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NFCは普及するのか

課題解決で手を組んだドコモ・KDDI・ソフトバンクに聞く


 ここ数年、モバイル関連で注目されている技術の1つが「NFC」だ。携帯各社からリリースされる2012年冬春モデルでも、一部機種でサポートされているが、「かざすだけでスピーカーと繋がる」「かざすだけで支払える」「かざすだけでクーポンがもらえる」といった使い方を実現するための仕組みだ。

 既に、おサイフケータイとして実現している使い方ではあるが、NFCは、海外で普及している「Type A」「Type B」、そして、日本のおサイフケータイを実現する技術「FeliCa」と互換性のある技術だ。国際標準規格であり、今後、世界的な普及が期待されている。

対応機種同士をかざして、連絡先を交換することもできる(10月のソフトバンクモバイル新機種発表会にて)

 NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクモバイルの3社では、約1年前の2011年12月、「モバイル非接触ICサービス普及協議会」を設立し、その後、仕様の共通化、運用面でのルールの統一化などを図ってきた。今回、NTTドコモのフロンティアサービス部 金融・コマース事業推進利用促進担当課長の今井 和(やすし)氏、KDDIのサービス企画本部でNFCサービス開発グループ担当部長の阪東 謙一氏、ソフトバンクモバイルのプロダクト・サービス本部モバイルペイメント企画室室長代行の小峰 正裕氏に話を聞いた。

 NFCについては、21日に掲載した本誌によるドコモへのインタビューもご覧いただきたい。同記事では今井氏から、ドコモとしてのNFCに関する考え方が語られている。

細かい部分を決める

左からドコモの今井氏、KDDIの阪東氏、ソフトバンクモバイルの小峰氏

――昨年12月に設立され、ここまで活動してきた協議会について、設立の背景から教えてください。

阪東氏
 世界的には、NFCに関して、10団体ほどのコンソーシアムが設立されていましたが、日本はFeliCaによるサービスが広まっていましたから、2年ほど前の2010年頃の段階ではまだ準備が整っていませんでした。しかし、2012年度になれば各社からNFC対応のスマートフォンが登場するだろう、という見通しになり、協議することになったのです。

――どういった点で協議が必要と考えたのでしょうか。

阪東氏
 おサイフケータイで用いられているFeliCaは、ソニーが開発したもので、細かな仕様までソニーが統一してコントロールしています。繋がりやすさについても、性能検定が用意されていて、この検定をクリアしていれば、どのFeliCa対応機器でも繋がります。

 ところがNFCは、標準化団体のISO(国際標準化機構)やETSI(欧州電気通信標準化機構)で、「SSLで接続する」などの基本的なスペックは決まっているのですが、細かなコマンド、インターフェイス、暗号化といった部分は決まっていません。国際標準というのはそういうもので、細かなところまで策定しては身動きが取りにくくなります。

 しかし、実運用上は、それではまずい。日本でも何も手を打たなければドコモ、au、ソフトバンクが三者三様の仕組みを採用しかねない状況でした。つまり、サービスを提供する事業者にとっては、ドコモ版サービス、au版サービス、ソフトバンク版サービスを作り分けなければいけない可能性があったのです。

――それはサービスの普及を阻害しかねませんね。

阪東氏
 1つ例を挙げましょう。フランスの通信事業者であるオレンジは、世界で初めて、NFC対応サービスを開始しました。ところが、仕様については「NFC対応であればデータを読めるようにしておいて」という形で、端末メーカー任せにしたのです。するとどうなったのか。サムスンがアプリを作って「GALAXY」(サムスンのスマートフォン)ではデータを読み取れるのに、他社のスマートフォンでは読み取れない、といった差異が出てきてしまったのです。

小峰氏
 日本は、キャリアが仕様を決めますので、ドコモはドコモ、auはau、ソフトバンクはソフトバンクときちっと決めます。しかし、キャリアごとにバラバラになる可能性があったのです。

阪東氏
 ですので、仕様の95%くらいは揃えておこうと。我々は競争相手の企業同士ですが、海外の展示会などでよく顔をあわせていましたので、2011年の秋頃から自然発生的に「準備をしていかないと」と話してきました。

――3社が協力して策定した細かな仕様とは、どういったことでしょう。

小峰氏
 たとえば、電子マネーを通信経由でチャージするとき、圏外になったらどうするか、といった運用上の決めごとですね。サービスプラットフォームを作る、キャリアだからこそ分かる点と言いますか。

阪東氏
 SSLでデータを送受信する、というところは、NFCの標準で定められていることですが、そのSSLのセッションを成立させるときにサーバー認証を行うのか、相互認証を行うのか、共通鍵を使うのか……といった細かなところは、本来どれでもいいのですが、日本では統一しましょう、ということです。

――FeliCaのサービスでは、そのあたりをソニーが決めていたということですね。

小峰氏
 はい、その部分をキャリアが担う、ということになります。3社それぞれではなく、仕様を共通化することで、サービス事業者にとっては手間を減らせるということになります。

阪東氏
 FeliCaは仕様が綺麗に定まっていた一方で、価格面で参入しづらいところがありました。リーダーライターも高額で、当初15万円ほどして、今は5万円、3万円程度になってきていますが、全国展開するような大規模なコンビニエンスストア、スーパー、飲食店などの導入に限られています。しかし、Type A/Type Bは、ライセンス料も原則的になく、安価に導入できる見込みで、海外のNFC対応リーダーライターは1万円を切るレベルになってきています。

 FeliCaはスペックが決まっていて、かざせばスムーズに使えるというメリットがある。Type A/Type Bには安価というメリットがある。両方の良いところを活かしていきたいですね。

伸び悩む利用率、生活導線の中での普及を目指す

――おサイフケータイといえば決済のイメージを抱きがちですが、ドコモから案内された決済サービスは海外渡航時の利用を想定したものでした。

阪東氏
 NFCで最も進めたいのは、かざして取得できるクーポン、会員ポイント、ポスターなどです。これはFeliCaではやりきれなかった部分なのです。

今井氏
 そういったNFC対応のクーポン、ポスターなどの仕組みを提供する事業者の育成、拡大は課題の1つです。

小峰氏
 これまでのFeliCaでは、小規模な店舗では導入されませんでした。しかし、そういった店舗の占める割合は圧倒的に多い。紙のスタンプの変わりに、NFC対応のおサイフケータイが利用されるようになれば、1つの成功なんだろうと思います。

阪東氏
 街のお店では、FeliCaは導入するには高額なシステムです。でも、たとえば床屋さんでも紙のスタンプで、10回来店すれば次回は無料、といったサービスを実施しています。あれを全部取り込めなければ、生活に必要とされる携帯電話にはなれません。

中小規模の店舗などで、かざして情報を読み取る使い方の普及を目指す

――なるほど。

阪東氏
 おサイフケータイの利用率はあまり高くありません。auでは14%程度、ドコモさんでも20%程度でしょう。

小峰氏
 ソフトバンクもかつては10数%、iPhoneの登場以降は、ユーザー全体での利用率は落ちてきています。

阪東氏
 キャリアにとって、10%、20%という利用率は十分なものとは言えません。生活に役立つおサイフケータイになるには、アーリーアダプターだけではなく、レイトマジョリティと呼ばれる大多数のユーザー層に使ってもらえるようにしなければいけません。しかし、現状利用できる場所はコンビニなどに限られ、街の床屋さん、クリーニング屋さんでは利用できません。

――かつては「Suicaがおサイフケータイで利用できればキラーアプリになるのでは」と考えていました。

阪東氏
 その通り。我々もそうです。

小峰氏
 しかしSuicaは関東圏だけで、最初は勢いよくユーザー数が伸びたのですが鈍化しました。やはり、それ以外の地域の人、あるいは子供、専業主婦など、幅広い方々に利用できる状況が必要です。

阪東氏
 なぜおサイフケータイが広がらないのか、アンケートで調査してきましたが、多くの答えは「プラスチックカードで十分」でした。ただ、20代、30代の男性のうち5割はおサイフケータイを使うのです。

――私もその1人です。しかし使わない方はなかなか手を出す理由がなく、そのために使える場所を広げる必要がありますね。

小峰氏
 はい。ですから、決済ではなく、クーポンやポイント、メンバーズカードといったところでNFCが利用されるようにしていきたいのです。

今井氏
 スマートポスターなどもそうした用途の1つですね。

阪東氏
 協議会として、過去1年、先述したように細かな仕様を決めてきました。これでインフラ屋としては一段落で、次はサービスの段階です。協議会では2012年9月から一般会員の募集を開始していまして、キャリアだけではなく、さまざまな業界の方とお話して、いろいろと聞いてサービス普及に努めていきたいと思っています。

――かつて、おサイフケータイの立ち上げ期には、ドコモが資金を拠出してリーダーライターの普及に取り組みました。NFCではどういった考え方なのでしょうか。

阪東氏
 NFC対応の決済用リーダーライターを広める必要はないと思っています。これは既にFeliCa対応の設備が整っているからです。それに、現状、各店舗に導入されているリーダーライターの半分程度は、ハードウェアとしてType A/Type Bに対応しており、ソフトウェアを更新すれば利用できるようになります。店頭のリーダーライターは7年〜8年に一度といったペースで置き換わっていきますから、徐々にNFC対応リーダーライターは普及していくと見ています。

 現在は比較的安価なタグとして使える「FeliCa Lite」といった製品が登場していますが、かつてはありませんでしたので、おサイフケータイ対応ポスターを展開したくても、ポスターにリーダーライターが必須で、数万円していたのです。それでは展開できる枚数が限られます。しかし、NFCタグは100円を切る状況です。これもまだちょっと高いと思っていまして、50円、30円と言ったレベルにならなければ、と思います。

――そこまで安価になると、これまでと大きく違いますね。

阪東氏
 見えてくる世界が違いますよね。アイデアもどんどん出てきます。最近では横浜の六角橋商店街というところで、NFCを使ったイベントも行われ、NFCタグを使った対戦ゲームを実施したところ子供に大人気だったそうです。このように、身近になると、何か生まれてくる、可能性が広がると思います。

もしiPhoneがNFCを搭載したら

――「NFCはFeliCaと互換性がある」という話から、NFC対応=おサイフケータイというイメージを抱きがちです。しかし、NFC対応のスマートフォンは、GALAXY NEXUSやGALAXY S II WiMAXなどが登場していますが、おサイフケータイとしては利用できませんでした。これは、おサイフケータイにはFeliCaのセキュリティエレメントが、Type A/Type Bの決済サービスにはType A/Type Bのセキュリティエレメントが必要とされているため、だそうですね。

阪東氏
 NFCには、「カード機能」「P2P機能」「リーダーライター機能」の3つの機能がありますが、GALAXY NEXUSはリーダーライターだけでした。今後については、FeliCaとType A/Type Bの両方が搭載される機種が少なくとも数年間、登場し続けるでしょう。その後については、キャリアごとに考えが違うと思います。ただ、エンドユーザーにとっては利用できればいいのであって、Type A/Bか、FeliCaかはどちらでも良いでしょう。両方搭載される機種であれば問題はないと思います。

 そして、NFC対応機器に、FeliCaを追加的に搭載する自由度は存在するということも重要です。FeliCaが今後ISOの規格としてNFCに含まれるかどうか、という話と、NFC対応機器にFeliCaを追加搭載していいかどうか、という話は別物です。

――では、仮にiPhoneでNFCが搭載されるとして、それが日本でもおサイフケータイとして利用できるのか、という点は気になるところです。

阪東氏
 アップルは、キャリアに対して自社製品の戦略を開示していませんので、iPhoneについてはわかりません。個人的な考えとしては、もし、仮にiPhoneにNFCが搭載されれば、スマートポスター、クーポンの配布などが幅広く利用されるのではないかと期待しています。ただ、決済のようなセキュアなサービスについて、誰が運用して管理するか、アップルの考え方次第でしょう。FeliCaがソニーの開発した技術、というのも1つのポイントかもしれません。

 万が一、おサイフケータイを紛失すると、NFCではSIMカードを通じてコントロールする、というのがGSMA(携帯電話事業者の国際団体)の基本的な考え方です。一方、ロングテールで広がるような、街のお店でのクーポンなどは、キャリア管理というわけではないでしょう。

TSMとは

――これまでフェリカネットワークスが、FeliCaチップ上の領域を管理するという役割を担ってきましたが、NFCではその役割である「TSM」(Trusted Service Manager)をキャリアが担当するそうですね。エリクソンやジェムアルト、凸版印刷、大日本印刷といった事業者もTSMとしての機能を提供できるそうですが。

阪東氏
 実はNFCでは、キャリアが担当する「MNO-TSM」と、サービス事業者の「SP-TSM」が存在しています。NFCで決済サービスを提供したい場合はSP-TSMとやり取りすることになります。そしてSP-TSMに対して、MNO-TSMは、NFC対応端末のセキュアエレメント(決済系アプリのデータなどを格納する安全なメモリ領域)へのアクセス権限をコントロールする形になります。いわば、SP-TSMは、MNO-TSMにぶらさがる形になるわけです。キャリア自身がTSMの役割を担うことになりましたが、社内にそうした部署を設けるところもあれば、外部の事業者に委託するケースもあります。どちらも合理性を踏まえて実施する可能性があります。実際にauも今年1月からTSMの機能を用意していますが、自前ではありません。

阪東氏が示したMNO-TSMとSP-TSMの関係図

――MNO-TSM、SP-TSMという仕組みはNFCの標準という形なのですか。

阪東氏
 GSMAの「グローバルプラットフォーム」(GlobalPlatform 、GP)と呼ばれる仕組みです。これが基礎的な概念になるのですが、国によっては、携帯電話事業者がMNO-TSMとSP-TSMの両方を兼ねるケースがあると思います。しかし日本は既に8年ほど、おサイフケータイが提供されており、参画する事業者の数が他国より段違いに多く、複数のSP-TSMが存在しています。大多数の国は、ここまでではありません。

小峰氏
 たとえばシンガポール、米国、フランスは、MNO-TSMとSP-TSMが1つにまとまっている、という形ですね。

阪東氏
 全てのサービスがTSMを介して、セキュアエレメントを用いるかといえば、そうではありません。たとえば、飲食店で5%引き、といった広く配布されるようなクーポンは、友人同士で渡してもいいもの、コピーされてもいいものであって、セキュアエレメントは関係ありません。ギフトカードなど高額なものは、セキュアエレメントを使うといった形になるでしょう。

 これからのトレンドとしては、大手のクレジットブランドはNFC対応サービスを用意してくるのではないでしょうか。10年程度の長いスパンで見れば、NFCは黙っていてもサービスが揃う状況でしょう。

――TypeA/B対応サービスをどう展開するか、JR東日本のSuicaなど、既存のおサイフケータイ対応サービスの事業者はいろいろ考えそうです。

阪東氏
 乗車券については、ざっくりと、欧州式とアジア式と、2つの潮流があると思います。米国はまだ決まっていませんが、欧州式になりそうな気配です。航空券の分野では、国際団体のIATA(国際航空運送協会)がType A/Bを採用する方針を示していますが、航空機は国をまたがって利用するサービスであるのに対して、たとえば日本の鉄道は他国と相互接続しているわけではありません。

――航空券と鉄道乗車券だけでも、状況の違いがありますね。

阪東氏
 乗車券に限らず、日本や韓国は、他国より非接触サービスが広まっていて、ガラパゴスにならざるをえないのではないかと思っています。

「海外はまだ気付いていない」

――米国でISIS(米国キャリア主導の決済サービス)が進められたり、グーグルの「Google Wallet」が登場したりするなど、積極的な状況に見えます。NFCによって日本のおサイフケータイが海外へ進出、といった考え方はどう思われますか?

阪東氏
 海外との連携は、ユーザーのメリットの1つです。しかしおサイフケータイそのものを輸出、というわけではありません。もっとも、体力のある事業者がビジネスモデルの輸出やコンサルティングを手がければ、思うことはあります。

小峰氏
 海外でNFCが進められていますが、結局は日本が“抜き去る”のではないかと思っています。過去のおサイフケータイのノウハウ、そしてユーザーの経験値の違いですね。NFCでも日本が世界を引っ張っていくのではないかと思います。

阪東氏
 欧州の事業者に話を聞くと、彼らは「交通系とクレジットが揃えば大丈夫」と思っています。しかし、それでは利用率が10数%で頭打ちする。日本はおサイフケータイでその傾向を学んだわけですが、3年〜5年後に欧州もそうしたことに気付くでしょう。

――そうした「海外がまだ気付いていない部分」は、ほかにあるのでしょうか。

阪東氏
 NFCには、バッテリーオフモードが用意されています。これはスマートフォンのバッテリーが尽きた状態でも、NFCのカードとして利用できるようにする、という仕様です。しかし我々からすると、「端末紛失時にも使えてしまう」と考える機能で、おサイフケータイでは、紛失時にキャリアへ連絡いただければ、遠隔操作で電源をオフにして使えないようにしています。しかし欧州の事業者からすると、バッテリーがなくなっても使えたほうが便利と考えているようです。そのあたりはまだ気付いていないのかなと。

 ただ韓国の勢いは凄いです。NFCだけで見ると、使える場所では日本は追い抜かれているかもしれません。ちなみに「ここにかざして」というシンボルマークは、韓国は林立していて、場所は広がっていてもユーザーにとってはわかりにくい状況です。ただし彼らは変えるときは一気に変えます。日本や韓国といった東アジアがNFCの世界をリードするのではないでしょうか。

――なるほど。今日はありがとうございました。




(関口 聖)

2012/11/28 13:52