【Mobile World Congress 2016】

「ジョブズを説き伏せてiPhoneをTD-LTE対応に」

ソフトバンク孫氏や、ドコモ、KDDIが語るTD-LTE

 Mobile World Congressの期間中、スペイン・バルセロナでは業界の関連団体のイベントも併催されている。GTI(Global TD-LTE Initiative)が行った「GTI Summit」も、その1つ。同団体はTD-LTEを推進しており、日本の会社では、ソフトバンクが設立を推進した。

第2段階に入ったTD-LTEの推進団体「GTI」。孫氏をはじめ、各国のキャリア首脳が並んだ

「HPUE」導入の必要性を力説した孫氏

 このGTI Summitに、ソフトバンクグループの代表取締役兼CEO、孫正義氏が登壇。TD-LTE開始当時のエピソードを語りつつ、電波の出力を上げ、通信環境を改善する「HPUE」を標準化する必要性を力説した。

強行スケジュールで登壇した、ソフトバンクグループの孫正義氏

 孫氏は、GTIの発足した2011年にも、Mobile World Congressの期間中に開催されたGTIのイベントに駆けつけている。当時を振り返りながら、孫氏は親交の深かった、AppleのCEO(当時)、スティーブ・ジョブズ氏の名前を挙げ、iPhoneがTD-LTEに対応した経緯を次のように語った。

「スティーブが生きていたころ、Band 41のTD-LTEをサポートしろと言った。私のため、ソフトバンクのためでなく、あなたのiPhoneのためにサポートした方がいいと伝えた。彼は『TD-LTEとは何だ?』と言ったが、今後、世界で最大の顧客が、TD-LTEを必要とすることを語った。ソフトバンクもやるが、中国移動、バーティエアテルという2つの世界最大キャリアがいる。日本は小さいかもしれないが、TD-LTEは無視できない。それを彼が判断してくれて(iPhoneがTD-LTEに対応し)、幸せだと思う」

5年前のGTI設立当時を振り返る孫氏

 孫氏の説得が功を奏し、iPhoneはTD-LTEに対応した。TD-LTEが利用可能なその他のスマートフォンも増え、現在では、FDD方式のLTEと同時に運用するキャリアも一般的になった。日本では、WCPのAXGPやUQコミュニケーションズのWiMAX 2+がTD-LTEと完全互換となっており、ドコモも2016年に3.5GHz帯でTD-LTEを開始する。こうした状況を指し、孫氏は「TD-LTE自体はもう議論のテーマではない。ファクトになっている」という。

 これに続けて孫氏は、近い将来訪れるであろう、「シンギュラリティ(特異点)」を解説。30年後には、「コンピューターやAIが、人間の100万倍の知能を持っている」と力を込めて語った。同様に、孫氏は「今はスマートフォンとタブレットの2台しか持っていないが、すべてのモノがIoTになる」としながら、10兆もの端末がネットワークにつながる将来像を示し、「30年後に私の言ったことを覚えていてほしい」と話す。

2018年にはシンギュラリティを迎えるという孫氏。日本の講演でもおなじみの内容だ
ネットワークに接続する端末は、莫大な数になる見込み。孫氏はここから、話題を一気にTD-LTEの「HPUE」に転換するという“荒業”を見せる

 ネットワークに接続する端末が増えれば、「モバイルのデータトラフィックは急増する」。一方で、「周波数は限られており、解決するにはテクノロジーを進化させるしかない」という孫氏。その解決策として提案されたのが、「HPUE(high power user equipment)」だ。

「HPUE」の特徴
TD-LTEに「HPUE」を導入すると、カバレージは30%広がり、1.9GHz帯でエリア構築するのと同等になるという

 孫氏は「高い周波数帯はビル内に浸透しない」としながら、これを「3db上げると、ミッドバンド並みに電波がよくなる」と話す。孫氏によると、1.9GHz帯を使うのと、同程度の浸透率になるそうだ。ただし、「これは1つの企業では決められないこと」。そのために、標準化を進める必要があると力説した。

各ステークホルダーに対して、標準化を呼びかけた

 孫氏は、2月22日の夜(現地時間)にスペインに到着。講演を終え、そのまますぐに帰国する予定だという。「とても忙しいが、これだけを言うためにここへ来た」と語っていることからも、HPUEの標準化動向を重視していることがうかがえる。

KDDI、ドコモは3.5GHz帯の方針を語る

 GTI Summitでは、年内に日本で開始される、3.5GHz帯を使ったTD-LTEについても、議論された。

 KDDIからは、技統括本部技術開発本部長の宇佐美正士氏が登壇。3.5GHz帯はドコモとソフトバンクにも割り当てられているが、同社がもっとも早く、6月にサービスインする方針を語った。宇佐美氏によると、ドコモは10月、ソフトバンクは12月に3.5GHz帯のTD-LTEを開始するようだ。

KDDIは、宇佐美氏が語った
6月に、3.5GHz帯でTD-LTEを開始するKDDI。他社より早いことをアピールした
総務省から課せられている割り当ての条件

 KDDIは、3.5GHz帯のTD-LTE導入にあたり、「デュアルコネクティビティ」を利用する。これは、制御信号(Cプレーン)とデータ信号(Uプレーン)を分離する技術で、マクロセル内にスモールセルを導入する際に有効なもの。キャリアにとっては、スモールセルの追加が容易になるというメリットがある。

導入にあたっては、デュアルコネクティビティを活用する

 宇佐美氏によると、3.5GHz帯のTD-LTEは、キャリアアグリゲーションで利用する方針で、Band 1(2GHz帯)のLTEと合わせて利用することになる。これによって、「キャパシティの大きなTD-LTEと、より広いカバレージのFD-LTEを使い分ける」。

キャリアアグリゲーションで2GHz帯のLTEと組み合わせる

 対するドコモは、無線アクセス開発部の安部田貞行氏が登壇。3.5GHz帯のTD-LTEを、ドコモが導入している高度化C-RANで制御し、FDD方式のLTEとキャリアアグリゲーションをしていくことを語った。安倍田氏によると、ドコモでは、2019年までに2万ほどの基地局を設置する予定。これによって、電波の割り当て条件だった50%の人口カバー率をクリアする。

ドコモからは、安倍田氏が登壇
TD-LTEも高度化C-RANで制御する
2018年には人口カバー率を50%にする予定

(石野 純也)