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IIJが解説、MVNOからみた総務省タスクフォースのポイントとは

HLR/HSS解放は数十億円規模の投資が必要

 インターネットイニシアティブ(IIJ)は、MVNO事業に関する説明会を開催し、MVNO事業の概況や2016年の展望を説明した。また、2015年末にまとめられた総務省のタスクフォースのポイントをMVNOの立場から解説した。

IIJ ネットワーク本部 技術企画室 佐々木太志氏(左)、ネットワーク本部 モバイルサービス部長の安東宏二氏(右)

 IIJは19日、MVNO事業の総回線数が2015年12月末時点で100万回線を突破し、107.3万回線になったと発表している。同時に既存のユーザーが新規のユーザーも応募できるプレゼントキャンペーンが実施されることも発表されている。

 IIJ ネットワーク本部 モバイルサービス部長の安東宏二氏は、2015年は「ドックイヤー、いや、マウスイヤーだった」と、めまぐるしく進展していった様子を振り返る。光コラボのサービスや、「おうちでナンバーポータビリティ」と名付けたMNP即時転入施策などサービスの強化も多岐にわたり、音声通話サービスで即日開通する店舗はビックカメラ系列で59店舗、イオン系列で214店舗と、店頭施策も拡大している様子が語られた。

 ソフトバンクやauが発表している電気サービスをセットにした提供も「考えていきたい」と前向きな姿勢を示している。

IIJ ネットワーク本部 モバイルサービス部長の安東宏二氏

 今後については、IIJmioを中心とした自社ブランドでのシェア拡大と、法人向けソリューションを提供するという、従来の事業をそれぞれ拡大していく方針。

 加えて、これらを支えるシステムインフラ、ネットワークインフラを拡充していくことで、MVNEとしてMVNO事業者のサービスの創出を支え、MVNO各社がさらに個人・法人にサービスを提供していくという「エコシステム」の形成と強化を、IIJのMVNOビジネスの方針に掲げ、2016年、2017年で強化していく方針が示された。

MVNOからみたタスクフォースのポイントと「HLR/HSSの解放」

 説明会ではビジネスの概況に加えて、2015年末に注目を集めた総務省主導のタスクフォースについて、MVNO事業者の立場から注目のキーワードがピックアップされ、解説が行われた。

 タスクフォースで議論された内容や方向性、取りまとめられたものは、本誌ではニュース記事として掲載している。解説を行ったIIJ ネットワーク本部 技術企画室 佐々木太志氏が指摘したように、タスクフォースは議論の出口がどうなるのか注目されていたが、結果として、省令に相当するガイドラインの取りまとめと、行政指導に相当するという3キャリアへの「要請」でひとまずの結論を得ている。

 佐々木氏がピックアップしたタスクフォースの用語の中でも、MVNOに特に関係するのが「加入者管理機能」として指摘されたものだ。専門的にはHLR/HSS(Home Location Register/Home Subscriber Server)と呼ばれ、モバイルネットワーク上でSIMカードの認証と位置登録に関連する機能および装置を指す。ここでいう位置登録とはGPSのような個別の位置情報ではなく、端末(SIMカード)がどの交換機の配下にいるかという交換機を特定するための情報を指している。

 HLR/HSSはSIMカードを管理するための機能・装置で、SIMカードの発行を行うドコモなどのMNO各社が運用している。業界で言われる“HLR/HSSの解放”とは、MVNO側で一部の装置を自前で用意して運用したり、ドコモなどのMNO側がそれらと接続できるようネットワークを改修したりすることを指す。

 HLR/HSSの解放は、MVNO業界がMVNO委員会などを通じて、かねてより提言してきた内容で、総務省に要望書を提出するなど具体的な働きかけも行っている。

 タスクフォースでは議論のポイントがいくつかに分かれ、それぞれに経緯や注視すべき点が存在していたが、MVNOの振興の一環として、「加入者管理機能」(HLR/HSSの解放)は、「開放を促進すべき機能」としてガイドラインに盛り込まれる見込み。

 「開放を促進すべき機能」とは、MVNO事業化ガイドラインに記載される「アンバンドル機能」のための4条件のうち、一部の条件を満たし、一部に事業者間協議の余地を残している機能を指している。「アンバンドル」とは、MNOが一部設備を分離して、MVNOに貸し出せるようにすることを指し、「アンバンドル機能」として指定された機能の提供にMNOが応じない場合、総務省は約款変更命令を出せる、強制力のある指定となる。

 アンバンドルの4条件は、1)他の事業者から要望があること、2)技術的に可能であること、3)携帯電話事業者に過度の経済的負担を与えないこと、4)必要性・重要性が高いこと、の4つ。4つをすべて満たした場合は「アンバンドル機能」としてMVNO事業化ガイドラインに定められることになる。「解放を促進すべき機能」とは上記の1、4を満たし、2、3を満たす可能性がある機能で、事業者間協議による合意形成が尊重される。

 つまり、既存のガイドラインやタスクフォースでまとめられるガイドラインに沿うと、HLR/HSSの解放はアンバンドル機能として実現が可能だが、その手前の状態である「開放を促進すべき機能」に位置づけ、事業者間協議の促進と合意形成を図る、という段階にあることになる。

IIJ ネットワーク本部 技術企画室 佐々木太志氏

HLR/HSSの解放には数十億円のコスト予想も、新規の事業領域が必要

 では、MVNOにおけるHLR/HSSの解放とはどういったメリット、課題があるのか。

 佐々木氏によれば、すでに同社で100万回線を突破しているように、HLR/HSSの解放は、「MVNO事業に必ずしも必要なものではない」。

 一方で、HLR/HSSの解放により、MVNO事業者が独自にSIMカードを発行できるようになれば、MVNO事業者が扱う複数の通信網やサービスを1つのSIMカードで提供できるようになるなど、柔軟なサービスのデザインが可能になる。

 例えば現在、IIJmioのSIMカードを海外に持って行くと、海外のキャリアからは「ドコモのSIMカード」と認識され、ドコモの国際ローミングサービスのみが利用できる形になっている。しかしMVNOが独自に発行したSIMカードであれば、海外のキャリアと独自に契約することで、現地で独自の通信サービスを提供することも可能になるという。

 音声通話についても、HLR/HSSの解放は「ただちに料金低廉化を可能とするものではない」とする。しかし、MNOが提供する音声通話サービス以外の別の通話を提供することも「技術的に不可能ではない」とし、可能性は否定されていない。一方で、データ通信のARPUが伸びている現在では、音声通話に「成長性はない」とし、「頭を悩ましている」と語っている。

 HLR/HSSの解放について、具体的なハードルもいくつか挙げられている。ひとつは技術的な方針がまだ決まっておらず、MNO側はセキュリティ面でも懸念を表明していること。

 もうひとつの大きな障害は、「膨大なコストがかかると予想される」という点。「数百万円、数千万という規模ではない」とし、30億〜40億円がかかるという指摘にも「否定はしない」としている。これらのコストでは、MVNO側が導入する装置に加えて、解放を想定していないMNOのネットワークを改修するという費用も膨大になるとし、この多大なコスト予想により、MVNO事業者によっては、HLR/HSSの解放に後ろ向きな姿勢を示す結果になっているとした。

 佐々木氏はまた、HLR/HSSの解放に伴う膨大なコストは、いわゆる格安SIM、格安スマホとして低価格を指向して展開している現在のMVNOの事業領域とは「親和性が高くない」と指摘する。

 HLR/HSSの解放が実現している欧州では、SIMカードを独自に発行するMVNOは「Full MVNO」と呼ばれ、すでにサービスも存在しているが、いずれも「IoT」や国際サービスを打ち出すなど、従来の枠を超える規模の事業領域を設定し、多額の設備投資をカバーするケースが多いという。佐々木氏は、「難しい舵取り。新しい(格安ではない)事業領域を設定してチャレンジするMVNOが出てくるだろう。我々も今、研究しているところ」として、HLR/HSSの解放には、コストに見合う規模や新規の事業領域が必要であるとしている。

(太田 亮三)