インタビュー

「Syn.」が取り組むネットとスマホの新たな世界

ヤフー、Facebookを経たKDDI森岡氏が語る、日本のネットの未来像

 16日、12社が参画する「Syn.」(シンドット)構想が発表された(※本誌記事)。第1弾である「Syn.menu」(シンドット メニュー)では、これまでバラバラに動いてきたニュース、カレンダー、ファッション、ナビなど、各社サービスに共通のサイドメニューが導入され、ユーザーはスムーズに各社のサービスを利用できるようになる。事業者にとっては互いのユーザーを送りあう形で、12社の抱えるユーザー約4100万人(延べ人数)に向けて、より便利なサービスの実現を目指す。

KDDIの森岡氏。多くの実績を残し1年前にKDDIへ移籍したキーパーソンだ

 「Syn.」構想を発案し、各社を口説いてリードしてきたのがKDDIで、そのなかでプロジェクトを進めていたのが森岡康一氏だ。ヤフー、そしてFacebookで実績を挙げ、約1年前の2013年10月、KDDIに移籍した森岡氏は、KDDIという通信キャリアの大きな力で「Syn.」構想を現実のものにする一方で、「KDDIという存在を使って、ネットを面白くしたい」と笑う。KDDIと関係が深いネット企業が多く参画するように見える一方で、オープン性をアピールする「Syn.」構想はいったいどんなものなのか。森岡氏の言葉を紹介しよう。

スマホの時代、新たな取り組みを

 ヤフーで9年、Facebookで3年半、自分のなかで、スマートフォンの時代で新しい世界観というものを漠然と描いていました。そこへ田中孝司社長や高橋誠専務に誘われたんです。

 KDDIでは、「auスマートパス」「au Wallet」といった垂直統合型サービスを提供していますが、その一方で、これからを見据えるとユーザーとの接点を強化する必要があり、さらに言えばもっと新しい取り組みができるんじゃないか、そこにチャレンジしないかと。Facebookでの経験を通じて、日本の通信キャリアの力は本当に実感していましたので、2013年10月にKDDIに入りました。

 何をやっていくか検討を重ねて、今年1月から「Syn.」構想のプロジェクトをスタートしたわけです。田中社長にはサービス同士を繋げていく、と言い続けていたのですが、その時のイメージは「脳細胞のシナプス」でした。そこで社内では“プロジェクトシナプス”と呼ぶことになったのです。“Syn”というのはそこから出てきたワードで、さらにシンフォニー、シンジケートといった言葉も“Syn”から始まります。この構想のイメージに当てはまるな、ということで「Syn.」と名付けました。

KDDIはあくまで支援者

 KDDIは発案者です。でも、一歩引いた形で、支援者としてやっていきたい。このSyn.構想は、オープンなインターネットにおいて、キャリアを問わずにやっていきたいのです。ユーザーからすると、キャリア色を極力見せないようにしたい。

 個人的には「Syn.」は“いちご大福”だと思っています。いちごと大福、別々のモノが1つになると、全く別の価値あるものになるというイメージです。まずはサイドメニューで互いのサービスに回遊できる、という形で、アプリとしてスタンドアロンだったものが一緒になっていく、という枠組にしていく。当初は利用中のサービスを切り替えるだけですが、将来的には機能を連携させる方向で進めています。

 この構想はオープン化していくものです。他社のなかには、自社ブランドの経済圏を広げていく形もありますが、そうした仕組みとのアンチテーゼでありたい。“餅は餅屋”を追求したい。本当に美味しい餅屋が集まって、互いに手を取り合っている。そういうインターフェイスなんです。

 たとえば「auスマートパス」はauユーザーならおトク、という形です。でもSyn.はキャリア色をあまり出さず、インターネットの在り方を追求したい。

 最初は12社が参画する形で、今後はオープンな形にしていきます。つまりユーザーが好む形でカスタマイズできるようにする。ただし、どのアプリでも好きに「Syn.menu」に追加できるかというと、そうではなくて、コンテンツはある程度、厳選する形になります。その審査っはまだこれからですが、KDDIが指揮をして命令するのではなく、Syn.alliance内の協議会で進めていく形です。こうした思想は、参画企業全てで共有できています。

ある程度、認知されてから

オープン化の時期は、ある程度、業界標準のように認知されてからだと思っています。そうでなければ混乱を招きかねません。

 まずは使われるサービスにしていくということが当面の目標です。

「構造を変えたい」

 ちょっと過激な言い方かもしれないけれど、今の日本のスタートアップ(サービス開始から間もない企業)は、小粒なまま終わってしまっているのでないでしょうか。ある程度の出資、ちょっとした買収で満足しているのではないか。資金調達するとその大半をプロモーションに投入してプロダクトが進化しないことがあるような気がしています。

 でも、そうしたスタートアップが開発に集中するためには、ある程度、トラフィックを確保できる場所が必要でしょう。「Syn.」という相互補完の仕組みを入れることで、プロダクトをもっと進化させたい。そうしてプロダクトを研ぎ澄ませていかないと海外には勝てない。

 Facebookでの経験を通じて、海外の凄さをイヤというほど思い知らされ、正直悔しい想いをしました。日本だってすごいプロダクトは多く、技術力は高い。でも構造の面で(そうしたプロダクト、スタートアップを)発展させていないのではないか。その構造に「Syn.」で一石を投じられるのであればやってみたい、やるべきだと。

サイドメニューの効果は?

 サイドメニューで回遊させるという仕組みは、これまでのテストでは効果あり、と判断しています。ユーザーの2/3がサイドメニューを使っていただいています。海外の動向を見ても、サイドメニューを実装するケースは増えているようです。そして、サイドメニューを使うユーザーの1/3が確実に相互送客の層になります。新着通知(Syn.notification)があると10〜20%、効果があがります。

 約4100万という延べユーザー数が実際にどう利用されるかはわかりません。ただし、先述した利用動向は保守的に見た数値です。サービス開始後、一定期間を経て、実際どれくらいの効果があったか発表していきたいですね。もちろん、日々使うようなカレンダーやニュースのようなサービスと、そうではないサービスで利用動向は多少異なります。

 サイドメニューは縦長ですが、ユーザーとしては何かあると縦スクロールをとりあえずする、という習慣が根付いているようです。成功の可能性は高いと思っています。

大手企業が出稿する広告枠に

 Syn.menuには、大型の広告枠としてSyn.adを用意します。各社はそれぞれのサービスでこれまで通り収益をあげつつ、Syn.adで得られた収益をページビュー(PV)に応じてレベニューシェアします。

 今のアドテクノロジーでは、運用型広告(予算に応じて広告枠をリアルタイムに確保し、広告を“運用する”枠)が進化し過ぎて、いわゆる予約型広告(広告を表示する時刻などをあらかじめ指定する枠)が下降傾向にあります。個人的にはいわゆるナショナルクライアントにとっては運用型よりも予約型広告のほうが出稿しやすいと思っています。多少のターゲティングはしていければいいと思っていますが、Syn.adは画期的な広告スペースになると思っています。

ホームアプリにするのは難しい

 Syn.menuは、それぞれのアプリ、Webサイトに導入されています。ホームアプリではありません。ホームアプリとして提供して、デファクト(スタンダード、業界標準)になるのは無理だと思っています。Facebookもホームアプリを提供しましたが成功しなかった。他にも大手でうまくいかなかったケースはたくさんあります。

グノシーとはタイミングが合わなかっただけ

 (ニュースカテゴリーはA3社提供の報道ヘッドラインで、KDDIが出資するグノシーではないことについて)グノシーへの出資は2013年12月でした。私がSyn.構想をKDDI社内で進め始めたのが2014年1月。ちょっとスタートが違ったのですね。彼らは彼らでオープンなプラットフォームを検討していたようで、チャレンジをしたいと。

 KDDIとしてはその考えを尊重しよう、ということで、今回の形になりました。ただ、グノシー側も「Syn.」構想を否定しているわけではありません。

第2、第3の構想も

 Syn.menuといった今回発表の内容は構想の第1弾です。つまり第2、第3の構想があります。まだ詳しくはお話できませんが、1つはサービスのオープン化であり、もう1つがユーザーから得た情報を元にサービスに反映させていくDMP(Data Management Platform)です。

 DMPでどういったデータを扱うかというと、まだ何も決まっていません。たとえば個人情報については、ユーザーからきちんと同意を得られなければなりませんし、センシティブなところです。(信頼性があり、安心感のある)キャリアグレードを意識しながら、慎重に進めて、まずできる範囲を考えていきます。この部分は今後のインターネットの課題の1つでしょう。

 ただし、現状でできる範囲だけでも、cookieデータの受け渡しは可能で、コンテンツのインテグレーション(統合)はできるでしょう。これまでDMPは広告で利用されることが多かったのですが、Syn.ではサービスにフィードバックさせたいと考えています。

 もう少し言うと、サーチ、検索サービスをしていきたいですね。現在の検索サービスよりももうすこしインテリジェンスなもので、単なるWebサービスではなく、アライアンス内で循環して見つけ出していくイメージでしょうか。

リアルとの連携はIoTを意識、海外はいずれ

 大前提として、「Syn.」構想は、“スマートフォンインターネット”を中心にオフラインと繋がっていくことを考えています。ようは、IoT(モノのインターネット)を意識したい。まだ言えない部分もありますが、いわゆるO2O(ネットからオフライン)は繋げていきたいと思っています。IoTの時代がどうなるか次第というところですね。そのあたりでいくつかチャレンジをしたいですね。

オープンなインターネットに横の繋がりで相乗効果の創出を

16日の発表会では、いちご大福が配られた

 さて、ここまで、森岡氏へのインタビューで得られた言葉を紹介してきた。構想の裏にある考え方や理念、収益の在り方を含めたネット企業の発展への貢献など、KDDIの力で構想を具現化しつつ、auに囲い込むのではなく、日本のインターネット産業に資する形を目指す、という森岡氏の理念と、それに基づく「Syn.」構想のサービスはどう受け止められ、どのように利用されるのか。

 現時点では参画する企業が限られること、それもKDDIと繋がりの深い企業が多いことから、「KDDIをリーダーに据えた連合であり、囲い込みの要素が強い」と見る向きがあるかもしれない。ただ、インタビューで森岡氏はそうした視点が出てくることは仕方ない、としつつも、明快に否定。既にauユーザー向けサービスは存在しており、その一方での取り組みもまた重要である、ということからスタートした「Syn.」構想。実際にこれからのサービスの使い勝手、あるいは今後登場する第2、第3のアイデアの動向で明らかになるところもあるはずだ。

 森岡氏は今回の取り組みを、冗談交じりでもあったのか、“いちご大福作戦”とも呼んでいた。多くのユーザーにとってスマートフォン、そしてインターネットがさらに便利に感じられるようになるのか、そしてどのような付加価値が生まれるのか、今後に注目したい。

(関口 聖)