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BTOスマホ「ARROWS M305/KA4」を製造する富士通の工場に潜入!

上がカメラありモデル、下がカメラなしモデルのフレームと完成品

 富士通がオリジナルブランドとして提供を開始した法人向けスマートフォン「ARROWS M305/KA4」。クアッドコアCPUと有機ELディスプレイを採用するAndroid 4.4端末で、ARROWSシリーズでおなじみの指紋センサーの搭載も可能で、法人向け端末に求められるセキュリティにも配慮したSIMフリーモデルだ。

 MVNO各社から販売されるコンシューマー向けモデルの「ARROWS M01」と似たスペックではあるが、M01にはないARROWS M305/KA4の最も特徴的なポイントは、BTOオプションを選択できるところだろう。メモリ・ストレージ容量の組み合わせを3パターンから選ぶことができ、カメラの有無、指紋認証の有無に加え、ソフトウェア面のカスタマイズまで対応している。

カメラありモデルは見慣れた外観
カメラなしモデルはフレームの段階でカメラレンズとLEDライトがダミーに置き換えられている
こちらは法人向けタブレット「ARROWS Tab M555/KA4」のカメラあり・なしモデル
スマートフォンと同じようにカメラとLEDライトはダミー

 一般的にODM(外部委託製造)による生産手法が選択されることの多いスマートフォンでは特に、一定以上のまとまった数量を生産しない限り、ユーザーが希望する細かなカスタマイズを施した状態で提供することは困難とされている。多数のカスタムパターンから適切なハードウェアを選択しなければならず、それに合ったシステムのリビルドも必要になり、膨大な手間と管理コストがかかってしまうためだ。

 先日本誌に掲載した同社へのインタビュー記事では、BTOを可能にするのが「国産ならではの強み」としてアピールしていたが、実際の生産現場ではどんな体制で「ARROWS M305/KA4」を製造しているのだろうか。その秘密を探るべく、兵庫県は加東市にある富士通の製造工場に潜入した。

3拠点で多数の富士通製品の製造・修理を担う

「ARROWS M305/KA4」を製造する富士通周辺機の本社

 富士通の工場といっても、実体としては富士通周辺機株式会社という富士通による100%出資子会社の工場で、富士通のさまざまな製品の製造を請け負う形で生産されている。今回訪問した加東市にある本社工場では、スマートフォンやタブレットだけでなく、モニター、タブレットPCなど、富士通が手がける製品の多くを製造。他には同じ兵庫県の明石市に「明石事業所」があり、大型プリンター装置の開発・製造、PCの修理などを担当している。

富士通周辺機の拠点は全国に3箇所

 また、栃木県には主に携帯電話等の修理を行う「リペアセンター那須分室」が設置されている。ちなみに機器の修理については本社工場が西日本エリアを、那須分室が東日本エリアをそれぞれ担当するという役割分担にもなっているという。

 以上のように、同社は3つの拠点で多くの富士通製品の製造・修理をカバーしており、中でも本社工場は、スマートフォン、タブレットPC、モニターといった一般ユーザー向けの主力製品を取り扱う、ある意味最も大きな役目を負っている主要拠点と言える。

自動化、ロボット化、3D CGにより作業効率を飛躍的に向上

他のメーカーの巨大な工場も建ち並ぶ工場地帯に富士通周辺機の本社工場がある

 本社工場の敷地面積は7万5980平米、2階建ての建物の延床面積は3万4960平米。サッカーグラウンドでいえば、建物の床面積だけでおよそ4~5面分もの広さがあることになる。もちろんその全てが工場のラインというわけではなく、研究・開発施設なども含まれており、訪問した際の外観の第一印象も、いわゆる工場然とした巨大で殺風景な建造物というよりは、一般的なオフィスのようなたたずまいだった。

 ロボット技術の導入による生産の自動化にも積極的に取り組んでいる。既製品のロボットアームなどにパーツの自動供給装置、カメラによる物体認識装置といった独自開発の周辺機器を組み合わせ、「人と協調して」稼働する自動化ソリューションを生み出しつつ、効率的な生産体制を確立している。

富士通周辺機 第一事業部長 福田 智章氏

 例えば同社が製造を手がけている製造台数の多いスマートフォンの生産では、2013年は自動化率22%に止まっていたものの、2014年は自動化率45%、2015年中には70%を目標としている。「自動化を増やすことで、さらなる品質向上を目指す」(同社第一事業部長 福田 智章氏)のが目標だ。

肉眼では砂にしか見えないような微細なチップの実装にも対応
これら超小型の防水ネジもロボットが締めることで人間の手によるミスを減らす

 また、同社の高い技術力の証明ともいえるのが、富士通の「VPS(Virtual Product Simulator)」と呼ばれる試作ツールの導入だ。3次元グラフィックを用い、設計・製造上で一貫したインターフェイスで製品データを活用するものだが、製品の組み立て指示書の内容をVPSのアニメーションによってモニター上で正確に把握できるようにすることで、作業内容の検証や作業管理者との意思疎通を円滑にしている。

 また、新規に製造ラインの設計をする場合に、工場のライン内に機材・設備配置や作業者の行動を3次元グラフィックで視覚化し、仮想の生産ラインを構築して、最適な生産ラインをシミュレーションする「GP4(Global Protocol for Manufacturing)」も導入している。

柔軟なカスタマイズを提供するために重要な4つのポイントとは

ARROWS M305/KA4の製造ライン

 さて、肝心のARROWS M305/KA4のBTOオプションだが、以上のような同工場の機能を最大限に活用することで、「スピーディ・フレキシブル・高品質・高セキュリティ」といった4つのポイントを実現し、初めて提供できるものとなる。

 「スピーディ」は、製造とカスタマイズを国内の同一工場で一括して行える体制とすることで、ユーザーの手元に届くまでの時間を短縮できるようにしている部分。また、全てが国内で完結していることもあり、ユーザーからのフィードバック、あるいは工場から富士通本社開発部隊へのフィードバックがスムーズになるのも利点だ。開発部門、営業部門なども国内にあり連携がしやすいことから、「フレキシブル」な対応ができるのもメリットと言える。

 フレキシブルな点としては、主に流通のシンプル化による時間と場所の削減が可能になった。従来の仕組みでは、ハードウェアの製造後とユーザーへの配送までの間に、(ソフトウェア設定を含めた)カスタマイズを請け負う事業者を経由し、製品保管用の倉庫に納入するという流れが挟まれていた。ところがARROWS M305/KA4では、同社の中で端末製造とカスタマイズ、梱包までが完結する。

 「高品質」については、すでに述べたようにロボットの導入などによってライン上での組み立て作業の自動化が進んでいることが大きい。画像認識用のカメラを用いた人間の目に頼らない部品検査の高精度化などによって、ミスが発生しやすい人間の手による作業が少なくなり、より高い完成度の製品を確実に作り出すことができる。

通話機能については、人間の手と耳、声を使って確認する
当然ながらハンズフリーでも問題なく動作するかチェック
「CPCセンター」のセキュリティ設備

 最後の「高セキュリティ」は、IDカードによる入退室管理と、モニターを使った工場内の24時間監視が行われている点。さらに、個人情報等(Googleアカウントの事前設定など)を取り扱うことのあるソフトウェア面のカスタマイズ「カスタムメイドプラスサービス」においては、その作業を専門に行う独立エリア「CPCセンター」を設け、別個のIDカード、暗証番号、生体認証システム、専用監視カメラで入退室管理を厳格化しているのも特筆すべき点だろう。

長年の経験と高度な技術により実現した、まさに「国産ならでは」の端末

現在も行われているPC製造におけるデジタルピッキングの様子

 同社では2010年に、カバーデザインの違いなどで1万2544パターンのパーツの組み合わせをもつ携帯電話「F-01C」の製造を経験している。当時は、選択オプションパーツの組込工程に対象パーツの保管棚を設け、ユーザーの注文情報に応じて作業者が各パーツをピックアップしてキッティングを行う「デジタルピッキング」の環境を構築して対応していたという。

 一方、現在のARROWS M305/KA4の製造では、ユーザーの注文情報から製造に必要な情報が直接生成され、それに適合するハードウェア構成が自動で選別されてラインに流れる仕組みへと進化。基板製造から端末の完成に至るまで、1台1台の端末の識別に画像認識用のカメラや二次元バーコードなどが用いられ、注文情報とラインの各段階でできあがっているものに相違がないか、常にチェックできるシステムも構築されている。

基板に“はんだ”を塗布しているところ
この前の時点ですでに基板には識別用のバーコードがプリントされている
微小なチップがロール状にセッティングされ、自動で基板上に配置される
できあがった各種基板のサンプル

 ラインの各ポイントを監視カメラで記録していることもあり、完成した製品を出荷し、ユーザーに端末が届いた後も、その端末がいつ、誰の手によって、どういう機器構成で製造され、どのロットのパーツが使われたのか、といったところまで明らかにできる。万が一製品に問題があると報告されたとしても、どこに原因があるのか、あるいはないのかを突き止められる。

なお同工場ではドライバーの眠気を検出する「FUJITSU Vehicle ICT FEELythm」も製造されている

 このようなシステム化、自動化された製造ラインと、厳格なチェック機構のもと、ユーザーが望むオプションで組み立てられ、迅速に製品が届けられるのが、富士通の提供するBTO対応の法人向けスマートフォン「ARROWS M305/KA4」というわけだ。

 一言で「BTO」といっても、ここまでの高度な設備と管理システムを構築できてこそ成り立つもの。「国産ならではの強み」は、決して誇大表現などではなく、富士通と富士通周辺機が長年の製造経験と高い技術を背景にした本当の「強み」であることが、お分かりいただけたのではないだろうか。

日沼諭史