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「格安」じゃないMVNOはこれから拡がるのか――モバイルフォーラム2016から

 16日、テレコムサービス協会によるイベント「モバイルフォーラム2016」が開催された。2014年の「MVNO 2.0フォーラム」、翌2015年の「モバイルフォーラム2015」に続く今回も、携帯電話市場でさらなる成長が期待される“MVNO”に関し、国内外の現況が、メーカー関係者らによるパネルディスカッションなど、盛り沢山の内容となった。

海外のMVNOはどうなってる?

情報通信総合研究所の岸田氏

 米国では2500万契約に達するMVNOが存在する、中国でもMVNOの存在感を高めようとしている――このように、海外におけるMVNOの動向を報告するのは、情報通信総合研究所の岸田重行氏。MVNOに限らず、海外市場の通信業界の動向を追う岸田氏は今回、欧米を中心としたMVNOの動向を紹介する。

 いまや、さほど珍しいことではなくなってきた「SIMカードだけの購入」。岸田氏の知る限り、これをネット販売において初めて手がけたのはドイツのSimyoだという。

欧州主要国でのMVNOのシェア
米国の状況

 同じドイツにおいて、約350万人(2014年9月時点)に利用されているのは、Turkcell EuropeというMVNOだ。同社は、トルコの携帯電話会社(MNO)であるTurkcellの子会社として誕生し、在独トルコ人がターゲット層。ドイツ国内には、出稼ぎや移民といった形で、トルコ人が数多く暮らしており、そうした状況を背景にしたMVNOだ。ただ、最近、ドイツテレコムに売却され、ドイツテレコムのサブブランドになった。岸田氏は、MNOに買収されるほど、と指摘し、一定の規模まで成長したと評価する。また米国のMVNOであるTracfoneは、メキシコの通信会社が手がけており、米国内のヒスパニック層をターゲットにしている。2015年3月末時点でその契約数は2570万件で、相当の規模に達している。

 英Tesco社が最近手がけるのは「Anytime Upgrade」というサービス。これは「ある程度お金払ってくれれば、端末を交換してもいい」(岸田氏)というもの。類似のサービスは、米国、日本でも大手が導入している。

 中国ではゲーム会社に由来をもつSnail Mobileがシェアトップ。ゲーミングフォンと名付けられた、コントローラーのようなボタンを備えるスマートフォンを提供、ゲームのダウンロードではパケット代がかからないというサービスを提供する。ゲームだけではなく、日本を旅行する人向け、あるいは日本から訪中する人に向けたSIMも手がける。岸田氏によれば、既に400万契約を抱えているとみられており、「日本で言うと一桁変えてみると、中国の規模感はわかりやすい。つまり400万契約は日本で言うと40万契約程度。まだまだ伸びしろがある」(岸田氏)とのこと。中国政府の意向として、MVNOの競争を促進するフェーズに入ったとのことで、これから中国でもMVNOの存在感が増しそうだ。

グーグルの「Project Fi」

 注目のMVNOとして紹介されたのは、米グーグルの「Project Fi」。最近になって招待制から、米国にいれば誰でも申し込めるようになった。その特徴はシンプルな料金プランにあるという。

岸田氏
「料金プランが60ドルとシンプルで、1GB分の料金は10ドル。日本(のMVNOの相場)からすると安くないが、たとえば余った通信量は、翌月、繰り越しではなく(相当する割引として)お金で戻ってくる」

 Project Fiが借り受ける回線は、米国内の複数の携帯電話事業者。つまり、ある場合は、T-mobileで、別のときにはSprintと、切り替えて利用する。ユーザーにとってはグーグルと契約するだけで、複数の携帯電話会社のネットワークを利用できることになる。

 岸田氏の講演に続いて登壇した、スマートフォン/ケータイ ジャーナリストの石川温氏も、Project Fiは注目サービスとして、「日本の大手キャリアと組んだら怖い。もしソフトバンクが新たなパートナーになったらインバウンド需要も取れる可能性もある」とコメント。Project Fiだけではなく、Apple SIM、そして海外で発表されたMicrosoft SIMを紹介し、注目に値するサービスとする。

5月から導入される初期契約解除

 2015年5月に改正され、2016年5月から導入される予定の電気通信事業法(改正電気通信事業法)では、初期契約解除というルールが新たに導入される。これはいわゆるクーリング・オフ。当初は携帯大手3社とUQコミュニケーションズのWiMAXが対象となる予定だったが、パブリックコメントを反映させてまとめられた最終的なルールとしては、MVNOの期間拘束型のデータ通信サービスも初期契約解除の対象に加わることになった。期間拘束がないデータ通信サービス、あるいは音声通話は初期契約解除の対象外。

 初期契約解除が適用された場合でも、初期費用や利用料は基本的にユーザーへ全て返金されるが、事務手数料などは一定額を上限として、MVNOからユーザーへ請求できる。また契約書面の交付が義務化されており、ユーザーが承諾すればデジタルデータ(電子交付)での提供が認められている。

 このほか、主に青少年向けとなるフィルタリングサービスについては、MVNOも音声付きサービスを青少年に提供する場合は義務とされ、その手順についてガイドラインが2015年に公開された。ただしデータ通信専用サービスは義務化の対象ではない。

 MVNOの回線から緊急通報(110番、119番など)をする場合、通報を受ける警察などには、端末の位置情報などが通知される仕組みが導入される。しかし端末側でGPSをオフにしている場合などは、通信事業者に対して住所などを教えるよう警察が要請することもある。たとえば家庭内暴力の被害者の携帯電話から通報があったにもかかわらず、加害者がそうした機能をオフにしていた場合など、生命に関わる場合での運用が想定されている。この場合、音声通話対応のサービスを提供するMVNOは、警察などからの要請に対応することになった。ただ、MVNOによっては365日対応することはできても、24時間全て対応できるかどうか体制が整っていないこともあるため、今後の課題とされている。

【お詫びと訂正 2016/03/17 11:34】
 記事初出時、初期契約解除の対象となるサービスや、初期費用の扱いに関する記述に不備がありました。お詫びして訂正いたします。

実質0円廃止や“iPhone SE”が与える影響

石川氏

 法的な面でも変化がある2016年のMVNO市場だが、大手キャリアに対する「実質0円廃止」の要請が今後、どういった影響を与えるのだろうか。

 会場には総務省関係者がいるなか、石川氏は「中古端末は、一般に使われなくなった携帯電話をユーザーが手放すことで在庫を揃える。つまり新製品の販売が減ると、長期的には中古品の“弾”が減ってくる。新品が盛り上がらないと、中古も盛り上がらず、中古市場が萎んでいく可能性がある。両方をうまく盛り上げるのは難しい」と指摘する。

 また「実質0円廃止要請」に対する大手キャリアの動向として、各社が発表したプランを紹介しつつ「ソフトバンクは総務省を煙に巻くのがうまい。(実質0円廃止で)キャッシュバック戦争がなくなると、これまでMNP転出が続いていたNTTドコモにとっては有利に働くのではないか。競争がなくなるのは、ユーザーにとってクエスチョンマークと思う」とする。

 また3月21日の週に発表との噂が立つ新型、通称“iPhone SE”については、「これまで10万円程度していたiPhoneと比べて、“iPhone SE”は価格が400〜500ドルと言われており、割引を積まずとも販売しやすくなる」とコメント。日本市場ではiPhoneが圧倒的なシェアを占めるなかで、米国ではMVNOがiPhoneを扱うケースもあると紹介し「日本のMVNOもiPhoneを扱おうと交渉しようとしたが、大手3社が全力で阻んでいるという噂もある。(そこで登場する)安い“iPhone SE”はMVNOの味方になるのではないか」として、割安な料金で提供するMVNOのSIMカードとの組み合わせが、これまでのiPhone以上の魅力になるのでは、とした。

SIMフリー市場に挑むメーカー

 イベント後半に行なわれたパネルディスカッションでは、SIMロックフリー端末を供給するメーカーとして、FREETELブランドを展開するプラスワン・マーケティングの大仲泰弘取締役、HTC NIPPONの玉野浩代表取締役社長、マウスコンピューターの平井健裕製品企画部部長のほか、ASUSやalcatelなどの製品を扱うディストリビューターであるシネックスインフォテックの佐藤正隆モビリティプロダクト部長が登壇。またIIJの島上純一取締役(テレコムサービス協会MVNO委員会副委員長)もMVNO代表のような形で席につく。

マウスの平井氏
Windows 10 Mobileを搭載するMADOSMA Q601

 SIMロックフリーの携帯電話は、大手キャリアからすると自社製品ではないため、動作保証をしてくれるわけではなく、何かトラブルがあればMVNOやメーカー側で解決策を模索する。たとえばマウスが2015年に発売したWindowsスマホの場合、発売から半年ほど経過したとき、ドコモ回線を利用するMVNOサービスが突然、繋がりにくくなる、という事象が発生した。SIMロックフリーのため、ドコモからの協力を得られず、繋がりにくい原因を探るための情報収集も難しい環境だったが、このときはあるMVNOの協力を得て、マイクロソフトとともに原因を特定してトラブルの解消にこぎ着けた。また現在準備中のWindows 10スマホでは、NTTドコモだけではなく、ソフトバンクやauのLTEも利用できるよう、ハードウェアとしては各社の周波数に対応している。しかし仕様上は利用できる見通しとなるものの、大手キャリアの動作保証が得られないなかで、そのまま開発を進めていいか難しい、と平井氏。ひとまずドコモの周波数に絞る形で販売する方針だという。

 海外メーカーから日本向けに端末を調達するシネックスインフォテックでは、日本での展開に必要な認証を取得するためのアドバイス、販売プランやプロモーションの手伝いなども行なう。メーカーのなかには「北米で売れた機種であれば日本でも売れるはず」と意気込むところもあるそうだが、シネックスでは「海外では端末を売りっぱなしということが当たり前のところもあるが、日本ではそうではない、と返事をすると、真剣に考えるメーカーと少し腰が引けるメーカーがある」と解説する。日本のSIMロックフリー市場の規模は、大手キャリアが扱う端末と比べて、まだまだ小さいため、「日本人らしいサービスとして、全国津々浦々まで行き届かせて販売するとなると、運送など流通コストを抑えるのも難しい」と述べる。また、日本向けに展開する際には、メニューの日本語表記でおかしなところがあればシネックス側で指摘して修正することもあったという。

シネックスの佐藤氏
シネックスの方針

カメラの音、どうします?

 石川氏から、メーカー側の自主規制としてカメラのシャッター音が組み込まれていること、SIMロックフリー端末でもそうした形になっていることが紹介される。日本ならではの“仕様”に、メーカーとして対応しなければならないコストになっている一例だが、マウスの平井氏は「シャッター音のないアプリは既に存在するのは事実で、なくせるものならなくしたいとは思うが、マウスが(単独で)ぽつんとやるとどうなるだろうな、という懸念はある」とコメント。

 シネックスの佐藤氏は「海外メーカーもそういった日本市場の流れを学んで、かなり大きな音量のシャッター音をプリセットしてきたこともある。それは音量を小さくしたが聞こえなくなるのはまずい。シャッター音を消すかどうかは議論が必要となるが、(そのときは)パフッといったサウンドに切り替えられるようにした」と述べて、一工夫したことを紹介した。

端末とSIM、本当に分離すべき?

プラスワンの大仲氏

 モデレーターの石川氏が、イオンが盛り上がったのはSIMカードと端末をセットにしたことが大きいのでは? と、端末と通信サービスのセットについて話題を変えると、端末とSIMの両方を提供するプラスワンの大仲氏は「参入するとき、端末と通信はセットでなければダメだと思った」と同社事業のコンセプトを説明する。これは、かつて日本では第2世代(2G)の携帯電話サービスでSIMカードが存在しなかったこと、ひるがえって海外ではSIMの入れ替えが当たり前になっているところも少なくないことなど、諸外国と日本ではこれまでの携帯電話販売の歴史で大きな違いがある、という背景がある。

 IIJの島上氏は「総務省が言う“分離”については、端末とSIMを一緒に販売することと、料金と端末価格を一緒にすることは別の話だろうと思っている。これまでは(端末価格を)意識させないセット販売だった。大手キャリアの部署に“商品本部”といった部署があるが、そこで扱ってきたのは携帯電話端末。これはかつてNTTが黒電話を含めてサービスしてきたことを考えると、当たり前と言えば当たり前。でもそうじゃない世界を作ってきたのがMVNO。たとえば子供のスマホ用として『よさそうな端末とMVNOのセット』をもう選べるようになっている。(大手キャリア的なセット販売と、SIMと端末の組み合わせという)どちらが主流になるかわからないが、じわじわ変化していくのではないか」と予測した。

(関口 聖)