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キーパーソン・インタビュー

阿部副社長にイー・モバイルの戦略を聞く


 数多くのWi-Fiルーターが登場し、スマートフォンを中心にテザリング機能が標準的な機能とされる中、モバイルブロードバンド市場を切り開いてきたイー・モバイル(イー・アクセス)は、2011年に多くのスマートフォンを投入し、最近ではタブレット端末もラインナップに加えている。

 WiMAXやLTEなど、他社が新方式でサービス拡充を図る一方、イー・モバイルはどのような戦略を採り、どういったサービス・端末を提供していくのか。執行役員副社長の阿部基成氏に聞いた。

 

 

スマートフォン戦略に課題

――2011年度初頭の決算会見でスマートフォンのラインナップ拡充が示され、これまでに多くの機種が発売されていますが、手応えはいかがでしょうか。

イー・アクセスの阿部副社長

 「スマートフォンへ注力」と戦略に変更があったように見えたかもしれませんが、当社としては「モバイルブロードバンドの延長線上としてのスマートフォン」という考えで展開してきました。

――戦略を変更したのではないのですか。では、いわゆる一般的なスマートフォンというものと、イー・モバイルの考えるスマートフォンはどう違うのでしょう?

 モバイルブロードバンドの延長線上とは、すなわちスマートフォンをAndroid搭載のテザリング対応機器、モバイルWi-Fiルーターと位置付けていたのです。ただし、今は技術が進む時期、つまり端境期で、スマートフォンに搭載できるチップセットではWi-Fiルーターほど、高速化が容易ではありません。スマートフォン単体であれば、下り42Mbpsでも14.4Mbpsでも、さほど大きな差は感じられないかもしれませんが、モバイルWi-Fiルーターとして下り42Mbpsと比べると、ユーザーにとっては印象が変わるかもしれません。

――なるほど。ただ今年はスマートフォンの普及拡大期とされ、そうした市場動向は追い風になって、飛ぶように売れる、ということにならないのでしょうか。

 我々がモバイルWi-Fiルーターと考えても、スマートフォンはどうしても電話機に見えますよね。そしてイー・モバイルの製品として、Pocket WiFiの認知度は高いのですが、音声端末の認知度は極めて低い。他社の製品をお使いの方にとって、2回線目としてルーターを持つという方はいらっしゃるのですが、電話サービスを提供している会社と認知していただけていないのです。もちろんそのあたりへの対策となる仕込みも現在行っています。まだ詳細はお伝えできませんが。

――最近ではWi-Fi対応のタブレット(シャープ製「GALAPAGOS」)も投入されました。Wi-Fiルーターと良い補完関係にあると思いますが、たとえば3G対応でバッテリーが持つモバイルルーターとしての役割をタブレットに期待する、ということはないのでしょうか。

GS02

 タブレットという製品については、たとえばノートパソコンに置きかわるのはまだまだかなと思っています。AndroidとWindowsの差が大きいですね。そしてルーターとしてタブレットを持ち歩くか、というと、その役割はより画面が小さいスマートフォンのほうだろうと考えているのです。たとえば今月発売した「GS02」は、大容量バッテリーを搭載したスマートフォンで、そうしたニーズに応える製品と言えます。そしてタブレットに3G機能を搭載すれば利便性は高まりますが、もう1回線の契約に繋がるのか、という点に疑問がある。これまでさまざまなバンドル(回線と他製品のセット)を手がけた経験から、やはりワンプライスでなければ、と思います。

――ワンプライス、ということは、たとえば1契約でマルチデバイスといった形でしょうか。

 そうですね。技術的にできないことはないのですが、その一方で1回線で複数のデバイスを販売する際、販売戦略を検討する必要があります。通信会社として、我々が何を提供するか、何を販売するのか、自分たちなりに整理しなければと考えています。

――フィーチャーフォンについては、今後どうされるのでしょうか。

 個人的には、日本の携帯電話市場全体で、フィーチャーフォンのセグメントはもっと細分化され、子供向けや、あるいはフォントサイズを大きくしたシニア向け機種などに収まっていくだろうと予想しています。そうした市場動向を踏まえて、イー・モバイルとしてどうしていくか、検討します。

 

 

エリア展開とLTEへの取り組み

――下り42Mbps対応の「EMOBILE G4」の提供開始から1年余りが経過しました。これまでいかがでしたか?

 最初の半年は、買い替えニーズを中心に受け入れられました。既に当社のサービスをよくご存知で、もっと高速なサービスが良いという方々ですね。さらに今夏より、割引キャンペーンなどで「EMOBILE G4」をさらに推進する施策を開始しましたので、より多くの方に利用されています。このあたり、日本市場、日本のユーザーは速度に対するニーズが強いと分析しています。イー・モバイルとしては、スペック上の速度だけではなく、実際の速度でも市場のトップランナーであり続けたいと考えています。

――市場全体で見れば、WiMAXやLTEといった他社のモバイルブロードバンドサービスも拡がりを見せてきました。

主力のPocket WiFi(GP02)

 Pocket WiFiというブランド自体は、2年以上展開して、ずいぶん浸透したと思います。一方、下り42Mbpsのエリアカバレッジについては、広告を出してないこともあって認知度が低い。確かに他社も高速サービスを打ち出されてきており、現時点ではまだエリアで有利なものの、「42Mbps」というままでは競争力の面で厳しくなると捉えています。そこで来年3月からLTEを展開することになりました。このままでは春先の時点で(モバイルデータ通信市場の)トップではなくなると分析したのです。

――1年先ではなく、次の春には、ですか。モバイルサービスの開始からまもなく5年ですが、エリアも相当充実してきたのではないでしょうか。

 エリア拡大は時間がかかりますが、これまでの取り組みによってたとえば郊外のリゾート地といった場所でも利用できるようになってきました。ただ、エリアでは、後発のイー・モバイルは、大手事業者と軽々に戦えません。その一方でさきほど申し上げたようにエリアを充実させたことで「実際に使ってみると繋がる、大丈夫だ」という声もあって、そうした口コミをいかに拡げるかというのは課題です。また電話としてのエリアカバーとデータ通信としてのエリアカバーは、求められるレベルが全く異なります。不安定な通話になるようなことは厳しい評価を受けますが、高層ビルの上のほうではまだ改善が必要です。(エリアをアピールしようと)焦って進めると信頼を失いかねません。

――エリアカバーという面に加えて、通信量、いわゆるトラフィックについてはいかがでしょう。

 なるべく先手を打つ、という考え方で進めています。日々モニタリングして、対策を打つべき場所をピックアップしているのですが、1つの基地局の整備は半年以上かかるものですから、多少後手にまわることはあります。

――トラフィック対策という点では、LTEも重要な取り組みですね。

 来年3月開始予定のLTEでは、(2009年6月に割り当てられ)温存していた周波数帯を使います。エリア展開は、東名阪が中心となると思いますが、全国で展開したいと考えています。当初は、地図上で点々とした(限られた範囲での)エリアになりますが、なるべく全国でスタートしたい。首都圏のニーズが高い一方、当社のサービスはモバイルブロードバンドとして、光回線が整備されていない地方でもよく利用されているのです。来年度中に人口カバー率70%を目指します。

――当初提供される端末は、Pocket WiFiタイプでしょうか。

 はい、まずはPocket WiFiタイプです。トラフィック対策という意味でも、他社に対する競争力という意味でも、LTEへの乗り換えは進めたいと考えています。

――LTE対応スマートフォンはどうなのでしょうか。

 LTE対応スマートフォンについては、まだ公開できるお話はありません。他社から発売される機種の動向はじっくり観察しますが、通信速度の向上はバッテリーへのしわ寄せが避けられません。LTE搭載機種は、他社の場合、当然のことながらハイエンドモデルが中心ですが、現状のバッテリー技術がまだ追いついていないところがあるのではないでしょうか。また、当社の3Gサービスは1.7GHz帯ですから、国際的に共通する周波数帯と比べ、端末調達の面でどうしても導入までに時間が必要です。一方で、当社のLTE向け周波数(1844.9MHz〜1854.9MHz)については、結果的にグローバルにおいてGSMからLTEへ切り替える帯域とほぼ同じということになり、将来的にはプラスに働きます。

――周波数帯関連で言えば、現在、900MHz帯の割当について総務省で準備が進められています。

 資金力のある大手事業者だけが取得できるような仕組みになることで、周波数に起因する競争力格差の拡大を懸念しています。パブリックコメントでも指摘しましたが、「審査基準は客観的かつ具体的なものであるべき」と考えています。

 

 

料金プランと従量制の考え方について

――端末、通信サービスについて伺ってきましたが、料金プランについても教えてください。これまで多種多様なプランが提供されてきましたが、現状、データ通信は「データプラン」「スーパーライトデータプラン」、スマートフォンでは「スマートプラン」「スマートプランライト」が主力のようです。

 はい、そうした形にまとめています。料金プランについて、この業界でホットな話題は従量制に関する点でしょう。他社のように上限を設けるとどうなるのか、と思うところはありますが、現状では定額制を必要とする方が多いと思っています。普段データ通信を使っていて「どの程度の通信量になるか」ということを把握している方は多くありません。また上限に達しないような使い方をしていても、上限が設定されるだけで嫌がる傾向にあるのです。

――その一方で5GBという通信量制限を設定したデータプランBも提供されていますね。

 他社の発表で、通信量が5GB以上というユーザーは全体の1%、という数値が公表されたことがあります。当社も傾向としては同様なのです。もっとも5GB制限のデータプランBは見直す可能性もあります。見直した結果、別のプランとなるかもしれません。その場合は、プラン変更できるよう検討したいと思います。たとえば「FaceTime」は、データプランBでは現状利用できない種類のアプリケーションです。テレビ電話に関してはパーソナルな利用ではない使い方の可能性を踏まえて制限していましたが、ニーズは高い。こうした部分での見直しを考えていきます。

――さきほど「ユーザーは上限設定を嫌がる」という話がありましたが……。

 海外ですと、たとえば米国のユーザーは「2GBはどの程度の通信量か」ということを把握しているのかもしれませんが、日本のユーザーはそのあたりは気にせず、気兼ねなくデータ通信を利用されています。5GBという通信量は、動画を毎日2時間、30日間見続ける、というほどのレベルですが、パソコンをテレビ代わりにして、自宅で動画サービスを利用するというユーザーは少なくありません。

――パソコンをテレビ代わりに、ですか。

 夜間のトラフィックを見ると、1/3超は動画で占められています。スマートフォンでも、手のひらにあるパーソナルなテレビ的端末として扱われているのかもしれませんね。

――テレビと言えば、イー・モバイルのサービスはテレビ通販で取り扱われていますね。

 ジャパネットたかたさんでの販売は2年以上になります。サービス開始当初は、“尖ったユーザー”が名指しで購入してくれる店舗として量販店を重視しました。次いで併売店での取り組みを強化しましたが、音声端末が中心の併売店でPocket WiFiに興味を持っていただく方は多くありません。Wi-Fiルーターがどのようなものか、ご存知ない方はまだまだいらっしゃいます。テレビ通販で一番最初に紹介されたときにはカフェやキッチンなど具体的な用途が挙げられ、非常に好評でした。利用シーンを伝えるというところでテレビの力はすごい。

――ユーザーの裾野が広がりそうです。

 はい、そしてその結果として、50代〜60代の方々が新たに利用していただくことになりました。そうした方々もすんなり使っていただけるように、ジャパネットたかたさんでは、パソコンにドライバーソフトを全てインストールし、USB端末を接続するだけで使える、という状態にしてから出荷しています。初めてモバイルブロードバンドに触れる方には必要なサービスですね。

――今後はどういった点に注力されていくのでしょうか。

 当社の強みはモバイルブロードバンドです。パソコンなどを介して、何にでも利用していただけますが、「何にでも」というのは逆に伝わりにくいところですので、そこを強化したいですね。LTEの導入を進めながら、モバイルブロードバンドのトップランナーとして走り続けていきたいと思います。

――ありがとうございました。

 




(関口 聖)

2011/12/9 09:00