「HTC Desire」速報レビュー

高い完成度を誇るハイスペックAndroid端末


Android 2.1を備えた「HTC Desire SoftBank X06HT」

 Androidの最新バージョンにあたる「2.1」をいち早く搭載し、マルチタッチやFlash Liteなどを備えた「HTC Desire SoftBank X06HT」(以下、HTC Desire)が、本日、ソフトバンクから発売された。初回出荷分が予約だけでほぼ完売と、出足は好調なようだ。そのHTC Desireを、短い期間ではあるが、ソフトバンクモバイルから事前に借りることができた。本稿では、操作性や注目機能の使用感などに絞ったファーストインプレッションをお届けする。また、Android 2.1ならではの魅力や、他のAndroid端末との違いなども、レビュー内で明確にしていく。なお、端末はあくまでも“デモ機”であり、製品版とは使用感などが異なる可能性もある。この点は、十分ご注意いただきたい。

スマートフォンではトップクラスの“キビキビ感”

 HTC Desireを使ってみて、真っ先にお伝えしたいこと。それが、動作の機敏さだ。単に動きが速い以上に、使っていて気持ちがいい。スクロールや画面の拡大・縮小が、指に吸い付くように追従するからだ。その上、画面の端まで勢いよくスクロールすると、少しだけ跳ね返るような“遊び心”も忘れていない。率直に言うと、同じ1GHzのSnapdragonを搭載するXperiaよりも、“キビキビ感”は上だと感じた。タッチの感度が抜群で、誤操作がとにかく少なかったのも好印象。使っていてストレスは全く感じない。

ホーム画面の切り替えもスピーディーアプリ一覧がフワっと動く演出も心地よい

 特にパワフルさを感じたのは、PDFを開いた時。1MB以上のファイルでも、問題なく開くことができ、スムーズにスクロールする。拡大や縮小で待たされる感じもしない。ほかのスマートフォンだと、極端に速度が低下したり、開けないことがあったりするファイルも、難なく閲覧できた。ちなみに、同じファイルをiPhone 3GSで開くと、かなり動作が緩慢になる。Xperiaだと「メモリ不足」になり、開くことすらできなかった。一般のユーザーが、ここまで大容量のファイルをやり取りする機会はあまりないかもしれないが、筆者のように、校正などで比較的重いファイルをやり取りするユーザーには非常に心強い。

画像を貼り付けただけの2MBを超えるPDFも難なく表示。Xperiaでは表示できず、iPhone 3GSでも実用に耐えない重さだった

 ソフトの軽快さだけでなく、ハードウェアも操作性のよさに貢献している。サイズは60×119×11.9mmで、62.1×115.5mm×12.3mmのiPhone 3GSとほぼ同レベルだが、背面がフラットなため、持ったときに感じるコンパクトさはHTC Desireに軍配が上がる。わずかだが、横幅がスリムなことも、操作のしやすさに貢献している印象だ。また、中央の決定キーが「光学ジョイスティック」になっており、なぞるだけで小気味よくカーソルが動く。入力した文字を修正したり、小さな文字のリンクを選択したりするのに重宝する。ただし、感度がよすぎるせいか、タッチで操作している際に、間違って触れ、突然カーソルが思いもよらぬ方向に動くことが何度もあった。通常のトラックボールのように、キーを触れた覚えがないため、「ソフトが暴走した?!」と感じてしまう。慣れればここを回避しながら操作できるが、極端な話、光学ジョイスティックなしでも操作は完結する。オフにする設定があってもよかっただろう。

薄さは11.9mmで、フラットな形状のためコンパクトさが際立つ音量の調整などは左手で行う。X06HTという型番もこちらに刻印
背面はフラットながら、ややカメラが強調された形状Web閲覧中に光学ジョイスティックを触るとカーソルが出現する

マルチタッチやFlash Liteの実力は?

 冒頭述べたように、HTC Desireは最新のAndroid 2.1を搭載している。このバージョンの売りの1つが、OSレベルでのマルチタッチへの対応だ(シャープが製造したauの「IS01」は独自にAndroid 1.6だが、独自にマルチタッチを実装している)。HTC Desireでは、ピンチイン(2本の指をつまむように近づけること)が縮小、ピンチアウト(2本の指を広げるようになぞること)が拡大となっており、ブラウザや画像閲覧、マップ、PDFビューア、Quickofficeなどで多用した。また、ホームでピンチインすると、7つの画面のサムネールが表示され、目的のページへのダイレクトなアクセスが可能になる。わざわざメニューから拡大や縮小の項目を選ぶ必要がないため、慣れれば操作の効率化につながる。

2本の指でピンチイン&アウトが可能なマルチタッチホーム画面でピンチインすると、サムネールに切り替わる

 一方で、マルチタッチによる拡大・縮小は、片手操作に向いているとはいいがたい。2本の指を使う関係で、もう片方の手で、端末をホールドしなければならないからだ。腰をすえてじっくり何かを見る際にはいいが、移動時にはダブルタップの方が便利だと感じた。マップには、従来のAndroidにあった「+」と「-」のアイコンが残っており、拡大・縮小はここをタッチしてもよい。ブラウザからは外されてしまったが、片手操作のことを考え、ぜひ残してほしかった。もちろん、マルチタッチのメリットはほかにもある。代表的な応用分野はゲームで、タッチパネル上で物理的なコントローラーを再現する際などに欠かせない。シングルタッチだと、移動しながら武器を使うという動作ができないのだ。楽器アプリも同様で、マルチタッチがなければ、和音を出すのが困難になる。派手で分かりやすい拡大・縮小のインターフェイスに目を奪われがちだが、実際は、アプリへの応用でこそ、本領を発揮する機能といえるだろう。

マップはマルチタッチとアイコン操作を併用できる楽器アプリなどのマルチタッチ対応を期待したい
サイト上にFlashで埋め込まれた動画を再生できた

 Android 2.1のもう1つの売りが、「Flash Lite 4.0」への対応だ。標準のブラウザにプラグインの形でFlash Liteが搭載されており、動画やインタラクティブなページを、PCさながらに開ける。試しに、「Impress Watch Video」で配信されている「法林岳之のケータイしようぜ!!」を再生してみたが、一応、途中までは視聴することができた。中ほどで動画がストップし画面が真っ白になってしまったほか、たまに短く途切れたり、音声と映像に微妙なズレがあったりなどの問題はあるが、全く見られないよりは実用的だ。Flashの部分をダブルタップすると、動画だけが抜き出された形で表示され、再生位置のバーや音量などは光学ジョイスティックで動かせた。ただ、正直なところ、操作がしやすいとはいえない。Flashはあくまでも“見る”ためと割り切った方がよさそうだ。

 このほか、Android 2.1では、複数のGoogleアカウントを設定できる「マルチアカウント」や、ホーム画面の背景が動く「ライブ壁紙」などをサポートしている。前者は、プライベートとビジネスといった形で、複数のGmailや連絡先を使い分けているユーザーが、待ち待った機能。後者は、端末のカスタマイズの幅を広げるだろう。こうした新機能を利用できるのも、HTC Desireの魅力だ。

マルチアカウント対応で、Gmailなどを使い分けられる背景がダイナミックに動く「ライブ壁紙」に対応

実用度の高い「HTC Sense」やHTC開発のアプリ

 HTC Desireは、北米などでグーグルが自ら販売している「Nexus One」と、形状やスペックが近く、“ほぼ同じ”と表現されることもある。しかし、HTC Desireには「HTC Sense」と呼ばれるインターフェイスアプリが搭載されており、使い勝手は大きく異なる。しかも、このアプリのできが秀逸だ。先に挙げた、ホーム画面のサムネール表示は、HTC Senseによるもの。電話やアプリ一覧も、ワンタッチで呼び出せる。また、メールの送受信には、標準メーラーではなく、HTCが開発したものを利用し、ウィジェット表示にも対応。未読の数がアイコン上に表示されたり、会話形式でやり取りが分かったり、フォルダ分けができたり、本文のコピーが可能だったりと、かゆいところに手が届く。(比較の対象はHT-03AやXperiaに搭載された1.6のメーラーで公平ではないかもしれないが)Android標準のメーラーと比べると、雲泥の差だ。

電話のかけ方やアプリの呼び出し方がAndroid標準とは異なるメーラーもHTCが独自に開発したもので、使い勝手がいい
ウィジェットからそのままつぶやくことも可能な「FriendStream」

 Twitter、Facebook、Flickrの更新情報を時系列に整理して表示する、「FriendsStream」の仕上がりも秀逸。筆者はFacebookやFlickrはほとんど利用していないため、3つのサービスが統合されたことのメリットはなかったものの、ウィジェット上で直接タイムラインを操作可能で、つぶやきをサッと確認できるのが便利だと感じた。さらに、このFriendStreamでTwitterのツイートをタップすると、「Peep」というアプリが起動する。シームレスにつながるため、まるで1つのアプリのように思えるが、実際はそれぞれ別個のものだ。Peepはデフォルトのアプリとは思えないほど高機能で、返信はもちろん、リツイートやフォローしているユーザーのタイムライン表示も可能。DMも読みやすい。動作はサクサクで、筆者の使い方なら、あえてアプリでクライアントを追加する必要性を、全く感じなかったほどだ。コンセプトこそXperiaのTimescapeに似ているが、TwitterやFacebookなどのクライアントを搭載したことで、実用度が格段に上がった印象を受ける。

「FriendStream」とシームレスに連携するTwitterクライアントの「Peep」返信やリツイート、お気に入り登録も可能
連絡先は電話番号やメールだけでなくFacebookやFlickrとリンク

 連絡先では、SMSや通話履歴を確認できるほか、Facebookのイベントや、Facebook、Flickrの写真をひも付けることが可能だ。Twitterと連携していないのは残念だが、一般的なケータイの連絡先よりも斬新なことは確か。内蔵のRSSリーダー「News」も、ウィジェット表示でき使いやすい。また、撮った写真と位置情報をリンクさせ、連絡先への登録も可能な「Footprints」は、日々の出来事の記録に使え面白い。お店の情報などを残しておく、実用ツールとしても重宝しそうだ。

写真と場所を記録していくことができる「Footprints」シンプルだが使い勝手のいいRSSリーダーの「News」

音楽再生やカメラなどのエンタメ機能はもう一歩

カメラのメニューは非常にシンプル

 一方で、エンターテインメント機能は、あくまで“可もなく不可もなく”といったレベルにとどまる。カメラは500万画素CMOSで、顔検出やISO設定なども可能。撮影した写真を拡大すると、細部が比較的しっかり表現されていることが分かる。ただ、この画素数で手ブレ補正に非対応な点は残念だ。タッチでフォーカスを合わせ決定キーで撮影する流れも、少々分かりづらかった。ブログやTwitterにアップするには十分な画質で、複雑な設定がいらないぶんシンプルに使えるかもしれないが、過度な期待は禁物だ。

HTC Desireで撮った屋外の写真(リンク先無加工)

 音楽再生機能からも、同様の印象を受けた。Windows Media PlayerやiTunesで適当に作成したファイルを、microSD直下に放り込むだけで再生できるのはお手軽で、CDのジャケットを指で弾くように曲を切り替えるインターフェイスも使いやすいが、イコライザには非対応。XperiaのMediascapeのように、ネットと連携する機能も用意されていない。メニューには「購入済み」という項目も用意されてはいるが、どこで音楽を購入できるのかも分からない。

音楽再生のインターフェイスは直感的できれいただし、音楽に関する機能はそれほど多くない
文字入力にはiWnnを採用。HTCならではの工夫もほしかった
Androidマーケットに対応。ソフトバンクの独自マーケットはない

 じっくり使っているうちに、日本へのローカライズがやや不足しているようにも感じた。例えば、対応するソーシャルサービスはその1つで、Twitterこそ最近は爆発的に普及中だが、FacebookやFlickrはまだまだ日本ではマイナーなサービスにすぎない。mixiのように、ローカルだがユーザー数の多いSNSに対応してもよかったはずだ。実際、ソニー・エリクソンのXperiaは、日本版のみTimescapeでmixiを利用できるが、他国でもそれぞれの事情に合わせたSNSをサポートしていくという。日本語入力のiWnnに関しても、HTC Desireならではのひと工夫があれば、タッチの精度が高いだけに、もっと打ちやすくなったかもしれない。

 ソフトバンクモバイルにも、より積極的な展開を期待したい。現状のHTC Desireは、MMSに非対応。同社が扱うiPhoneやWindows PhoneがMMSを利用できることを考えると、ぜひアップデートしてほしいところだ。また、ドコモやKDDIはそれぞれ独自のマーケットを開き、初めてのAndroidユーザーでも違和感なくアプリをダウンロードできる環境を用意している。Androidマーケットはアプリ数こそ豊富だが、言語が入り混じっており初心者には難しいのではないか。iPhoneのようにアプリはプラットフォーマーに任せる手もあるが、HTCのようにマルチキャリア展開しているメーカーのグローバル端末だと、あえてソフトバンク版をチョイスする理由が1つ減ってしまう。

 とは言え、HTC Desireは実に魅力的な端末だ。特に、筆者にとっては、キビキビとした動きや、サイズの大きなPDFを快適に見られるマシンのパワーは、ほかに代えがたい。Twitterをはじめとした、ソーシャルサービス用アプリも使い勝手がよく、完成度が高い。また、ここまでのレビューをご覧いただければ分かるように、同じAndroid端末ではあるが、Xperiaともしっかり差別化されている。ソーシャルサービスを取り込むという“素材”こそ同じだが、“味付け”にはしっかりと両者の個性が表れているのだ。Androidをエンターテインメント端末として調理し、独自の世界観を打ち出したXperiaが創作料理だとすると、HTC DesireはAndroidという素材のよさを引き出したオーガニック料理といえるかもしれない。ただ、そのぶん、Androidという素材自体を知らないユーザーには分かりづらいし、敷居が高いとも思われがちだ。玄人好みの1台で終わらせないためには、ソフトバンクモバイルやHTCが、この魅力を噛み砕いて伝えていく必要があるのかもしれない。



(石野 純也)

2010/4/27 11:13