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日本を覆う巨大フィールドまで出現、数千人が集まった「Ingress」バトル

新たなフィーチャーもついに公開

 13日、グーグル社内のスタートアップが開発した新感覚ゲーム「Ingress」の公式イベント「Darsana」が東京で開催された。事前の参加表明は5000人に迫り、オープニングの日比谷公園野外音楽堂には少なくとも3500人が入場。会場には入らずとも街なかでバトルに参加した人は数知れない。この大規模なイベントで何が起きたのか、レポートしよう。またゲームに関する新情報もある。あわせてご紹介しよう。

アフターパーティ、最後にみんなで記念撮影

Darsanaはどんなルールで戦いが行われたのか

 Ingressは、リアルを舞台にした陣取りゲームだ。プレイヤー(ゲーム中ではエージェントと呼ばれる)は、レジスタンス(青)とエンライテンド(緑)のどちらかの陣営に属しており、普段は、さまざまな場所にある、ポータルと呼ばれるポイントを取り合っている。一方、今回の「Darsana」では、バトルするエリアが事前に指定され、そこでポータルを奪い合った。なお、東京は主会場であり、ソウル(韓国)、オークランド(ニュージーランド)、マニラ(フィリピン)がサテライト会場になっていた。

Darsanaでのルール
・特定の場所でポータルを奪い合って得点にする
・ポーナスポータルを見つけ出し、より多くの得点をゲットする
・バトルが行われる場所を自陣(コントロールフィールド)で囲えば得点は40%アップ

 ポータルの奪い合い、というだけでは単純に力任せの勝負、といった印象も受けるが、奪い合う対象のなかには、一部、得点がより多くもらえるボーナスポータル(ボラタイルポータル)がある。しかし、どれがボーナスポータルかわからず、運営側から出された暗号を解読する必要がある。両陣営のエージェントが手持ちのアイテムを注ぎ込んでポータルを奪い合う一方、ボーナスポータルを特定するため、暗号解読に奔走、その場所を奪取するために動く人々もいた。

数千人が集い、街を練り歩いた

 13日10時、日比谷公園野外音楽堂はエージェントで埋め尽くされた。この会場だけで少なくとも3500人は参加したとみられる。首都圏のエージェントだけではなく、仙台や関西など国内のあちこちから、そして台湾や香港、韓国など、海外からのエージェントも多数いた。会場に入りきれなかった人も含め、やはり5000人ほど集まったのではないか、とコメントしたのは、「Ingress」を提供する、Niantic Labs(ナイアンテックラボ)所属の川島優志氏。その日、バトルするエリアに指定された街には、青、緑とそれぞれの陣営を示すアイテムを身につけた人々が練り歩き、バトルする時間になるとスマートフォンを一心不乱に操作してポータルを奪い合った。筆者も取材中、すきを見てバトルに参加。手元に表示されるまでタイムラグはあるものの、ユーザーの操作はサーバー側できちんと処理されているようで、ガチンコで熱い戦いを体験。普段のエージェント活動とは異なる、集団戦のコツのようなものも、わずかながら感じ取ることができた。

スタート前に集合したエージェントたち
オープニング30分前の様子

 オープニングでは、Niantic Labsのジョン・ハンケ氏から今回のイベントの意味するところが語られた。

ハンケ氏

「今日のDarsanaはIngressの歴史の中で最も大きなイベントになりました。今日、人類はDarsanaポイントと呼ばれる地点に達するかどうかが決まります。これは世界線が切り替わるようなポイントですが、我々はまだこれが何を意味するのかを知りません。ただ宇宙の真理を見せてくれるような情報が含まれているのではないかと考えています。もしレジスタンスが勝利すると、シグナルが地球から放たれ、(物語上、かつて人類を一掃し5000年眠りについていた未知の力)「N'zeer(ンジール)」が召喚されます。エンライテンドが勝利すると、シグナルが弱まり「N'zeer」は遠ざかります。それが何をもたらすかわかりません」

 そして、同氏は、「皆さんは日本で言うKUSAKARI(草刈り)、MIZUNUKI(水抜き)をすることになるでしょう。プレイ中は、街にある美しいものの存在を忘れないでください。東京は世界で最も発見するものにあふれた、秘密の多い場所です」と述べて、敵味方に分かれているとはいえ、同じゲームをプレイする周囲にいる人たちの笑顔に気付いて欲しい、と呼びかけた。

本州が巨大なフィールドで覆われた

日本の大部分がエンライテンド側のフィールドで覆われた

 最初の計測時間、つまりバトルがスタートした13日14時。Darsana参加者のほとんどが手に持つスキャナ(スマートフォン)の表示に驚いた。あたり一面が緑色に覆われたのだ。それも会場周辺だけではなく、東京だけでもなかった。日本の本州、四国、九州を覆う巨大な三角形が出現していた。この三角形は、中国の青島、北海道の襟裳岬、そしてグアムを結ぶ巨大なもの。筆者が確認したところでは、その大きさは、1億1477万1251MUs(マインドユニット、ゲーム中、フィールドの大きさを示す単位)にも達した。このフィールドのなかには、サテライト会場のソウルも含まれ、東京とソウルはエンライテンド陣営の得点が4割増になった。

 巨大フィールド構築作戦は、ごく一部の人だけが関わり、秘匿されていたようで、味方である現場のエージェントたちも、プレイ中に初めて知った人が少なくない。瞬く間にその情報は共有され、ソーシャルメディアを通じて現地に赴けなかった人たちの間でも一斉に話題となる。

 この作戦では、日本からエージェントがグアムに飛んだようだ。その裏では、レジスタンス側も何らかの動きを察知し、事前に妨害用のリンクを構築していた、と参加者がソーシャルメディアで明らかにしている。ただ、その妨害リンクもエンライテンド側の有志に破壊され、さらに“レジスタンス側に妨害させないために邪魔をするリンク”がエンライテンド側から構築されるなど、東京の外でも白熱した戦いが繰り広げられた。

 この巨大フィールドによって、勝負はエンライテンドが一気に優勢になった、と受け止めた人もいるだろう。では実際どうだっただろうか。筆者がエンライテンド関係者に取材して得た印象は、「フィールドで覆わなければ確実に負ける、とエンライテンド側は考えていた」ということ。もちろんフィールドで覆うことで、互いの士気に大きな影響は与えられるが、一気に勝敗を決定づけるものではなかった、ということだ。イベント終了後、エンライテンド側のリーダーの1人は「かねてよりレジスタンス側のほうが人数に勝ると思っていた。(以前、東京で実施されたイベントの)Cassandraでは敗北しており、雪辱を期していた」とコメントしてくれた。

 戦いが終わり、アフターパーティの後、川島氏は取材陣にこう語っていた。「東京は以前からレジスタンスが優勢で、日比谷に集まった人数もレジスタンスが多く、今日の戦いはどうなるかと思った。エンライテンドの巨大フィールドがあって、素晴らしい戦いになった

 レジスタンス側のリーダー役の1人は個人的な感想として、「初参加の人が多く組織面で苦労した。万が一、フィールドで覆われたとしても各ゾーンでエンライテンドを上回る狙いだった」と語る。

 ポータルやボーナスポータルの獲得数を見ると、東京ではレジスタンスがエンライテンドを上回る実績を残した。


ポータル獲得数
ポータル1つにつき2点
ボーナスポータル
1つにつき20点
1回目RES:74/ENL:73RES:3/ENL:2
2回目RES:62/ENL:65RES:3/ENL:2
3回目RES:67/ENL:66RES:5/ENL:0
4回目RES:89/ENL:51RES:0/ENL:4
RES:292/ENL:255RES:11/ENL:8

 ポータル獲得戦で、もしエンライテンド側が大きく負け越していれば、40%増というボーナス効果も薄くなる。実績はレジスタンスが上回ったとはいえ、そこにエンライテンドが食らいついたこともあって、最終的にエンライテンドが東京で勝利した。

 巨大フィールド自体は、北海道のレジスタンス側エージェントが吹雪の中、襟裳岬にたどり着いて、イベントの最終盤(17時8分)に破壊したという。なお、サテライト会場では、オークランド、フィリピンでエンライテンドが、ソウルではレジスタンスが勝利し、東京を主戦場とした今回のイベントはエンライテンドが勝った。しかし東京以外の戦いを含めると、Darsanaシリーズはレジスタンス側が勝利しており、今後のストーリーに影響を与えるとみられる。

アフターパーティで真鍋大度氏のVJプレイ、オリジナルグッズも

 戦いを終え、結果が発表される会場に次々とエージェントたちがやってきた。会場は2つのスペースに分かれ、メイン会場では真鍋大度氏がVJプレイを披露。Ingressの戦況をリアルタイムに取得できるAPIが今回用意され、それを利用した映像演出と、Ingressのサウンドを組み合わせたVJプレイに多くのエージェントが目を奪われ、刻まれるビートに疲れきった体をゆだねた。

真鍋大度氏らによるVJプレイ
リアルタイムの戦況をAPIで取得、演出に取り入れた

 会場のもう一方は有志が作成したオリジナルグッズの頒布会場。ピンバッジやキーホルダーといったアイテム、あるいは同人誌、そしてジーンズなど、いずれも完成度が高くエージェントの心をくすぐる仕上がり。前日の本誌インタビューで、そうしたグッズを楽しみにしていたハンケ氏も開場直前、ブースを見て回り、日本のクリエイティビティに目を細めていた。

アフターパーティの開場直前、オリジナルグッズをチェックするハンケ氏
同人誌もいくつかならんだ
エージェントをモチーフにしたステッカー。このステッカーは川島氏も高く評価するコメントを述べていた
普段使いできそうなアクセサリー
両陣営分のデザインが用意されたジーンズ。筆者も欲しかったが、取材しているうちにこれらのグッズはほぼ売り切れたようだ
開場直後から長蛇の列ができたアクセサリー
忍者のオリジナルコスチュームで頒布する人も
かなり広いスペースだったが、続々と来場するエージェントで埋め尽くされた

 先月、スポンサーになったばかりのローソンもブースを構え、飲食物などを販売。さらに「LAWSON賞」からあげクン1年分も用意された。この賞品には会場からも大きな笑い。このほか、「Ingress賞」として、日本未発売で1インチセンサーを搭載し、スマートフォンとしても使えるパナソニック製デジタルカメラ「LUMIX CM1」が、会場内にいる数千人のエージェントのうち、1週間で最も長い距離を移動した人(142km)に贈呈された。このほか、モバイルバッテリーを手がけるcheeroからバッテリーがプレゼントされたほか、Ingressとコラボしたオリジナルバッテリーも発表された。

ローソンのブース
ローソンとIngressのコラボに尽力したローソンの中の人はレベル11のエージェントとのこと
cheeroから発表されたバッテリー。別記事でご紹介する

 壇上にたった川島氏は「5月の石巻のイベントは100人、集まっていただいた。その50倍以上になったというのは考えられない。本当に幸せで……ちょっとグッときて言葉が出てこないんですけども……(うつむく川島氏に会場から拍手)」と感無量の様子。

うつむき、言葉に詰まる川島氏

 また結果を発表したハンケ氏は、「N'zeerは近づいていたが、エンライテンドが今日のイベントをコントロールした。N'zeerは遠ざかるかもしれません。まずは両陣営の素晴らしい活動に拍手を。今回は世界でも日本でも最大の戦いだったが、これで最後ではない」と、これからのストーリーに期待をもたせた。

いよいよ新メダル発表!

 エージェント待望の新情報もあわせてお伝えしよう。Ingressでは、プレイ内容に応じてメダルが付与され、その実績が積み重なると高ランクのメダルがもらえる。そのメダルとして、新たに「Trekker」「Spec Ops」「Engineer」が追加されることになった。

 近日中に実装される予定のメダルで、Trekkerは移動距離に応じたもの。移動距離は基本的に歩行時、自転車走行時などにカウントされ、電車や自動車などはカウントされない。Spec Opsはユーザー作成のミッションのクリア数、Engineerはポータル強化アイテム(Mod)のインストール数に応じて付与される。今後も新たなメダルの導入が検討されるようだ。

Trekker
Spec Ops
Engineer

 またブラウザで利用できるマップ「Intel Map」には2つの新機能が導入される。1つはリージョナルスコアの確認機能。これは地域ごとの勢力情報で、今までアプリでしか確認できなかったが、パソコンやスマートフォン、タブレットのブラウザでもチェックできるようになった。もう1つは、Link Planning機能と呼ばれるもので、ポータルとポータルの間をリンクしたいとき、邪魔なリンクがどれかわかるようにするもの。巨大なフィールドの構築などがスムーズになるよう用意される。

地域ごとのスコア、ランクを確認できる
リンクを構築するとき、事前に検証できる

 このほか、ポータル申請については「申請があれば、その地域のエージェント側でレビューして承認するかどうか、といった機能を検討している」(ハンケ氏)ことも明らかにされている。ただしこの機能がいつ、どういう形で導入されるかは未定だ。

 またユーザーが作成する「MISSION」機能について、劇中のキャラクターであるADA、Klueが登場する“公式ミッション”も登場しはじめているとのこと。

関口 聖