レビュー

Apple Watchファーストインプレッション

Apple Watchファーストインプレッション

アップル初のスマートウォッチ

 アップル初のスマートウォッチ「Apple Watch」が発売された。スマートウォッチなどのウェアラブルデバイスは、まだ普及していないこともあり、iPhoneのように、発売そのものが大きな騒ぎにはなっていない。しかし注目を集めつつあるウェアラブルというジャンルに、アップルが飛び込んできたという点で、非常に興味深い製品であることは間違いない。

Apple Watch

 まず最初に、Apple WatchはiPhoneの代用として使うものではなく、iPhoneと一緒に使う、いわゆるコンパニオンデバイスである。iPhoneとはBluetoothやWi-Fiで接続する。機能面ではAndroid Wearによく似ている。ただしAndroidとはペアリングできない。またiPadでも使えず、現状ではiPhone専用となっている。

 ではどんな機能があるのか、どんな使い勝手なのか。アップルとしては初めてのスマートウォッチだけに、まだよくわからない部分も多いことと思う。筆者もそうだ。今回、筆者はApple Watch Sportの38mmスペースグレイアルミニウムケース+ブラックスポーツバンドを購入した。購入前の試着時の印象なども加えつつ、Apple Watchのファーストインプレッションをお届けする。

ディスプレイは自動消灯・自動点灯

 Apple WatchとiPhoneとのペアリングや各種設定には、iOS 8.2へのアップデート時に追加された「Apple Watch」というアプリを使う。Apple Watchを起動させてペアリングモードに移行すると、あとは画面の指示に従うだけで良い。ペアリング時、PIN入力の代わりにApple Watchの画面をカメラで写したりするのがちょっと面白い。なお、ペアリング時にはApple IDへのログインも必要で、2段階認証をしている人はコードを受信できる端末も必要になる。

時計の画面

 スマートフォンと同じく、Apple Watchもスリープ中は画面表示が消え、時刻の確認はできない。ボタンを押すか腕を振り上げると、画面が点灯する。振り上げたときの自動点灯は、一瞬のタイムラグがあるが、手首をちょっとひねった程度でも自動的に点灯してくれる。頭をかく動作では反応せず、ディスプレイを見える位置に向けると反応するので、角度を細かく見て、点灯させるべきかどうかを判断しているようだ。

 点灯していても、明るい場所ではディスプレイが見づらくなることがある。24日の東京は晴れに恵まれたが、その環境下で屋外で試してみたところ、画面の表示を読みとるのに支障はなかった。ちなみにディスプレイの輝度は3段階に調整できる。

消灯状態。肉眼では額縁とディスプレイ面の見分けはつきにくい

 画面はしばらくすると自動消灯する。消灯までの時間は設定できないが、手のひらで画面を覆うようにすれば強制的に消灯できる。スマートフォンのようなパスコードセキュリティもかけられるが、着用中は最初の1回の解除だけで利用できる。Apple Watchの内側にある心拍センサーを使って、手首から外されたと判断するとロックがかかるようだ。

時計のカスタマイズ画面。世界時計をスケジュールにしたりいろいろできる

 基本となる時計画面は、何種類かのデザインが用意されているほか、表示する情報をモジュール単位でカスタマイズすることもできる。時計の画面を上にスワイプすると、「グランス」と呼ばれる情報画面が表示される。グランスは複数あり、左右にスワイプして切り替える。iPhone上のアプリから、サードパーティのグランスを追加したり、並べ替えなどもできる。逆に時計の画面を下にスワイプすると、通知履歴が表示される。

【操作方法】
Apple Watchの基本操作
左側面にデジタルクラウンとサイドボタンがある

 操作は画面タッチと側面のデジタルクラウン、サイドボタンで行う。タッチ操作はタップやスワイプに加え、圧力センサーを活用して強く押す、という操作もある。

 デジタルクラウンの押し込みはiPhoneで言うホームボタンのようになっていて、画面点灯中に押すとホーム画面が表示される。ホーム画面で押すと、中央に戻り、さらに押すと時計表示に戻る。

アプリアイコンが並ぶホーム画面

 デジタルクラウンの回転はなめらかで、カリカリというようなクリック感はなく、そこそこの速度で回せる。スクロールや拡大縮小などの操作に使うが、使ってみると直感的だ。

 サイドボタンは「友達」の画面を表示させる。そこから電話をかけたり、メッセージを送ったり、Apple Watch同士専用コミュニケーション機能という若干ニッチな「Digital Touch」が使える。個人的にはあまり使わない機能なので、別の機能に割り当てられるようにして欲しい。

Apple Watch Sportと専用の充電アダプタ

 サイドボタンの2回押しでApple Payが起動する、とされているが、筆者はApple Payを利用できる環境になく、試せていない。長押しは電源のON/OFFだ。本体内側には心拍センサーが搭載されており、ワークアウト中の心拍数を計ったり、前述のように着用状態を検出してセキュリティロックをかけたりするのに使われる。

 充電は非接触型の専用アダプタを利用し、心拍センサー部分にアダプタをくっつけて行う。マグネットで正しい位置にくっつくので、かなり簡単に充電できる。

iPhoneの新着通知はなんでも表示

通知画面。スクロールして全文を読める

 iPhoneに届いた通知は、ペアリングしているApple Watchにも表示される。通知センターに対応していれば何でもOKなようだ。

 iPhoneに通知が届くと、iPhone側の通知音や通知バイブは鳴動せず、Apple Watchの音とバイブで通知する。ただしApple Watchが腕から外されていると、iPhoneiPhoneでのみ通知される。このあたりの挙動はほかのウェアラブルデバイスにはない、アップルならではの芸の細かさだ。

 Apple Watchの音やバイブの大きさは調整できるが、バイブは最大にしてもそれほど強くなく、通知のみ「わかりやすい振動」という設定が用意されている。消音モードもあるし、おやすみモードはiPhoneと連動させることもできる。

「了解」をタップすると既読になる

 Apple Watchで新着を確認すると、iPhone側のロック画面などに表示される通知履歴も消去される。受信したメールに既読を付けたりごみ箱に入れたりもできる。通知の内容もある程度、表示できる。メールはプレーンテキストならば本文全体を読める。

 電話だけはiPhoneとApple Watchの両方で着信音が鳴るが、Apple Watch側で受けると、Apple Watch側のマイクとスピーカーで通話できる。通話の内容が周囲に聞こえてしまうが、すぐに電話に出たいのにiPhoneがカバンの奥底に埋もれている、なんていうシチュエーションでは便利だろう。

Hey Siri! 明日の天気は?

Siriに天気を聞いてみたところ。画面表示のみで読み上げてくれない

 iPhoneの音声コマンド機能、「Siri」にも対応している。画面点灯中は音声コマンドの受け付け状態になっていて、「Hey Siri」に続いてコマンドを発言すると、画面に返答を表示する。ただしiPhone本体やヘッドセット利用時と異なり、音声による読み上げは行われず、返答は画面表示のみとなっている。

 Web検索やメール送信などはApple Watchだけでは完結せず、iPhoneで続きを操作する必要がでてくる。しかし事前に思っていたよりも、いろいろな操作がApple Watchで完結できる。

プロ野球はダメだけどJリーグはいけるSiri

 たとえばタイマーのセット、スケジュールの入力、天気予報の確認、Jリーグの結果表示あたりはApple Watchだけで完結する。SiriはApple Watchの使いこなしに必須機能と言えるだろう。

 もちろん、ただ単にSiriを使うだけならば、ヘッドセットを使うという手もある。iPhoneにおけるSiriは多くの結果を音声だけで返してくれるので、ヘッドセットだけでも画面を見ずに済み、歩きながらでも安全に使える。

アプリはいろいろ。さらなる充実にも期待

標準アプリの「株価」

 Apple Watchは通知機能以外にも、さまざまなアプリを利用できる。標準でもメールやメッセージ、電話といったコミュニケーションアプリ、カレンダーやリマインダー、マップ、ミュージックなどの実用アプリ、株価や天気、写真などの情報アプリがある。

メッセージは音声認識でテキストを送れる
iPhoneのカメラのファインダー付きリモコンとしても機能する

 アップル純正の標準アプリだけでなく、サードパーティ製のアプリもApple Watchへの対応が始まっている。

iPhoneに入っていたApple Watch対応アプリ(の一部)

 Apple Watchのアプリは、大ざっぱに分類すると、ホーム画面から起動するタイプと、それに加えてグランスとして表示できるタイプの2つがある。対応アプリがiPhoneにインストールされていれば、iPhone上のApple Watchアプリから、それぞれの機能のON/OFFを切り替えられる。

 筆者はiPhone 6に約270個のアプリをインストールしているが、すでに数え切れないほどのアプリがApple Watchに対応していた。メジャーな定番アプリも多数対応している。

Twitterアプリ。タイムラインを見られる

 たとえば「LINE」のアプリは、Apple Watchでスタンプやテキストへチェックしたり、スタンプで返事できるアプリを提供している。ただし返信できるスタンプも標準のものだけで、未読のものにしか返信できないなど機能に限りがある。また「Twitter」はタイムラインやトレンドの表示、音声入力によるツイートもできるが、これもiPhoneを取りだした方が早いと思う。通知は便利だが、それ以外の点でのコミュニケーション系アプリの利便性は、まだまだ開拓中という印象を受ける。

地図の表示。画面が小さいのでやや見にくい

 ウェアラブルは移動中に使うと便利。なので、ナビやトラベル系の実用性が高い。たとえば標準の「マップ」では、徒歩ナビをApple Watchでも使える。地図表示と「〇〇m先を右折」といった文字での表示、その両方が利用可能だ。

 乗換案内系アプリ「駅すぱあと」は、iPhoneで検索した経路情報を元に、出発時刻までのタイマーをグランスに表示できる。都心部での電車移動は秒単位。これは便利そうだ。
 まだ発売されたばかりで、その真価に触れていない可能性はあるが、「それってホントにApple Watchのアプリである意味があるの?」と感じるアプリも少なくない。

 そもそもApple WatchはiPhoneと繋いで使う。ほとんどの場面でユーザーの手元にはiPhoneがあるだろう。ざっと見た限りでは、iPhoneを取りだした方が早いのでは、と思ってしまうようなアプリがそれなりにあった。「これぞウェアラブルならでは!」と唸らせるアプリの登場に期待したい。

販売店舗はかなり限定、事前の試着がオススメ

 Apple Watchは従来のアップル製品とは異なる販売方法を取っている。販売しているのは、オンラインのアップルストアと一部の選ばれた店舗のみだ。その選ばれた店舗は、家電量販店のなかでも比較的規模が大きいところ、そして伊勢丹に設置されたApple Watch専門店などだ。また、ソフトバンクモバイルの一部店舗でも販売されている。

 店舗では購入前に試着することも可能だ。後述するが、とにかくデザインバリエーションが豊富なので、購入前の試着を強くオススメする。試着には予約が必要だが、空いている時間では行く、直近の時間帯で予約が取れることもある。なお、実店舗のアップルストアではApple Watchの販売はしていないが、試着は行える。

 試着は担当スタッフとのマンツーマンで行う。店舗によってルールは違うかも知れないが、筆者が試したアップルストア渋谷では、2本ずつ試すことができた。バンドの交換も試すことができる。

 店舗によっては試着以外にも、台座に固定されたApple Watch(42mmモデル)を触って試すことも可能だ。ただしデモモードなので一部機能は使えず、アプリの追加もできない。発売前の段階では、試着するApple Watchには電源が入るものと入らないものがあった。筆者が体験した限りでは、電源が入っても実際に操作できないデモモードだったこともあり、細かな使い勝手は試せなかった。

ケースは12種、バンドは38種類+α

 ここで筆者が家電量販店の予約時に入手した製品確認シートをご覧いただきたい。ビックカメラでは「Apple Watch Edition」を扱っていないが、いわば無印版と言えるApple Watchに加えてApple Watch Sport、そしてオプションのバンドを合わせると、これだけの数になる。

Apple Watch(無印)のラインナップ
Apple Watch Sportとオプションバンドのラインナップ

 ケースとバンドの組み合わせはすべて、型番とJANコードが割り当てられ、別の商品として扱われている。これだけのバリエーションと在庫管理のことを考えると取扱店舗が限定されるのも仕方なさそうだ。

Apple Watch
Apple Watch Sport

 Apple Watchのケースは無印、Sport、Editionともに2色2サイズの4種類ずつ、全部で12種類が存在する。ケースのサイズは38mmと42mmの2種類。色は無印とSportがシルバーとブラック、Editionはローズゴールドとイエローゴールドの2種類がある。

 Apple Watch(無印)とApple Watch Editionはピカピカのポリッシュ、Apple Watch Sportは酸化皮膜処理(アルマイト処理)のややマットと、表面仕上げに違いがある。カタログスペックで比較すると、ケースのみでも無印はSportより15〜20g重く、Editionは無印よりさらに15〜20g重い。ちなみにEditionはカラーごとに素材が違うので微妙な重量差がある。

 ケースは必ずバンドとセットで売られているが、バンドは付け替え可能で、あとで買い足すこともできる。ただし38mmモデルに42mm用のバンドを付けることはできず、その逆もまたしかりだ。一部のバンドは同梱専用となっていて、オプションでは販売されていない。

左からLG G Watch(昨年発売のAndroid Wear)、Apple Watch Sport(38mm)、COGITO(通知対応のスマートウォッチ)

 サイズ感でいうと、42mmでも、筆者のような男性の腕時計としては小さめで、スマートウォッチとしてはコンパクトな印象だ。決して太くはない筆者の手首(約160mm)に38mmを巻くと、手首にちょこんと乗っかっているだけ、といった印象で、ちょっと物足りなさを感じる。

Apple Watch Edition

 42mmも予約したものの、まだ手元に届いていないため、比較できないことはご容赦いただきた。ただ、アップルストアで試着した感触からすると、筆者くらいの手首の太さ(約160mm)でも42mmの方が似合うかな、と思っている。ここは個人の好みがあるので、購入するなら、やはり、まずは試着してみることをおすすめする。

 バンドは「スポーツバンド」「クラシックバックル」「ミラネーゼループ」「モダンバックル」「レザーループ」「リンクブレスレット」の6モデルがあり、ケース側のサイズ(38mmと42mm)と手首のサイズ、カラーなどでさらに種類がある。その数はオプション販売されているものだけで38種類、さらに一部モデルの同梱専用のバンドが10種類以上ある。

 それぞれのバンドについて解説していきたいところだが、もうすでに読んでいて悶絶しそうなくらい原稿が長くなっているので割愛する。とにかくバンドも種類が多い。

バンドは簡単に取り外し・交換が可能

 ケースもバンドは種類・組み合わせごとにサイズ・デザイン・使い勝手に特徴があるので、購入を検討しているなら、必ず試着することを強くおすすめしたい。どんなに機能性の良いデバイスでも、デザインや着け心地が悪ければ、使うモチベーションが落ちてしまう。きちんと使うものならば、5万円だろうと10万円だろうと、買う価値はあるだろう。しかしあまり身に着ける気にならないものには、たとえ安いものであっても購入する価値があるかどうか、微妙なところだ。大事なことだから2回言わせてもらうが、試着を本当に強くおすすめしたい。

ウェアラブルならではのアプリがApple Watchの価値を決める

 通知をウェアラブルで受け取れるのは、とても便利である。これは1年以上スマートウォッチを常用してきたユーザーとしての正直な感想だ。

 とくにスマホをカバンに入れて持ち運ぶ人には、こうしたウェアラブルデバイスはさらに相性が良いと思う。カバンに入れっぱなしでも新着通知を逃さないというのは、とても便利なはずだ。だが、Apple Watch以外にも、iOS対応の通知機能を搭載するスマートウォッチは多数登場している。

 もともとiOSではANCS(Apple Notification Center Service)という、iOS自体がBluetoothに通知を転送する仕様が公開されており、サードパーティが開発できるようになっている。このあたりはAndroidよりも簡単だと評価する開発者も多い。

右はカシオのSTB-1000。見た目はG-SHOCKだがG-SHOCKシリーズではない

 たとえばカシオ計算機の「STB-1000」は、通常の時計の使い勝手そのままに、ANCSの通知機能に対応したスマートウォッチだ。通知の詳細は表示できないが、充電不要(ボタン電池で数カ月稼働する)で時刻表示も見やすく、筆者も1年ほど愛用している。

 スマートフォンの通知をウェアラブルデバイスで受け取れることはとても便利だが、通知機能だけしか求めていないならば、Apple Watchより安価で、時計として使いやすいSTB-1000などの方が有利な面もある。

 ただ、そうしたほかのスマートウォッチと比較したとき、Apple Watchが有利となるポイントは、なんといってもアプリを追加できることにある。とくに世界中にいるiOSアプリの開発者がApple Watchアプリも開発できる状態にあるということで、さまざまなアイデアのアプリの登場に期待できる。

 Apple Watchは、ゴールドを採用した「Edition」のような製品もあり、いわゆる高級腕時計の領域にも立ち入っている。だが、今回は、ひとまずガジェットとしてのApple Watchを評価した。現時点でもApple Watchは完成度の高い製品だと思うし、通知などの基本機能も使いやすくできていて、ガジェットとして、よくできたスマートウォッチだと思う。そうしたガジェット的な側面に限っても、Apple Watchの真価が発揮されるのは、アプリがさらに充実してからだろう。今後、どう成長していくか、楽しみな製品だ。

白根 雅彦