HTC Desire X06HT 橋本 保編

HTC Desire X06HT

 数年後から今年を振り返ると、「2010年は、スマートフォンの普及に弾みがついた年」と評価されるだろうというのが筆者の認識だ。2007年6月にアップルが「携帯電話を再定義」することを標榜し、初代『iPhone』を発売。遅れること約1年、2008年7月に『iPhone 3G』が日本上陸した。初号機の発売から3年経った2010年、日本でもスマートフォンへのシフトチェンジが急速に進んでいる。このスマートフォンの定義を、

【1】デベロッパーが自由にアプリを開発して提供できる
【2】そのアプリをユーザーが自由にダウンロードできる
【3】インターネットのコネクティビティが高く、リッチなWeb体験ができること

とすると、従来の携帯電話とは一線を画していた。

 厳密に言えば、【1】や【2】は、従来の携帯電話でも実現していたが、デベロッパーの審査や手続きに手間や時間がかかっていた点が異なる。携帯電話におけるアプリの開発・流通は、もともとパーソナルコンピューターの文化を取り入れたものだった。もう少し踏み込んでいうなら、メールやWebブラウジングといったインターネット接続機能も、パーソナルコンピューターに倣ったものだった。この流れをひっくり返してきたのが、『iPhone』であり、その意味で「携帯電話は再定義」されたのかもしれない。

 アップルは、『iPhone』を発表したときに<他のどの携帯電話よりも文字通り5年は先行した革命的で魅力的な製品です>とコメントしたが、現在その差がどの程度縮まったのかは、よくわからない。だが、現在スマートフォンフィーバーと言っても過言ではない盛り上がりを目の当たりにすると、<5年先行していた>というのも結構リアルな読みだったなぁ、と思わざるを得ない。

 少々前置きが長くなったが、そんな『iPhone』をリスペクトしつつも、それとは違う世界を切り拓くことを目指して登場したのがAndroidだ。『iPhone』はパーソナルコンピューターからのケータイの再定義だったのに対し、Androidはインターネットからアプローチしたケータイ、というのが筆者の認識だ。両者は酷似しているようだが、微妙にスタンスの違いがある。前者はアプリ、後者はサービスに軸足があるように思う。アプリはサービスの有無に関係なく使えるが、サービスは基本的にはアプリによって使う。両者の優劣をここでは触れないが、Androidは、Google、携帯電話会社、携帯電話メーカー、アプリベンダーなどがサービスとセットで提供することで広がりが出てくる、ということが言えそうだ。ゆえに「ダムタイプ化(土管化)」を恐れる携帯電話会社と折り合いがつけやすいというのがAndroidの特徴といえる。

 こうした背景を持つAndroidだが、日本では、2種類に大別できる。ひとつは世界市場向け商品を日本市場にカスタマイズしたグローバルモデル、もうひとつは日本市場向けに作られた日本モデルだ。私がケータイ of the Year 2010に選んだのは、グローバルモデルの『HTC Desire』だ。

 本機は、3月28日にソフトバンク創業30周年記念の一環として行なわれた「ソフトバンク OPEN DAY」で発表された。同イベントは、Twitterからの参加者を同社の社員食堂に招待する内容だったため、その発表は、一般参加者とメディア関係者同時に行なわれた。孫正義ファンが多く参加したイベントだったためか、会場は、通常の新製品発表会よりも熱気に包まれていた。そのテンションのまま商品展示コーナーで試用したためか、『HTC Desire』の良さは印象に残った。

 とにかく、パワフルに動くこと。これに尽きる。この当時、店頭で話題になっていた『Xperia』とは、明らかに違ったのだ。

 両者は、スペック的な違いは少ないにも関わらず、なぜこんなに違うのか。つまり『iPhone』の何に倣うかで、製品はこんなに変わるのか、ということに気付かされたのだ。言い方を変えると、『iPhone』のユーザーインターフェイス(UI)が革新的だったのは、タッチ操作や画面デザインなどもさることながら、それらがパワフルに動くことだったのかを知らされたのだ。

 これは最近リリースされた3D表示対応したアプリ「モバイルGoogleマップ」のバージョン5.0を使ってみると顕著だ。同アプリは、3D表示といっても、いま話題の立体視のように前後方向に立体的に見えるというものではなく、高層ビルなどを三次元表示してくれるというもの。とくに、片方の指を軸にして、もう片方の指を回転させると地図も一緒に回転するコンパスモードが『HTC Desire』はいい感じに動く。秋冬商戦で発売された日本製Android機と比較しても遜色ないか、それ以上なので、非常に満足をしている。

 今年前半に発売されたモデルにも関わらず、Android 2.2にバージョンアップできていることも特筆しておくべきだろう。OSのバージョンは、ユーザーにとっては関係ないと言い切る業界関係者もいるが、私はそうした見方を取らない。

 たしかに他にも機種選びのポイントがあるのは事実だが、OSが進化することで機能やパフォーマンスが上がるのも事実だ。たとえば、紛失したときなどに遠隔操作で登録したデータを消去する「Google Apps Device Policy」は、現在2.2以降にのみ対応する。Google Appsを使っていることが条件になるなどハードルの高さがあるのは事実だが、こうした最新機能は、Androidの最新バージョンから対応していく。ケータイは、2年契約で購入することを考えると、同機種を使っているうちに何度Androidのバージョンアップがあるだろう。長く使うことを考えたら、最新バージョンを選んでおくほうが無難ではなかろうか。バージョンアップ非対応やバージョンアップが遅れたことで、複数のAndroid機がユーザーから不満の声を浴びた。このバージョンおよびバージョンアップ対応については、来年以降さらにフォーカスが当たると思われるので、Android機選びの際は、十分に考慮したほうがいいだろう。『HTC Desire』で事無きを得ているので、その思いは強い。

 今年話題になったAndroid機について多角的に考えるうえで、『HTC Desire』は、良いものさしとなった。ゆえに今年のケータイ of the Yearは、『HTC Desire』を選ぶことにした。

 


2010/12/27/ 13:05