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KDDIに聞く

増大するスマートフォンのトラフィックのさばき方


 スマートフォンの普及・拡大により、通信量(トラフィック、トラヒックとも)が爆発的に増大している。その結果として、場所によっては繋がりにくかったり、繋がっても通信速度が遅く感じられたりする現象が起きている。

 携帯電話のネットワークは、無線通信や基地局とセンターを結ぶバックボーン回線などの組み合わせで構成されているが、携帯電話事業者ではネットワークの細部を調整し、状況の改善に挑んでいる。KDDI技術企画本部モバイル技術企画部 担当部長の大内良久氏に、KDDIが進めるネットワーク対策について話を聞いたところ、スマートフォンが生み出す膨大なトラフィックや、それへの対抗策など、これからのauの取り組みが明確に示された。さらに“iPhone 4S”について、ネットワークという切り口で見た場合、auはどのようなアドバンテージがあると考えているのかという点についても聞いた。

普通のスマホユーザーが……

KDDIの大内氏
トラフィックの違い

――スマートフォンによってトラフィックが増大すると言われていますが、フィーチャーフォンと呼ばれる従来型の携帯電話と比べ、どれほど違うのでしょう?

 もちろん人によって違いますが、およそ10倍〜15倍、20倍ほどになります。田中(孝司氏、KDDI代表取締役社長)は平均して15倍と表現しています。

――3年前に通信制限に関して取材した際には、フィーチャーフォンで動画を観る、という使い方でヘビーユーザーとされていました。スマートフォンではどういった用途が主なのでしょうか。

 当時のフィーチャーフォンで、ストリーミング動画のトラフィックは約9%で、その大半がアダルト動画でした。ところが現在、スマートフォンでストリーミング動画は49%を占めるまでになっており、その大半がYouTubeやニコニコ動画といったサービスです。

――すると、あるジャンルに偏って利用されていたのが、より幅広い動画サービスが利用されるようになった、と。

 はい、一般的なユーザーが普通に動画サービスをスマートフォンで使う、という時代になっています。他社の詳細な状況はわかりませんが、動画に注力している他社さんはもう少し動画の比率が高いと推測しています。

――iPhone 4S発売後の状況はいかがでしょうか?

 同じ傾向ですね。多くのユーザーさんは、スマートフォンを購入すると、まずアプリをどんどんダウンロードしていきますが、飽きると動画サービスへ移行する、という流れになっているようです。

――auのフィーチャーフォンにはBREWアプリの通信量制限などがありましたが、スマートフォンで様変わりした印象です。

 その分ARPU(ユーザー1人あたりの平均収入)は向上していますが、それ以上にトラフィックが増大しています。かつてフィーチャーフォンでは、キャリアの垂直統合としてアプリの帯域制限を設けていましたが、グローバルなスマートフォンでは、そうした“縛り”とでも言うべきものがなくなり、普通に使うだけでもトラフィックが増大する状況です。

トラフィックをさばく3つの対策

――トラフィックをいかに処理するか、「基地局がカバーするサービスエリアの細分化」や「データオフロード(負荷分散)」といった手法をよく耳にします。

 はい、その2つに加えてベース速度の向上も代表的な手法ですね。基地局のカバーするサービスエリアに関して、KDDIでも取り組んでいますが、その細分化にはどうしても限界があり、これ以上小さなエリアにならない、という状況になります。そこで、来年4月を目処に「EVDO Advanced」という技術を導入します。これはもともとクアルコムさんが開発したものですが、KDDIが世界で最初に導入します。

――EVDO Advancedについて、もう少し詳しく教えてください。

 通常、手元の携帯電話は、最も電波環境の良い基地局と繋がります。しかし、同じ基地局に数多くのユーザーが接続してしまうと、結果的に通信速度が下がってしまうことがあります。そこで、EVDO Advancedでは、やや電波環境は弱くなるものの、その近くで空いている基地局があれば、そこへ接続するよう携帯電話に案内します。そうすることで、電波環境は良くとも多くのユーザーがいて速度が遅くなる事態を避けて、やや電波は悪くなるものの、空いている場所で快適に使える、という状況にするわけです。これにより、従来の1.5倍のデータを基地局側では取り扱えるようになり、ユーザーの体感速度も平均で2倍に向上します。来年4月に導入する予定で、現在混雑しているエリアほど、体感速度の向上があらわになります。現在は、導入に向けて商用環境でテストしているところです。
来年4月導入予定のEVDO Advancedは混み合っている場所ほど効果を実感できそうだ

――通信速度の向上ということであれば、最近の技術では複数のアンテナを使うMIMOや、将来的な技術として複数の周波数帯を使うキャリアアグリゲーションといった手法がありますが、空いているところへ案内する、という考え方なのですか。ただ、電波が弱くなると、通常はその分速度が落ちますよね。

 はい。そのあたりはノウハウの積み重ねと計算式によって、KDDI側が一定の基準を設けます。渋谷のハチ公周辺には5つの基地局がありますが、混雑してきたら少し空いている道玄坂の基地局を使ってください、というように「この程度ならあちらへ誘導」ということにします。ですから、たとえば横浜や大宮、渋谷ではそれぞれで状況が異なりますので、根底にある考え方は同じですが基準値が異なります。基地局が1つ増えれば、その都度調整します。ただし、渋谷や新宿、池袋といった国内でもかなりの過密地域では、基地局設置の細分化や、Wi-Fiによるデータオフロードも加速させます。

――EVDO Advancedは、無線区間の工夫の1つのようですが、コアネットワークではどういった工夫を?

 技術的な用語では「アプリバッファサイズの変更」「データ処理シーケンスの変更」と言える工夫を行っています。たとえばWebブラウジングですと、サーバーとのやり取りの中で、データをバケツリレーのような形で運んでいます。ここで小さなバケツしかなければ、膨大なデータの受信にはどうしても時間がかかりますから、たまに大きなバケツに変えると高速に処理できます。こうしたバケツのサイズ変更と言える調整を区間区間で最適化しているわけです。このあたりの調整のノウハウは、他社さんにはなかなか真似できないと思います。

iPhoneの速度、どっちが速い?

――今秋、ケータイ業界で最大の話題の1つは、auからiPhone 4Sが発売、ということでした。ソフトバンクでは、au版iPhoneとの違いとして、さまざまな点を挙げています。今回はネットワークに関するインタビューですので、そうしたソフトバンクの主張のうち、通信速度などについての意見を教えてください。

 最近では「接続率」という見慣れない指標も提示されているようですが、山手線に乗車して平日の17時半〜19時という、最も混雑する時間帯、つまりキャリアの真価が問われる時間帯で検証しましたが、接続失敗率で当社は0%でした。対して競合他社は10%台の接続失敗率になっています。またiPhoneだけに限っても、キャッシュを削除してからブラウザのSafariを起動し、メーカーサイトにアクセスし、表示するまでの時間も計測しましたが、当社のほうが上回っています。

――繋がりやすさや通信速度で違いがあるということですね。スペックとしては、ソフトバンクモバイル版は下り14.4Mbps、au版は下り3.1Mbpsですが……。

 当社では、携帯電話やサーバー、途中のコアネットワークといった部分について、ミリ秒単位でチューニングを行っています。その効果もあって、速度測定アプリなどを使ってみると、下り3.1Mbpsでも他社と同等の使い勝手になっていると思います。また都市部から離れて郊外に行くと、当社と他社の違いは顕著になります。これはバックボーン回線の品質の違いかと推測していますが、当社の場合は山間部でも光回線を敷設しているのです。スペックだけでは、キャリアの実力が表現できない時代になってきたなと思います。

Wi-Fiオフロード、LTEについて

――iPhoneに限らず、スマートフォンではWi-Fi機能が標準的に搭載されています。KDDIでもau Wi-Fi SPOTが5万カ所に達したとアナウンスされていますね。ただし、飲食店など一カ所に留まって使う、というシーンで納得するユーザーと、歩きながらシームレスにWi-Fiを使いたいというユーザーがいると思います。

 はい、auでも今夏モデルからWi-Fiと3Gをシームレスに切り替えて利用できる「au Wi-Fi接続ツール」という仕組みを導入していますが、これは飲食店に立ち寄った際など止まった状態で使う、というシーンには適しています。一方、指摘のように移動しながらという場合は接続切替に時間がかかって、スムーズには切り替えられません。このあたりは課題と認識しており、既に検討を行っています。
3GとWi-Fiをよりシームレスに切り替えられるよう検討を進めている

――Wi-Fi利用時のバッテリーの持ちも気になるところです。

 そのあたりも課題の1つとして解決策に着手しています。現状の3Gでも、音声通話とデータ通信の電波を間欠受信していますが、同じような形でWi-Fiも扱うようにして、3Gでのバッテリー消費と遜色ない状態を目指します。我々としては、データオフロードとしてWi-Fiが重要と見ており、私自身のミッションとしても、Wi-Fiを常時ONにしていただいても不都合なく、便利に使っていただける状況を理想と考えているのです。

――なるほど、それはいつごろ導入されるのでしょうか?

 どちらも今後の導入していくモデルから順次、搭載していきます。KDDI内部では、トラフィック関連の担当部署がWi-Fi関連施策も一環してサポートしています。ですからデータオフロードの施策としてまとめて取り組んでいまして、請求書送付先住所とユーザーが実際に通信を行う場所というデータを組み合わせて、自宅でよく通信するような方であれば、Wi-Fiアクセスポイントを無償キャンペーンで提供する、といった取り組みも行っています。

――来年12月開始予定のLTEですが、これもスマートフォンのトラフィックをさばく上では重要な取り組みですね。

 そうです。個人的には、サービス開始時点で、ドコモさんのその時点のエリアと同程度の規模感でエリアを展開したいと考えています。まだ個人的な思いですがKDDIとしてもそうした姿勢になるよう頑張っていきたいです。免許数では既に数多く取得できていますが、実際の整備は徐々に進めています。

――なるほど。

 来夏の周波数再編で利用できなくなる周波数があり、そうした部分の対応に力を奪われているところもあるのですが、バックボーンやコアネットワークの調整という取り組みを通じて、「キャリアの実力は単なるスペックでは表現できない」ということを実証したいと思っています。

――ありがとうございました。




(関口 聖)

2011/12/8 12:09