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スマホで行う防災教育と情報モラル教育〜KDDIが支援

授業の様子

 KDDIとKDDI研究所は2月14日、兵庫県たつの市教育委員会の協力の下、龍野東中学校の2年生を対象にスマートフォンを活用した防災教育・情報モラル教育の実践授業を実施した。

 こうした実践授業は、これまでに岡山県総社市立総社西中学校と山梨県立都留興譲館高等学校でも実施されてきた。前者は、情報の伝え方を学びながら情報モラルの育成をはかるという内容で、後者は、スマートフォンを活用しながら災害の疑似体験を通して社会参加への気づきを与えようという内容だった。

 今回は2校で実施された授業内容を融合・改良したもので、さらに、保護者にも参加を促すことで、生徒だけでなく、保護者にもスマートフォン利用の実態を理解してもらおうという工夫も施されている。

 実践授業は、「文字入力の理解」(1月22日)、「ネットコミュニケーションの理解」(1月29日)、「対面とネットのコミュニケーションの理解」(2月5日)、「防災訓練」(2月14日)の全4回構成。その最終回が報道関係者向けに公開された。

防災訓練の様子

 防災訓練は、生徒は4人1組のグループに分かれ、市内に散らばって課外活動している最中に自然災害が発生したことを想定。各グループには、災害に関する情報カードが避難に役立つものとそうでないものが配布され、それだけでは避難所にたどり着けないように設定されている。このため、スマートフォンのチャットアプリを利用して他のグループから情報を収集する必要に迫られ、円滑なコミュニケーションや情報の正確な発信力や判断力が求められる。さらに今回は保護者が参加。保護者の手元には情報カードが無く、生徒からの情報のみが頼りとなるという設定だ。

テキストチャットで他のグループと情報交換しながら避難していく
今回は保護者も参加

 筆者は山梨県立都留興譲館高等学校で実施された研究授業の模様も取材してきたが、高校生と中学生という年齢の違いもあり、高校生向けのものに比べると避難シミュレーションの難易度は落とされていた。実践授業を監修した中部大学現代教育学部教授の三島浩路氏によれば、都留のケースでは地域の要望として、災害時には高校生の活躍に期待されていたこともあり、自助に加えて公助の要素を強く取り入れたという。

 20分という制限時間の中で生徒らはスマートフォン上でのチャットを駆使して情報交換を行った。結果、保護者を含む全グループが避難に成功したが、家族がいる避難所がどこであるかまでを把握できた生徒は8割ほどだった。

チェックポイント
チャットで得られた情報を元に全グループが避難に成功
避難可能な避難所となっている体育館が使用できないという誤った情報も流れた

スマートフォンのポジティブな面に気づく

 授業終了後に授業を担当した岩谷政哉教諭に感想を求めたところ、スマートフォンの校内への持ち込みを禁止しているということもあり、当初、こうした授業には懐疑的な気持ちもあったという。「これまではスマートフォンのダメな面ばかりを教えてきたが、良い使い方を教えられたことは本当によかった」(岩谷氏)と振り返る。

 同氏によれば、3回目の授業では、宝探しのようなゲームを行ったが、わざと嘘の情報を与えたところ、全グループがゴールにたどり着けなかった。生徒たちは、偽の情報に惑わされることの多いネット社会や現実社会の中での生き方も学んだ。

 授業に参加した保護者も、「スマートフォンを持たせるとゲームばかりしてしまうし、子供同士のケンカの原因にもなってしまう。(授業を通して)持たせた方がいいのかな、という面も見えてきた。避難訓練のように定期的に実施してほしい」と語っていた。

 一方の生徒もテキストチャットでのコミュニケーションの難しさを認識したようで、「誤った情報を流さないようにすることに気を使った」などと感想を述べていた。クラスの半分は自分のスマートフォンを所有し、そうでない生徒もほとんどが家族のスマートフォンを必要に応じて使わせてもらっているということで、操作に困ることは無いが、受け手のことを意識した情報のやりとりの大切さを学んだようだ。

 とはいえ、公開授業ということもあり、授業内でのチャットの文体は、普段彼らがLINEなどの上で交わすものとは異なり、多少なりと余所行きのかしこまった表現だった模様。大人の目を気にしながらも、大人が思う以上にスマートフォンを賢く使いこなしている様子も垣間見られた。

KDDIの狙い

 KDDIやKDDI研究所がこうした実践授業に取り組む理由の一つはCSR活動ということになるが、そこにはアクティブラーニングのためのネットワーク環境の実現というもう一つの狙いも隠されている。

授業を前にあいさつするKDDI 関西総支社長の松尾恭志氏(右)
実践授業の狙いを説明するKDDI研究所 研究主査の本庄勝氏(中央)

 スマートフォンに代表されるスマートデバイスへの理解を深め、教育現場で活用していく必要性が認識されているものの、現実的には、インターネットにそのまま接続すると、セキュリティ面での不安や授業の妨げとなるような情報に惑わされてしまうといった安全性の問題や、LTEなどのモバイルネットワークをそのまま使用すると通信費用がかさんでしまうというコスト面での問題があった。

 そこで、KDDIとKDDI研究所では、クローズドな無線LAN環境を構築し、LINEに似たオープンソースのメッセージングアプリ「SPIKA」をその上で動かすことで、それらの課題をクリアしようとしている。無線LAN環境は、学校の公務ネットワークとは切り離して運用されており、持ち出しも可能。さらに、トラブルが発生した際にはサーバーの再起動といった簡単な操作で復旧できるという風に、教員への負担を減らすことも考慮されている。

 ただ、教育プログラム自体が研究段階で、アプリに改良の余地が残されていることもあって、端末側の設定の自動化までは実現していない。また、実際には音声通話やカメラ、GPSといった機能も避難や情報収集に役立ちそうだが、授業として実施する場合、どういったトラブルが生じるか読めないところもあって、現状では制限をかけた形になっている。それでも、今後はそうした機能を有効にして、より実践的に屋外で行うようなプログラムを作ることも考えているという。

(湯野 康隆)