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【キーパーソン・インタビュー】
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日本通信福田氏に聞く、携帯市場オープン化の意義
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日本通信の福田氏
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2007年9月に総務省から「モバイルビジネス活性化プラン」が発表され、日本の携帯電話市場では、割賦制度が普及し、期間拘束型の料金プランが導入されるなどの変化が起きている。
NTTドコモやauなど自社による通信インフラを保有する通信事業者はMNO、自社インフラを持たずして通信サービスを提供する事業者はMVNOと呼ばれる。競争促進という観点から、「モバイルビジネス活性化プラン」では、より一層MVNOが活発になる施策の導入も打ち出されている。
日本の携帯市場で、初期からMVNOとして活動している日本通信は、MVNO促進に向けた活動にも取り組んでいる。同社常務取締役CMO兼CFOの福田尚久氏に国内市場の現状に対する意見と、今後の展望を聞いた。
■ 国内市場について
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総務省の「モバイルビジネス活性化プラン」概要
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――昨年来、分離プランの導入や割賦制度などによって、国内の携帯電話市場は変化してきました。
このあたりの動向については、「市場の曲がり角にさしかかった」と見ています。これまでは良い意味でも悪い意味でも、キャリア(MNO)が支配する構造でした。もちろん全て悪というわけではなく、たとえば販売奨励金が携帯電話の急速な普及に貢献したことは事実です。キャリアの垂直統合モデルは、ネットワークや端末、コンテンツ、ショップに及んでいますが、それで成長できた時期においては、(垂直統合は)良かったことだと思います。
しかし、私は5年前に変化しても良かったのではないかと思います。携帯電話市場の成熟化が判明した段階で、行動すべきだったと。そういう観点からすれば、今の市場に起こりつつある変化は「ちょっと遅かったのではないか」と思います。
その分、これからは急がなければなりませんが、現状に対して危機感を持っている人と、現状に安心して変化の必要性がないと見ている人が存在します。総務省で進められている、通信プラットフォーム研究会などの会合は、そういった立場が異なる人々の間でコンセンサスを成立させる意味があるのでしょうが、急激な変化が求められる現在では、その動きは手遅れになる可能性があります。コンセンサス作りよりも、急いで手を打つべきでしょう。
――危機感を持つ人がいる、ということですが、ここで言う危機とは何でしょう?
1つは端末メーカーの状況です。世界市場で見れば、日本メーカーのシェアは1%台。これでは戦えません。この状況に至るまで、放置してきたことは問題ですね。日本はモバイル先進国の1つで世界をリードしてきましたが、どの産業を見ても、そういった強みを持っている企業は海外に進出していきます。日本でも自動車や家電は海外に進出している。ところが携帯電話ではどうでしょう。メーカーだけではなく、コンテンツプロバイダや販売店はどうでしょうか。
――世界で戦えないことが危機、ということは、海外進出できなければ生き残れないと?
そうですね、高度化するハードウェアやソフトウェアには多大な開発費が必要です。その費用を産み出すにはシェアの拡大が必要で、そのためにはグローバルプレーヤーでなければ生き残れません。もっとも飲食業のような分野であれば、1店舗だけでやっていけると言えるでしょうが、製造業はより大規模でなければ生き残れません。
日本の携帯電話メーカーが海外展開していかなければ、その維持コストは誰が負担するのか。最終的には、携帯電話の利用料などを通じて、ユーザーが高いコストを支払っている状態なのです。単純に考えて、20%以上のシェアを持つメーカーと1%程度のメーカーでは、端末コストは歴然としています。
そしてネットワークを構築するためにコストがかかるという点も指摘できます。日本メーカーの基地局が多く採用されていると思いますが、そのこと自体は問題ではありません。ですが、日本メーカーの基地局は海外に進出できているのか、それだけのコスト構造になっているのかどうかが問題です。
端末もインフラも高コスト構造になっていれば、ユーザーが手にする端末も利用料も高くなります。
――コスト高の要因の1つは販売奨励金でしょうか? 分離プラン導入によって、最近は取り沙汰されることが少なくなってきましたが。
販売奨励金こそ、キャリアの支配構造をもたらしています。端末メーカーの立場になれば、自社で端末を販売する方法と、キャリアに納入する方法があります。自社販売では、売れるかどうか不透明ですが、ヒットすれば利益も大きくなります。一方、納入型であれば販売数は一定量以下になってローリスク・ローリターンです。
現実を見れば、キャリア販売の携帯電話だけに販売奨励金が付与され、店頭価格が引き下げられれば、自社販売分を値下げする原資がない以上、メーカーとしてはキャリア納入型を選択せざるを得ません。
当社も端末販売を行ないましたが、0円でデータ通信カードが店頭にあるのに、顧客には同じ製品を値段を付けて販売しなければなりません。営業するときには「店頭価格が安く見えても、利用料という形で支払う」ということを伝えていましたが、全てのお客さんに納得はしてもらえませんでしたね。そこでレンタル制度などを導入しましたが、販売奨励金の存在は、ユーザーから「端末は買うもの」という意識を取り払ってしまうものではないでしょうか。分離プランの導入は、何に対していくら支払っているか明確になる分、良い形になったと思います。
分離プランの導入は、将来的にSIMロックの解除に繋がると思います。今のままでは、自分自身が購入した携帯電話端末をB社で使いたいのにA社でしか使えないという形になります。販売奨励金とSIMロックは、いわば車の両輪です。2010年にも最終結論が出るということですが、解除の方向になるというのは自ずと見えていることと言えるでしょう。
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7月に登場するiPhone 3G
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――アップルのiPhoneが日本市場でも登場することになりました。
さきほど5年前に変化の一手を打つべきだったと申し上げましたが、端末OSについても同じことですよね。iPhoneやグーグルのAndroidが登場してきましたが、コンピューター業界からのアプローチとしては、個々の機能をオブジェクトとして実装し、そのオブジェクトを動かすOS、ソフトウェアを求めています。日本の端末でもLinuxなどをベースにしたプラットフォーム開発が進められていますが、開発コストの低減という目標はあっても、より長期的な観点での開発なのかどうか疑問です。コンピューター業界の手法は、将来的に市場を制覇するために必要かどうかという視点に基づいています。そういう意味でも生き残るための方策が必要なのです。
――日本通信として、iPhoneはどう見ていますか?
どういうサービスを提供するか、それは顧客次第です。選択肢は自由であって、iPhoneやWindows Mobileなど、顧客が必要とすれば、それを用いてサービスを提供します。当社の事業の方向としては、単なる土管屋ではなく、サービスを垂直統合で提供するという形を目指す道もあります。
――垂直統合モデルに対して非難一辺倒と思っていましたが。
たとえばパソコンを見ると、個々の部品は水平分業で開発、製造されています。ユーザーとしては自作PCという選択肢もありますが、多くの人は個々の部品をとりまとめて垂直統合で製造されたメーカー製のパソコンを選ぶでしょう。重要なのは選択肢があることです。垂直統合か水平分業か選べる状況であること、また誰もが垂直統合でビジネスできること。選択肢がなく、キャリアの独占になっているのはおかしいということです。
たとえばインターネットでは、週に1つは新しい話題のサービスが登場していますよね。それは、競争するプレイヤーが多いからです。プレイヤーが多くなければサービスは向上しません。選択肢があること、プレイヤーが多くなることが重要な点ですね。
■ 丹後通信の「ふるさとケータイ」事業
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各地域に根差したニーズがあると語る福田氏
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――モバイルビジネス活性化プランなどによって、ある程度問題視されていた部分がクリアになってきたと思います。そうなると、日本通信としては時機到来を待つのみということでしょうか。
待つだけではなく、自分たちでできる部分をやっていくということですね。たとえば商品の販路拡大のために、量販店と提携したり、ソリューション提供のためにSI事業者との協力関係を築くといった点ですね。
――丹後通信という子会社では、総務省が提唱する「ふるさとケータイ」を手掛けるという話もありますが、どういったものなのでしょうか?
もともとのビジョンは「ふるさと発のグローバル」です。国内の地方エリア発祥のサービスを海外でも展開したいと考えています。
実際に丹後通信では、京都府の丹後地方で事業を行なうわけですが、現地に行ってみると東京では見えなかった課題が寄せられています。たとえば、「イノシシ対策が急務」と言われるわけです。どういうことかと話を聞くと、農作物への被害などを抑えるためにイノシシを捕獲するのですが、そのために檻を設置しておきます。そして捕獲できたかどうか、定期的に巡回してチェックしています。また、捕獲したイノシシを食肉にする場合は、新鮮なレベルでなければ収益にならないそうです。
このあたりの話は通信モジュールが用意できれば、一気に解決します。もちろん檻に設置するセンサーは、防雪対策などのノウハウを活かしたものを開発する必要がありますが、通信業界として力になれる部分があると思います。地元の方から話を聞くと、同居しているおばあさんが病院に行くとなると、移動時間と病院での待ち時間が多大で、車を運転しておばあさんを送る家族は仕事を一日休まなければいけません。しかし、こういった事例に対しては「集落ごとに公民館がある。そこにモニターと通信機を置いて、遠くの病院にいる医師から問診を受けられるようにすれば良い」とアイデアが出ています。遠隔医療と言えばロボットアームで、遠く離れた地域の患者さんを手術するというイメージを思い浮かべるかもしれませんが、高度な医療だけである必要はありません。数時間かけて病院を訪れ診察を受けて薬をもらうという、比較的シンプルな医療行為もあります。
国策としてユビキタス化が唱えられ、数多くのアイデアが出ていますが、実現したケースはわずかです。丹後通信は、コスト構造を深く追求せず、発想から1週間でスタートした事業です。ニーズは必ずあるのだから、そこに対してスピーディに取り組まなければいけません。その程度のリスクを負わなければ、大きな成功もない。実行力の問題ですね。昨年から進めてきて、最近各キャリアさんやメーカーさんも集まって、研究会が開催されました。現地の自治体からニーズを提案してもらう場にしていきたいですね。それでうまくいけば、他の地域でも展開したい。いきなり全国展開するよりも、まずできるところから手を付けていくのです。
■ 今後の展開
――MVNOといっても、丹後通信の事業内容とコネクトメールのようなサービスは、日本通信が関わる事業と思えないほど印象が異なりますね。ただ、共通する点は、選択肢の自由度を高めることと競争プレイヤーを増やす環境作りということでしょうか。一方、MVNO事業としては、国内でディズニー・モバイルのような新しい形態が登場しました。
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2.5GHz帯のワイヤレスブロードバント技術を前向きに捉えているという
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そうですね。日本では音声系サービスを追求したMVNOがありませんでしたから、それはそれで良いと思っています。ただ、当社はデータ通信を中心に据えています。そこで得たノウハウを元に海外展開していきます。
――データ通信という点では、昨年から登場したイー・モバイルの存在感が高まっていると思います。
そのあたりは、bモバイルの3G版を提供できるようになるまでは、仕方ない面があると思っています。むしろ、ドコモ網でサービス展開できるようになれば、エリアカバレッジやキャパシティなどの面で有利だと見ています。ドコモ自身も定額データ通信サービスを提供していますが、通信プロトコルなどの制限がありますから、当社のサービスの方が優位になり得ると思います。
当社では、分単位でPHSデータ通信を利用できる「bモバイル アワーズ」という商品を提供していますが、同じ仕組みの3G版の要望が寄せられていますから、そういったものは提供したいですね。
――イー・モバイル網を借り受けて、いち早く3G版を展開することはないのでしょうか?
先にドコモ網のほうが有利と判断したと述べましたが、それと同じ理由で、現実的ではないということですね。どちらかといえば、今後登場するであろう2.5GHz帯利用のWiMAXや次世代PHSは興味深く捉えています。W-CDMA網とうまく補完しあえると思いますね。
――本日はありがとうございました。
■ URL
日本通信
http://www.j-com.co.jp/
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(関口 聖)
2008/06/12 12:03
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ケータイWatch編集部 k-tai@impress.co.jp
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