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杜の都はスマホアプリの都へ、グローバルラボ仙台コンソーシアム

 東北地方最大の都市であり、東日本大震災の復興の中心地としての機能を担う仙台市。同市では、スマートフォンアプリの開発で地域振興を加速させようという動きが出てきており、その中心となるのが「グローバルラボ仙台コンソーシアム」(GLS)という組織だ。

 同組織のメンバーとして活動を支える、仙台市経済局 産業政策部 産業振興課 事業推進室長の白岩靖史氏と、SMC東北株式会社 取締役 新規事業開発部長 GLSゼネラルマネージャーの大西清氏に活動内容について聞いた。

SMC東北株式会社 取締役 新規事業開発部長 GLSゼネラルマネージャーの大西清氏
仙台市経済局 産業政策部 産業振興課 事業推進室長の白岩靖史氏

 GLSの面白いところは、フィンランドとの強い結びつきにある。フィンランドと言えば、かつて世界最大だった携帯電話メーカーのNokiaの本拠地であり、近年ではスマートフォン向けのゲームアプリ「Angry Birds」で一世を風靡したRovio Entertainmentを生んだ地でもある。後者はともかく、前者についてはスマートフォン事業への移行が遅れ、2011年2月にマイクロソフトとの業務提携を発表。その後の人員整理により大量の失業者が発生することとなった。

 大西氏は、「東日本大震災とノキアショックからの復興は同じ時期にスタートしたはずなのに、スピードが全然違った。我々が参考にし、提携したオウル市は、環境的にも冬が厳しく東北地方に似ている。ただ、オウルには元々ノキアの研究所があって、20万人ほどの町に400~500のIT企業が存在する。何度か通ううちに、付き合っている人たちの車がどんどん良くなり(笑)、東北でITを伸ばさないといけない、彼らをお手本にしないといけないという気持ちが出てきた」と振り返る。

 白岩氏によれば、仙台市とフィンランドでは健康福祉などでの交流プロジェクトが10年にわたって実施されてきており、こうした母体の存在がGLSの活動を後押しした。「オウル・ゲーム・ラボ(OGL)というオウル応用科学大学内の組織を大西さんと見に行ったが、ビジネスに近いところで実践的にやっていた」(白岩氏)という。

 白岩氏は、OGLの様子を次のように説明する。「まず30人の学生を2人ずつのペアにして、どんなゲームを作りたいかを考えさせる。それが企画の内容で15チーム→10チーム→5チームとどんどん絞り込まれていく。脱落した学生は残ったチームに入って自分の役割を担う。企画が通らなかった人の能力を否定するわけではなく、生き残ったチームの中でリーダーになる人もいる。とにかく、考え方としてフェイル・ファーストで、サバイバルできる人を育てる仕組みができている」。

 「仙台にもIT企業は数百社あるが、支社も多く、これといった特徴が無い。東京に出て行ってしまう学生を仙台に留まってくれるようにしたい。震災後に起業する人も増えており、この機を逃す手はない」と語る白岩氏。GLSでは、機運を高めるため、2015年2月にアプリコンテスト「DA・TE・APPS! 2015」を開催。有名なアイドルをMCに迎え、審査員には遠藤雅伸氏や高橋名人らを招いて華々しく実施した。同コンテストは、次回の開催も予定されているという。

 また、少しずつではあるが、GLSの活動の実績も見えてきた。前述の大西氏の会社がフィンランド生まれの誰もが知るキャラクターのカメラアプリ「MOOMIN PHOTO」をリリースしたのだ。大西氏は、「最初は全く相手にされなかったが、何度も通ううちに会ってみないかという話になり、日本というより世界でどういうシナジーを生み出せるかということを話した。そんな中で契約に至った」と嬉しそうに語る。

「DA・TE・APPS! 2015」の模様
「MOOMIN PHOTO」

 このほか、GLSでは、仙台高専の学生に呼びかけ、男子学生1名を1カ月間OGLのプロジェクトに送り込んだ。「その学生は全くの別人になって帰ってきた。リーダーの素質が備わり、起業したいとまで言いだした。その彼が今回のコンテストでアイディア部門で賞を取った。これで、GLSでの取り組みを続けないといけないという気持ちが一層強くなった」(大西氏)という。

 フィンランドの知恵と力を借りながら、スマホアプリをテーマに、人材育成、起業支援、事業拡大、雇用創出という流れを仙台に根付かせる取り組みが続けられている。

湯野 康隆