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「KDDI∞Labo」第7期が終了、医療機関向け「Dr.JOY」が最優秀賞に

8期は日立とセゾンが参加、大阪の支援団体と提携も

 KDDIは、ベンチャー育成プログラム「KDDI∞Labo」の第7期プログラムが終了したことを発表し、最優秀チームに「Dr.JOY」を開発したDr.JOYを選定した。また、募集が開始されている第8期では、KDDI以外の企業も支援に参画するパートナー連合プログラムで新たに日立製作所、クレディセゾンの2社が加わることも明らかにされた。

「KDDI∞Labo」第7期プログラムを終えた選定チーム

 第7期のプログラムは、2014年9月24日に5チームが発表されており、それぞれメンタリング企業やKDDIのメンターのスタッフとともに、現在までにサービスの開発や拡大を行ってきた。

 最優秀チームに選ばれた「Dr.JOY」は、現役医師が1年間病院に住み込んで機能を考えぬいたという医療機関専用のソーシャルプラットフォーム。医師や看護師との間や、医師と医薬情報担当者を結ぶために開発されており、さまざまな情報を迅速に共有できる。医療機関でPHS以外の通信端末も利用できるようになった制度の変更も追い風になっているという。「Dr.JOY」は山口県の医療機関でトライアルが実施されたほか、大学病院の東京医大、東京女子医大、旭川医大での導入が内定している。メンタリング企業は三井物産で、事業立ち上げのサポートを中心に、製薬会社や病院の営業先を紹介する支援も行われている。

 「KDDI∞Labo」第8期のプログラムは、募集領域に変更はない。パートナー連合プログラムは強化され、日立製作所、クレディセゾンの2社が加わり、合計15社で支援を行う。日立製作所からはモノづくり系のビジネス開発のノウハウが提供される予定で、日立製作所 中央研究所からも人員が参加する見込み。クレディセゾンは決済系のノウハウや会員資産を活用したテストマーケティングで協力する。

 第8期のメンタリング企業は、15社の中からクレディセゾン、テレビ朝日、凸版印刷、日立製作所、三井不動産の5社が選ばれている。そのほかの企業もサポート企業としてさまざまな支援を行っていく。これらの企業は、従来同様、選定チームのサポートがあくまでも中心になり、メンタリング企業の理念や方針を実現するために支援を行うことはしない、というのが前提になっている。

 また、第8期では政府が提唱する地方創生を推進する取り組みとして、地方のスタートアップ支援団体との連携もスタートする。第1弾は「Osaka Innovation Hub(大阪イノベーションハブ)」との提携になる。

 このほかKDDIは、第6期プラグラムで最優秀チームに輝いたMist Technologiesに対し、出資を発表。半径10mまでの離れた場所にある機器へ、ワイヤレスで給電が可能になる技術「Cota」を提供する米Ossia.Inc(オシア)と資本提携も行うことも発表されている。

成果をプレゼンテーションで披露「KDDI∞Labo 7th DemoDay」

 27日には、第7期プログラムの成果をプレゼンテーションで披露する「KDDI∞Labo 7th DemoDay」が開催された。第7期プログラムに選定されていた5チームが成果をプレゼンテーションで披露し、前述のように最優秀チームに「Dr.JOY」が選ばれたことが発表された。会場に集まった人がスマートフォンアプリで投票するオーディエンス賞も「Dr.JOY」が獲得し、2冠を達成してのスタートとなった。

「Dr.JOY」

 第7期プログラムの総括と、第8期の新たな取り組みについては、KDDI 代表取締役執行役員専務 新規事業統括本部長の高橋誠氏から説明された。

 高橋氏からは、今期におけるメンタリング企業からの具体的なサポート内容や、そのほかのサポート企業からも積極的にアイデアが出された様子が説明された。

 高橋氏は、「KDDI∞Labo」や「Syn.」などを含めたKDDIの一連の取り組みには「ビジネスマッチング」の考えがあるとする。「今、1社だけでは、ユーザーとの接点を(すべて)捉えることは難しい。ビジネスマッチングでこれを最大化できる」と高橋氏は語り、ベンチャー企業を含めて、企業同士がビジネスマッチングで最適に連携することで、各社が持つユーザーとの接点を持ち寄り、それを最大化できるとした。

Mozilla、ソニー、オリィ研究所、KDDIのパネルディスカッション

 「KDDI∞Labo 7th DemoDay」の後半には、Mozilla Japan、ソニー、オリィ研究所、KDDIの各担当者を招いたパネルディスカッションが開催された。

 Mozilla Japanからは代表理事の瀧田佐登子氏、ソニーからは新規事業創出部 I事業準備室 「MESH project」リーダーの萩原丈博氏、オリィ研究所からは、所長で遠隔操作のコミュニケーションロボット「OriHime」を開発した吉藤健太朗氏、KDDIからは商品統括本部 商品企画部 グループリーダーで「Fx0」開発責任者の上月勝博氏が登壇した。

CESで体感したIoTの熱気

 各氏から自社や自身の取り組みが紹介された後、1月初旬に米ラスベガスで開催され、IoT関連でも盛り上がりをみせた「2015 International CES」の感想が聞かれた。

 Mozillaの瀧田氏は、ベンチャー企業が開発するIoT関連製品の展示について「ベンチャーの熱気がすごく、不思議な気分。完成度が高く、こだわりが強い。センサー技術が見える化し、メイカームーブメントも影響しているのでは」と語ると、同じく会場に行ったというソニーの萩原氏は「海の中からふつふつと生物が湧いているようだった。開発コストも安くなっており、Webでホームページを作り始めたときのような動きが、ハードウェアの世界にも起こっている」と、独特の熱気に包まれていた様子を語った。

 瀧田氏は「プロトタイプを作ることが非常に重要で、ネットに情報はあり、声をかければなにかしらのものができる状況にある。大企業はがんばらないと(笑)」とメイカームーブメントの盛り上がりを指摘すると、萩原氏は、自身の「MESH」なども織り交ぜながら、「だれでも作れるようになると、いろんなアイデアが試せるようになる。プロトタイプもコストをかけると数を試せない。2分で作れて体験できれば、悪いところもすぐに分かる」と、ハードウェア開発の速度が上がっている様子を語る。

 KDDIの上月氏はこれらに関連し、「大企業としては、試されている。そうしたものにどう向き合うか。Fx0は会社をだますような勢いでやった。セパレート(クローズド)だと、自分たちの範囲でしか進化できない。進化しききらない」と、瀧田氏が「ガラス張り」というMozillaと連携してこれまでにないスタンスで取り組んだ様子を語った。

 オリィ研究所の吉藤氏は、「誰でも作れるようになったとき、何を作るかは、どういう経験を持っているかによる」と、アイデアを生み出す素となる経験も重要になるとした。

「Webを人間により近い存在に」

 IoTを含めて、これから実現したい世界とは? と聞かれると、瀧田氏は「Webを、ヒューマノイドのように、人間により近い存在にしたい」と語る。これは、業界歴20年という同氏が、Webだけでは進化しないと考え、「リアル」に踏み出して「Web+リアル」の世界をつくり、そこに人がどう介在していくのか、と考えた末の世界観。

 萩原氏は、「体験がキーワード。モノというよりコトを作る。例えば、リモコンをよく紛失するので、リモコンを机に埋め込みたいという話があった。リモコンはそこでしか使わないからと。さまざまな場所に(リモコンにもなる)デバイスが埋め込まれていて、カスタマイズ可能になっていれば実現できる」などとして、なぜそのデバイスが必要であるのか、きっかけになる体験とはなにであるのか、といった考えを披露した。

 この日、吉藤氏の前のテーブルには小さなロボット「OriHime」が置かれ、呼びかけに応じて顔を向けたり手を挙げたりしていたが、これは人工知能などではなく、21年間寝たきりというある患者が、ロボットに搭載されたカメラなどの情報を通じて、あごの動きだけで遠隔操作しているもの。現在「OriHime」はパソコンを介してインターネットに接続されているが、今後は単体でインターネット接続ができるような開発や、量産モデルの開発も行っていくとした。

 吉藤氏は、幼少期には病弱で登校できないほど入院を繰り返していたという。この10年の同氏のテーマは「孤独」(の解決)。10年前ごろは、自身も利用経験があるという車いすの新機構を開発していたといい、「なぜ車いすに乗るのかというと、極端にいえば、人に会いに行くために乗る。インターネットは人と人とをつなぐもの。病院のベッドでずっと動けない人というのは、人にしてもらうことが辛い。人に与えるものが無く、荷物になると感じて辛い。しかしインターネットを使って、自分の意思によって物事を動かせれば、役に立てる。意思や言葉を補充することがインターネットでできる」と、ソフトウェア、ハードウェア、インターネットを連携してテーマに取り組んでいく様子を語った。

太田 亮三