Retinaディスプレイで美しくパワフルに進化を遂げた「New iPad」

法林岳之
1963年神奈川県出身。携帯電話をはじめ、パソコン関連の解説記事や製品試用レポートなどを執筆。「できるWindows 8.1」「できるポケット docomo AQUOS PHONE ZETA SH-06E スマートに使いこなす基本&活用ワザ 150」「できるポケット+ GALAXY Note 3 SC-01F」「できるポケット docomo iPhone 5s/5c 基本&活用ワザ 完全ガイド」「できるポケット au iPhone 5s/5c 基本&活用ワザ 完全ガイド」「できるポケット+ G2 L-01F」(インプレスジャパン)など、著書も多数。ホームページはこちらImpress Watch Videoで「法林岳之のケータイしようぜ!!」も配信中。


 3月8日に米国で発表され、3月16日から日本国内でも販売が開始された「New iPad」。初代モデルから数えて三代目のモデルになるが、従来のiPad 2の4倍に相当するピクセル数を実現したRetinaディスプレイを搭載し、美しくパワフルに進化を遂げている。筆者もWi-Fiモデルを購入したので、レポートをお届けしよう。

iPadを超えられるのはiPadだけ

 パソコンでもスマートフォンでもない「タブレット」という新しいコンピュータの形を創造し、2010年1月に発表されたアップルの「iPad」。iPhoneと共通のiOSを搭載し、ブラウザやメールに加え、さまざまなアプリが利用できるタブレット端末として開発され、2011年3月に発表された「iPad 2」を経て、昨年までに全世界で5000万台以上の販売を記録するほど、高い人気を得ている。

 国と地域によって、パソコンなどの普及率が異なるため、一概に比較できないが、欧米の街中を見ていてもiPadを使っている人は多く、International CESやMobile World CongressなどでもiPadを使ったソリューションやサービス、周辺機器、活用事例などは数多く出展されている。国内でも初代iPad、iPad 2と着実にユーザー層を拡げることに成功し、各社から発売されたAndroidプラットフォームを採用したタブレット端末が苦戦を強いられる中、常に安定した人気を保ち続けている。

 iPadがこれだけ広く、なかでもエントリー層のユーザーにも広く受け入れられてきた背景には、それまでのパソコンなどとは一線を画し、iPhoneで培われてきたタッチパネルによる快適なユーザーインターフェイス、アップルが考える完成度の高い世界観を展開してきたことが挙げられる。

 現在のiPadは、iTunesとの連携による楽曲データの転送を除けば、基本的にパソコンがなくても利用できるが、パソコンを必須としていた時期でも「iPadを買ったら、もうパソコンはいらない」と考える人も多く、実際にある程度、リテラシーの高いユーザーでも「iPadを使うようになってから、パソコンを起動することが減った」と公言する人も少なくない。

 かく言う筆者もその一人で、リビングに置いてあるiPadは、ドラマや映画、サッカーなどを観るときに欠かせないツールになっており、それまで使っていたネットブックやノートパソコンはすでに使わなくなってしまった。それは言うまでもなく、Webページでの検索やメールの確認といったライトな使い道には、iPadの方がすぐに起動でき、パソコンよりもはるかに快適に使えるからだ。もちろん、だからと言って、パソコンが不要というわけではなく、原稿を書いたり、資料を作成するといった『仕事の道具』としてはパソコンが必要なのだが、それ以外の利用シーンにおいてはiPadが活用できるシチュエーションが多く、iPadという手軽に利用できるデバイスが手元にあることで、結果的に「デジタルに触れる時間」も着実に増えている。

 こうした位置付けにあるiPadだが、少しおさらいをすると、国内では2010年5月に初代モデルとなる「iPad」、2011年4月に二代目モデルとなる「iPad 2」が発売された。初代モデルははじめてのタブレットということもあり、タブレットという商品そのものに対する可能性や必要性が議論され、各方面で話題となったが、同時にWi-Fi+3GモデルのSIMロックなどについても注目を集めた。


iPad 2初代iPad

 iPad 2はiPadの基本的なコンセプトを継承しながら、プロセッサがシングルコアのA4からデュアルコアのA5に変更され、約2倍のパフォーマンスを実現することに成功した。ボディもグッとスリムになり、フロントカメラ搭載によるFaceTime対応、iMovieやPhoto Boothなどのアプリによるエンターテインメントの強化など、さまざまな面において、完成度を高め、安定した人気を得ることができたわけだが、その一方で、iPad 2の完成度の高さゆえに、次期モデルではどういう進化を遂げるのか、iPad 2をどのように超えてくるのかが注目を集めていた。

 そして、今回発表されたのが「New iPad」だ。発表前には「iPad 3」や「iPad HD」といったネーミングが噂されていたが、世代を表わす数字の表記をやめ、素直に「iPad」というシンプルなネーミングが採用された。ネーミングを噂していたユーザーとしてはちょっと肩すかしを食らったような印象だが、アップルが販売する「iMac」などと同じように、基本コンセプトがしっかりと継承された完成度の高い製品として、今後も進化させていこうという考えを表わしているのかもしれない。

最高峰の解像度を実現したRetinaディスプレイ

 すでに十分な完成度を実現し、安定した人気を得ているiPad 2に対し、今回のNew iPadではさまざまな面で改良が加えられているが、やはり、最大の注目点はディスプレイだろう。

 アップルはiPhone 4において、3.5インチでは640×960ドット表示が可能な液晶ディスプレイを搭載し、人間の網膜を意味する「Retina」というキーワードを冠した「Retinaディスプレイ」と名付けたが、今回のNew iPadでは従来の初代iPadやiPad 2と同じ9.7インチサイズをキープしながら、約2倍の解像度となる2048×1536ドット表示が可能な液晶ディスプレイを搭載する。

 初代iPad及びiPad 2が1024×768ドット表示だったことを考えると、約4倍の解像度を得たことになる。一般的に人間の眼で判別できるのは300ppi程度と言われており、iPhone 4のRetinaディスプレイはそれを超える326ppiを実現したことを意味していたわけだが、New iPadはモバイルデバイスでも比較的大きい部類に入る9.7インチというサイズで、これに迫る264ppiという解像度を実現したわけだ。現在、家庭で利用されている32インチから60インチクラスの薄型テレビが1920×1080ドット表示が可能なフルHDであることを考えると、いかにNew iPadのディスプレイが高精細であるかがよくわかる。

 では、実際にNew iPadに搭載されたRetinaディスプレイがどれくらい高精細で美しいかという話になるのだが、iPad 2などと見比べると、その違いは一目瞭然だ。たとえば、iPad用アプリとして提供されている「産経新聞 HD」を見てみると、画面全体に新聞全面を表示したとき、iPad 2では本文のフォントがギザギザで読みにくいのに対し、New iPadでは小さな本文のフォントもきちんとした文字として認識することができる。もちろん、人によって、視力が違ううえ、年齢によっては小さな字が見えにくくなるが、何回も拡大しなくても小さな文字がくっきりと表示される視認性の良さは、多くのユーザーにとって、大きな魅力と言えるだろう。


ケータイ Watchを拡大表示写真を拡大表示

 また、デジタルカメラから読み込んだ写真については、拡大表示したときにその差がハッキリと表われる。写真全体を表示しているときは差が見えにくいが、写真の一部を拡大すると、iPad 2がややぼやけて見えてしまうのに対し、New iPadではクッキリと表示される。特に、最近のデジタルカメラはエントリー向けのコンパクトデジタルカメラでも1000万画素を超えており、パソコンのディスプレイでも十分に表示しきれないが、New iPadのRetinaディスプレイであれば、細かい部分も含め、しっかりとディスプレイに写真を再現することができる。デジタル一眼レフなどで写真撮影を楽しむユーザーにとってもNew iPadは、有効なツールと言えそうだ。

 意外なところでは、従来のiPhone向けアプリを拡大表示したときにも効果がある。iPadではiPhone向けのアプリをそのまま動作でき、表示も2倍表示に切り替えることで、画面全体に表示できるが、AppStoreでiPhone向けに配信している「Impress Watchアプリ」を起動してみると、iPad 2の2倍表示が明らかに拡大表示をしたように、フォントがギザギザになっているのに対し、New iPadではフォントがクッキリと表示され、違和感なく、閲覧することができる。これはアプリの作り方にも関係しているのかもしれないが、意外なところで、Retinaディスプレイの高精細さが活かされた印象だ。

 もちろん、この他にもブラウザやメール、オンラインの映像コンテンツ、電子書籍、ゲーム、アプリなど、さまざまなシチュエーションにおいて、Retinaディスプレイの高精細さと美しさは活きてくる。かつて、ケータイの世界でも2007年頃、VGA(480×640ドット)対応ディスプレイを搭載するケータイが登場し、ユーザーの利用スタイルも含め、一気に置き換わったことがあったが、おそらくNew iPadのRetinaディスプレイは、タブレットの利用において、ひとつの転換点になるインパクトを持っており、今後のパソコンを含めたデジタルツールの在り方や進化にも大きな影響を与えることになりそうだ。

 ただ、これだけ文章であれこれと表現しても高精細かつ美しいRetinaディスプレイのクオリティがなかなか伝わりにくいというのも正直な感想だ。百聞は一見にしかずというが、もし、家電量販店やアップルストアなどに足を運ぶチャンスがあれば、ぜひ、New iPadのRetinaディスプレイの高精細さと美しさをご自身の目で確かめていただきたい。

グラフィックを強化したA5Xチップ

 高精細で美しいRetinaディスプレイを搭載したNew iPadだが、ディスプレイだけが特徴というわけではない。この高精細なディスプレイを活かすため、ハードウェアのスペックも一段とパワーアップしている。

 まず、Retinaディスプレイを活かすプロセッサとして、クアッドコアグラフィックスを搭載したA5Xが採用されている。パソコンがそうであるように、ディスプレイが高解像度化すれば、自ずとグラフィックに対する要求も高まってくるが、アップルはiPad 2にも搭載されたデュアルコアプロセッサA5をベースに、これに統合されたグラフィックエンジンをマルチコア化することで、Retinaディスプレイのポテンシャルを引き出している。実際に操作した印象もディスプレイが高解像度化されているにも関わらず、これまでのiPadやiPhoneと同じように、サクサクと操作できるレスポンスを実現しており、まったくストレスなく、使うことができる。このあたりの快適さは他のタブレット端末ではなかなか味わえない感覚だ。

 プロセッサに統合されたグラフィックエンジンとは言え、マルチコア化されれば、当然のことながら、バッテリーの持ちが気になるところだが、New iPadは最大10時間の連続動作を可能にしている。海外のサイトで伝えられた情報によれば、New iPadには従来のiPad 2の約2倍に相当する11560mAhという、かつてない大容量のバッテリーが搭載されているという。まだ数日しか使っていないが、実際に使った感覚としては、iPad 2と同等以上の時間は利用できるという印象だ。使い方にもよるが、パソコンやスマートフォンと併用する形の利用であれば、数日に一度、充電するくらいで、十分と言えそうだ。



 ハードウェアでもうひとつ大きく変わったのが「iSightカメラ」だ。従来のiPad 2は720pのHDビデオの撮影に対応していたが、今回のNew iPadでは500万画素の裏面照射型イメージセンサーによるカメラを搭載し、動画については1080pのHDビデオの撮影を可能にする。オートフォーカスやタップしてのフォーカス、顔検出など、最新のスマートフォンと比較しても遜色のない機能が搭載され、かなりグレードアップした印象だ。

 特に、従来のiPad 2では暗いところでの撮影が今ひとつ苦手な印象だったが、今回のNew iPadは裏面照射型センサーとf/2.4の開口部、5枚構成のレンズの効果もあり、明るいところから暗いところまで、歪みの少ない写真を撮ることができる。まだ試した期間が短いため、「これ!」という写真は撮れていないが、それでも従来モデルと比較しながら撮影してみると、ハッキリとわかるレベルの違いがあり、従来よりもカメラの撮影が楽しくなる印象だ。



Wi-Fi+4Gモデルか、Wi-Fiモデルか

 これまでiPadは初代モデルもiPad 2もWi-FiモデルとWi-Fiに3Gデータ通信機能を組み合わせたモデルが販売されてきた。今回のNew iPadも同じように、通信機能の違いにより、2つのモデルがラインアップされているが、従来と大きく違うのはモバイルデータ通信でLTE方式に対応したことだろう。海外サイトの情報によれば、ベースバンドチップもLTE方式をサポートした米クアルコム製MDM9600が搭載されている。LTE方式が米国などでは「4G」と呼ばれていることもあり、アップルのWebページでは「Wi-Fi」モデルと「Wi-Fi+4G」モデルという表記が使われている。

 LTE方式に対応ということで、国内で言えば、NTTドコモのXi、イー・モバイルのLTEサービス、あるいは年末にサービス開始を予定しているauのLTEサービスでの利用が気になるところだが、残念ながら、New iPadでサポートされているのは米AT&Tと米Verizon Wirelessが提供するLTEサービスであり、日本の各社のLTEサービスとは周波数が異なるため、そのまま利用することはできない。具体的には、米AT&T向けモデルのLTEサービス対応が700MHz帯と2100MHz帯(2.1GHz帯)、米Verizon Wireless向けモデルのLTEサービス対応が700MHz帯と表記されている。AT&Tの2100MHz帯対応についてもNTTドコモのXiとは別の帯域を利用しているため、利用することができない。

 こうした周波数の違いについて、日本だけが特殊な周波数帯を利用しているように捉えられがちだが、そもそもLTE方式は3G(W-CDMA/CDMA)のように、世界中でできるだけ同じ周波数帯を利用するように標準化されていないため、各国で利用する周波数帯が違ってもしかたがないということになる。どちらかと言えば、アップルは米国での販売を重視して、米国の携帯電話事業者が求めているLTE方式にいち早く対応したというのが真相だろう。

 LTE方式以外の対応については、iPad 2がUMTS(W-CDMA)/HSUPA/HSDPA/GSM/EDGEに対応していたのに対し、New iPadはUMTS(W-CDMA)/HSPA/HSPA+/DC-HSDPA/GSM/EDGEとなっており、ソフトバンクは新たに取得した900MHz帯で今年7月25日からHSPA+による受信時最大21.1Mbpsのサービスを開始するとしている。

 モバイルデータ通信以外では、従来同様、IEEE802.11a/b/g/nのWi-Fi(無線LAN)に対応する。WPSによる簡易登録などに対応していないのは残念なところだが、幅広い無線LAN環境に対応しているのはうれしいところだ。Bluetoothについては、新たにBluetooth 4.0に対応する。Bluetooth 4.0は業界全体でもまだ搭載され始めたばかりの新しい規格であるため、New iPadに対応する周辺機器の情報は何も伝えられていないが、カシオ計算機のG-SHOCK「GB-6900」のように、腕時計などにもBluetooth 4.0対応製品が登場しており、今後、iPadと連携できるユニークな周辺機器の登場が期待される。

 こうした状況を踏まえ、ユーザーとしては「Wi-Fi」モデルにするか、「Wi-Fi+4G」モデルにするかを悩むことになるわけだが、iPad 2が登場したときに比べ、現在は各社とも定額で利用できるモバイルデータ通信サービスを提供しており、モバイルWi-Fiルーターのラインアップも一段と増えている。これに加え、公衆無線LANサービスも対応スポットが急速に増えており、以前にも増して、利用しやすい環境が整いつつある。こうした状況を鑑みると、やはり、Wi-Fiモデルの購入がおすすめということになる。

 仮に、ソフトバンクと契約する場合でも「SoftBank 4G」と十分に比較することをおすすめしたい。もし、Wi-Fi+4Gモデルを選ぶ理由があるとすれば、海外で現地のSIMカードを購入し、利用するケースが考えられるが、ソフトバンクが販売するNew iPadは今のところ、パーソナルホットスポット(テザリング)に対応していないのが残念なところだ。ちなみに、発売後に伝えられた情報によれば、ソフトバンクが販売するNew iPadは国内の携帯電話事業者に帯するSIMロックが掛けられているものの、海外のSIMカードについてはSIMロックがかけられていないため、海外旅行中に現地のSIMカードを挿して、利用することはできるそうだ。ただし、これは現時点で伝えられている情報であり、筆者自身が動作を確認したわけではないことをお断りしておく。

New iPadを楽しく使える「iPhoto」

 アップルでは従来もiPadの発売に合わせ、「iMovie」や「GarageBand」などのアプリを発売し、ユーザーの利用シーンを拡大してきた。今回のNew iPadでも「iMovie」や「GarageBand」をバージョンアップし、さらに楽しさを拡げているが、新たにMac OS Xの環境には欠かせない「iPhoto」(450円)をiPad向けに開発し、発売している。

 iPadには元々、「写真」アプリが標準で用意されており、iOS 5以降はiCloudに対応したフォトストリームが利用できるなど、より多くの写真を扱える環境を整えている。しかし、写真アプリは基本的に閲覧するためのもので、編集は「回転」「補正」「赤目」「トリミング」に限定されている。これに対し、iPhotoは写真の閲覧に加え、PhotoShopなどと同じように、写真のレタッチ編集をできるようにしている。写真のレタッチというと、経験のないユーザーには今ひとつ苦手なイメージを持つかもしれないが、iPhotoのレタッチは非常に簡単かつわかりやすいユーザーインターフェイスとなっている。

 iPhotoを起動すると、まず、本体に保存されている写真がフラグやイベントごとなどのアルバム形式で読み込まれ、そのアルバムを開くと、写真の一覧をサムネイルで表示することができる。レタッチをしたい写真をタップすると、その写真が拡大表示されるのだが、似たような複数の写真を選び、比較しながら、最終的にレタッチするための写真を選ぶといった使い方もできる。



 レタッチの操作は非常に簡単だ。まず、最初は画面中央下「自動補正」のアイコンをタップすれば、写真の明るさなどを自動的に補正してくれる。このときの補正に掛かる時間は、クアッドコアグラフィックスを搭載したA5Xの効果もあって、iPad 2に比べ、より短い時間で補正が完了する。

 個別にレタッチをしたいときは、画面左下に表示されている「トリミングと傾き補正」「露出」「カラー」「ブラシ」「エフェクト」のボタンをタップして、それぞれの機能でレタッチをする。このレタッチの機能も視覚的にわかりやすく、露出を選んだときは、写真のタッチして、上下左右にドラッグすることで、明度やシャドウ、コントラストなどを調整することができる。

 カラーも同じように、上下左右に動かすことで、青空の青さ、木々の緑、彩度などを調整することができる。しかも従来の多くのアプリではこうした一連の機能について、各機能を表わすアイコンが画面に並んでいるのみで、ガイド表示がほとんどなく、見た目はいいものの、操作がわかりにくい印象があったが、iPhotoでは画面上の[?]をタップすれば、それぞれのアイコンで何ができるのかを表わすガイドが表示されるようになっており、まったくの初心者でもひと通りの操作をできるようにしている。

 ちなみに、筆者はこういう仕事をしていることもあり、デジタルカメラで撮影した写真を切り出したり、補正するという作業は、日常的にやっているが、実はこうした写真を編集する作業はあまり得意でもなければ、好きでもない(笑)。旅行先でもたくさん写真は撮るが、帰ってからはせいぜい写真をひとつのフォルダにまとめ、写真を回転させて、縦横を合わせるくらいのことしかしない。ところが、今回のNew iPadとiPhotoを試すにあたり、昨年末に旅行で撮った写真をNew iPadに読み込んだところ、iPhotoで写真を補正するのが楽しくなり、ちょっとした空き時間に何度となく、写真のレタッチをすることになってしまった。こういう言い方も妙だが、iPhotoはレタッチ嫌いや写真編集が苦手な人でも思わずくり返し触ってしまうほど、楽しく使えるアプリに仕上がっているというわけだ。価格も450円と安いので、New iPadを購入したユーザーはぜひ試して欲しい。

ポストPC時代への大きなステップ

発表会に登壇したアップルのCEOティム・クック氏

 私たちが使うコンピュータと言えば、これまではパソコンが広く利用され、小さなパソコンという意味ではスマートフォンも身近な存在として、急速に普及が進んでいる。しかし、そのコンピュータを必要とする作業については、使う人によって、ニーズはさまざまだ。ある人はブラウザでWebページの閲覧で十分かもしれないし、ある人はデジタルカメラで撮った写真を管理したり、レタッチをしたいのかもしれないし、またある人は仕事で使うビジネス文書を作成したいのかもしれない。ただ、こうした作業について、パソコンが必須とされているかというと、必ずしもそうではなくなりつつある。たとえば、iPadで言えば、初代iPad、iPad 2で確実にWebページの閲覧が快適になり、メールについてはスマートフォンがあれば、自宅でもオフィスでも外出先でもいつでも確認できるようになった。オフィス文書の作成や原稿の執筆には、まだパソコンが欠かせないが、いわゆる一般的なパーソナルユーザーのニーズは、パソコン以外のデバイスでも十分に応えられる状況になりつつある。

 昨年、亡くなったアップルの元CEOの故ステーブ・ジョブズは、iPhoneをはじめとしたデバイスを「ポストPC」と呼んでいたが、今回のNew iPadはまさに「ポストPC」への大きなステップを記した一台と言えるだろう。これまでのiPadやiPhoneも確実に「ポストPC」の一台だが、New iPadはRetinaディスプレイや500万画素カメラ、快適なユーザーインターフェイス、iPhotoをはじめとしたアプリなど、今まで以上にユーザーが楽しく活用できる環境が整っている。特に、従来のiPadはWebページの閲覧や映像コンテンツの視聴など、どちらかと言えば、提供されるコンテンツを楽しむ側のユーザーのニーズを満たしていたのに対し、今回のNew iPadはiPhotoやiMovie、GarageBandなど、コンテンツを創り出す側のユーザーのための環境が整っており、その意味においても従来モデルとは一線を画し、大きなステップを踏み出した一台という見方ができる。

 New iPadの可能性をどこまで拡げられるかは、まさに使う人次第だが、本体のDock端子に接続する「Apple Digital AVアダプタ」や「Apple iPad Camera Connection Kit」、「Apple VGAアダプタ」などのオプション類を組み合わせれば、さらにさまざまなシチュエーションでNew iPadを活用できるようになるはずだ。

 まだ試用期間が短いため、必ずしも十分に機能を評価できていないかもしれないが、従来モデルに比べ、確実に満足度の高い製品に仕上がっていることは間違いない。当初は従来のiPad 2に比べ、約50gほど、増した重量の差が気になるかと心配していたが、実際に使いはじめれば、サクサクと快適に使える操作感のおかげで、重量の違いも忘れてしまいそうなくらい、楽しく使うことができた。New iPadはすでにiPadをはじめとするタブレットを使っている人はもちろん、今までタブレットを使ってことがない人にもぜひ試して欲しいモデルだ。

 




(法林岳之)

2012/3/21 13:52