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撤退や事業見直しで見えてくる日本のケータイの問題点
法林岳之 法林岳之
1963年神奈川県出身。携帯電話をはじめ、パソコン関連の解説記事や製品試用レポートなどを執筆。「できるWindows Vista」「できるポケット LISMOですぐに音楽が楽しめる本」(インプレスジャパン)、「お父さんのための携帯電話ABC」(NHK出版)など、著書も多数。ホームページはPC用の他、各ケータイに対応。「ケータイならオレに聞け!」(impress TV)も配信中。asahi.comでも連載執筆中


 3月3日の三菱電機の携帯端末事業撤退発表に続き、10日にはソニー・エリクソンの事業見直しが報じられるなど、にわかに端末メーカーの動きが目立ってきた。日本のケータイ市場に何が起こっているのだろうか。


ドコモの主要端末メーカーの一角が崩れる

3月3日にお伝えした三菱の携帯事業撤退のニュース
 「P」「N」「D」「F」――本誌読者なら、今さら説明するまでもないが、NTTドコモに長く端末を供給し続けてきた端末メーカー4社のブランド(型番)だ。長く端末を供給してきたというよりも、iモードをはじめとする日本のケータイ業界を牽引してきた主要メーカーと言っても差し支えないだろう。ムーバ時代から圧倒的な強さを誇ってきた4社だが、三菱電機の携帯端末事業撤退により、ついにその一角が崩れることになった。

 Dのケータイと言えば、みなさんは何を思い浮かべるだろうか。世代によって、少しずつ違いがあるかもしれないが、最近では「スライドのD」、iモード以前なら「フリップのD」などが印象に残っているかもしれない。最近でこそ、パナソニック、NEC、シャープの3強時代と言われているが、ムーバ時代はPやNと違ったテイストの端末を開発し、2強に迫るほどの人気を得ていた。

 今回の三菱電機の携帯端末事業撤退発表に際し、一部の報道では昨年のモバイルビジネス研究会の初期段階でも語られたように、国内メーカーの国際競争力のなさが敗因のようにも言われている。実際のところはどうなのだろうか。筆者自身はもっと他のところに要因があるように見ている。


三菱電機の携帯端末事業撤退の背景

 ご存知のように、日本のケータイ市場は各携帯電話事業者の要求する仕様に基づいた端末を各端末メーカーが開発し、各携帯電話事業者がそれを買い上げ、販売店を通じて、我々ユーザーに販売をしている。販売された端末の直接的なサポートも基本的には各携帯電話事業者が窓口になるため、一般の家電製品のような本格的なサポート体制も必要ない。つまり、メーカーから見れば、各携帯電話事業者の仕様に基づいた端末を開発すれば、ある一定数の販売が見込めるうえ、サポートに家電製品ほどの手間が掛からないため、一見、『手堅いビジネス』が展開できると言われている。この手堅さが「日本のメーカーは国内のモバイルビジネスのエコシステムに甘んじている」と言われるゆえんでもあるが、それでも三菱電機は携帯端末事業から撤退せざるを得なくなったわけだ。

 表面的に見れば、手堅いビジネスと言われる携帯電話端末の開発事業だが、実際にはかなり厳しい状況が続いている。端末の開発だけにフォーカスすれば、ケータイの世代が2Gから3Gに移行したことで、開発時の検証項目が膨大に増えるなど、開発コストが一気に増えている。

 5〜6年前のニュースを振り返ってみるとよくわかるが、実は、日本のケータイが2Gから3Gに移行した2002年前後にも今回と同じように、端末メーカーの撤退が相次いで発表されたり、事実上の最後のモデルがリリースされている。ざっと挙げてみると、パイオニア、デンソー、ケンウッド、日本無線、日立国際電気といった具合いだ。なかには日本無線のように、PHS向けで事業展開を継続した例もあるが、3Gケータイの開発に伴う投資額が大きすぎることが撤退の要因とされていた。ゲーム機の世界では、ファミコンの時代とPS3などの現在のシステムでは、開発のしくみや規模が何倍、何十倍も違うと言われているが、端末メーカーからは「ケータイも同じか、それ以上かもしれない」といった声も聞かれる。


 現在、端末を開発しているメーカーは、2Gから3Gへの移行に生き残ったことになるが、端末の開発コストが膨大であることは大きく変わっていない。むしろ、FeliCaやワンセグ、GPSといった機能が追加される度、開発コストは増大する傾向にある。3Gケータイが開発され始めたばかりの頃は、各携帯電話事業者が端末メーカーに端末の開発コストを提供するといった動きも見られたが、最近ではあまり表立って、そういった動きもなく、端末メーカー同士が提携や協業をしたり、複数の事業者に展開することにより、端末メーカーは少しでも開発コストの回収を試みようとしている。

 しかし、そういった動きで回収できる開発コストはごく一部で、開発コスト回収の大前提となるのはあくまでも本来の製品の売り上げだ。ドコモ向けで例えるなら、90Xiシリーズを開発して、得られた収益を元手に、次の90Xi/70Xiシリーズを開発するといったサイクルで事業を続けている。「次の〜」とは書いたが、端末の開発期間は1年以上と長いため、市場に登場する直後のモデルということではなく、「次以降のモデル」という意味になる。まるで自転車操業のようだが、実際に多くのメーカーがこのイメージに近い事業を強いられているのが実状だ。

 「開発→販売→回収→開発」というサイクルがうまく回っている内は、この端末の開発事業も何とかやっていけるだろう。しかし、端末が毎回、同じように売れてくれるとは限らない。もし、途中でひとつのモデルでも従来より売れ行きが大きく下回ったり、端末の販売計画が大きな変更が出てきてしまうと、事業サイクルに狂いが生じ、事業の継続が難しくなってしまう。三菱電機も過去のモデルを振り返ってみると、途中でサイクルがうまく回らなくなってきたことがよくわかる。


90Xiシリーズ以外にヒット作を生み出せなかった

D2101V

D902i
 三菱電機の場合、FOMAのサービス開始当初、端末の開発がややスロースタートだった。初のFOMA端末となったD2101Vは、FOMAの初期段階ということもあり、巨大なボディもしかたない印象だったが、仕切り直しとなったFOMA 900iシリーズが2003年末に発表されたとき、各社が2004年2月から順次、発売したのに対し、D900iは発売が2004年6月にずれ込んでしまった。その後、最近のDシリーズの代名詞ともなるスライド式が採用されたD901i、D901iSの頃には、他社とほとんど変わらない時期に発売できるほど、巻き返している。

 そして、2005年の11月には、最近のDシリーズのヒット作となったD902iが登場する。スライド式ながら、スリムなボディとワンプッシュボタンによるスライドオープン機構などが支持され、かなり好調な売れ行きを記録した。その勢いをかって、同じデザインを踏襲したD902iS、D903iと順調にモデルチェンジを重ねていったが、デザインや機能面で従来モデルと差別化することが不十分だったため、徐々に新鮮さがなくなってしまった。D904iでは本来のセールスポイントのひとつであったワンプッシュボタンによるスライドオープン機構をスリム化のために省いてしまい、売れ行きを落とすことになる。昨年末に登場したD905iはワンセグの録画再生でハイライト再生というユニークな機能を搭載するなどの工夫を見せたが、やはり、デザイン的な新鮮さは打ち出せず、SO905iと並び、販売は他の905iシリーズに大きく遅れを取ってしまったようだ。

 90Xiシリーズでは、D903iあたりを境に売れ行きを落としてしまった印象のDシリーズだが、90Xiシリーズのバリエーションモデルや他のモデルに目を向けると、さらに厳しい状況が見えてくる。70Xiシリーズでは折りたたみデザインのD701iでスタートしたが、D702i以降はストレートデザインに切り替えたものの、ストレートデザインを求めるユーザー層がそれほど多くないため、あまり芳しい結果を得られなかった。デザイナーとのコラボレーションモデルとなったD702iFも女性向けのイメージをハッキリ打ち出した影響もあり、やはり、売れ行きは鈍かったようだ。


MUSIC PORTER X
 90Xiシリーズのバリエーションモデルでは、衛星放送の「モバHO!」に対応したMUSIC PORTER X、ワンセグにはじめて対応したD903iTVが販売されたが、なかでもMUSIC PORTER Xはかなり厳しい結果だったようだ。正確な販売台数はなかなか知ることができないが、2007年4月に公開されたソフトウェア更新のニュースでは、対象となる台数が約1万1,000台であることが明らかになってしまった。ケータイにとって、モバHO!というサービスの魅力には疑問符が付くが、通常、90Xiシリーズは売れ筋のモデルなら、1機種あたり100万台、それ以外でも50万台以上は軽く販売できると言われている状況下において、わずか1万台強という販売台数はいくらベースモデルがあったとは言え、かなり厳しいと言わざるを得ない。ドコモとして、モバHO!対応端末を開発しなければならなかったという何らかの事情があったのかもしれないが、それを請け負った(請け負わざるを得なかった?)三菱電機の負担はかなり大きかったと推察される。

 もうひとつの企画端末である二画面ケータイのD800iDSも期待とは裏腹の結果になったようだ。D800iDSのベースになった端末は、2005年のCEATEC JAPANに出品された「2画面ユニバーサルデザイン携帯電話試作機」だが、本来は外部入力インターフェイスを装備し、ハンディキャップを持つ人にも操作できるケータイを目指して、開発されていた。しかし、実際に製品が出てみると、ちょうどニンテンドーDSの二画面が話題になっていたこともあり、二画面であることばかりが強調された異質な端末に仕上がってしまった。三菱電機とドコモの商品企画担当の間で、どのようなやり取りがあったのかは知る由もないが、どうも当初、三菱電機が考えていた方向とは別の方向に製品がアレンジされてしまった印象が強い。


D800iDS
電池パックの回収をお詫びするドコモと三菱電機の代表

 さらに、これらの状況に追打ちを掛けたのが2006年12月に起きたD902iの電池パック「D06」の回収問題だ。回収に掛かった費用なども大きかったようだが、それ以上に発売したばかりのD903iを約1カ月半、販売する機会を失ってしまったことはかなり影響があったはずだ。ちなみに、三菱電機はその後、電池パックを製造した三洋電機に対し、逸失利益請求を検討していたことが報じられている。

 これらの状況からもわかるように、三菱電機としてはある程度、「開発→販売→回収→開発」というサイクルで事業を展開できていたものの、主力モデルの売れ行き鈍化、バリエーションモデルや普及モデルの不振、電池パックのトラブルなどが起きてしまったため、事業が本来のサイクルで回らなくなり、事業撤退の道を選ばざるを得なくなったというわけだ。いくら『手堅いビジネス』でも端末が売れなければ、サイクルは回らなくなるということだ。


買収や撤退ではない新しい動き

premini
 その三菱電機に続き、10日にはソニー・エリクソンがドコモ向け端末の供給を見直すというニュースが報じられた。今のところ、ドコモ向けの商品化計画に見直しがあったことを認めたレベルだが、もしかすると、これを機に、端末メーカーの買収や撤退ではない新しい動きが活発になってくるかもしれない。

 ソニー・エリクソンについては、ドコモに端末を供給するメーカーの中でもpreminiやRADIDENなどのPDC端末を比較的、長く手掛けたこともあり、FOMA端末への参入が2006年3月発売のSO902iからと、若干、遅くなってしまった。その後、防水モデルのSO902iWP+、着せ替えパネルを採用した初の70Xiシリーズ端末のSO702iと順次、モデルを重ねていったが、トップ3社に迫るほどのヒット作を記録することはできてなかった。昨年、ドコモは904iシリーズを発表したが、FOMA 90Xiシリーズを供給してきたメーカーの中で、唯一、904iシリーズを見送り、仕切り直しの形でSO905iが発売され、2月にはCyber-shotケータイのSO905iCSも販売が開始されている。SO905iCSについては、まだ登場したばかりで、答えを出すのは早計かもしれないが、SO905iはD905iと並び、他の4機種の販売数からは大きく離された結果しか残せていないようだ。FOMA以降で見れば、Dシリーズほど、販売が厳しかった端末はなかったものの、トップ3社と互角に戦うのはなかなか難しいというのが本当のところだろう。ちなみに、この評価はあくまでも販売数を捉えた話であり、個々の端末の評価を語っているわけではないことはご理解いただきたい。


RADIDEN
SO905iCS

 そうなれば、Dシリーズが「開発→販売→回収→開発」のサイクルに狂いが出てきたように、SOシリーズも事業がうまく回らない可能性が出てきてしまうわけだ。しかし、ソニー・エリクソン全体で見れば、海外でW-CDMA端末を販売し、日本のメーカー(実際には純粋な日本メーカーとは言いにくいが……)としては唯一とも言えるほど、海外市場でしっかりとしたシェアを獲得している。今後の世界市場への展開を考えれば、完全にドコモ向けの端末開発から撤退してしまうのは、あまり現実的ではないだろうし、ソニー・エリクソンとしても最先端のサービス開発に関われなくなるのは、世界戦略的に考えてもマイナスだろう。

 そこで、筆者はソニー・エリクソンが買収や撤退とは違った新しい事業展開の方法を採るのではないかと推測している。現在、国内ではNECとパナソニックがプラットフォームの開発で協業しているほか、ドコモ向けでは富士通と三菱電機、シャープとソニー・エリクソンが同じように、端末開発で協業をしている。少し変わった例では、カシオ計算機と日立製作所がカシオ日立モバイルコミュニケーションズを設立し、同社で開発した端末を両ブランド(CAシリーズとHシリーズ)でau向けに供給するという手法を採っている。

 これはあくまでも筆者の勝手な推測に過ぎないが、撤退報道に対し、ソニー・エリクソンが「ドコモ向け事業は継続する」とコメントしていることから考えると、ドコモ向けには端末を供給するものの、開発や製造そのものについては他メーカーに委託するODMやOEMのような形で端末を調達してくるのかもしれない。つまり、ソフトウェアなどの面で同じNTTドコモ向けに端末を開発している他社の協力を受けながら、自社の特長を生かした端末を企画しようというわけだ。そうなれば、多少なりとも開発コストは削減でき、事業のリスクは軽減することが可能だ。「ODM/OEM」という手法は今後、国内のメーカーが日本のケータイ市場に生き残っていくうえで、ひとつの選択肢になってくるかもしれない。


疑問が残るドコモの姿勢

 昨年の京セラによる三洋電機の携帯電話事業買収に始まり、今年は三菱電機の携帯端末事業からの撤退、ソニー・エリクソンの事業計画見直しなど、端末メーカーを巡る動きはにわかに騒がしくなってきている。もしかすると、この先も似たような動きが出てくるのかもしれない。

 ただ、今回の三菱電機の一件について、個人的に気になったのは、ドコモの姿勢だ。三菱電機の撤退に対し、特に何もコメントも出していないのだ。冒頭でも触れたように、Dシリーズはドコモを初期の段階から支えてきたメーカーのひとつであり、iモードやFOMAといったサービスの発展にも寄与してきたはずだ。三菱電機は今後も基地局などのインフラ事業をはじめ、ドコモとも関わっていくようだが、主要メーカーの1社が撤退してもコメントすら出てこないという姿勢には、少々、疑問を感じる。

 現在、ドコモを利用しているユーザーには、Dシリーズの端末を愛用するユーザーも存在するわけで、なかには「Dシリーズのスライド式が好きで……」という熱烈なファンもいるはずだ。彼らにしてみれば、Dシリーズがなくなることで、今後の端末選びが心配になるわけだが、ドコモにはそういったユーザーの心情も気にして欲しいところだ。

 昨年、モバイルビジネス研究会でも随分と議論になったが、携帯電話事業者が自社のサービスに合わせた端末を販売する日本のモバイルビジネスは、いろいろと議論の余地があるものの、ケータイを発展させていくうえではかなり有用なしくみだ。海外でもiPhoneのように、垂直統合的にモバイルビジネスを構築する例が増えており、日本のモバイルビジネスに影響を受けた新しいケータイのビジネスが登場してきそうな状況にも見える。

 ただ、この日本のモバイルビジネスは、各携帯電話事業者とメーカーが強く結びつくからこそ、成立するものだ。今回の騒動を見ていると、組み合わせによってはその結びつきに変化が見えてきているようにも受け取れる。我々ユーザーとしては、より楽しく、便利で、良質なケータイを求めたいところだが、ケータイのビジネスという観点で見れば、各携帯電話事業者が自らの事業を支える端末メーカーをどのように導いていくのかが問われている時期なのかもしれない。企業としては、コストダウンや利潤の追求も大切なのだが、こうした撤退や事業計画の見直しなどで、ユーザーが必要以上の不利益を被らないように配慮して欲しいところだ。


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(法林岳之)
2008/03/13 14:03

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