ニュース

「起業家集団」として“世界のソフトバンク”に、孫氏の野心と展望

 ソフトバンクは、2014年度(2015年3月期)の決算を発表し、都内で報道関係者向けに説明会を開催した。ソフトバンク 代表取締役社長の孫正義氏からは、いずれも好調という連結決算の概要が説明された後、今後の世界展開への展望などが語られた。

 孫氏は登壇するとまず、「これからは、世界のソフトバンクが日本にも事業を展開するという形になる。今年は大きなトランジション(変化)で、第二のステージに向かう重要なトランジションである」と語り、世界展開を加速させることを窺わせた。

ソフトバンク 代表取締役社長の孫正義氏

 連結決算については、詳細に語られることは少なく、前年の一時益の関係で営業利益減少しているものの、一時益を除くと増加傾向が続いている点や、通信事業において、スマートフォンの新規獲得が順調であること(ワイモバイル事業)、周辺機器の市場も5年で7倍と売上が拡大している状況を説明。

 通信事業のインフラ・ネットワーク面では、「最近では、みなさんの周りでも、ソフトバンクだから繋がらない、とは聞かなくなったのでは。スピード面でも他社を上回ることが、毎日、確認できている。1~2年前までは信じがたいことだったが、今は疑う余地もない」などとした上で、「国内での通信事業は十分に、継続して成長させることができる体制が整った。そこで、宮内がソフトバンクモバイルの代表取締役社長兼CEOになった」と語り、通信事業の舵取りを宮内氏に譲った経緯を語った。

 Sprintを通じた、北米での通信事業については、「SprintとT-Mobileを合併させて、米国で3位の事業者を狙ったが、諸般の事情で難しくなった」と当初の目論見を明らかにする一方、Sprint単体でも純増やネットワーク品質の改善により「自信が深まってきた」と手応えを語り、特に、今後着手するという次世代のネットワークの構築については、設計段階から孫氏が密接に関わっているとし、「実施するのはこれからだが、自信が出てきた。明るい兆しが見えてきたと思っている」と、悲観的な状況から抜け出しつつある様子を語っている。

インターネット企業への投資を本格化「第二の事業に」

 孫氏はこの日、国内の通信事業やSprint事業を「通信」分野の事業と位置付け、ソフトバンクの第二の事業が「インターネット」であるとした。

通信事業に続く「第二の事業」を明確に示した

 「通信インフラにほとんどの精力を使った。頭の使い方から時間の使い方まで、その九十数%をインフラに傾けてきた。インターネット企業への投資は趣味のように(細々と)続けていた」と振り返る孫氏。ここ数回の決算会見では、インフラを含めた通信事業が“収穫期”を迎えて一段落したことが示され、世界中のインターネット企業に大規模に投資を行っていることが披露されている。

 孫氏は、そうしたインターネット企業への投資や連携、グループ化といった取り組みを、モバイル事業を手がける前に行っていたものであるとし、「本格的に、世界のソフトバンクになる。そういう展開(以前の取り組み)をもう一度、加速させたい」とする。

 アリババは、同社の投資先の中でも最大規模で成功した企業のひとつ。孫氏は最近行ってきた意見交換により、「非常に明るい未来がアリババにはある」とさらなる成長に自信を深めており、「この規模で、なおかつ相当な伸び率を示しているのは驚異的。この10年に、さらに伸び続ける、さまざまな要素がある。そういう風に自信を深めた」と語っている。

 孫氏はほかにも、ヤフーやガンホー、スーパーセルといった成功を収めている企業のほか、インドのsnapdealの取扱高は前期比301%増、インド版UBERというOLAは投資後にシェアを60%から80%に拡大したことなどを挙げ、「これらは戦略的な企業集団の一部で、ほかにもたくさん、このような会社がある」とさまざまな投資を行っている様子を語る。

30年で成長が止まる? 孫氏が語るテクノロジー企業の寿命と解決策

 ベンチャー企業への投資やその急成長ぶりが語られると、孫氏自身が見聞きしたり経験したりしてたどり着いたという持論が「テクノロジー企業の問題点」として示された。

 それは、30年が経つと、テクノロジー企業の多くは、成長率でほとんど成長しなくなるというもので、「世界を制すると思われたIT業界のトップブランドでも、続々とピークを過ぎ、実質的な成長が止まっている。みなさんも思い当たると思う。これらには共通する、“30年ライフサイクル問題”がある。原因は3つ。テクノロジーが古くなる、創業者が歳をとる、ビジネスモデルが古くなる。これら3つのキーファクターが陳腐化するということ」と孫氏は指摘する。

テクノロジー企業の“30年ライフサイクル問題”は、テクノロジー、創業者、ビジネスモデルがキーファクターとした

 「嘆いてばかりではいけない。解決策はなにか。我々ソフトバンクは、この30年でも、次の30年でも、決して大企業には“成り下がり”たくはないということ。大企業に“成り下がる”ことは、私にとっては最大の屈辱。最大の失敗である。ソフトバンクは30年たった今もベンチャラスでありたい。輝いていたい。伸び続けていたい。そのための解決策はなにか。それは、我々自身が、革新的な、起業家集団であるということ。野心的で、冒険的な起業家集団でありたい」

 孫氏はこのように語り、最近になって取り組みを拡大しているインターネット企業への投資などが、こうした考え方に基づくものであることを示した。

 孫氏はまた、ベンチャーキャピタルのように規定の年数で投資の回収を行うのではなく、銀行のように金利を得る立場でもないとし、「同じ起業家として、彼らと同じスピリッツを持ち、同じ空気を吸い、同じ目線でビジネスモデルを改革する。そういうソフトバンクは、野心的な起業家集団そのものである」と立場を示したほか、「日本では、自分たちで作ったビジネスモデルを世界で展開しにくいと言われるが、私の考え方は、日本そのものを持っていくのではなく、世界の企業と共に挑戦していくこと。それが、大企業に“成り下がらない”解決策だ」と、自身で「世界でも珍しい」という世界展開の秘訣を開陳した。

 孫氏からはこの後、「“世界のソフトバンク”にするのを担う重要なパートナーを得た」として、ニケシュ・アローラ氏が、ソフトバンク 代表取締役副社長に就任予定であることが紹介され、孫氏自身の“後継者”の候補であることも明らかにされた。 ※ニケシュ氏については別記事を参照していただきたい

国内モバイル市場は「ゼロサムゲーム」

 質疑応答の時間には、ソフトバンクが「第二の事業」としてインターネット企業への投資やグループ化を積極的に行っていくのが、なぜこのタイミングなのかと問われた。孫氏は「国内は軌道に乗った。Sprintもマルセロが軌道に乗せている。インターネットの世界は加速しており、機会を逃したくない。第二のステージとして、“世界のソフトバンク”に生まれ変わると心に決めた」と、機を逃さず世界に打って出るタイミングであることを語った。

 国内モバイル事業の純増数の推移や、SIMロック解除の義務化に伴う影響を聞かれると、孫氏は「日本の今のモバイルの実質的な純増・純減はゼロサムゲームだ」と指摘。「しばらくの間、大きな変動が急激にやってくるとは考えにくい。今はしっかりと今あるものを効率的にマネジメントし、着実に、ピカピカに磨いていく。SIMロック解除も他社と同じように対応する予定だが、これもまたゼロサムゲームと変わらない状況だろう」との見方を示した。

太田 亮三