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NTTドコモ関西、災害に備えたエリア対策やトラフィック対策を公開

 NTTドコモ 関西支社は、記者向けの説明会を開催し、台風災害に備えたエリア対策、花火大会やコンサートでのトラフィック対策などについて説明した。

地震や水害などの災害対策の取り組み

 記者説明会ではNTTドコモ 関西支社 ネットワーク部災害対策室長の辻繁(つじしげる)氏が壇上に立ち、NTTドコモが長期的な視野の災害対策、短期的な備えとしての輻輳対策を行っていること、さらにユーザーサポートの観点から、スマートフォンのアプリや帰宅困難者への自社ビル開放の取り組みなどについても、説明が行われた。

大阪南港にあるドコモ大阪南港ビル。屋上には巨大なアンテナが設置されている
災害対策やトラフィック対策について説明するNTTドコモ 関西支社 ネットワーク部 災害対策室長の辻繁氏

 ドコモとしてはこれまで大きな災害に対して、さまざまな形で取り組んできたが、そのきっかけとなったのが1995年1月に起きた「阪神・淡路大震災」だ。当時は携帯電話が一般に普及しはじめたばかりということもあり、サービスを中断した基地局は39局で、2日後には全局復旧することができた。この早い復旧により、「災害に強い」ことが認められ、ドコモ関西では震災以降、契約者が急速に伸びたという。

 2011年3月11日に起きた東日本大震災では、東北エリアを中心に6720局もの基地局がサービスを中断し、震災前のエリアにほぼ復旧したのは4月末になったという。ドコモショップや基地局の倒壊、光ファイバーなどの伝送路断絶、長時間の停電によるバッテリーの枯渇などが起き、移動基地局をのべ61カ所に展開し、ユーザーへの携帯電話の貸し出しは3000台、無料充電コーナーの設置は410カ所に達した。

 また、関西エリアは台風や豪雨による水害が多いエリアで、近年では2011年に紀伊半島を襲った台風12号で99局がサービス中断、2014年の丹波市と福知山市の集中豪雨では12局がサービスを中断し、いずれも移動基地局などによるエリア復旧、無料充電などの被災者支援を実施している。

 こうした状況を踏まえ、ドコモでは「システムの信頼性向上」「重要通信の確保」「通信サービス早期復旧」を災害対策の三原則として掲げ、さまざまな対策を行っている。2011年の東日本大震災の教訓を活かした対策として、まず、大ゾーン基地局が挙げられる。半径約7kmをカバーする基地局を全国104カ所に設置し、関西エリアには14カ所が設置されている。災害時にはこの大ゾーン基地局を稼働させることで、全体の約35%のユーザーを救済できるという。

 ちなみに、こうした災害時には優先利用が割り当てられている警察や自治体職員の携帯電話が接続されるしくみだ。基地局の無停電化やバッテリーの24時間対応も進められ、都道府県庁や市町村役場などの重要エリアの通信を確保している。災害時の臨時回線として、無線エントランス回線や非常マイクロエントランス回線の活用にも取り組んでおり、災害などで通信ケーブルが断線したり、基地局のサービス中断で孤立化したエリアを車載型移動基地局や可搬型移動基地局でカバーできるようにしている。

大規模災害対策のきっかけは1995年1月に起きた阪神・淡路大震災。当時のサービス中断基地局は39局で、2日後には全局が復旧した
2011年3月に起きた東日本大震災では東北を中心に6720もの基地局がサービス中断状態になった。4月末には震災前のエリアにほぼ復旧
関西エリアでは台風や集中豪雨による水害が多く発生しており、移動基地局を出動させたり、お客様支援を行っている
東日本大震災を受けて、全国104カ所に大ゾーン基地局を整備
都道府県庁や市町村役場などの重要エリアの通信を確保するため、基地局のエンジンによる無停電化やバッテリー24時間化
通信ケーブルの断線などに備え、衛星エントランス回線や非常用マイクロエントランス回線の活用体制を整備

 関西エリア独自の取り組みとして、将来的に発生が予想されている南海トラフ巨大地震の対策を行っている。前述のように、関西エリアには14の大ゾーン基地局が設置されているが、これだけでは都市部の中心エリアしかカバーすることができない。そこで、南海トラフ大地震で沿岸部が被災した場合を考慮し、既存の基地局に対策を施した「中ゾーン基地局」を構築し、想定される被災エリアの通信を確保しようとしている。中ゾーン基地局は、伝送路を無線と有線の二重化、通信用補助電源に燃料電池導入による3日分の電源確保、基地局のアンテナのチルト(傾き)を遠隔で調整することでエリア拡大という、3つの対策で構成されており、近畿総合通信局の表彰も受けている。

 水害の多い関西エリアの対策として、7月までに31の基地局のかさ上げ対策を施している。これは過去に水害で被災したことがある基地局をピックアップし、設備をかさ上げすることで、河川の氾濫などで付近の水位が高くなっても基地局を水没しないようにしている。さらに、内陸部の基地局の内、ハザードマップなどで被害が予想される基地局については、前述の中ゾーン基地局でカバーできるように対策を講じている。

 この他にも自治体防災訓練への参加をはじめ、自衛隊との合同演習、海上保安庁との合同演習にも取り組み、災害時に連携できるように訓練を重ねている。ドコモ関西グループ内での訓練も行われており、定期的な集合訓練を行うほか、年1回のペースで大規模な総合訓練(設備応急復旧訓練)も実施しているそうだ。

 これらの対策に加え、災害発生時には移動基地局や可搬型衛星エントランス基地局で避難所や孤立地域を対策し、山上の基地局などに機材を運べる不整地運搬車を用意するなどの対策も講じている。水没地域では移動基地局などの中継伝送路にマイクロ通信機器を活用したり、ブースターを組み合わせることで、より広いエリアをカバーできるようにするなどの取り組みも行っている。

 災害時のユーザーサポートとしては、スマートフォン向けのアプリ「docomo災害用キット」や「災害用伝言板サービス」、「災害用音声お届けサービス」、「エリアメール」などを提供するほか、自治体や企業の地震防災訓練に活用できる「地震防災訓練アプリ」も提供しており、エリアメールを活用した自治体防災訓練も行われているという。関西エリア独自の取り組みとして、防災に関する対策などをマンガでわかりやすく解説した「防災ハンドブック」を制作し、防災訓練などの参加者に配布している。ちなみに、防災ハンドブックはNTTドコモ 関西支社のホームページからダウンロードすることができる。

関西独自の取り組みとして、既存基地局に大ゾーン基地局に準じた設備を施した中ゾーン基地局を整備し、被災が想定される沿岸部の通信を確保
水害の多い関西エリア独自の対策として、基地局のかさ上げを実施。7月中に31局の整備を完了する
水害で既存の基地局が被災したときは、中ゾーン基地局でエリアをカバーする体制を構築
関西支社独自の取り組みとして、防災ハンドブックを作成し、配布中。ホームページからもダウンロードが可能

移動基地局と「PREMIUM 4G」によるトラフィック対策

 災害対策と並んで、もうひとつ大切なのが輻輳対策、つまり、トラフィック対策だ。ドコモがこの対策の軸としているのが今年3月からサービスが開始されたLTE-Advancedによる「PREMIUM 4G」だ。PREMIUM 4GはこれまでのLTEと違い、キャリアアグリゲーションによって、複数の周波数帯を束ねて伝送できるため、周波数の利用効率が高く、トラフィック対策には効果的だとする。関西エリアではNTTドコモが持つ2GHz、1.7GHz、1.5GHz、800MHzの4つの周波数帯を利用できるため、その効果も大きいという。

 NTTドコモではこれまで運用してきた車載型移動基地局の一部をPREMIUM 4Gに対応させ、PREMIUM 4G移動基地局として、各地へ展開する。関西エリアでは今年6月に開催された競馬のG1レース「宝塚記念」に、はじめてPREMIUM 4G移動基地局を出動させたところ、安定して利用することができたそうだ。宝塚記念当日は12のレースが行われ、G1レースの第11レースでもWebページ閲覧の待ち時間は他のレースのときと変わらないレベルだったという。

 夏になると全国各地で花火や野外コンサートなど、さまざまなイベントが行われるが、関西エリアでは34のイベントに移動基地局を出動させる予定で、その内、15のイベントにはPREMIUM 4G移動基地局を出動させる。

 ちなみに、すべてのイベントにPREMIUM 4G移動基地局を出動させていないのは、出動先のエリアやトラフィックなどの状況などで判断しているためだそうだ。関西エリアで行われるイベントでは「みなとこうべ海上花火大会」「なにわ淀川花火大会」「天神祭奉納花火」「びわ湖大花火大会」などが大規模なものとされるが、なかでも7月25日に行われる「天神祭奉納花火」はこれまでも輻輳が起きやすいイベントとされていたが、今年は観覧客が集中する4カ所に移動基地局を配備して、対策する予定だ。

LTE-Advanced方式によるPREMIUM 4Gは周波数の利用効率が高く、トラフィック対策にも有効
6月28日に阪神競馬場で行われた「宝塚記念」ではPREMIUM 4G移動基地局を初投入。6万8000人が来場。第1レースから第12レースまで、安定したパフォーマンスが得られた
今年の夏に関西エリアで開催される34イベントに移動基地局を出動予定。PREMIUM 4G移動基地局も15イベントに出動予定
関西エリアでもっとも混雑すると言われる天神祭花火大会。今年は同時に4カ所に移動基地局を出動予定

関西以西を監視する西日本オペレーションセンターを公開

 ドコモでは同社の設備を監視し、コントロールするための施設として、オペレーションセンターを運用している。東日本エリアを担当する東京都内のネットワークオペレーションセンターは過去にも報道陣向けに公開されたことがあったが、今回は関西以西のエリアを担当する西日本オペレーションセンターが公開された。

 ネットワークオペレーションセンターと西日本オペレーションセンターは、関西エリアを境目に、東日本と西日本を分担して管理する体制を取っているが、大規模災害などで片方のセンターが機能しなくなったときは、もう片方のセンターが対応できるバックアップ体制を取っている。

 西日本オペレーションセンターは総勢120名の体制で運用されており、オペレーションルームでは前面のディスプレイに設備の情報や気象情報などが表示され、さまざまな状況に対応できる体制を整えている。業務としては、24時間365日のネットワークの監視や措置、故障やサービス影響についてのグループ内への情報配信、ネットワーク不具合に関するユーザーからの申告への対応、災害や大規模故障時のネットワークコントロールなどが挙げられる。トラブル対応のためのスタッフの訓練も定期的に行われており、ちょうど今回の公開時にも設備の故障トラブルの訓練が実施されていた。

西日本オペレーションセンターの概要を説明する株式会社ドコモCS関西 西日本オペレーションセンター オペレーション企画担当課長の稲田尚氏
西日本オペレーションセンターではネットワークの設備の監視や措置、ネットワークコントロール、サービスフロントサポートなどを行っている
西日本オペレーションセンターは関西以西の西日本を担当。東は滋賀県米原市、最南端は沖縄県の竹富町波照間、最西端は沖縄県の与那国町、最北端は島根県隠岐郡隠岐
西日本オペレーションセンターの様子。前面には60インチのディスプレイがいくつも並び、各地の設備状況が刻々と表示される
オペレーションセンターは東京と大阪の2カ所に設置。いずれか片方が被災しても全国をカバーできる体制を整えている
移動基地局車をはじめ、さまざまな対策機器を説明するドコモCS関西 ネットワーク運営事業部 アクセス・リンク運営部長の森田晃弘氏

移動基地局や災害対策機器

 最後に、今回の災害対策及びトラフィック対策に利用される移動基地局や移動電源車などの対策機器が報道陣向けに公開された。

天井に5G無線アクセスシステム(四角いアンテナ)を搭載した移動基地局。従来型に比べ、最大14倍(最大100Mbps)の伝送容量が利用できるようになり、LTEにも対応可能
災害時のエリア確保のため、クレーン車の先端に基地局のアンテナを設置するシステムを試験中
風向計なども設置して、安定した環境での利用を目指す
ケーブルは既存のものを利用しているが、アーム部分に固定したり、もう少し軽いものなどを検討中
最大28mの高さまで伸ばすことができ、広いエリアをカバー可能
ワンボックスカータイプの小型移動基地局のアンテナは高さ10mまでだが、クレーン車のシステムを活用することで、3倍近い高さのアンテナを設置できる
可搬型衛星エントランス基地局。大規模災害時や土砂崩れなどで、移動無線車が通行できないとき、各設備を小型化することで、運搬できるようにしたして無。FOMAに対応
アンテナ部分は片方向のみで、約8mの高さまでポールを伸ばすことが可能。ポールは足踏みポンプで伸ばす構造を採用
衛星エントランスのためのパラボラアンテナも分割式。コンパクトな状態で持ち込み、現地で組み合わせる構造を採用する
基地局などに電源を供給する移動電源車。写真はもっとも容量が大きい150KVA移動電源車。この他に、80KVA、45KVA、12KVAの移動電源車を用意している。災害時だけでなく、ビルや商業施設の計画停電時にビル内の小型基地局を稼働させるために出動することもある
PREMIUM 4G移動基地局車を3台配備。大型イベントのトラフィック対策として出動。既存の移動基地局をバージョンアップする形で、PREMIUM 4Gに対応させている
天井中央の丸いアンテナはHUB局と接続するマイクロ伝送路システムのアンテナ。最大3Gbpsの伝送容量を利用可能
夏の花火大会などに出動した際にアピールすべく、垂幕も用意
兵庫県北部などの豪雪地域や山上局などへの出動を考慮し、導入されたのがタイヤ部分に装着された「クローラー」。車両は今回の展示のために借りたもので、実際にはワンボックスタイプなどの積載量の多い車両を利用する予定
車両のタイヤ部分に装着。クローラーを使わないときは、取りはずして、通常のタイヤも付けられるという
土砂崩れなどにより、機器の搬入が難しい場所に持ち込むための不整地運搬車。荷台には災害地に持ち込むための発電機が載せられている。勾配のきついところでは難しいが、重量のあるものを安定して運ぶことが可能
ドローンも土砂崩れなどが起きたときの現地確認用として導入。中央下の部分にカメラを備える
左側がドローンから送られてきた映像を見るためのリモコン。ディスプレイ部分はスマートフォンを使う。右側はドローンを操作するためのリモコン。こちらもスマートフォンを装備
関西支社では大規模災害時に自社ビルを開放する。帰宅困難者に提供する飲料水や食料、毛布なども備蓄している
災害時に避難所などに提供されるマルチチャージャー。ガスボンベを利用する発電機と組み合わせる
さまざまなスマートフォンやケータイを利用できるように、マルチタイプのコネクタを採用

法林岳之

1963年神奈川県出身。携帯電話をはじめ、パソコン関連の解説記事や製品試用レポートなどを執筆。「できるWindows 8.1」「できるポケット docomo AQUOS PHONE ZETA SH-06E スマートに使いこなす基本&活用ワザ 150」「できるポケット+ GALAXY Note 3 SC-01F」「できるポケット docomo iPhone 5s/5c 基本&活用ワザ 完全ガイド」「できるポケット au iPhone 5s/5c 基本&活用ワザ 完全ガイド」「できるポケット+ G2 L-01F」(インプレスジャパン)など、著書も多数。ホームページはこちらImpress Watch Videoで「法林岳之のケータイしようぜ!!」も配信中。