俺のケータイ of the Year

GALAXY S III SC-06D

GALAXY S III SC-06D

石野 純也編

 「読者が選ぶ ケータイ of the Year 2012」にノミネートされた端末を見ても分かるように、今年はスマートフォン一色の1年だった。グローバルモデルがおサイフケータイ、ワンセグ、赤外線などの日本仕様を取り込み、ローカライズに注力する一方、国内メーカーは端末のベースとなる性能を強化していくという傾向も、昨年以上に顕著だった。9月には、iPhone 5の発売とともに、KDDIやソフトバンクモバイルがFDD方式のLTEを開始。昨年時点ではドコモの3機種しかなかったLTE対応スマートフォンも、急増した。2社が大々的にアピール合戦を繰り広げ、元々技術用語だったLTEやテザリングというキーワードが一般に浸透したのは、2012年の一大トピックと言えるだろう。

 このような状況の中、「俺のケータイ of the Year 2012」に選んだのがドコモから発売されたサムスン電子製のスマートフォン「GALAXY S III SC-06D」だ。普段から、本誌「みんなのケータイ」をご覧になっていただければ分かるように、筆者は発売時にこの端末を購入。5カ月強、GALAXY S IIIを使い続けてきた。端末に対する基本的な評価は、こちらで書いたとおり。カメラの仕上げはもう少し改善してほしいものの、普段使いではほとんど不満がなかった。「Androidの安定度もここまで来たか」と感心したものだ。もちろん、冒頭で指摘した今年のトレンドはきちんと満たしている。こうした性能が評価され、販売台数も順調に伸びていった。夏商戦では、クアルコムのSnapdragon S4が供給不足に陥り、店頭に常時並んでいた端末が少なかったという事情もあるが、実力がなければ100万台に迫る勢いで売れるはずがない。

 上で紹介した記事では触れていないが、従来のGALAXYシリーズから大幅に変わったデザインもポジティブに評価している。サムスン電子は2012年に入り、端末に共通のアイデンティティを持たせる試みを行っているという。この成果が、GALAXY S IIIであり、「GALAXY Note II」である。比較のため、手元にあった「GALAXY S II」や「GALAXY S」を見てみたが、違いは一目瞭然。仕上げのクオリティが大きく上がり、“あの端末”にどこか似ていると言われていた過去の面影はもはやどこにもない。グローバルモデルは最大公約数を取るため、ブラックとホワイトの2色という展開が多いが、あえて「Pebble Blue」のようなカラーを投入してきたところにも、サムスン電子の意気込みが見て取れる。

 かゆいところに手が届くユーザーインターフェイスも、GALAXY S IIIの魅力だ。単にホームアプリを載せ替えただけでなく、カレンダーやアラームなどの細かな部分にまで、しっかり手が入っている。たとえば、カレンダーアプリの「Sプランナー」では月表示でもある程度まで予定が見えるが、案外こうした工夫がおろそかになっている端末も少なくない。上記の記事でも挙げている、イヤホンを挿した際の動作も地味ながらありがたい仕掛けだ。

 ケータイはともすればスペック競争に陥りがちだ。デュアルコアよりクアッドコア、ROMは16GBより32GB、ディスプレイは4.8インチより5インチといった具合に、パッと見で分かる数値が重視される傾向にある。加えて、おサイフケータイや赤外線などに対応しているかどうかの「○×表」を「○」で埋めることも、売れ行きに大きく影響してしまう。もちろん、こうした選び方が理にかなっている面もある。かく言う自分もGALAXY S IIIにおサイフケータイがなければ、常用することはなかっただろう。ただ、毎日使ううえで本当に必要なのは、むしろバランスだ。クアッドコアCPUで全部入りというと聞こえはいいが、熱処理がきちんとできなければ、性能をフルに発揮できず、逆に快適さは損なわれてしまう。

 その点、GALAXY S IIIは、スペックよりもバランスを重視した1台だった。グローバルでの発表は「スマートステイ」や「スマートアラート」などに重きが置かれ、CPUなどのスペックはあくまでオマケのような扱いだった。「このスマートフォンを買えば、どのようなことができるのか」の説明に、力も時間も割かれていたわけだ。クアッドコアCPUが話題を集める中、デュアルコアCPUを搭載していたドコモ版GALAXY S IIIが順調に売れたのも、サムスン電子の“読み”が当たった証拠と言えるだろう。

 欲を言えば、GALAXYシリーズの充実したエコシステムを、日本にももっと持ち込んでほしい。純正の周辺機器はそのひとつ。筆者もサムスン電子のおひざ元である韓国を訪問するたびに、あれこれ購入してきたが、日本で手軽に入手できるにこしたことはない。KDDIは「GALAXY S III Progre SCL21」用に卓上ホルダを取り扱っているものの、まだまだ海外に比べると物足りない。せめて卓上ホルダは、ドコモも販売するべきだろう。フリップ型の背面カバーや電池パックを単体で充電できるチャージャーなども、GALAXYシリーズの魅力を高める上で一役買うはずだ。2013年には、こうしたエコシステムの広がりにも期待したい。

石野 純也