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ソフトバンク孫氏とアローラ氏が語らう夕べ~アカデミアの特別講義

 「ニケシュ、賢くて冷たい人と、最高ではないが頭の良い人でハートがある人、どちらがいい?」「それはハートがある人のほうだ。でも一緒に仕事をするなら一番頭がいい人がいいね」――22日夕方、都内で開催された、ソフトバンクグループ代表取締役社長の孫 正義氏と同社代表取締役副社長のニケシュ・アローラ氏の対談で交わされた会話だ。

ニケシュ・アローラ氏(左)と孫氏(右)

 2人の対談は「ソフトバンクアカデミア」の特別講義として行われ、孫氏と、その後継者筆頭であるアローラ氏の対談を通じて、これからのソフトバンクの戦略を垣間見せる内容となった。

情熱ある起業家を見つけ出す

 今年7月、プライベートイベントの「Softbank World 2015」で、孫氏は「これからはIoT(モノのインターネット)」「AI(人工知能)」「ロボット」に注力する、と語った(※関連記事)。アローラ氏との対談に先立ち、孫氏は、アカデミア受講生や、一般来場者に向けて、7月のイベントで語った内容と同じく、これから数十年以内に、コンピューターが人間の知能を超える時期がくるとして、「ロボットの数も人間を超える。人類にとって進化か破滅か。私は共存していけると思う」と述べて、ソフトバンクとして、ロボットやAI関連の事業に取り組む姿勢をあらためて紹介。

 対談でも「シンギュラリティの時代が来たとき、ソフトバンクはどうあるべきか」と孫氏は問いかける。アローラ氏は「2人でもよくこのテーマを話していますよね」と前置きした上で「技術が発展して、あらゆるものが加速している」と指摘。インドでは2014年、500もの企業が新たに設立されたことを紹介。それだけの新企業の設立はインドでも例がなかったとのことで、これから日本でも同じような状況が訪れるだろうと予言。そして情熱ある起業家が数多く登場し、有望な人がいれば、その創造性や情熱を見据えて投資していくべき、と説く。これに孫氏も「まったく同じ考えだ」と大いに頷く。

 孫氏は今後の事業展開においても、今後の投資額が少なくとも数ビリオンドル(数十億円)、とも語っており、意欲を見せる。

これからはメディカル

 未来の話から現在に話を戻したアローラ氏が「孫さん、これからの注目分野は?」と問うと、孫氏は「やはりメディカルだ」と即答する。

 これからICTの利活用が進むことで、スマートでインテリジェンスな医療が実現する、と孫氏の見通し。ソフトバンクでは、2015年冬モデルの発表にあわせ、ディープラーニング技術を用いたIBMの人工知能「Watson」による「パーソナルカラダサポート」(※関連記事)を発表しており、孫氏の言葉通り、すでに医療関連事業に取り組んでいる。

 また成功を収めた孫氏が今もなお、意欲的に活動している理由をアローラ氏がたずねれば、孫氏は「お金だけならここまでやらない。少なくともお金から情熱が来ているのではない。いかに組織を作り、社会や人間の幸せに貢献できるのか。意義のあることをしたいという情熱がある」と語る。

ジャック・マーのカリスマ性

 シンギュラリティの話題から良い感情を持ったロボットを開発したいと語り、本稿冒頭のように、人物の評価で頭の良さとハートの有無を挙げる孫氏に対して、ニケシュ氏は、中国アリババの創業者であるジャック・マー氏はどういう人か、と質問する。

孫氏
「(マー氏が)最も賢いかとそうではない」
アローラ氏
「それは本人へ言ったことがあるのですか?」
孫氏
「いやそれは本人が言ってたの(笑)。高校で数学の成績が悪かった、と。でもその過去は恥じていない。彼の能力は、数学(に代表される学力)ではない。もし彼が水に飛び込めと言えば、100人が飛び込む。火に飛び込めと言えば誰かやるかもしれない。それほどのカリスマ性がある」
アローラ氏
「そのカリスマ性は孫さんもありますよ(笑)」
孫氏
「あはは。マー氏の目を見たときに、彼のカリスマを見た。会って5分後には投資したい、ソフトバンクから資金を獲得してくれと言ったが、彼は要らないという」
アローラ氏
「それが(マー氏の)投資戦略かもしれませんね(笑)」

「2人で後継者を探そう」

 孫氏の後継者候補を育成するため、2010年に設立された「ソフトバンクアカデミア」。今回の対談は、そのソフトバンクアカデミアの特別講義と銘打って行われたもの。後継者へのバトンタッチが、これからのソフトバンクにおいて最も困難な取り組み、として、肝いりでスタートしたソフトバンクアカデミアながら、2015年に入ると、アカデミアという枠組の外から、アローラ氏が筆頭の後継者候補に抜擢される。

 対談の間も、孫氏が真剣な表情でビジョンを語るなかで、アローラ氏がジョークを挟み込むと、孫氏は相好を崩して、互いの信頼関係を聴衆に見せつける。

孫氏
「人間を軽く超える頭の良いロボットが開発されるだろうが、私は頭が良いだけではなく心優しいロボットを……」
アローラ氏
「(孫氏が開発したいという)そのロボット悪い感情を持っていないということですか? でもバランスが必要でしょう?」
孫氏
「それは他社に譲りましょう(笑)」
アローラ氏
「悪いロボットは他社に?」
孫氏
「そうです(笑)」

 初めてアローラ氏に会ったとき、なんと賢い人だ、と感心したという孫氏は、アローラ氏を経営も技術もわかる人物だと評する。

孫氏
 「ニケシュはファイナンスをよくわかっているよね。一方で、(学業)電気工学を修めている。数字に強くファイナンスわかっていてテクノロジーも理解している」

アローラ氏が登壇したときには握手しながらハグ

 アローラ氏に惚れ込む様子を隠さない孫氏を前に、後継者候補たるべくアカデミアで研鑽を積んだであろう人たちがどういった想いを抱いたのかわからない。ただ孫氏は「アカデミアでは後継者を探すのが目的だった。でもあなた(アローラ氏)を見つけちゃった。ソフトバンクはグローバルカンパニーであるべき。何があっても無事でいてくれ」と笑いつつ、「2人で後継者の候補を探しましょう」とコメント。「ソフトバンクの生き残り方や、困難をいかに越えてきたか。今になって話ができる。先の話もできる。今日の対談ができたのは本当に良かった」と締めくくった。

関口 聖