SH-06A NERV 石野 純也編

 最初に申し上げておくと、「SH-06A NERV」を「俺のケータイ of the Year」にセレクトしたのは、“ネタ”でも何でもない。ヱヴァコラボだからというファン視点も、極力排除した(つもり)。にもかかわらず、あえてこの機種を推しているのは、外観から中身までトータルコーディネートされた世界観や、UI(ユーザーインターフェイス)の演出が秀逸だと思ったからこそ。そして、それは今の日本のケータイに足りないものだとも感じている。

 SH-06A NERVを使ってみて、特に感心したのは、待受画面とメニューを一体化させたギミック。大多数の一般的な端末では、本体を開くと画面に壁紙的な写真が表示され、キーを押すとメニューが現れる。今や常識とも呼べる、ケータイの作法だ。ところが、SH-06A NERVの待受画面は「ロックされたメニュー」になっており、決定キーを押すと、それがパタパタと開いていく。メニューがウィジェット的に、常時画面に出ているというわけだ。もちろん、これは単なる演出で、実際には待受画面とメニューのデータが別々に用意されており、エフェクトを連携させているに過ぎない。それでもやり方次第で、見え方がまるで別物になることに驚いた。アニメーションがヱヴァ的でクールなため、メニューオープンを待たされている印象も受けない。

 また、この端末は、ワンセグやサブディスプレイといった、本来きせかえツールで変更できない画面までヱヴァ風になっている。一般的なケータイの多くは、アクロディアの「VIVID UI」を搭載し、「きせかえツール」や「EZケータイアレンジ」「きせかえアレンジ」で、雰囲気に合ったメニューに変更できる。ただ、汎用的な仕様である以上、どうしてもいじれる場所は限られてしまう。コストやキャリアサービスとの兼ね合いもあるため、全てのケータイに同じ水準を求めるのは酷な話だが、ここまでこだわってもらえると、端末の世界観が一層際立ち、愛着がわく。特設サイトに毎週コンテンツがアップされる仕掛けも、時代にマッチしている。スマートフォンはアップデートで常に最新の機能に対応でき、長く使えると評されるが、SH-06A NERVはコンテンツからのアプローチで、ユーザーを刺激し続けているのだ。もちろん、トータルコーディネートという意味では、端末の質感やパッケージデザイン、豪華な付属品が重要な役割を果たしていることは、いうまでもない。

 ケータイは、時代と共にさまざまな機能を積み増してきた。それによって得られた利便性は計り知れないが、反面、少しずつUIや世界観に統一感がなくなり、使ったときの心地よさが失われている気がする。メニューの第1階層と第2階層でフォントが違う、ワンセグや音楽プレイヤーの画面だけが浮いている、クールな端末なのにデコメ絵文字だけが妙にカワイイ――細かな点まで見ていくと、整合性のなさは枚挙に暇がない。

 公平を期すために述べておくと、SH-06A NERVにも若干だが「SH-06A」の“原型”が残っており、違和感を覚えることも多少はあった。しかし、トータルコーディネートの徹底ぶりはほかの機種をはるかにしのぎ、世界観の完成度が群を抜いている。ある業界関係者は、日本のケータイを家の増築に近いといい、iPhoneを新築物件と例えていたが、この表現を借りるなら、SH-06A NERVはデザイナーの手によるリノベーション物件と呼べるのではないか? ヱヴァコラボで話題を呼び、ともすれば“イロモノ”と見られがちだが、エッセンスだけはぜひ今後のケータイ開発に生かしてほしい。

 


2009/12/25/ 11:53