【英国大使館主催ビジネスフォーラム】

Ustwoのエアハート氏が解説するデザイン開発とマーケティング


Ustwo ビジネス・ディベロップメント・ダイレクターのジュリアン・エアハート氏

 駐日英国大使館は、「英国スマートフォン&ソーシャルメディア ビジネスフォーラム ―英国版シリコンバレーへの投資機会―」と題した講演イベントを開催した。

 講演では、Ustwo ビジネス・ディベロップメント・ダイレクターのジュリアン・エアハート氏が「どうユーザーを取り組むか ―新プラットフォーム上のデザインから始まるイノベーション―」をテーマに、デザイン開発やアプリケーションを事例とともに紹介した。

 Ustwoはデジタル・デザインスタジオとしてさまざまな大企業の製品のユーザー・インターフェース(UI)などを開発している。本誌読者の身近なところでは、ソニー・エリクソン製スマートフォンのUIのほか、日本を含むソニー製テレビの画面デザインや、H&Mのオンライン展開、モバゲー、証券会社のエンドユーザー向けインターフェースなども手がけている。エアハート氏は、「金融から学び、ファッションに適用することもできる」と、さまざまな分野にまたがって活動するメリットを紹介。Ustwoの社員数は100人弱と比較的小規模ながら、インタラクションデザイナー、ビジュアルデザイナー、モーションデザイナー、デベロッパーなどさまざまな分野に人員を割いており、「すべての工程に関わるのが重要と考えている」と同社のポリシーを説明した。また、18カ国の国籍の人間が社内にいるとのことで、「国際的な才能を求めている」とした。

 その同社はロンドン郊外のベンチャー企業の集積地「Tech City」に移動してきたとのことで、「デザイナー、音楽家、今はIT企業などが多く集まっている。シリコンバレーとは全く違い、住んでいる場所から歩いて10分で職場につく。バーもクラブもひとつの場所に集まっている。(職場が)その真ん中に位置していることが重要」と、さまざまな分野の企業が集まるTech Cityならではの魅力を語った。

糖尿病患者が手元で情報を把握する端末もiPhoneライクなUIが求められる時代に

 同氏からは、インテルのMeeGoやソニー・エリクソンのスマートフォンのUI、バージン・メディアなどを手がけてきた実績が紹介され、「(iPhoneが登場した)2007年に世界が変わった。iPhoneでみんなの基準が変わってしまった。医療機器でiPhoneのようなものを作りたいという声がかかり、フォードもiPhoneのような……と言い出した(笑)」と会場の笑いを誘う。しかしどちらも実際のプロジェクトで、糖尿病患者が手元で情報を把握し、インスリンの注射や遠隔医療が受けられる端末のUIや、フォードの車内の画面UIを手がけた様子が紹介された。

 同氏が「大きなプロジェクト」と紹介したのは、英国の4つの放送局が協力して映像配信を行うという「Youview」というプロジェクト。同氏は、同種のサービスともいえる「Google TV」の取り組みを「私の母はキーボードを使えない」と笑いの種にしながら、「どうやったら操作できるかというのは、ユーザー体験という意味では重要。来年を楽しみにしていてほしい。モバイルとリンクして、テレビにつながる」と語った。

 「モバイル向け、タブレット向けという設計ではなく、良いユーザー体験を提供するだけ。プラットフォームだけを見るのではなく、上から下まで見通すことが重要」と語るエアハート氏は、自らを「マーケティングが嫌いな人」と説明する。同氏によれば、「ひどい映画は、10分もみれば分かる。ひどい車もそう。(これまでの)広告がやってきたのは嘘(でも良くみせること)」とのことで、SNSが発展した今では、「それが今ではできなくなった。企業はよりよい製品を作るしかない」と、コンテンツの質に、より注力すべきとする。

 そうした“中身”に注力した事例として、同社が開発を手がけた「H&M」のアプリを挙げる。iPhone版で400万ダウンロード、Android版でも100万ダウンロードに上っているとのことで、「広告は出していないが、関連ジャンルのトップ500位に入った。これはすごいこと」と評価。一方、「モーションデザインは重要で、広告業界はソフトウェアを作り込むところまで到達していない」と指摘。ユーザー体験の向上には、成熟したアプリ開発が求められるとした。

 同氏からはまた、新しいデジタルエンターテイメントを開発する部隊が重要とも解説され、ゲームや、知育コンテンツとしてのインタラクティブな電子書籍の絵本など、同社が企画し開発したさまざまなアプリが紹介された。これらの中にはアプリケーションストアのランキングで1位になったものもあり、「小さい会社でも大きな規模の配信にできる」と、コンテンツの質に注力している様子を示した。

 これらのゲームなどコラボレーションコンテンツでは、Tech Cityの優位性も活かされているとのこと。「ビルの上の階に行って、コラボしようと持ちかけ、契約もすぐに行える。車で50分運転してやっと隣の会社の敷地、ということはない」と、シリコンバレーとは異なり密集している利点についても言及した。

 エアハート氏は、クライアントとともに取り組む基本的な姿勢について、「私たちは、クライアントではなく、その先のエンドユーザーに向けてデザインする。エンドユーザーが何を望んでいるのか、知る必要がある。マーケティング会社は統計を持っているだろうが、(エンドユーザーと)話さないと分からない」と、現場の声を聞く姿勢が重要であるとし、例えばβ版のゲームで内容を掲載してもらうといった、メディアとの協力関係も「ゲームはサービスだという声もある。マーケティングとは、こういった協力関係を築くこと」と、ユーザーに合ったものを考えるのがポイントとした。

プレゼンテーション

 




(太田 亮三)

2011/10/20 06:00