キーパーソン・インタビュー

KDDI田中社長が語る、スマートフォン時代の独自戦略


 スマートフォンの普及やWebサービスの進化など、多方面で大きな変革期を迎えている携帯電話業界。KDDIは、田中社長の体制に移行したことで、さまざまなプラットフォームのスマートフォンを提供するなど積極的な展開を進めている。2011年を振り返っての感想や、2012年の目標や課題、戦略などについて、KDDI 代表取締役社長の田中孝司氏に話を聞いた。

KDDI 代表取締役社長の田中孝司氏

 

2011年は「80点」、2012年は“ゲームチェンジ”

――まず、今年1年を振り返っての感想を聞かせて下さい。

 社長に就任する際、業績の上がる会社にするという話をしました。だいたい80点ぐらいでしょうか。

 固定系サービスは上期に良い成績を出しました。携帯電話は、「解約率」「MNP」「純増シェア」「データARPU」という“4つのKPI”でauのモメンタム(勢い)を取り戻すと掲げてきましたが、解約率は低下し、MNPも好転させることができました。データARPUも、スマートフォンとセットという部分があります。

 純増シェアについては、現在はビジネスモデルや競争環境が違う環境になっています。これはもう、いいかなと。それ(純増シェア)ばかり気にしていると、ユーザー目線を失ってしまう。

――今後の目標や課題についてはどうでしょうか。

 2012年は3M(マルチデバイス、マルチネットワーク、マルチユース)の世界にシフトしていきたい。今年度もやりきりますが、次の世界にシフトしていく必要がある。キャリアのビジネスは変わりつつあり、我々は“ゲームチェンジ”をしたい。スマートパイプになるために、キャリアならではのものを打ち出していきたいですね。

 

「パートナーと一緒に、違うビジネスモデルを」

――スマートパイプとしての具体策は?

 今後発表することになりますので、現時点で詳細は言えません。

 我々は3Gのキャリアとして、“禁じ手”と言われていたフラットレート(パケット通信料定額制)を初めて導入しました。それまでは小さな画面やちょっとしたアプリで満足していましたが、フラットレートになって何が変わったか。アプリやブラウザが(通信料を気にせず)使い放題になり、端末の画面が大きくなり、そのためクラムシェル(折りたたみ型)が主流になり、いろんなアプリが花開きました。ビジネスモデルとしては、その後ダブル定額を導入し、上限まで使ってもらうようなサービスを展開しました。

 しかし今はどうでしょうか。今まではキャリアに紐付けされたようなモデルが主流でしたが、複数のキャリアに提供されるようなモデルも登場し、あまり差は出なくなってきました。一方で、INFOBARのように、KDDIからしか出ない、デザインを含めて我々のコンセプトで出すモデルをラインナップしており、この2つに2極化すると思っています。

 端末は今後、大画面、クアッドコア、大量にメモリを搭載したモデル、高速な通信方式に対応したものが出てくるでしょう。OTTのレイヤーはどちらかというとグローバル化し、マルチデバイスが基本になってきている。

 そういう人たちと、我々は、一緒に新たなことを始めたい。FacebookやSkypeと提携し、いろいろと始めていますが、そういう新しい世代に行く、ちょうど中間点が今ではないでしょうか。

 ではキャリアのビジネスモデルは今のままでいいのか、と。インターネットにつながればいい、あるいは自らがいろいろと展開していくキャリアがある中で、我々はもっと、パートナーと一緒に、違うビジネスモデルにしたい。それが来年の私の抱負です。フラットレートを始めた時のような、違うものをスタートしたいですね。

――パケット定額制を導入し、料金面でユーザーのニーズに応えた、ということですが……

 私は、そこは違うと思います。定額制とそれ以外の利用料は、平均するとあまり変わりませんでした。どちらかというと、(不安が解消されたという)マインドの問題が大きいでしょう。料金が安い、高いといった部分はありますが、0円からスタートとかもあるように、そういった(見た目の)料金で競う考え方が、限界に近づいているのではないでしょうか。

 

EV-DO Advancedは予定通り導入予定も、オフロード施策は不可避に

――ネットワークトラフィックは厳しくなっていると思いますが、固定回線を持つKDDIとして、FMCの施策はどうなっているのでしょうか。

 これまでFMCといえば、割引みたいなイメージでした。現状でも、トラフィックの増加によりモバイルのネットワークだけでは支えきれなくなっている。規制も導入していますが、トップ2%のヘビーユーザーに対して規制しているところが、仮にトップ30%にまで拡大するような状況になると、普通の利用でも大きく影響が出てくるでしょう。

 キャリア側にとって、オフロードで一番安いのは固定網です。そのためWi-Fiを展開しているわけですが、電池を消費するといったイメージや、設定の煩雑さなど、もっと工夫して解決していかなければいけません。

 特に郊外では、家にいるユーザーからのトラフィックが大きい。これを半分でも(Wi-Fiなどに)オフロードできればいいのですが、まだまだやらなければいけないことは多いですね。

――ネットワークの強化と同時に、EV-DO Advancedも導入されます。スケジュール通りに進んでいるのでしょうか。

 オンスケジュールです。問題は、そうした強化を上回るペースでトラフィックが増えていることです。密に基地局をうち、チューニングも行なっていますが、それでもオフロードは必要になってきます。EV-DO Advancedや、LTEにしても、根本的な課題を先送りしているだけと言うこともできます。

――今後、スマートフォンの比率はどうなると予想していますか?

 現在は、auユーザー全体の10%を超えたところです。販売の割合は約50%がスマートフォンなので、将来的には、少なくとも50%はいくでしょう。最終的には約80%がスマートフォンになると思っています。

 

プライベートの端末はiPhone、タブレットでFacebookを活用

――「Android au」としてスマートフォンを本格的に展開し、Windows Phone、iPhoneと全方位体制になりました。

 あるとき、思ったのです。家族同士が安くなるとかいうサービスも、(ラインナップのバリエーションが少なければ)全員が揃えないといけない。提供側の論理で勧めるのは課題ではないかと思い、さまざまな端末を選べるようにしました。ただそれだけのことなのです。

――ちなみに、今使われている端末は?

 プライベートですか? オタクなのでコロコロ変えるのですが(笑)、今はiPhone 4Sです。64GBモデルを使っているとよく思われるのですが、16GBモデルのホワイトですね。

――気に入っているサービスなどはありますか?

 サービスというわけではありませんが、出勤する時は、タブレット端末でFacebookを見ています。端末は発表済みの、法人向けのモデル(ETBW11AA)です。会社に着いたら、これから出る端末をいろいろと使います。

――タブレット端末のラインナップは拡充されるのでしょうか?

 来年は強化していく方針です。

――キャリアの立場から見て、スマートフォンの課題は何だと思いますか?

 いろんなアプリを使うので、そんな人は多くないかもしれませんが(笑)、もっと連携したり、シンプルにしたほうがいいのでは、とは思いますね。操作方法もアプリによって違い、統一感がないですし、データももっと連携して共有できたらいいですね。

 

法人向けはタブレットにも注力

――法人向けの展開はどうでしょう。

 少し時間がかかるかもしれません。今は先端層とでもいうべき企業に導入されていますが、ちょうど携帯電話を企業のネットワークにつなごうとしていた時代に似ています。今、タブレット端末は業務システムに組み込むといった領域に入ってきていますから、来年の後半にはこうした流れがブレイクするかもしれません。

 我々も3LMと提携したのは大きく、準備もしています。


 

――最後に、ほかのキャリアと比べた場合、KDDIの強みとはなんでしょうか。

 他社をみてどうする、というのはもう卒業しようと思っています。世の中は変化しており、先にいくという意味で、“最初のキャリア”になりたいと思っています。キャリアとしてやることは、まだあるのではないかと思います。

――ありがとうございました。

 




(太田 亮三)

2011/12/16 20:28