ニュース

クアルコムの次世代チップ「Snapdragon 820」、詳細が明らかに

パフォーマンス倍増、LTEは下り最大600Mbps、2016年に搭載機器登場へ

Snapdragon 820搭載デバイスが2016年以降いよいよ登場する
発表会会場

 米クアルコムは11日、北京でプレス向けイベントを開催し、同社が開発を進めてきた次世代チップセット「Snapdragon 820」を披露した。CPUコアは前世代のSnapdragon 810までで採用していたCortexではなく、現在のモバイル機器などでの利用に適した設計とするべくカスタムチップ「Kryo(クライオ)」を採用した。

 Kryoは、Kraitベースのチップセットと比較しておよそ2倍の処理性能、2倍の電力効率を実現し、GPUやモデムチップ、DSPチップなども世代交代して大幅なパフォーマンスアップを果たした。今後のスマートフォンのみならず、VR、自動車、医療といった幅広い分野で求められるフレキシビリティと高い性能を見据えた多数の基幹技術も搭載する。

2倍の処理性能に加え、モバイルで下り最大600Mbpsも

CPU、GPU、DSP、ISPなど、多数のモジュールから構成されるSnapdragon 820

 Snapdragonの名を冠するシリーズの中でも、最上位のチップとなるSnapdragon 820は、CPUの設計部分から手を入れた、新しい世代のクアッドコア64bitチップセット。最大周波数2.2GHzのCPUは「Kryo」と呼ばれるカスタムチップで、これにGPUの「Adreno 530」、モデムである「X12 LTE」、カメラ制御を行う「Spectra camera ISP」、映像・音声処理を受け持つDSP「Hexagon 680」、ディスプレイ表示のためのDPU、ビデオ処理用のVPUなどが組み合わされる。

 さらに、セキュリティ・認証のための「Haven」、機械学習などによる人工知能を実現する「Zeroth」、パワーマネージメントなどを受け持つ「Symphony System Manager」、機器の仕様に合わせて適切で高速な充電を行う「Quick Charge 3.0」といった各種プラットフォームも統合している。

Snapdragon 810 / Snapdragon 820仕様比較

Snapdragon 810Snapdragon 820
ベースCPUCortex A53/A57カスタムKryo CPU
動作周波数~2.0GHz~2.2GHz
GPUAdreno 430Adreno 530
モデムX10 LTEX12 LTE
4Gネットワークダウンリンク450Mbps/アップリンク50Mbps(Cat 9)ダウンリンク600Mbps(Cat 12)/アップリンク150Mbps(Cat 13)
Wi-FiIEEE 802.11acIEEE 802.11ac MU-MIMO/11ad(60GHz)
動画サポート4K/30p 8bit4K/60p 10bit
米クアルコムのマーケティングバイスプレジデント ティム・マクドノー氏

 発表会の冒頭でキーノートスピーチに立った同社マーケティングのバイスプレジデント、ティム・マクドノー氏によれば、同社設立から30年となる今年、トータルで9億3200万のデバイスにSnapdragonが搭載されるに至ったと報告。新しいSnapdragon 820はすでに70を超えるデバイスへの採用が決定しているとし、Snapdragonブランドの信頼性の高さをアピールした。

クアルコムは設立30年を迎えた
累計で9億3200万ものデバイスにSnapdragonが搭載
通信性能は大幅にアップ
CPUは2倍、GPUは40%、映像・音声処理用DSPは3倍性能アップし、電力効率も向上した

 Snapdragon 820では、CPUの処理性能はもちろんのこと、通信性能も大幅に進化している。4Gネットワークは下り最大600Mbps/上り最大150Mbpsをサポートし、4K動画のストリーミング再生だけでなく、アップストリーミングまでをもカバーする。Wi-Fiは、複数ユーザー同時利用でも速度を犠牲にしないIEEE 802.11ac MU-MIMOと、60GHz帯を使用し最大3Gbps以上を実現する近距離向け高速通信規格IEEE 802.11adに対応。免許不要の周波数帯・電波出力により限定されたエリア内で高速通信を行えるLTE-U(Unlicensed)や、LTEとWi-Fiを同時使用して高速化を図るLTE+Wi-Fiアグリゲーションもサポートする。

 また、前世代のAdreno 430と比較して40%のパフォーマンスアップを果たしたGPU Adreno 530では、よりハイクオリティなリアルタイム3D CG処理を可能にした。オーディオ面ではヘッドフォン使用時だけでなく端末内蔵の2chスピーカーでもリアリティのあるサラウンドを実現する機能もハードウェアレベルで実装。

3D CGのリアルタイムレンダリングでは鏡面処理も軽々とこなす。布の質感などもリアルに再現

 カメラにおいては、Spectra camera ISPチップが前世代の3倍の性能、10倍の電力効率を達成し、暗所撮影時の強力なノイズリダクション機能や、逆光時の明るさ・見やすさを改善する機能のほか、同時に複数の人物・顔認識を行い、それらが動き回ってもリアルタイムで追従して認識を維持する機能も備える。

動いても人物・顔認識した複数の被写体を自動で追従する
暗所撮影時に発生しがちなノイズを抑制し、被写体をよりきれいな写真で残せる
逆光でこれまでは黒つぶれしていたような部分でもくっきり見える
ヘッドフォンに加え、端末内蔵のステレオスピーカーでもサラウンドサウンドを実現する$$
Zeroth技術により、カメラで捉えているシーンを自動判定
日常のユースケースでは前世代から30%も電力消費が少ないとしている

 さらに、ディープラーニングをベースとした人工知能テクノロジーのZerothプラットフォームにより、カメラが捉えている内容を端末内のローカルデータベースと照合し、何を写しているのかを瞬時に判断する仕組みも備えた。これを応用することで、画像ビューワーアプリなどでは、認識したシーンやオブジェクトをタグ付けして自動分類し、例えば「人」「海岸」「文書データ」といった形でカテゴライズされた中から素早く探し出して閲覧することもできる。

 以上のようなパフォーマンスアップを遂げながら、Snapdragon 820の日常使用レベルでの電力消費はSnapdragon 810から30%ほど抑えられている。こうした性能や技術は今後、スマートフォン以外のあらゆる分野の機器にも応用できることから、ティム・マクドノー氏は今後、Snapdragon 820の技術を採用したプロセッサーを搭載するデバイスとして、たとえば複数画面で高速なグラフィック処理を行うVR機器、4K解像度で周囲360度を撮影するドローン、自動運転や運転支援、インフォテイメントを実現する自動車、あるいは医療機器やセキュリティカメラといったような形で登場することになるだろうと述べた。

 なお、Snapdragon 820搭載デバイスは、日本を含めワールドワイドで2016年以降順次リリースされる予定。一時期、8コア版のSnapdragon 820が登場する噂も流れたが、現在のところ検討されている事実はない。

Snapdragon 820ベンチマーク結果

ベンチマーキングセッションでは、5つのベンチマークツールで性能を確認

 発表会では、Snapdragon 820の性能を試せるベンチマークセッションも設けられた。クアルコム自らが製作したリファレンス端末を用い、3Dグラフィックス性能や総合的な能力を測る「Antutu」「Geekbench」「GFXbench」に加え、JavaScriptの実効性能をチェックする「Kraken」「Octane」の計5つのツールを用いた。

 ただし、あくまでもサンプル段階のチップを使用した端末であり、実際に販売される端末の性能とは異なることがある点にご注意いただきたい。

Snapdragon 810(ARROWS NX F-04G) / Snapdragon 820(リファレンス端末)ベンチマーク結果
ツール名コア810の結果820の結果
Antutu51505121861
GeekbenchSingle-Core6902065
Multi-Core33935367
GFXbenchの各種結果

810の結果820の結果
Car Chase206.3 Frames(3.5fps)558.5 Frames(9.4fps)
Manhattan540.0 Frames(8.7fps)886.0 Frames(14fps)
T-Rex1433 Frames(26fps)1712 Frames(28fps)
ツール名810の結果820の結果
Kraken14661.0 ms2464.3 ms
Octane339311742
Antutuの実行結果
Geekbenchの実行結果
GFXbenchの実行結果
Krakenの実行結果
Octaneの実行結果
ベンチマークに使用したSnapdragon 820搭載のリファレンス端末
ベンチマークでは確認しにくい性能向上策として、アップリンク方向のデータ圧縮技術を搭載した。ページローディングが最大で50%高速化するという
データローディングやコンテンツレンダリングにおいてSnapdragon 820に最適化されたChromeもプリインストール可能に。実際に端末に搭載するかどうかは端末メーカーの判断によるという
Snapdragonのグラフィックス性能の変遷

デモンストレーションで11adは2.6Gbps超を達成。マルウェア・スパイウェア解析も

 Snapdragon 820の多彩な機能や性能を体験できるデモセッションでは、60GHz帯のIEEE 802.11adによる通信、Wi-Fiのような電波干渉に悩まされないLTE-U、より賢くきれいになったカメラ機能、指紋認証をはじめとするセキュリティ強化機能などを披露した。

IEEE 802.11adのデモ。右端の端末が11adの検証機で、従来の11acなどと比較していた
11adでは実転送速度で2.6Gbps以上を叩き出す。従来の11acは100Mbps、MU-MIMOでも160Mbps程度。60GHzの11adの電波は直進性が高く、受信機と送信機の間に障害物があると通信できなくなるが、従来の2.4GHz/5.0GHzを組み合わせたトライバンドとすることで、状況に応じて帯域を切り替え、常に最適な通信速度を維持する
11adによる4K動画の映像伝送。右側にある端末で再生した映像を左側のモニターに転送している。映像を目視している限りでは遅延は全く感じられなかった
モニターに接続された受信機
Snapdragon 820のLTE通信の速度は、下り最大600Mbps/上り最大150Mbps
下りでも上りでも、4K動画のストリーミングが可能
LTE-Uのデモ
Wi-Fiネットワークを2つ同時に使用すると電波干渉により速度が著しく低下する
そういった場面で代わりにLTE-Uを使用することで、干渉とは無関係に高速に通信できる
Antenna Boostと呼ばれる技術のデモ。端末の握り方などによって電波の受信状況が変化してしまう際にも、Snapdragon 820では最も受信感度の良くなるアンテナの使い方を検出し、最適化。電波強度の改善と音質の向上に加え、過剰な電波探索が不要になり電池消費が抑えられることになる
WiPowerによるワイヤレス給電のデモ。充電パッドと端末は密着させる必要はなく、間にガラス板や木板などが挟まれていても充電が可能。金属筐体の端末でも問題ないとしている
Quick Charge 3.0による給電デモ。スマートフォンやUSB Type-C接続のモバイルバッテリーで、それぞれに最適な電流により充電する様子を披露した
Snapdragon 820はチップレベルで指紋認証機能を提供する。超音波を用いて指紋パターンを3次元で検出する仕組みで、濡れや汚れのある指でも正しく認識し、指と指紋センサーの間にガラスや金属板などが挟まれていてもOK
屋外でゲーム画面や動画を見る際、周囲の明るさによってガンマ値をコントロールする機能も備える。バックライトを変えずに色を変えることで対応するため、電池消費への影響は少ないと見られる
Spectra camera ISPなどによるイメージ処理のデモ。逆光時の極端なコントラストで暗く見える部分を補正
暗いシーンで発生しやすいノイズも抑える
ノイズリダクションをオフにした場合
ノイズリダクションをオンにした場合
Zerothのデモ。カメラで写している内容を瞬時に判断し、ここではキーワードとして表示させている。スキーをしているシーンは「アウトドア」「空」「スノースポーツ」と表示され、ピザの画像は「食事」「人はいない」と表示
シーンを判断できることで、画像ビューワー上で自動カテゴライズも可能になる
サラウンドオーディオのデモ。2つのスピーカーでマルチチャンネルサラウンドをシミュレートし、音声レベルのノーマライズも行われる。実際に聴いたところでは、端末の前に立つだけで音に包み込まれるような感触を体験できた
Snapdragon 820はSmart Protectと呼ばれる独自のセキュリティプラットフォームを採用する。定義ファイルベースではなく、端末内部でのアプリの不審な挙動を自動検知し、マルウェアやスパイウェアなどを検出、ユーザーに警告したうえで削除を促す。この検知にも人工知能であるZerothの技術が用いられているという

日沼諭史