レビュー

「iPad Pro」レビュー

「iPad Pro」レビュー

従来のiPadとは一線を画す「クリエイティブツール」

iPad Pro

 iPadシリーズの最新モデル、iPad Proが発売された。iPad Proは、12.9インチというこれまでのiPadシリーズにはないサイズのディスプレイを搭載し、Apple PencilとSmart Keyboardという新しい専用周辺機器にも対応した。

 iOSを搭載し、iPad向けアプリが動くというところはほかのiPadシリーズと同じで、Touch IDやApple A9Xチップなど基本スペックは、これまでのiPadの流れを継承しつつ強化されている形だ。しかしディスプレイサイズの変更とApple Pencilへの対応は、iPad ProをこれまでのiPadシリーズとは異なるデバイスへと変貌させている。

 ではiPad ProはこれまでのiPadシリーズとはどう違うのか。今回はその違いに焦点を当てたレビューをお届けする。

手に持って使うにはちょっと重たいサイズ感

 iPad Proのディスプレイサイズは12.9インチ。iPad Airシリーズ(9.7インチ)よりもかなり大きくなっている。

 本体のサイズは305.7×220.6×6.9mm、重さはWi-Fiモデルで713g、Wi-Fi+Cellularモデルで723g。面積はA4の紙(210×297mm)よりもやや大きく、A4の入る一般的なクリアファイルとほぼ同じだ。

上からiPad mini 4、iPad Air 2、iPad Pro

 iPad Air 2は240×169.5×6.1mmの437g(Wi-Fiモデル)なので、それに比べると重さは約1.6倍。iPad mini 4は200×134.7×7.5mmの重さ298.8g(Wi-Fiモデル)なので、そちらに比べると重さは約2.4倍にもなる。

 アップルのノートパソコン、MacBook(12インチ)は280.5×196.5×13.1mmで重さ920gなので、キーボードがある分MacBookの方が厚くて重いが、iPad Proの方が面積は広い。

MacBook(上)よりもデカいiPad Pro(下)

 iPad Proも片手で持てなくはないのだが、iPad miniなどに比べると握る部分(縁)から重心が遠く、重量差以上に重たく感じられる。両手でも長時間持ち続けるのはツラく感じる重さだ。手に持って使うというより、ノートパソコンのように卓上や膝上に置いて使うのがメインとなるだろう。

 カバンに入れて持ち運ぶ分には、基本的にノートパソコンと変わらない。別売りキーボード「Smart Keyboard」(約336g)を装着すると1kgを超え、MacBookなどのノートパソコンより重たくなってしまうが、それでも許容範囲内の重さだ。大きさ的には、A4クリアファイルが入るカバンならばたいてい収納できるはずだが、収納スペースがA4ギリギリだとキツイので注意が必要だ。

これまでのiPadに合わせつつも新しくなったディスプレイ解像度

ホーム画面。アイコン数は変わらないので、わりとスカスカな印象に

 iPad Proのディスプレイ解像度は、縦2732×横2048ドット。従来のiPadシリーズ(縦2048×横1536ドット)とは異なり、アップルのほかのデバイスにもない解像度だ。

 まず縦横比はこれまでのiPadシリーズとほぼ同じ、約4:3。これはアプリの互換性を保つためだろう。映像コンテンツを楽しむなら、スマホで一般的な16:9の方が有利だが、Webや電子書籍では4:3の方が使いやすいことが多い。iPadは初代からこの比率を維持している。

iPad Pro(下)とiPad Air 2(上)。短辺と長辺で解像度・実サイズが一致している

 横2048ドットは、iPad Air/miniシリーズの縦2048ドットと同じだ。そしてドット密度は264ppiで、これはiPad Airシリーズと同じとなる。つまりiPad Proの横2048ドットは、iPad Airの縦2048ドットと解像度・実サイズともにほぼ一致している。

 iPad Airを横に約1.78倍にすると、ディスプレイのサイズ・解像度がだいたいiPad Proになるわけだ。

 ディスプレイの物理サイズは約197×263mm。A4の紙が210×297mmなので、それよりもやや小さいが、誌面においては紙の端まで使うわけではないので、似たようなものと言える。画面に表示させる分には、A3サイズの印刷物を縮小して表示してもそこそこ実用的に閲覧できると感じられた。

Split ViewとiPad Air 2(上)のフル画面表示に匹敵するiPad Pro(下)のSplit View表示
iPad mini 4のフル画面表示よりiPad ProのSplit Viewによる2画面表示の方が大きい

 画面が大きいので、iOS 9の新機能である「Split View」で複数のアプリを表示させるのが非常に快適だ。Split Viewには2段階があるが、1段階目だと左側メインアプリの表示はiPad Airの横画面フル表示より大きい(横幅はやや小さく、縦が大きい)。半々となる2段階目でも、両方の表示がiPad miniのフル表示よりも大きい。

 これまでのシングルタスクなiPadの使い勝手に慣れているので、正直に言うとSplit Viewはあまり使っていなかったが、これだけ使い勝手が良いならば、ちょっと試してみようかな、と思うレベルだ。

アプリは新解像度に対応する・しないものがある

 従来のiPadとは解像度が異なるため、非対応アプリは拡大表示となる。イメージとしては、対応アプリでは表示できる情報量(文字数やアイコン)の量が増え、非対応アプリでは表示できる情報量が変わらずに文字やアイコンが大きく表示される、という感じだ。

iPad Pro解像度対応アプリの表示
iPad mini 4での表示

 元の解像度が十分高いためか、拡大によるぼやけた表示はあまり気にならないが、文字やアイコンなどのUIが大きくなりすぎるのが気になる。非対応アプリでは、組み込んでいるAPIによっては単純な拡大にならないこともあるが、そのおかげで表示が乱れることもある。

新デザインのキーボード

 iPad Proの解像度に対応するアプリでは、文字入力時、新しいデザインのキーボードが表示される。従来よりもキーの数が増え、英字と数字、一部記号が同時に表示されるようになった。英数字が混在するパスワード入力時などに非常にありがたい改善だ。また、横画面時はMacのキーボードに近いキーピッチとなる。

非対応アプリでは旧デザインのキーボードになる

 一方、iPad Proの解像度に対応しないアプリでは、キーボードも単純に拡大されるため、キーピッチが大きくなりすぎて、個人的には使い勝手が悪く感じられた。検索キーワードの入力くらいならいいが、ちょっとしたメモの作成でもストレスを感じるレベルだ。

 iPad Proの解像度に対応しているアプリは、現時点ではそれほど多くない。アップル以外のアプリとしては、Adobeのグラフィック系アプリやMicrosoft Office、Evernoteなど、大手メーカーのエディター系アプリが対応しているが、単純にコンテンツを楽しむタイプのアプリでは対応が進んでいない。動画系はともかく、電子書籍系が現時点ではほとんど未対応で、iPad Proのディスプレイの大きさ・精細さを電子コミックなどで活用できないのは残念だ。

 メジャーなアプリでは、たとえば「Facebook」は非対応だが、Facebookの「Messenger」は対応しており、「Twitter」も対応している。Split View対応アプリだと、たいていiPad Proの解像度にも対応するようだが、逆にiPad Proの解像度に対応しつつもSplit Viewに非対応なアプリもあるようだ。

 アプリがiPad Proの解像度に対応するかどうか、ダウンロード前に見分ける方法はわからなかった。App Storeの「おすすめiPad Proゲーム」に掲載されているアプリも、立ち上げてみるとキーボードが拡大表示のものがあった。新しい解像度への対応は、アプリ開発側としても簡単に対応させられないと思われるが、はやく対応が拡大して欲しいところだ。

完成度が高く実用性もあるApple Pencil

Apple Pencil

 iPad Proの最大の特徴は、専用の「Apple Pencil」と「Smart Keyboad」が用意されていることだ。

 Apple PencilはiPad Pro専用のスタイラスペンだ。充電式で、iPad ProとBluetooth接続して利用する。ペン上端のカバー内にLightningコネクタがあり、それで充電やペアリングをする。電源スイッチもインジケーターLEDも無く、スリープモードなどの判別はできないが、充電が必要ということ以外は、電池不要のスタイラスペンと同じような感覚で使える。

 アップルのWebサイトによると、「筆圧や傾きも検出」「スキャンレートは毎秒240回」とのこと。筆者はほかのペンタブレットを使っていないので詳細な比較はできないが、Apple Pencilを使っていて、ストレスを感じるほどの遅延や精度の低さは感じない。

mazecによる文字入力

 手書き入力アプリ「mazec」では、かなり快適に日本語入力ができる。実はこのレビューの原稿のうち、Apple Pencilに関する部分はmazecで下書きを執筆したが、認識が遅いとか、線が乱れるといったことはなかった。

 ちなみにmazecのような文字入力アプリは、もともと画面解像度に依存していないようで、iPad Proの解像度に対応するアプリからであれば、拡大されずに表示される。mazecは有料アプリだが、iPad ProとApple Pencilを購入した人には、かなりオススメだ。

 Apple Pencilでは、ホーム画面のアイコンをタップするといった操作もできる、一方、アプリ側では指によるタッチとApple Pencilは別の操作として扱えるようで、たとえばイラスト・マンガアプリ「MediBang Paint」では、手のひらのタッチ(誤操作)を認識しなくする「パームリジェクション」機能も実装されている。

画像検索しつつ、Zen Brush 2で模写

 筆者には絵心がないので、イラスト系アプリの使い勝手を細かく評価することはできないが、たとえば毛筆シミュレーター「Zen Brush 2」は絵心がなくても楽しめている。Split Viewで画像検索して模写するだけでも楽しい。こちらも有料アプリだが、iPad Pro+Apple Pencilにオススメなアプリだ。

 あとは出版業界っぽい視点で言うと、印刷物の執筆や校正時のPDFチェックにも、Apple Pencilは使いやすい。筆者は「PDF Expert」というアプリを使っているが、動作も軽快で、PDFに赤ペンで手書きしたり、メモを追加したりといった作業が直感的に行なえる。この状態で長めのテキストを書く気にはならないが、「最初にiPad Pro+Apple Pencilでチェックし、あとでパソコンで必要なテキストを書く」というワークフローが便利そうだ。

 ちなみにこの「PDF Expert」、原稿執筆時点では「今週の無料App」として無料でダウンロードできる。もっとも、iPad Proの仕事ツールとして使うなら、通常価格1200円の価値はあるアプリだ。

Apple PencilのLightningコネクタ。iPad Proに挿して充電、ペアリングも行う

 Apple Pencilは別売りのオプションで、価格も税抜で1万1800円と安くなく、何にでも使えるわけでもないが、iPad Proをクリエイティブ用途で使いたいと思っているならば、一緒に買っておくべきと強くオススメできる。

 ただし執筆時点では、Apple Pencilの在庫はiPad Pro本体よりも少ないようだ。時期によっては、筆者のようにiPad Proだけ先に届いてさみしい思いをする可能性も、覚悟しておく必要があるかもしれない。

Smart Keyboard、日本語だと実用性イマイチ?

Smart Keyboardを装着したiPad Pro

 Smart Keyboardはキーボードを内蔵したiPad Pro用のカバーだ。従来のSmart Coverと同様にiPadの側面に貼り付けるのだが、マグネットで張り付く部分に接点があり、iPad Proとは有線で接続する。ペアリングも充電も不要だ。

 キーピッチはiPad Proの横画面時のキーボードやMacのキーボードとほぼ同等。キータッチはアップルの普通のキーボードと大差は無く良好だ。

Mac向けのMagic Keyboard(上)とSmart Keyboard(下)。キーピッチなどはほぼ同じ

 配列は英語のみで、日本語配列は用意されていない。カギカッコや@、Ctrlキーなどの配置が日本語配列と異なっているが、それほど入力頻度が高いキーでもないし、慣れてしまえば問題はない。

 この原稿の、Smart Keyboardの部分は、Smart Keyboardで下書きを執筆したが、ほぼ普通のキーボードと変わらない感覚でタッチタイピングができた。

 ただし、ソフトウェア側では、iOS標準の日本語入力だと、外部キーボード使用時も推測変換をオフにできない。職業ライターのタッチタイピング速度だと、推測変換が非常に邪魔となることが多いので、オン・オフを設定できるなど、仕様は改善して欲しいところだ。

1つ1つのキーは分離しておらず、キー面は1枚になっている

 App Storeでダウンロードできる「ATOK」などの文字入力アプリでは、Smart Keyboardは使えない。サードパーティの文字入力アプリは、Bluetoothキーボード同様、Smart Keyboardとの連携は許されていないようだ。ここも改善して欲しいポイントである。

 一方、もともと外部キーボードに対応しているメモアプリ「ATOK Pad」は、Smart Keyboardを利用できる。ATOK Padは独立した文字入力システムを持ち、推測変換もオフにできるので、長文入力はそちらの方が便利だ。ただしATOK PadはiPad ProどころかiPhone 6の解像度にも対応していない、アップデートもしばらく止まっている古いアプリなので、いまから購入するべきかというと微妙なところでもある。

キーボード面を収納した状態でもスタンドになる

 Smart Keyboardは従来のSmart Cover同様に、スタンドとカバーも兼ねている。キーボード利用時の安定性は高く、膝上での利用も大丈夫だ。ただし角度がややキツめなので、椅子に深く座っていると、画面をやや上から覗き込む形になるのが使いにくく感じられた。

 iPad Proにおいて、Smart KeyboardはApple Pencilほど「必須」とは感じなかった。日本語の長文入力では推測変換の表示が非常に煩わしく感じられ、短文入力であれば画面内のソフトキーボードやmazecでも十分ということになり、Smart Keyboardの位置付けや作り込みがやや中途半端な印象を受けた。また、軽いとはいえないiPad Proが、Smart Keyboard(約336g)を装着するとノートパソコンなみの重さになるというところもデメリットと言えるだろう。

Wi-Fi+Cellular版はSIMフリー版とキャリア版が発売中

側面のキーは電源と音量上下のみ。ほかの最新iPad同様、スライドスイッチは廃止されている

 iPad ProはWi-Fi版が32GBと128GB、Wi-Fi+Cellular版は128GBで、合計3モデルが用意されている。64GBはなく、Wi-Fi+Cellular版の32GBもない。ボディカラーは従来モデル同様、シルバーとゴールド、スペースグレイの3色がある。

 アップルストアでの価格は、Wi-Fi版32GBが9万4800円(税抜、以下同)、128GBが11万2800円、Wi-Fi+Cellular版の128GBが12万8800円。どれも高額なので、Wi-Fi版128GBを選ぶくらいなら1万6000円を追加してWi-Fi+Cellular版でいいんじゃないかな、と思ってしまうが、ここは利用スタイルや用途で選ぼう。

Wi-Fi+Cellular版は例によって背面上端にアンテナスペースがある

 Wi-Fi+Cellular版の対応通信規格は、iPad Air 2やiPad mini 4と同じで、日本では1.5GHz帯を除くFDD-LTEおよびTD-LTEのモバイルデータ通信が可能だ。従来のiPad同様、音声通話やSMSは利用できない。

 Wi-Fi+Cellular版はNTTドコモ、au、ソフトバンクからも購入できる(SIMロックあり)。実質価格はキャリアで購入した方が安くなるが、それは回線契約をして毎月の割引サポートを受けた場合。通信料金と合算して値段を比較しよう。

 筆者はSIMロックフリー版を購入したが、「mineo」のauプラン(非VoLTE)で通信ができている(要プロファイルダウンロード)。mineo公式WebサイトによればSIMフリー版iPad Proでの動作は確認がされているようだが、本稿執筆時点で、au版、NTTドコモ版などキャリア版の動作確認結果は掲載されていない。このあたりは注意が必要だが、料金面で考えても、MVNOで使うなら回線契約のないSIMフリー版を選ぶことをオススメしたい。

 なお、iPad Proは先日より国内でも発売が開始された「Apple SIM」にも対応している。Apple SIMはアップルが販売するSIMカードで、SIMカード装着後に「設定」アプリから任意のキャリアを選択し、料金プランを契約できる。日本ではau網に対応し、auの「LTEデータプリペイド」相当のプリペイドプランが利用可能だ。1GBで1500円(有効期限1カ月)なので、価格だけを見るとMVNOの方が安いが、海外渡航時(とくにアメリカとイギリス)や海外から日本への渡航者には、便利な選択肢となりそうだ。

汎用品というよりもプロが使う「クリエイティブツール」

 iPad Proは簡単に言ってしまえば、「コストやコンパクトさよりも、プロに必要な機能とスペックを詰め込んだクリエイティブツール」だと思う。MacBook Proの上位モデルや、Mac Proに近いイメージだ。

 しかしながら、iPad Proはパソコンを置き換えられる万能デバイスではない。クリエイティブな作業の一部、とくにワークフロー初期の下書きや素材収集、ラフレイアウト、簡単な編集をiPad Proで行ない、仕上げや納品はパソコンで行う、というのが一般的な使い方になるだろう。このあたりの具体的な利用イメージは、アドビのモバイルアプリ(Adobe CompやPhotoshop Mixなど)のデモムービーやチュートリアルがわかりやすい。

 クリエイティブやビジネスの用途でも、ペンを使わないなら、iPad Proの優位性は発揮しにくい。画面の大きさはiPad Proの武器で、たとえば取引先の人に資料を見せるといった用途では強みとなるが、持ち歩きやすさとコストを考えると、12インチクラスの大画面が必須でない限り、iPad AirやiPad miniを使った方が良いと思う。

 また、電子書籍や動画配信などのコンテンツ消費には、iPad Proは不向きだとも感じた。電子書籍は小説ならばiPhoneで十分だし、マンガの見開き2ページ表示もiPad miniで十分で、iPad Proは重すぎて読書に向いていない。卓上に置いて映像を楽しむなら、iPad Proのサイズ感はアリだが、パソコンや大画面テレビ+Apple TVの方が良いだろう。

 iPad Proは使う人と用途を選ぶ、かなり尖ったデバイスだと思う。iPad AirやiPad miniとはまったく異なるデバイスだと考えた方が良い。しかし尖ったデバイスだけに、使いこなすことができれば、最高のツールになる可能性も秘めている。

 そこそこ高価で、汎用性も決して高くはないので、「試しに買ってみる」というわけにはいかないが、興味がある人は同業者やネットなどから具体的な活用事例や対応アプリの機能性を見聞きしつつ、購入を検討するといいだろう。

白根 雅彦