俺のケータイ of the Year

ASUS ZenFone 5

ASUS ZenFone 5

村元 正剛 編

 今年は「格安スマホ」が注目を集めた。筆者が雑誌やWebで書かせていただく記事も、MNVOやSIMフリー端末に関するものが最も多かったと思う。MVNOの料金プランが頻繁に変わったり、MNVOの新サービスと同時に意外な端末がリリースされたり、取材した情報をアップデートしていく作業に追われた1年でもあった。

 ケータイ Watchの読者の中には、数年前からキャリアの“SIMロック解除”に関心を持っている人が多いだろうし、すでにSIMフリーの端末を持っていて、お手頃なMVNOのSIMを挿して使っている人も少なくないと思う。だが、今年は、イオンが格安スマホの販売を始めたり、量販店がSIMカードやSIMフリー端末を並べた専用の売り場を設けたりしたこともあり、“SIMフリー”というものに興味を持つ人の裾野が一気に広がったように思う。仕事柄、友人・知人から「スマホを買い替えたいんだけど、おすすめはどれ?」などと相談されることが多いのだが、さほどデジタルに詳しくない人からも「格安スマホってどうなの? SIMフリーって何?」などと聞かれるようになり、その広がりに驚いている次第だ。

 というわけで、今年のナンバーワンは、SIMフリーで販売されているモデルから選ぶことにした。印象に残っている機種はいくつかあるが、最も惹かれたのは「ASUS ZenFone 5」だ。筆者は、10月28日に開催された発表会で初めて実機に触れた。ASUSは、世界的にヒットしたNexus 7を始め、Androidでは実績を持つメーカーだ。その日は、Android Watch搭載のスマートウォッチ・ZenWatchの日本発売が同時に発表されるということもあり、会場には多くのメディアが来場し、活況を呈していた。キャリアではなく、メーカーが自力で売るスマートフォンが、ここまで注目を集めたのは初めてではないかと思う。ハンズオン会場で実機を手にした瞬間に、“いい端末だなぁ”と感じた。“すごい!”とか“かっこいい!”ではなく、“これ、いいな!”という、ワクワクするような感覚だった。

 このZenFone 5の登場以前に、日本で発売されたSIMフリースマホは、iPhoneやNexus 5を除くと、キャリアが販売する最新モデルと比べて、スペック的にもデザイン面でも見劣りし、一世代前のモデルという印象が否めなかった。ZenFone 5は、すでに海外で売られているモデルでもあり、スペック的には最先端とは言えないが、ミドルクラスとしては十分の性能と機能を備えている。デザインの質感も高く、5型のHDディスプレイを搭載しつつ、主な操作は片手でもこなせるサイズ感に抑えられている。これが3万円を切る価格で買えるとは、正直驚きだった。

 その後、端末レビューなどを書くために、度々触れることになったのだが、使うほどに好きになってきた。ZenFone 5に搭載されている「ZenUI」は、Androidの良いところはそのまま生かしつつ、操作性を向上させるための独自の工夫が盛り込まれているという印象だ。

 例えば、ホーム画面に表示できる天気、カレンダー、メールなどの独自ウィジェットは、背景の壁紙が見える透過型になっている。ウィジェットを置いても、ごちゃごちゃした感じにならず、壁紙に設定した好きな写真が常に見えるのだ。しかも、壁紙の色合いや透明度を調整できる機能も備えている。

 日本語入力にATOKを採用したことも評価したい。辞書や予測変換への信頼度が高いだけでなく、キーボードの表示サイズを素早く簡単に変更できるのも便利だ。5型の大画面を搭載しつつ、片手でもスムーズに入力できるのだ。

 初めてSIMフリー端末を使う人は、モバイルネットワークへの接続設定で迷うことがあると思う。ZenFone 5では、主要なMVNOを利用している場合は、APN設定の画面で、それを選択するだけで接続できる。筆者が持っているBIGLOBE LTE・3G、IIJmio、OCN モバイル ONEのいずれも選択できた。初期設定を簡単にするこの配慮は、他のメーカーのSIMフリー端末でも導入が進んでおり、今後、標準化していくのではないかと思う。

 カメラの性能も満足できるレベルで、撮影モードも多彩だ。暗い場所での撮影時に「微光モード」に切り替えて、感度を調整できる機能は、なかなか重宝。連写すると、ベストショット候補5枚が自動で選出される機能も便利だ。ほかにも、初心者向けのホームUIに切り替えられたり、手袋をした状態でも操作できるモードに切り替えられたり、至れり尽くせりといった印象。今年、日本で発売されたスマートフォンの中では、最もコストパフォーマンスが高いモデルだと思う。

 キャリアにスマートフォンを供給するメーカーは年々減少傾向にあり、ユーザーの選択肢も狭くなりつつある。このZenFone 5のように、2015年には、まだ日本でスマートフォンを売っていない海外メーカーが日本のSIMフリー市場に参入したり、キャリアでは売らない個性的な端末をSIMフリーで売るといった事例が増えるといいな、と期待している。

村元正剛