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2000人が東北で遊んだ1日~Ingress「Mission Day」

 21日、グーグル社内のスタートアップ、ナイアンティック・ラボの位置情報ゲーム「Ingress」のイベント「Ingress Mission Day in Tohoku」が開催された。前日の20日には、仙台を舞台にした公式世界大会「Persepolis(ペルセポリス) in Tohoku」が開催され、2つの陣営に別れて戦ったエージェント(プレイヤー)たちが一転、街を巡りまくる行脚の旅にチャレンジした。

21日午前の石巻駅前。多くのエージェントが訪れた

ミッションとは

 Ingressには、ミッションと呼ばれる機能があり、エージェントの誰かが投稿したルートに沿って行動していくとメダルを獲得できる。この“ミッションメダル”のほか、一定の実績に達した場合や、イベントに参加することで得られるメダル(実績メダル)もある。Mission Day(ミッションデー)は、指定されたミッションをクリアすることで、ミッションメダルを得るだけではなく、1つのイベントに参加した、ということでMission Dayの実績メダルをもらえる。どちらも参加者だけが得られるものだけに、希少性が高く、エージェントとしては、機会があればぜひ得たいと考えるだろう。

スタッフの説明を聞く、石巻のMission Day参加者

 海外ではいくつか実施されたことのあるMission Dayが今回、日本で初めて、それも「仙台」「石巻」「女川」「八戸」「盛岡」「陸前高田」「福島」「大仙」、計7カ所という大規模な形で実施されることになった。その内容は地元のエージェントが企画、運営するというもので、直前になって実績メダルを得るための課題が明らかにされた場所もあった。20日には仙台に4000人集まったが、翌21日に各地を訪れるエージェントの数は2000人に及んだ、とナイアンティック・ラボではみており、イベントを終えた現在、各地から訪問者数が報告されつつある。

1年ぶりの石巻を歩いてみた

 約1年前の2014年5月、筆者は、石巻で開催されたIngressの公式イベントを取材した(※関連記事)。津波の被害が甚大だったエリアは避けつつ、津波による被害を受けた地域を一望できる日和山エリア、店が建ち並ぶ商店街エリア、石巻ゆかりの漫画家・石ノ森章太郎のミュージアムがあって津波の被害も受けた中瀬地区といった場所にポータルが生み出され、地元のエージェントを含めて、当時100人が石巻を訪れた。

常設ブースとして用意された場所には、「Mission Day」の実績メダル配付開始時に多くの人が集まった

 それから1年、石巻を訪れたエージェントは400人以上になったと見られる。隣接する女川でのミッションを追えたエージェントも午後になって石巻を訪れた、ということもあったようで、1日中、多くのエージェントで賑わった。

 多くの人が訪れたためか、Mission Dayの実績メダルのパスコードが記されたアイテムカードがどんどんなくなり、入手できなかった人もいるようだが、現地では別途、そうしたエージェントの情報は受け付けており、後日、付与されるようだ。

 筆者も、1年前とはすれ違うエージェントの数が段違いに多くなったと感じ入った。1エージェントとしてMission Dayの課題を進めていると、1年前に出会った東北と関西のエージェントたちと再会して、今回のイベントだけではなく、これまでの彼らのIngressライフのエピソードを楽しく聞いた。

石巻で再会したエージェントたち。

 Mission Dayの課題として用意されたミッションは全部で9種類。その内容は、石巻をじっくり歩かせるもの。街にはレンタサイクルもあるようで、それを利用したエージェントもいたようだ。筆者自身、最初は全てクリアしたいと考えたが、実際には街中を行ったり来たりして、相当の距離を歩くことになり、歯ごたえがかなりあった。大きな荷物を持っていたこともあって、1番目にチャレンジしたミッションだけで1時間以上の時間がかかってしまい、それをクリアしたところで目標を切り換え、Mission Day用のメダルをもらえる条件(課題ミッション9つのうち3つをクリアする)だけを目指すことにした。石巻駅周辺にもロッカーはいくつかあるが、これだけの人数が一度に訪問するとなると、仙台駅のほうでロッカーを利用すればよかったと反省。実際、その手段を選んだ人もいた。

 1年ぶりに訪れた石巻の街並みは、あまり大きく変わっていないようだった。石ノ森章太郎のミュージアムにほど近い場所のガードレールは、津波の影響か、今もねじれたまま。一方で、ところどころで建築中の建物があったり、津波で消失した公園の跡地のすぐ横で休憩所のような設備が作られているところを目にできた。

石ノ森萬画館をのぞむ橋のたもと。ガードレールのゆがみは去年と同じ
下で紹介するポータル「萬画館向かいの公園」のすぐ横に、新しい設備
失われた場所のポータルの1つ

 ちなみに石巻でエージェントを出迎えるポータルの一部には、震災で失われた場所もある。Ingressを通じて震災前の様子を伝えようとする試み。そうしたポータルはいくつかあり、おそらくナイアンテック・ラボの川島優志氏が作成者であるミッション「キオクを巡る石巻」もある。今回のイベントに参加する機会がなかった人も含め、またいつか、石巻を訪れることがあれば、そうしたポータルを訪ねてみて欲しい。

「ゲームで人を呼ぶ」

 今回のイベントは「Ingressで地方に人を呼ぶ」という取り組みのなかでも、これまでで最も大規模なものと言える。舞台となった各地では、エージェントが楽しめるよう準備をしてきた。石巻を拠点に活動するNPO法人、イトナブ石巻代表の古山隆幸氏によれば、イトナブがナイアンテック・ラボとの調整窓口として活動した。

 イトナブは、昨年5月、石巻でのIngressのイベントを体験しており、いわば「Ingress×地域」の先行事例をよく知っている存在。だが、今回のMission Dayにおける東北各地の企画内容も地元のエージェントがリードしたためか、完成度が高かったとのことで、イトナブ側が、東北各地の企画に対して口を挟むことはなかった、とイトナブスタッフであり、20歳にして今回のイベントを担当者した増 悟嗣氏。

イトナブの増氏(左)とイトナブ代表の古山氏(右)

 「Mission Day in Tohoku」は、ナイアンテック・ラボからは、エージェントへ配るアイテムが提供される程度で、各地域が主体性をもって作り上げたことになった。レアアイテムや公式イベントなしでも一定の実績を上げたという横須賀市などの事例も出てきたことで、最近では、「Ingress」には自治体からの注目が高まっている。本誌取材に対して、ナイアンテック・ラボの須賀健人氏も自治体との協力に前向きな姿勢を見せており、そうした動きは今後さらに加速しそうだ。

関口 聖