だけではなく、Webブラウジングやゲーム、写真撮影などで楽しめる」と述べて、ここでもまた、その役割が単なる電話を超えてきたことが影響を与えた、とする。

韓国と世界で比べたファブレットの利用動向

欧米とアジアで違う「スマホギャップ」

 そうしたアジアにおいて、次の動向として「モバイルオンリー」が見えてきたのだという。これは、インターネットを利用する手段として、パソコンなどは用いず、モバイル機器だけを使うことを指している。その動向を示す指標として、紹介されたのが「Smart Phone GAP(スマホギャップ)」だ。スマートフォンの利用数から、パソコンの利用数を差し引いたもので、パソコンが多いとマイナスになる。

スマホギャップ

 逆に、プラスになるということは、パソコンを使わず、スマートフォンが唯一のインターネットへアクセスするユーザーが大半を占めていることになる。グーグルが示したデータによれば、「スマートフォンがネットアクセス唯一の手段」とアンケートで答えた人は、マレーシアで35%、ベトナムで24%、シンガポールで16%、韓国で14%、香港で14%となる。そしてインドでは人口の85%が今後、モバイルで初めてネットに繋がる、との予測もある。

スマホで楽しむ動画、音楽、ゲーム

 コンテンツもスマートフォン上で消費される。たとえば動画をスマートフォンで楽しむユーザーは、中国で82%、韓国で81%。一方、英国では61%、ドイツでは53%だ。音楽についてもベトナムが84%、タイが70%となる一方、フランスは46%、英国は44%となる。欧州でもスマートフォン上でコンテンツを楽しむ人は一定の規模に達しているが、アジアがさらに上回る格好だ。

動画とスマホの利用傾向
音楽とスマホの利用傾向

 特にゲームは、もはやスマートフォンが最大のプラットフォームと化している。ヤーガ氏は「日本では10のアプリのうち9つがゲームとまで言われる」「これまでゲームを遊んでいなかった人が、スマートフォンでは遊ぶようになった」と語り、カジュアルゲーム市場は数十億ドルの売上規模に達した、とその成長ぶりを紹介する。

日本では10のうち9がゲーム

キャリア課金が効果大

 スマートフォン向けコンテンツで収益化しやすい要素には、有料アプリ、あるいは購入しやすい手段があること、はたまた会員制にすること、といくつかの手段があるという。そうした中で、クレジットカードが浸透していないアジアでは、いわゆるキャリア課金が支払いプロセスの課題を全て解決し、スタートアップ企業を成長させる原動力になった。

 そうした成長例として、基調講演で紹介されたのは、韓国のcom2us、台湾のレイヤーク(Rayark)、そして日本のmixi。たとえばmixiは「モンスターストライク」が日本だけではなく、台湾、韓国、米国へ進出し、2年間でユーザーが3倍に膨れあがった。レイヤークCEOのユウ・ミンヤン(游名揚)氏は、「香港でもキャリア課金が導入されて、売上が著しく向上した。台湾でも今年になって大手事業者で導入された。クレジットカードだけの場合、Google Playのギフトカードが販売されていないような地域では売上が見込めない」と語る。

レイヤークのユウCEO

文化、環境にあわせたコンテンツ

 今回の講演で紹介された、アジア圏における興味深いコンテンツや利用事例をもう少し紹介したい。

 グーグルの東南アジアプロダクトマネジメント統括部長であるアンドリュー・マグリンチー氏によれば、クレジット決済できないエリアでのネット通販での決済は、着払い(代引き)が利用されることが多いのだという。たとえばインドネシアのあるサービスでは利用数の40%が、着払いによる現金での購入だ。そしてタイではATMでの振り込みと同等の割合で、着払いが利用されているのだという。またインドではオンラインショッピングのうち50%近くがモバイル経由の着払いで利用されている。

マグリンチー氏

 イスラム教徒向けのアプリ「ムスリムプロ(Muslim Pro)」は216カ国、15の言語で提供され、1000万ダウンロードに達する人気アプリ。メッカの方向、ハラルフード(イスラム教徒向けの食べ物)に関する情報がまとめられたもので、たとえば今年のラマダンでは最大で1日10万ダウンロードを記録した。

ムスリムプロ

 そして自然災害の多いアジアでは、危機対応としてスマートフォンが活躍する機会も多い。2011年の東日本大震災において、グーグルは道路が通行可能かどうかまとめて情報を開示し、物資の運搬に一定の役割を果たした。台風の通り道でもあるフィリピンでも災害時に活用されることが多い。

危機的な状況でもスマホが活躍する

ネット、スマホの裾野拡大を目指す

 モバイルオンリーの傾向を強めるアジアは、いわゆる新興国が多い地域でもある。スマートフォンがパソコンよりも安価に入手できるようになったからこそ、モバイルの利用傾向が上昇する可能性は高い。ただ、日本でも“格安スマホ”が話題になっているように、割安な機種へのニーズはある。

 今回のイベントでは新興国向けの機種で、100ドルスマホとされる「Android one」も展示されていた。わずかな時間ながら少し触れたところたとえば、負荷の高いゲームをプレイするとどうなるかわからないが、必要十分なインターネット体験が可能なように感じられた。

Android one

 端末だけではなく、日々の通信費用も必要だが、たとえばフィリピンは島が多くインフラを整備するのも難しい。アジアの中には峻険な山々に囲まれている地域もあり、こうした国々で現地キャリアが充実した通信環境を構築するのは、費用面も含めて難しい。トータルコストを安くするにはどうすればいいのか。グーグルでは、気球を使って3Gネットワークを構築する技術や、タイタンエアロスペースを買収して衛星通信によるネット接続を可能にしようとするなど、インフラ面まで技術開発を進めて、ネットにアクセスできるユーザー数の拡充に取り組んでいる。

 また多様な言語がある中で、スマートフォンは音声認識をサポートすることで、仮に文字が書けずとも、検索サービスなどが利用できる。インフラを整え、割安な端末を用意し、さらに利便性を向上させるツールを用意することで、ネットの利用を高めていく、という一貫した姿勢で「障壁を継続的に打ち砕いていく」(マグリンチー氏)というのがグーグルの考えだ。

 アジアでネットの変革が起きている、携帯電話が新たなチャンスをもたらそうとしている、とヤーガ氏は語り「アジアは世界の明日を指し示している」と述べて、取り組みをさらに強化する方針を示した。

 モバイルの未来を垣間見せる取り組みとして、オーストラリア国立大学のスティーブ・リー博士が紹介したのは、3Dプリンタを使ったスマートフォン向け外付けレンズ。これは、3Dプリンタで型を作り、そこに樹脂を流し込んで焼成してレンズを作成、スマートフォンのカメラに装着するとデジタル顕微鏡として利用できる、というものだ。

(関口 聖)