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「タスクフォース」で実質0円は是正されたのか、総務省でフォローアップ会合

 ライトユーザー向けプラン、過剰なキャッシュバックはどうなったのか――総務省からの要請に端を発し、2016年に入って、大手携帯電話会社がさまざまな料金プランや、新たな取り組みを発表してきた。その成果はどんなものだったのだろうか。

 26日、総務省で「ICTサービス安心・安全研究会(第9回)」と「利用者視点からのサービス検証タスクフォース(第7回)」という2つの有識者会合が合同開催され、各社の取り組みを振り返った。会合の冒頭には高市早苗総務大臣が挨拶を行った。

高市総務大臣
「2015年末に各社へ要請して以来、端末価格の値引き競争から、料金・サービスを中心とした健全な競争への変化が急速に進んでいると思う。本日は、昨年のタスクフォースでとりまとめられた料金軽減と、端末販売の適正化、そして2年縛り契約の見直しについて、各社から取り組みの状況をヒアリングする。構成員からは今後に向けた意見をいただきたい。総務省では、電気通信事業法第1条に規定されている通り、公共性に鑑み、公正な競争を促進すること、消費者利益を保護することを進めたい」

「ライトユーザー向けプラン」「実質0円廃止」どうだった?

 安倍晋三総理大臣の指示を受け、2015年秋から総務省で「携帯電話の料金その他の提供条件に関するタスクフォース」と題する会合が開催された。10月~12月中旬まで2カ月半程度というわずかな期間の議論を経て、総務省が打ち出したのは「ユーザーの実態を踏まえた料金体系」や「端末価格からサービス・料金を中心とした競争への転換」「MVNOを通じた競争促進」だ。

 今回の会合は、これら3つのうち、前者2つを対象にしたもの。このうち「実態を踏まえた料金体系」とは、1GBプランなどライトユーザー向けの料金、そして「競争の転換」とは、実質0円を廃止するという取り組みとして話題となってきた。

 ヒアリングではNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの各社から、月額5000円程度に抑えたライトユーザー向けプランや長期契約者を対象にした割引、ポイント施策が紹介される。たとえばNTTドコモは10GBまでしか選べなかったシェアパックに5GBプランを追加したこと、あるいはau(KDDI)やソフトバンクからは2年契約なしの場合は月額利用料が300円高いというプランだ。またKDDIからは、31日の新機種発表会において、長期契約者向けの施策を発表することが明らかにされた。

 また総務省が用意した資料では、携帯各社の販売奨励金の状況を示したものも用意された。具体的な内容は傍聴する人には明らかにされず、構成員(有識者)だけに開示されたが、概要によれば、携帯各社から販売代理店への奨励金は、1月、前年よりも増えたが2月・3月は減少した。第4四半期(2016年1月~3月)1台あたりの奨励金は前年度よりも減った。

「過剰なキャッシュバック、復活していないか」

 構成員の一人である野村総研の北俊一氏からは、端末割引に関するレポートが報告される。同氏は、「とあるショップでは、総務省がしっかりやっていくんだから、スタッフとしても誠実に販売していこう、と言っていたのに近隣のライバル店が30万円還元などをうたっている。これは先週のチラシだが(構成員だけに披露された)、タイムスリップのように元へ戻っている。いったいどういうことか」と語気を強める。

 北氏が示したチラシは、いわゆるキャリアショップ、それもソフトバンクの関西や九州などのショップで「4人で30万円還元」などとうたっていたもの。先の週末に配付されたという。同氏は「代理店がしていることだから知らない、コントロールできませんということではなく、キャリアから代理店に対しても端末価格の適正化について理解を求めて欲しい。(今回のチラシは)ソフトバンクがチラシを作っているんだから知らないとは言わせない」と指摘する。

 キャリアからの販売奨励金が増やされておらず、代理店が自腹を切る形で店頭の割引を積み増しているのであれば、独禁法を踏まえても認めざるを得ないと北氏は指摘した上で「まさか、キャリアの奨励金が増額されたことはないだろう」と牽制するようなコメントをしつつ、ガイドラインの規制対象である“端末販売奨励金”ではなく、携帯電話回線の獲得用奨励金は現状、ガイドラインの対象外であり、実質0円、一括0円の復活に繋がりかねない、と警鐘を鳴らす。その上で「キャリアや代理店は端末を値下げするしかないと凝り固まっているのでは」として、端末価格の割引以外で競争できるよう工夫すべきと提言する。

キャリアの料金、わかりにくい?

 構成員からは、高齢者やITリテラシーがさほど高くないユーザーからの視点を踏まえた意見が寄せられる。たとえば違法・有害情報相談センター長の桑子博行氏は通信関連のトラブルとして、2016年1月、携帯電話をスマートフォンに買い替えようとしてショップを訪れた86歳の男性が、タブレットや15GBの通信プラン、十数個のオプション、SDカード2枚など、総額20万円の契約をさせられたという事例を報告。この男性は、医師の診断によると多少、認知症の症状が見受けられるとのことだが、こうした例を挙げて過剰な販売がひずみを生み出している、と指摘する。

 一方で、携帯電話会社が導入した新しい施策について、細かな手続き面での質問も挙がる。NTTドコモが6月から採り入れる「フリーコース」「ずっとドコモ割コース」を選択する際、フリーコースを選ぶためには電話やショップで受け付けるのかどうか、といったものだ。

 また全国地域婦人団体連絡協議会事務局長の長田三紀氏は、ソフトバンクやauが導入する2年契約の解除料が発生しないプランと、解除料が発生する「新2年契約」について「同じ2年間なのに300円の差額が発生するのはなぜか」と質問。両社のプランは、2年契約して、2年経ったあと、300円高い方のプランは解除料が発生しないというものだが、長田氏は「最初の2年間が拘束されるのになぜ300円高いのか」という点で納得いかない様子。これにソフトバンクは「もともとのタスクフォースの議論で、更新の手続きを忘れる人がいる。多少料金を上乗せしてでも、2年経過したらいつでも無料で解約できるプランにもニーズがある、ということで用意することにした」と説明する。

 構成員の座長を務める明治大学法学部教授の新美育文氏は、「メニューはできたが、消費者にとってベスト(なプラン)がどれかわかりづらい」と総括。桑子氏や長田氏からの質問は、ユーザーの立場からするとよくわからないという指摘だったのではないか、として、今後の改善に期待する姿勢を示す。

 総務省の要請からは半年足らず、そしてガイドラインが示された春商戦を終えたばかりというタイミングであったためか、ガイドラインの評価として携帯電話業界へのインパクトがどの程度で、今後どういった方向で修正していくか……といった踏み込んだ議論はなされなかった。

 高市総務大臣や、事務方トップの桜井俊総務事務次官は会合の最後まで出席しており、総務省にとって重要な会合という位置付けであることはうかがえたが、携帯会社の施策の細かな手続き面での質疑に時間を費やす場面もあって、消化不良という印象が残る会合となった。新美座長は今後もフォローアップするとコメントしており、競争環境、端末代金だけではなく月々の料金を含めたユーザーの負担する金額の推移などについてもどういった影響があり、今後の政策へどう反映されるのか、総務省の舵取り、携帯各社の施策が注目される。

関口 聖