総務省でSIMロックに関する公開ヒアリング

内藤副大臣は3.5Gからの導入に意欲


 2日、総務省で「携帯電話端末のSIMロックの在り方に関する公開ヒアリング」が開催された。政府からは総務副大臣の内藤正光氏が出席したほか、国内携帯各キャリアやMVNO、メーカー団体、消費者団体の代表が出席し、「携帯電話のSIMロック」に関して意見を述べた。

 携帯電話のSIMロックとは、携帯電話に他社のSIMカードを装着しても利用できないようにしている仕組みのこと。国内では、NTTドコモ、ソフトバンクモバイル、イー・モバイルが、異なる周波数ながら同じ通信方式を採用しているが、たとえば現在はソフトバンク向けの携帯電話にドコモのFOMAカード(SIMカード)を装着しても使えない。しかしSIMロックが解除されれば、S!アプリなどは使えないが、通話やSMSなどをドコモ回線で使える、ということになる。

 今回のヒアリングは、SIMロックの解除について、関係各者に意見を聞くもの。会議冒頭、内藤副大臣は「2008年のモバイルビジネス研究会で『2010年に結論を得る』となっていた。論点は尽きていると思うし、SIMロック解除について政務三役として判断しなきゃいけない。つぶさに聞いて、最終的な判断をしなきゃいけない」と述べた。会合では、全キャリアがそれぞれの事情に応じた説明を行ったものの、「ユーザーの意向に応じる」とした。ただ、今回の会合は1時間半程度となり、関係者が発言できた時間は限られたものとなっていた。

内藤副大臣、「3.5Gから導入」ガイドライン制定に意欲示す

挨拶する内藤副大臣

 公開ヒアリング終了後、内藤副大臣は報道陣に対して、「ユーザーからの求めがあればSIMロックを解除する、という点で合意できた。早急にガイドラインを策定したい」と述べ、SIMロックを解除する制度作りに向け、まずは民間での取り組みを促進するガイドライン策定に取り組む一方、それが進まなければ法制化することも示唆した。

 同氏は「ユーザーが恩恵を得られる形でガイドラインを作っていきたい。ユーザーの求めに応じてSIMロックを解除してくださいと(いうことになった)。いろいろ検討するところはある。欧米では、6カ月間経つと、ユーザーが不利益を被ることを承知の上で、要望があれば解除している。6カ月か1年か、囲い込みの期間をどう設定するか、議論はあるだろう。3.5世代の導入を視野に入れてガイドラインを策定したいが、今日会議が終わったばかりなので、いつ公開できるか、まだ詰めていない」とした。

 ガイドラインなので強制できないのでは? という問いに対して「A社は積極的、B社は応じない、というのでは意味がない。全ての事業者が等しくSIMロックフリー端末を提供するというか、使っていただけるようにもっていかないといけない」と語った。

 auのみ通信規格が異なる点については、「LTEになっても現行方式を踏襲するとのことだが、ガイドライン策定時に細かな部分を詰めていく必要がある。また、イー・モバイルはデータ通信が主体で、他の事業者と同じように考えられるかといえばそうではない。今日の段階では“ユーザーが求めるならばSIMロック解除に応じる”と言う点で一定の合意を得られたと思う。1つの出発点として、詳細の設計に入りたい」とした。

 端末発売から一定期間はロックあり、その後、ユーザーからの要望にあわせてロックを解除する、という形になるようなガイドラインになり、一定の囲い込み期間を認めるべきという見解も示された。

 公開ヒアリングの最中には、ドコモから「今後、スマートフォンと一般的な携帯電話が融合する可能性がある」と指摘されたことを踏まえ、内藤副大臣は「そのあたりを踏まえて、対象とすべき機種、範囲を考えていきたい。総務省として今後発売される端末は、原則SIMロックを解除できるようにすべきという立場を取るべきと思う。現行機種、発売されている機種、開発中の機種については、技術的に可能かどうかわからないため、今後メーカーなどに確認したい。また販売にかかるビジネスモデルを勘案して決めなければいけない。発売済み機種は軽々と決められない。細かな点は今後設計する」と述べた。

 「法制化するかどうか、2010年に決めなければいけないが、民間でやっていただけるのであれば、それに期待したい。それで進まないのであれば、今回の合意を進めるために、何らかの手段を取る必要があるかもしれない。自主的な取り組みに期待したい」と語った。ガイドラインの制定はできるだけ早急にしたいとしたが、参議院選挙前に行うかどうかは明言を避けた。「誰がガイドラインを作るのか」という点は、学識経験者を交えるのか、総務省内部で行うのか、今後の課題とした。

ドコモ「ユーザーの意向に従う」

 NTTドコモ取締役常務執行役員 経営企画部長の加藤薫氏は、分離プラン導入後、奨励金を支出する端末は全体の5%程度であること、「iPad」などの登場で新たなニーズが顕在化しつつあることを指摘し、基本的には「ユーザーの意向に従う」とした。希望を受ければ、一定期間でSIMロックを解除するものの、利便性に影響を与える点があることなどを考慮すべきとした。あくまでも事業社間の自主的な取り組みで進めるべきとして、ガイドラインの策定を求めた。

 課題としては、故障時における対応として、現在キャリアショップでは他社への取り次ぎがないことを指摘。また端末不具合を修正する無線経由のソフトウェアアップデートの仕組みが各社異なること、盗難にあった端末の不正利用を規制する仕組みが必要なことなどを挙げた。

KDDI「大きなメリットが生まれる状況ではない」

 KDDI執行役員渉外・マーケティング統括本部 渉外・広報本部長の長尾 毅氏は、auのみ通信規格が異なること、LTE時代になっても音声通話では現行方式を当面使うことから、SIMロック解除がユーザーに与えるメリットは少ないと指摘した。

 日本での競争状況や海外の動向を示したほか、今後については「一定方式に対応できるような端末を開発するとSIMロックフリーが実現できるのではないか。アップルやグーグルの動きを見ていても、そうなっていくのではないか」としつつ、現在の環境ではユーザーメリットが薄いとした。

ソフトバンク松本氏「事実関係が共有されていないことに危惧」

 ソフトバンクモバイル取締役副社長の松本徹三氏は、「何かを主張するわけではないが、事実関係が共有されていないことを危惧している」と述べ、説明を開始した。

 SIMロックフリーが多かった欧米でも、最近ではSIMロック対応機種が増えてきたこと。国内市場とメーカーの国際競争力の関連が薄いことなどを説明し、世界中でロックを強化しようとするなか、日本は解除が議論されているとした。ただし、ユーザーからの求めがあれば、SIMロックフリー端末へSIMカードを提供することには積極的に賛成する意向も示した。

イー・モバイル阿部氏「新基軸のデバイスを創出する政策を」

 イー・モバイルの阿部 基成氏は、現在の市場において、データ通信や音声端末というくくりではなく、iPadのような新たなデバイスが登場してきたとして、「ノンPCデバイスという市場を制度面を含め立ち上げる努力をやってみてもいいのではないか」と語り、政府としても新基軸のデバイスを促進する、新市場の創出を図る政策を求めた。

 SIMロック関連では、電話やEメール(パソコン向けメールと同等の機能のこと)などを基本的な機能として、相互接続制を担保することを提案した。またメーカーにとって負担が大きいであろう接続試験などについては、簡易的なテストを各キャリアが用意することとしたほか、「みんなが使える周波数を」と述べ、キャリアの垣根を超えた周波数の利用を行うよう提案した。

日本通信、「iモードもプラットフォームとして切り離すべき」

 日本通信の福田尚久氏は、販売奨励金が携帯電話市場の普及期に一定の役割を果たしたことを評価しつつ、現状では、販売奨励金のために端末価格や通信料が高止まりしている可能性を指摘した。

 同氏は「日本は、世界で初めて携帯電話網が開放された国。海外の動向よりも、日本がリーダーシップをとってやっていくべき」とした。

 またiモードに代表される携帯コンテンツについては、「1つのプラットフォームを見たとき、世界レベルでシェア競争になるのではないか。Androidは広く取りに来ている。さまざまな開発者が世界に出ていくことが起き始めている。端末とコンテンツプラットフォームを切断するのはきわめて重要ではないか」と述べた。

メーカー代表、「慎重な対応をお願いしたい」

 端末メーカーを代表する立場として、情報通信ネットワーク産業協会(CIAJ)の代表から説明が行われた。メーカーとしては、現在の国内携帯電話市場について、高度かつ多彩なサービスがあり、より安価でコンパクト、安定した端末が求められている。その一方でオープン化の萌芽が見られる」とした。

 現時点でSIMロック解除を行っても、通話やSMSに限定されるなど、利便性向上に繋がるのは難しく、市場では単機能端末が望まれておらず、アンケート調査を行ってもそういった機種を求めるのは10%以下とした。

 LTE時代になっても、しばらくは現行方式と併用する形になることなども指摘し、SIMロック解除はデメリットが大きいとしたほか、全キャリアの全機能に対応するのは天文学的な開発コストがかかるとし、「慎重な対応をお願いしたい」とした。ただ、スマートフォン端末など多様なニーズに応えることがメーカーの責務として、オープンなプラットフォームの端末の開発も自由に行なえる環境を求めた。

国内外の端末とオープン端末の比較ユーザーニーズに応える商品作りを第一義とした

東京都地婦連「SIMロック解除は実現すべき」

 東京都地域婦人団体連盟(東京都地婦連)事務局次長の長田三紀氏は、「解約しても端末代金の残債がある」「キャリアを変えると端末を買い替える必要がある」ことなどを理由にSIMロック解除を求めた。

 ただし、コンテンツ利用において端末固有IDを用いていることから、キャリア乗り換え後に不便にならないような措置が必要としながらも、IDの統一はプライバシー面でのリスクがあると指摘。総務省で開催されている各種会合で、技術仕様などを検討しているとの話を受けて、そういった会合を通じて解決されることを求めた。またSIMロック解除後の責任分担を明確にすることも指摘した。

東京都地婦連が指摘した課題故障時などで責任を明確にすることを求めた

 



(関口 聖)

2010/4/2 22:11