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「Ingressで痩せる」は本当だった、ローソンともコラボ開始

“中の人”が語った現在とこれから

 「Ingressの参加者が動いた距離は1億km」「エージェントになって18kg痩せた」「ヘリで移動する人もいる」――リアルを舞台にしたグーグルの位置情報ゲーム「Ingress」にまつわるエピソードを披露したのは、“中の人”である川島優志氏だ。

 11月15日、東京・台場の日本科学未来館で開催された位置情報関連のイベント「ジオメディアサミット」のセッションに川島氏が登壇。その中で、日本で初めて企業がスポンサーとして協力することも明らかにされた。その詳細は今回、発表されなかったが、ゲーム中に発生した出来事、そしてプレゼン資料から、協力する企業はローソンと見られ、近日、正式に発表される見込み。

Niantic Labsの川島氏

15日朝、ローソンがポータルに

 ジオメディアサミット開催直前の15日朝、Ingressでは、ある変化が起こった。各地にあるローソンが、ゲーム中でエージェント(プレイヤーのこと)たちが攻防を繰り広げる“ポータル”になったのだ。

詳細は明らかにされなかったが……

 Ingressを開発、運営するグーグルの社内スタートアップ、Niantic Labs(ナイアンテックラボ)に所属する川島氏は、今回の講演で「Ingressは無料アプリ。どうやってマネタイズ(収益化)しているのか。さまざまな企業のスポンサードを模索しており、日本でも始まった。何か(ゲーム中で)起こっていますが、詳細は正式な発表で」と、見覚えのあるロゴマークにぼかしをかけたスライドを披露。ゲーム中の変化を踏まえると、ローソンがパートナーとなったようだ。

ポータルになったローソン。店舗写真はなくロゴマークだけ。ただ青色だけでいいのか、という指摘も一部で挙がっているようだ
説明書きはとても充実している

 川島氏によると、海外では、カーシェアリングの企業であるZipcar(※関連サイト)や、飲料メーカーのHint Water(※関連サイト)などがスポンサーとして協力した事例がある。たとえばHint Waterではペットボトルのフタの裏にパスコードが記されており、それをゲームアプリ(iOS版はブラウザ)に入力するとゲーム用アイテムがもらえる、という形。かつて日本のソーシャルゲームでもよく利用された手法だ。

 そうしたスポンサードでゲーム中に変化が起きる場合、たとえば今回のようにポータルが新たに、それも数多く一気に登場することになれば、ゲームバランスへの影響も多いにあり得る。はたしてコラボによって登場したポータルは永続的に利用できるものなのか、川島氏は、スポンサーになった企業次第の部分はあるとしつつも、「基本的に、期間限定ではない」とコメント。またポータルができただけで終わるのか、あるいはそれ以外の取り組みもあるのか、などといった詳細は、正式な発表で明らかにされるとした。

APIをオープンに

 これからのIngressはどうなるのか、という点について川島氏は「API化」と語る。これは、Ingress上のポータル、グーグルマップの情報などをパッケージにして、その上でゲームを開発できるようにする、という考えのこと。1年半〜2年後を目処に開発が進められている。川島氏は「Ingressの世界観は好みではなくとも、全く違う世界が積み重なって、自分に響く世界にアクセスしていって、現実が拡張していけば」とする。

 そのさきがけとして、「知らないはずがないような、さまざまなパートナー(によるコンテンツ)やゲーム」が、今後1年の間に発表される予定だという。

 川島氏のプレゼンテーションの後に実施されたパネルディスカッションで、モデレーターを務めたゲームクリエイターの飯田和敏氏は、「Ingressは金字塔。APIが開示されたとしても、同じコンセプトでは、Ingressを超えるのは困難。全く別の思想、世界観でしか超えられない」と率直なコメント。ただ、川島氏は「今作られているものの中で、Ingressと全く違う形で、地図やポータルを使って、全く違うものがたぶん生まれてくる。そうか、こうやればいいのか、こうできるのかと、とても面白い発見があるだろう」と力強いコメントを残した。

Ingressってどんなゲーム?

 このところ、さまざまなメディアでも話題になることが増えてきた「Ingress」とは一体どんなゲームなのか。その詳しい遊び方は、「できるネット」の解説をご覧いただきたいが、一言で表わすと「現実世界を舞台にした陣取りゲーム」だ。スマートフォン向けゲームながら、スクリーンの中だけでは完結せず、街中にあるアート、神社仏閣、郵便局、公園などを訪れる。

 Niantic Labsの創設者で、かつてGoogle Earthを開発したジョン・ハンケ氏(※本誌インタビュー記事、5月掲載)は、ユーザーに外出を促すことがコンセプトとしている。具体的には「世界が舞台」「動いて遊ぶ」「新しい視点で街を見る」「現実世界で友情を育む」という4つの要素で設計されているのだという。

 たとえ歩き慣れた街でも、少し路地に入らなければ、数百年前の歴史を伝える記念碑の存在に気付かないこともある。しかし、Ingressではそうした場所がポータルになっており、ゲームとして遊んでいると、実際にそうした場所を訪れ、それまで知らなかった街の側面に触れられる。筆者も、Ingressをプレイする中で「忠臣蔵」の舞台になった吉良上野介邸宅跡を初めて訪れ、歴史の一端に触れることができた。

 一人でも楽しめるIngressだが、現実世界でプレイする中では、戦略的に陣地の拡大を図る場面などで、エージェント同士がコミュニケーションを取るようになる。Ingressには、リアルで人々を繋げる側面もある。

数字で見るIngress〜日本は3番目の規模

 川島氏によれば、これまでに800万以上のダウンロード数を記録し、200以上の国・地域でプレイされている。日本は、iOSユーザーの数が世界で最も多く、Android版に限っても世界トップ3に入る規模とのこと。両方をあわせたエージェント数も世界で3番目以内に入る。本誌が5月、石巻で取材を行った際には、エージェント数はグローバルで200万〜300万程度、日本は世界で10位程度の規模とされていた。今夏にiOS版も登場したこともあって、この半年で、大幅に参加者が増加したようだ。

数字で見るIngress

  • ダウンロード数:800万
  • プレイされている国:200以上の国と地域
  • Ingressエージェントが動いた距離:1億km
  • ポータルを訪れた回数:1億7000万回
  • 世界にあるポータルの数:300万以上
  • 申請され、審査待ちのポータル:300万

都市を、国を覆う、そして国境を越える

 普段は、青と緑に分かれてプレイするエージェントも、時には協力してマップ上で大きなフィールドを構築したり、「フィールドアート」と呼ばれるイラストを描いたりすることがある。

 最近では英国のグレートブリテン島で両陣営のエージェント1600人が協力し、英国国旗のユニオンジャックを再現した。また東南アジアを覆ったフィールドが構築された際には、16カ国160人を超えるエージェントが協力した。日本では、8月6日の平和祈念式典にあわせ、広島市において折り鶴を模したフィールドアートが描かれた。

一番左が英国の例、中央上がウクライナ。中央一番下はパリで女性エージェントだけで構築されたユニコーン。右上は広島の折り鶴。右下はノルマンディ上陸作戦70周年にあわせて実施されたもの

 紛争が続くウクライナではフィールドアートで「STOP WAR」と描かれたこともある。そして中東では、イスラエルとレバノンをまたぐフィールドが構築された。国交がない両国をまたぐフィールドを作るため、ポータルの鍵(キー)をキプロス経由で受け渡したのだという。メールではポータルキーをやり取りできないというルールも、こうした工夫で乗り越えた。イスラエル側のエージェントが、この時の作戦について「僕たちはIngressに、今までの国境を越える力があると信じた。協力と信頼によって何かを成し遂げることができると信じた」とコメントしている。

ホントに痩せました

 Ingress関連では、「歩くので痩せる」「リアルで課金する」といった話題もあわせて取り沙汰されることがある。川島氏は、フィットネスアプリとして設計したわけではないのだが、と前置きした上で、ソーシャルメディア上でエージェントが自ら投稿したダイエット成功例を紹介する。

 たとえばレジスタンスとして活動する老婦人は、糖尿病を患っていたところ、Ingressをプレイするため、毎日3km歩き、症状が改善したという。体重も18kg、20kg痩せたという報告もあった。ドイツのベルリンでは街をぐるっと一周するルート、105kmを2日間で踏破するエージェントも現われた。

 また、Ingressでは、1つのポータルを保持し続けると実績としてカウントされる。そこで夏の終わりに富士山へ登り、山頂のポータルを奪取したエージェントもいたが、冬でもしっかりした技術と装備を持った人であれば富士山には登れるため、結局獲られてしまったらしい、川島氏は語る。

岩手県が独自企画、12月には東京でイベントも

 Ingressを楽しむためには、その場所にポータルが必要だ。国内では、京都をはじめ、都市部に数多くのポータルがある。裏返すと、それ以外の地域でポータルの数は少ない。ポータル数が少なくとも、その分、広大なCFを作る、という楽しみ方もあるが、岩手県は独自の取り組みとしてIngressで観光振興するための検討をスタート。11月9日には、ポータルを作り出すため、一般の参加者とともに、市内各所をポータルとして申請する、という活動を行った。このときには、川島氏もソーシャルメディア上で「今回の岩手県の独創的な試みにはNianticからもできるかぎりのアシストをしたい」と震災復興などもかんがみてサポートする姿勢を表明。一部の申請に対して、早期に審査が行われる方針だという。

岩手でのイベント

 またIngressでは、エージェント同士が多数参加する、公式イベントがときおり開催される。川島氏によれば、最初は、エージェント同士の交流をサポートすることがきっかけだったものの、回を重ねるごとに人数がどんどん増えていったのだという。そうしたイベントが、12月13日、東京でも開催される。まだ参加者を募集しているこのイベントでは、約1カ月前の現時点で参加希望者が3000人を超えており「Ingress史上、最大のイベントになるのでは」(川島氏)とのことで、これからプレイし始める人でも間に合う、とさらなる参加を呼び掛けた。

今回のイベントは“Darsana”と名付けられ、3カ月にわたり、世界各国で実施。その舞台の1つとして12月13日、東京でバトルが繰り広げられる

これが日本だ

 Ingress関連では、エージェントが自発的にグッズを制作している。多大な利益を生まない限り、Niantic Labsではそうした活動を奨励している。ちなみに世界でも有数の参加者を抱えるまでになった日本からは、たとえば女子高生のキャラクターがIngressを解説する同人誌、エージェントであればくすりと笑いたくなるエピソードのマンガなどが登場した。

世界各地でオリジナルグッズが制作されている。服やアクセサリーはよくあるアイテム

川島氏
「マンガが出てきたときには本当に驚きと嬉しさでいっぱい。(Ingress内のミニゲームをモチーフにした)“ぐりふはっく学習帳”など高いクオリティで充ち満ちている。この“日本の創造性”みたいなものに対しては、Niantic Labs内でも本当驚いている。僕にどうして日本でこういうことが起こっているんだ? と質問されるが、僕だって知らないよ、This is Japan、これが日本だ! と答えている(笑)」

一方、日本では、実に特色あるアイテムが並ぶ

 また、“萌えキャラ”などはいないが、エージェント1人1人をキャラクターと捉えて、動物のキャラクターで表現したクリエイターの作例も紹介。「(動物で表現することで)個性が伝わってくる。キャラクターはプレイヤー自身だ、それがIngressだということがすごくいいと思う」とも述べていた。

日本のあるクリエイターが描いた動物化したキャラクターは、いずれもエージェントをモチーフにしたもの。ハンケ氏をモチーフにしたものは本人の手に渡った(一番左)

国内エージェントの数は……?

 パネルディスカッションは、モデレーター役の飯田和敏氏、川島氏のほか、IT技術者で、かつエージェントでもあるinuro氏、そして2つの陣営を代表するエージェントも参加した。

パネルディスカッション。左から川島氏、inuro氏、Ashlad氏、SichuanRedPanda氏

 β期間を含めて2周年を迎えたIngressでは、最近まで経験値2倍、アイテムも多く入手できる、というキャンペーンが実施されていた。飯田氏はこうした取り組みは、「Ingressは、僕らが従来考えてきたデザインがなされていない、と言うと語弊があるが、そうしたものがなく相当衝撃がある。たとえば今回のキャンペーンのようなパラメーター調整は怖くてできない」と評価。

 レジスタンス(青)陣営を代表して出席したAshlad氏はこうした状況に「慣れました」と笑う。Ingressでは、たびたび大きな仕様変更が実施されるため、初期からプレイしてきた人はそういうものだと受け止め、そうした変化を含めて楽しんでいる、と解説する。これに川島氏は「確かにいろいろと試している。大きな変化には反発もあり、やり過ぎるときもあるが、変化にはアグレッシブに踏み込む、というスタンス。ダイナミズムを実際に産んでいる」と説明した。

 Ashlad氏は、エージェント側の自発的な解析によるデータから、国内のエージェント人口が50万人ではないかという推測を披露。たとえば首都圏のレジスタンス陣営のコミュニティは、iOS版登場前は700人だったが、現在は2700人を突破したという。これに川島氏は、否定も肯定もせず、笑みを浮かべて、うつむきながら繰り返しうなずくに留まった。

 またエンライテンド(緑)陣営のSichuanRedPanda氏は、これまでに2000を超えるポータルを生み出してきたとのことで、Ingressの中でも“Discover(発見)”の魅力を楽しんでいる人物。同氏が今回のパネルディスカッションで、聴衆をうならせたのは「どこかを歩いていて、ポータルだな、と思ったらそれがポータル」というコメント。スマートフォンなしでも、肉眼でゲームの世界が見えるかのような口ぶりだった。

 inuro氏は「Ingressをプレイしていると、報復せずにいられない気持ちになる。戦争が起きる理由がわかる」と述べて、今後、研究や論文が出てくるのでは? とコメント。

MUって? ストーリーはどうなるの?

 さて実際にプレイしている人には聞き逃せない情報もいくつか得られた。

 ゲーム中、フィールドを作ると、「MU(マインドユニット)」という単位で表現される。これは単なる面積値ではなく、たとえば同じ大きさの三角形でも、都心部と郊外では、都市部のほうが大きくなる、とされている。飯田氏は「MUとは一体何か。グーグルが人をカウントしている根拠を知りたい」と問うと、川島氏は「裏側を言うと推測値になる。体というよりは“マインド”」と回答。そこに飯田氏は「噂で、データ通信量を元にしていると聞いたことがある」とつっこむと、川島氏は「その測定に関しては企業秘密」と明言を避けた。

モデレーターの飯田氏(一番左)も質問を投げかけた

 幾人ものエージェントが攻撃したり防御したりした結果を、ほぼ時間差なく同期させていることから、サーバー側も高度な技術で支えられていると見られているが、最近、東京近郊では、負荷が高まっているためか、動作が重いとの声もある。これに対して講演後、川島氏に問うたところ「東京は特別な場所。Niantic Labsのエンジニアも全力を尽くしている」と説明し、世界有数の負荷がかかっていることを示唆した。

 Ingressでは、「欧州で謎のエネルギー、エキゾチックマターが発見され、それを巡って、エキゾチックマター(XM)で人類を覚醒・進化させようとするエンライテンドと、それに抗うレジスタンスが戦っている」というストーリーがある。さまざまな公式イベントも、そのストーリーにあわせて実施されているが、今回のセッションを終えた川島氏にあらためて質問したところ、「ジョン・ハンケ氏が1年半後か2年後か、時期はわからないが、ストーリーにちゃんと終わりがくると語っている」と回答。ゲームとして終わるわけではない、としつつも、エンドレスに物語が続くわけではないとした。

 さて、本誌が5月、石巻で行ったジョン・ハンケ氏へのインタビューでは、「プラットフォーム化」「ミッション」「iOS版」などの要素が登場するとされていた。それから6カ月、既にiOS版とミッションは実現し、プラットフォーム化についてもAPIの開示という方針について新たな言及があった。Ingressがどのような方向に進むのか、今後も注目していきたい。

(関口 聖)