HONEY BEE 3 橋本 保編

 今年の「俺のケータイ of the Year」はどの機種にするか、正直に言って迷った。見方を変えると、「欲しい機種がない」と消費者には映っていたのではないかと思う。そうした中、11月に発売されたウィルコムの「HONEY BEE 3」のグリーンが私の琴線に触れた。理由は、1点。こんな色のケータイが欲しかったのだ。不惑の年を過ぎてしばらく経つが、こういう派手なガジェットにはどうも惹かれてしまう。ラテンなスポーツカーならビビットカラー、ダークスーツを着ていてもシャツ+ネクタイは派手めが好き、こんなノリと似ているかもしれない。とにかくたまらなく好きなのだ。

 HONEY BEE 3は、すでにケータイを持っている人に向けた2台目の機種として企画されたもので、メインのターゲットは女子高生&大学生。これまでもマルチカラーのケータイは何種類か発売されてきたが、HONEY BEE 3のような蛍光色のものはなかったはず。京セラの企画担当者によると、HONEY BEE 3は、他の色も蛍光色として企画したのだとか。なかでもグリーンは最も発色が良く、HONEY BEE 3らしさが良く出ている。この蛍光色は、樹脂に塗料を練り込むことで実現したそうで、同社のデザイナーは、整髪剤の容器などをモチーフにしながら色を検討し、“雑貨感”を出したかったそうだ。

 こういってしまっては元も子もないのだが、多くのケータイは、樹脂を塗装して仕上げているので、素材そのものの質感を追求していくには限界がある。そこを逆手に取ってキッチュに仕上げているのは、とても理に適っている。こうした商品企画ができるのは、女子高生&大学生の2台目狙いと、ターゲットがはっきりしていたからだろう。このような万人狙いでない商品企画は、ケータイが売れなくなっている時代だからこそ求められてくるはず。HONEY BEE 3は、そんなことを気づかせてくれた機種なのだ。

 上記のとおり、見た目だけで選ぶ意義があると思っていたHONEY BEE 3だが、実際に使ってみると、やはり俺のケータイ of the Yearに相応しいと確信するようになった。そのひとつが、超広角レンズを採用したインカメラを備えていることだ。京セラの企画担当者によると、インカメラのレンズは、超広角レンズと言われる14~22mmの範囲内(35mmフィルム換算)のものを採用したという。右写真は片手で構えて撮った写真で、2~3人が収まる画角を実現している。これは自分撮り、それも誰かとの自分撮りを意識しているからで、これも女子高生&大学生のカメラの利用シーンを、しっかり掴んでいると思う。

 さらに秀逸なのは、最初からインカメラが起動するように初期設定されていること。多くのケータイがアウトカメラにハイスペックなカメラを搭載しているため、出荷時の設定は、アウトカメラになっている。が、ブログなどに投稿されている写真、とくにアメブロ(アメーバブログ)の有名人、そのノリで投稿をしている若い女性たちのブログを見ていると、「ここに行きました!」「誰々とお食事しました」と自分の写った写真を見つけることが多い。私は、ブログに私生活を晒す趣味はないので関係ないのだが、それでもインカメラを超広角にし、さらに初期設定でインカメラを起動させることは、ケータイのカメラならでは心配りだとうなずかされる。ケータイのカメラはデジカメとは違った用途で使われるので、何を撮るかが商品企画では肝要だ。この話は昨年も書いたので繰り返さないが、いま店頭に並んでいるカメラを売りにしたモデルは、そういうことを第一義に考えているのだろうか、と首を傾げることが少なくない。HONEY BEE 3は、こうした風潮に対するアンチテーゼになっていて興味深い。

 ちなみに、このインカメラの超広角レンズは、きっと“日本初”や“世界初”を謳えるスペックだろう。けれど京セラの企画担当者は、そんなことは調べていないそうだ。それはスペック競争をしているわけではないからで、それを調べてもあまり意味がないためだからだろう。いまユーザーから求められているのは、こんな気構えのもの作りではないか。1年の締めくくりなので、あえて言っておきたい。

 もうひとつ触れておきたいのが、初期設定でTwitterがブックマークされていること。これはウィルコムの商品企画担当の強い要望で実現した機能で、現在Twitterは女子高生&大学生に浸透していると言いにくいが、今後はこうした緩いつながりを楽しむコミュニケーションは彼女たちにも受けると睨んで備えたという。

 ウィルコムからすれば、月額2900円で070同士の通話を24時間使い放題にしているうえ、メールも使い放題になっているので少しでもARPUを上げる目的もあるだろうが、ユーザーのニーズに敏感であることは間違いない。では、いま店頭に並んでいる最新モデルで、Twitterがデフォルト設定されている機種がいくつあるだろうか? Twitterは、ヒット商品番付にもランキングされるほど大流行中のサービスなのに、なぜ簡単に使える機種が少ないのだろうか。その根っこには、前述したようなユーザー不在のもの作りの姿勢があるのではないか。別の角度から見ると、やはりケータイは、スタンドアロンで使うものではなく、ネットワークやサービスを活用できるものが求められているはず。このあたりがなおざりになっているのだろう。いま一度、ケータイユーザーは、ネットワークやサービスを使うために月々の利用料を支払っていることを、キャリアそしてメーカーの方々は考えていただきたい。HONEY BEE 3を使っていて、そんなことを改めて感じた。

 ただ、ひとつだけ気に入らない点を挙げておくならば、HONEY BEE 3がW-SIMに対応していないことだ。これは他の京セラ製モデルにも同様。ウィルコムからはたくさんではないもののユニークな機種が出てくるので、これを気分に合わせて使い分けたい。それを可能にするW-SIMに対応していないのは、とても残念だ。ぜひ、見直していただきたい。

 最後になるが、いまウィルコムは、契約者数の純減が続き、苦しい状況に置かれている。が、女子高・大学生、母と子をコアターゲットと再定義し、その周辺の利用者を獲得する戦略は、HONEY BEE 3のようなもの作りをしていれば、確実に成果が出てくるだろう。「HYBRID W-ZERO3」があることなども考えると、2010年は、再びウィルコムに注目が集まると私は思っている。ウィルコムの健闘を祈りたい。

 


2009/12/25/ 11:54